“面:おもて” の例文
“面:おもて”を含む作品の著者(上位)作品数
泉鏡花109
吉川英治63
小川未明33
中里介山29
海野十三28
“面:おもて”を含む作品のジャンル比率
文学 > 日本文学 > 小説 物語15.5%
文学 > 日本文学 > 戯曲11.2%
文学 > 日本文学 > 小説 物語(児童)7.5%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
貫一の手にすがりて、たちまちその肩におもて推当おしあつると見れば、彼も泣音なくねもらすなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
てんくらい、くらい、うみおもて激浪げきらう逆卷さかまき、水煙すいゑんをどつて
そのおもては白く沈み切っているから、心の中の動静は更にわからず、呼吸の具合は平常の通りで、木刀の先が浮いて見えます。
河童が一つ目小僧に化けて出て蘭軒に戯れたが、伊沢氏には近視の遺伝があつて、蘭軒は童子のおもてを見ることを得なかつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
兵馬は驚嘆して、この少年のおもてを見比べますと、別段、山男の落し児とも思われない目鼻立ちの清らかな少年に過ぎません。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と自分の思わくとお浪の思わくとのちがっているのを悲む色をおもてに現しつつ、正直にしかも剛情ごうじょうに云った。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかし底には幾多の幻怪なものが潜んでいる大海のおもてに、可哀らしい小々波さざなみがうねっているように思われますね。
で、手にかかえていた阿枷桶あかおけをさしおくと、それに導かれて来た、塗笠におもてを隠した人柄のある一人のさむらい。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
声高こわだかに叫びざま、足疾あしばや進出すすみいでて、看護員のかたえに接し、そのおもてのぞきつつ、
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
黒女くろめこしもと前後あとさきに三人いて、浅緑あさみどりきぬに同じをした……おもて
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おもてを上げて、金之助は今もその音や聞ゆる、と背後うしろ憂慮きづかうもののごとく、不安の色をたたえつつ、
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
藤次はやがて、清十郎のそばへ行って、何か囁いていた。――清十郎のおもては堪え難いはずかしめをうけたように汚れた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄の桶みたいに、彼を囲んでいる殺気は、彼の白い歯から洩れた冷笑に、ふと毛穴のまるようなものにおもてを吹かれた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人々は、途中気がかりにして来た予感を眼に見せられた心地であった。血の香に吹かれたおもてッと、そよがせ合って。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは、背にお燕を負い、おもてを破れ編笠にふかく隠して、素謡すうたいをうたいながら、恥かしそうに人の軒端に立った。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
犬千代は、さすがに、寧子とおもてと面を合わせると、持前の多感な血が、酒の気と共に、顔へ出てくるのをどうしようもなく、
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
声高こわだかに叫びざま、足疾あしばや進出すすみいでて、看護員のかたえに接し、そのおもてのぞきつつ、
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「富士の峯白くかりがね池のおもてくだり、空仰げば月うるはしく、余が影法師黒し。」――これは僕の作文ではない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そこでやはり河原蓬かわらよもぎの中を流れて行く水のおもてを眺めたまま、息もつかずに上の容子へ気をくばって居りました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
冷やかに光った鉄のおもてにどろりと赤いもののたまっている光景ははっと思う瞬間に、あざやかに心へ焼きついてしまった。
寒さ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おもては今にも破れぬべくくれなゐに熱して、舌のかわくにへかねてしきり空唾からつばを吐きつつ、
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
水路が見る見る逼り合い、水のおもてふくれ上がり、断崖が左右から寄せて来た所に、一条の瀑布たきが落ちていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
能登守は美しいおもてを少しく曇らせました。お君はハラハラとした気持が休まりませんでした。やがて能登守はこう言いました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夫人 (煙管を手にき、おもて正しくきって)気遣いには及びません、血だらけなは、なおおいしかろう。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お絹は絵本を畳の上へ伏せて、乳色をした頬に、火鉢のかげんでぼーっと紅味あかみのさしたおもてを向けて、にっこりと笑う。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この公表に対しては、一同はにわかにおもてくもらせた。楽しい帰還の旅が、にわかに不安の旅に変ってしまった。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と前の女は驚いて、燭台を危く投げんばかりに、膝も腰もついえ砕けて、身を投げ伏しておもてかくしてしまった。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その気で、席へ腰を掛直すと、口を抜こうとした酒の香より、はッとおもてを打った、懐しく床しい、留南奇とめきがある。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
