一箇ひとつ)” の例文
家族かぞくともあそびにつてたが、其時そのときに、いま故人こじん谷活東子たにくわつとうしが、はたけなかから土器どき破片はへん一箇ひとつひろして、しめした。
さて竜伏いしずゑは其月の生気の方より右旋みぎめぐりに次第据ゑ行き五星を祭り、てうな初めの大礼には鍛冶の道をば創められしあま一箇ひとつみこと
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
道具は大抵菰包こもづつみにしてしまつた。膳も大きなのを一箇ひとつ出してあるばかりであつた。昼飯には皆ながそれを取巻いて食つた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「まあ、早い話が……この酒樽なんぞも、そのロクでなしの一人、ではない一箇ひとつのうちでございましょう、こいつが」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それや好都合だった。ほかじゃないが、そちの炭焼がまで、人間の体を一箇ひとつ、こんがりと焼いて貰いたいのだが……」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日限こんにちかぎり互に棄てて別れるに就いては、僕も一箇ひとつ聞きたい事が有る。それは君の今の身の上だが、どうしたのかね」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そして、収穫時が来ると、お初穂はつをどれも一箇ひとつずつ、妙法様と御先祖にお供えした後は、皆売り出すのだから、今からの手入れは決してゆるがせにはできない。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
別に何んにもありませんので、親仁殿おやじどの惜気おしげもなく打覆ぶっかえして、もう一箇ひとつあった、それも甕で、奥の方へたてに二ツ並んでいたと申します——さあ、この方が真物ほんものでござった。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
翫具おもちや一箇ひとつりやしないわ!それで、お稽古けいこばかり澤山たくさんさせられてさ!あァうしやう、わたし松子まつこさんだつたら此處ここうしてとゞまつてやう!他人ひとあたま接合くツつけたつて駄目だめだわ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
種彦は初めてほっと吐息をもらし、息切れのする苦しさに石垣の下なるくいにつかまり身をわせるようにしててのひらに夜の流を掬上くみあげようとすると、偶然にものように漂って来る一箇ひとつさかずき
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かく白して其殿あみおかの内に還り入りますの間、いと久しうして待ちかねたまひつ、故れ左のみゝつらに刺させる湯津々間櫛ゆづつまぐし男柱おばしら一箇ひとつを取りきて一火ひとつひを燭し入りますの時、うじたかれとゝろぎて
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かれ左の御髻みみづらに刺させる湯津爪櫛ゆつつまぐし一二の男柱一箇ひとつ取りきて、ひとともして入り見たまふ時に、うじたかれころろぎて一三、頭には大雷おほいかづち居り、胸にはの雷居り、腹には黒雷居り、ほとにはさく雷居り
さんざん耳からおびやかされた人は、夜が明けてからは更に目からも脅される。庭一面にみなぎり込んだ水上に水煙を立てて、雨はしのを突いているのである。庭の飛石は一箇ひとつも見えてるのが無いくらいの水だ。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
この頃の貞之進の挙止ようすが尋常でないので、かつて貞之進をせびり続けた悪太原あくたばらの如きに至っては、一層きびしく嘲けりこそすれ白銅一箇ひとつ快くは貸して呉ぬので、貞之進はたゞ怒り易い一方にのみ傾いて
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
鶴見臺つるみだい各所かくしよに、地名表ちめいへうには遺跡ゐせきとして記入きにふあるが、實際じつさいおいて、破片はへん一箇ひとつ見出みいださぬ貝塚かひづかすくなくない。(大發掘だいはつくつはせぬが)
地曳じびき土取り故障なく、さて竜伏いしずえはその月の生気の方より右旋みぎめぐりに次第え行き五星を祭り、釿初ちょうなはじめの大礼には鍛冶かじの道をばはじめられしあま一箇ひとつみこと