物ぐるほしけれど箱庭に作りたる石一つみづおもてにそと取落せば、さゞなみすこし分れて、これにぞ月のかげ漂ひぬ。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼はおもてに紅を潮して輕く會釋し、その天然の美音もて、百錬千磨したる抑揚をその宣敍調レチタチイヲオの上にあらはしつ。
香以は「倒されたる大いなるもの」として、この席におもてさらすことを喜ばなかったが、忍んで後藤等の請を容れた。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
駒井能登守が役所へ出かけたそのあとで、お君は部屋へ行ってホッと息をついて、微醺びくんおもてを両手で隠しました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なにげなく、その落ちたのを取り上げて見ると、駒井甚三郎のおもてに隠すことのできない不快の色が、さっと現われました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と国麿の叫びつつ、しばし呆れたるさましてたたずみしが、見上ぐるわれとおもてを合し、じっと互にうちまもりぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先きの方に、山の裾が見え出して、その裾をめぐつて、曇つた鏡のおもてのやうに、水面がぼんやり霧の中から浮んで見える。
霧の旅 (旧字旧仮名) / 吉江喬松(著)
しかおもて一脈いちみやく線香せんかうにほひに、學士がくしはハツとわれかへつた。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
飛び散る泡沫しぶきは霧を作り、その霧のおもてへ虹が立ち、その虹の端の一方は、陸地くがち断崖がけに懸かっていた。
ほのかな月光げっこうすかした春重はるしげおもてには、得意とくいいろ明々ありありうかんで
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
色はおもてを染めて、影が袖にとおる……れるどころか、次第に冷い雨脚から、三人を包んで、しずくも落さない。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そう思えば思うほど、参木は波の上におもてを伏せたまま、だんだん深く空虚になりまさっていく自分をはっきりと感じていった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
だが、その清十郎のおもては、きょうに限って、ひどく闘志がない。ゆうべからのつかれが、今になって眉にただよっていた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さかのぼるので舟脚ふなあしが遅い、おもてかすめる飛沫しぶきの霧! 息づまりそうな川風に鬢髪びんぱつが立つ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或る折、呉王孫権がたわむれに、一匹の驢馬ろばを宮苑にひき出させ、驢のおもてに、白粉はくふんを塗らせて、それへ、
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おまえのあたまったのは、こおりですよ。あまりさむいので、みずおもてこおっているのです。
魚と白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おもては白く筋肉はせて、たとえば松籟しょうらいに翼をやすめているたかの如く澄んだひとみをそなえている。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は正面の壁際に能のおもてが荷物の上に乘せられ、髮をふりみだした般若の面が扉の隙間から、正面に見える位置にあつた。
(旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
女は裏淋しくおもてを伏せました、眼の上から頬へかけての痣が無かったら、この女はどんなに美しく優しく見えたでしょう。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
舌打ちして、男は崖の途中で坐ってしまった。かぶっている黒布を解いて汗をふき、それでまた、おもてをつつみ直した。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
経俊の母は、脱殻ぬけがらのようになって力なく立った。そして両手でおもておおったまますごすごと退がりかけた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも、その扉のすきまからはにおうような顔がさしのぞいていて、ほのかではあるが時々強い光をおもてに受けていた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
いかに主君とはいえ余りな極言である。――佐久間信盛も武井夕菴も、また十兵衛光秀も、そう思って恨めしげにおもてをあげた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんのための戦いか。それを思えばこそ、憂えればこそ、おもておかして、自分たちは、いさめに出たものである。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四山の濃い青葉や浅いみどりは、匂うばかりそよいで、人間の肺の中まで染まるかのような青い夕風が無数のおもてを吹いた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして夫人が用心深く懐剣のつかに手をかけながら立っているのを知ると、再び慇懃いんぎんに両手の上へおもてを伏せた。