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これが引込むと間もなく、西の方から、怪しげな河童かっぱ一箇ひとつ、ふらりふらりと乗込んで来て、これは正銘の妙応寺の門に向って、異様の叫び声を立てました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それから大凡およそ十間ばかり離れたところには、新しい一箇ひとつの赤塗の大きな喞筒ポンプゑられてあつて、それから出て居る一箇のヅックのくだは後の尾谷をたにの渓流に通じ
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
狭山はやがて銚子ちようしを取りて、一箇ひとつの茶碗に酒をそそげば、お静は目を閉ぢ、合掌して、聞えぬほどの忍音しのびね
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「店ぐるみ総じまいにして、一箇ひとつ々々袋へ入れたって、もう片が附く時分じゃないか。」
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たツ指環ゆびわ一箇ひとつ』とあいちやんがかなしさうにひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
がツかりしてかへつて、食卓しよくたくにつきながら、把手とつて一箇ひとつ家人かじんしめして、これがめて土偶どぐうかほでもつたら、昨日きのふ敗軍はいぐん盛返もりかへすものをとつぶやくと
(おつむ一箇ひとつ、一箇枕におさせ申して、胸へ二箇ふたつ鳩尾みぞおちへ一箇、両足の下へ二箇です。)
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜すがら両個ふたりの運星おほひし常闇とこやみの雲も晴れんとすらん、隠約ほのぼの隙洩すきもあけぼのの影は、玉の長く座に入りて、光薄るる燈火ともしびもとに並べるままの茶碗の一箇ひとつに、ちひさ有りて、落ちて浮べり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
われは身に一枚の藺席ござを纏ひ、しほたれたる白地の浴衣ゆかたを着、脚には脚絆きやはん穿うがたず、かしらには帽子をも戴かず、背には下婢げぢよの宿下りとも言ひつべき丸き一箇ひとつの風呂敷包を十文字に背負ひて
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
二箇ふたつ揃っていたものをいかに過失とは云いながら一箇ひとつにしてしまったが、ああ情無いことをしたものだ、もしやこれが前表ぜんぴょうとなって二人が離ればなれになるような悲しい目を見るのではあるまいかと
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大把手おほとつて破片はへんと、ボロ/\に破壞こはれかゝつた土器どき一箇ひとつと、小磨石斧せうませきふ(第四圖ハ參照)とをた。
つらながさは三じやくばかり、あごやせ眉間尺みけんじやく大額おほびたひ、ぬつとて、薄霧うすぎりつゝまれた不氣味ぶきみなのは、よくると、のきつた秋祭あきまつり提灯ちやうちんで、一けん取込とりこむのをわすれたのであらう、寂寞ひつそりした侍町さむらひまちたゞ一箇ひとつ
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ふた突起つまみついては、中央ちうわう一箇ひとつ突起つまみゆうするのと、二箇ふたつ突起つまみゆうするのと、二箇ふたつ突起つまみ上部じやうぶおいがつるのと、大概だいがいこのしゆ區別くべつすること出來できるとおもふ。
ふんどしかけがえを一条ひとすじ煮染めたような手拭てぬぐい、こいつで顱巻はちまきをさしたまま畳み込んだ看板、兀げちょろの重箱が一箇ひとつ、薄汚え財布、ざッとこれで、身上しんしょうのありッたけを台箱へ詰め込んだ空車からぐるまをひいて
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
破片はへんるけれど、如何どうおもはしいものがなく、やうや底拔土器そこぬけどき一箇ひとつくらゐで、此日このひ引揚ひきあげた。
火の玉め、悠々落着いて井戸端へまわって出て、近所隣から我れさきに持ち出した、ばけつを一箇ひとつ、一杯み込んで提げたはいが、うぬが家の燃えるのに、そいつを消そうとするんじゃないんで。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
横濱よこはま西洋人せいやうじんれば、一箇ひとつ百兩ひやくれうにはなるんだなんて、ゆめ馬鹿ばからしさ。
渡場わたしばに着くと、ちょうど乗合のりあいそろッていたので、すぐに乗込のりこんだ。船頭は未だなかッたが、ところ壮者わかいものだの、娘だの、女房かみさん達が大勢で働いて、乗合のりあい一箇ひとつずつおりをくれたと思い給え。見ると赤飯こわめしだ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)