元よりその時は私はじめ、誰でも鍛冶の竹馬が、したたか相手のおもてを打ち据えたと、思わなかったものはございません。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
塗りつぶし塗りつぶししていた心の壁にひびが入って、そこからおもても向けられない白い光がちらとさすようにも思った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
喝采やんやの声のうちに渠はしずかにおもてもたげて、情を含みて浅笑せり。口上は扇をげて一咳いちがいし、
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先づ二人がおもてつはたばこのけぶりにて、にわかに入りたる目には、なかなる人をも見わきがたし。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
翌朝あくるあさ書斎の縁に立って、初秋はつあきの庭のおもてを見渡した時、私は偶然また彼の白い姿をこけの上に認めた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
よし水のおもてにからだが浮いて、浮いた所から思う存分前足をのばしたって五寸にあまる甕の縁に爪のかかりようがない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三四郎がじっとして池のおもてを見つめていると、大きな木が、幾本となく水の底に映って、そのまた底に青い空が見える。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その変らずにある時計のおもてまでが、遠く離れていた親戚のた一緒に成れる時の来たことを祝うかのように見えた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うみおもて瀧壺たきつぼのやうに泡立あわだつて、ひどいもひどくないも、わたくし少年せうねんとは
この数日、主人の髪も乱れているし、それに寝ているおもてにもやつれが見えていました。心配そうに見ていたお君は、
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
玉太郎は泣かんばかりに熱心をおもてにあらわして、ケンやダビットにたのんだ。きょとんとしている老伯爵にもたのんだ。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その葉のおもてに、盞の底に、寒さにふるへる真冬の日かげと粉雪のかすかな溜息とが、溜つては消え、溜つては消えしてゐる。
水仙の幻想 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
車が路を離れた時、母衣の中とて人目も恥じず、俊吉は、ツト両掌りょうておもておおうて、はらはらと涙を落した。……
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と謙造はおもてそむけて、硝子窓がらすまど。そのおなじ山がかして見える。日はかたむいたのである。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「やあ、占めろ。」といって、義作は景気よく手を拍った。むすめ両人ふたり、晴やかな勇美子のおもてを拝んだ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おもての平でない玻璃ガラスの爲めに、水淺葱あさぎに金茶の模樣が陽炎を透かしての如くきらきらといかにも氣持よく見える。
京阪聞見録 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
【これらの水の上に】創世記一の二に「神の靈諸〓の水のおもてに動けり」とあるによる、この一句なほ「創造の御業は」といふ如し
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
しら/″\と咲いている蜜柑の花からく、高いにおいが、自動車の疾駆するまゝに、車上の人のおもてを打った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
人々の環視の裡に、微笑とも嬌羞きょうしゅうとも付かぬ表情を、たたえたおもては、くっきりとしろく輝いた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しばらく船室に引込んでいて再び甲板へ出ると、意外にもひどい雨が右舷からおもても向けられないように吹き付けている。
札幌まで (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして上の方に、池のおもてや白い花や急に晴れた空や月の光などが、ぼんやり見えまして、花の間には精女達が歌い踊っています。
魔法探し (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
にわかおもて替りまなこは皿のごとくにて額につのつき、顔は朱のごとく、かしらの髪は針のごとく、口
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
母はわたしの幼な年にも覺えてゐるが、色白のおもてに剃つた青い眉根と、おはぐろとのうつりの好い顏だちであつた。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
石のおもてには所々ところどころけた所があるので、全く写しおわるまでにはすくなからぬ困難と時間とを要した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
石碑せきひおもてかいするには、だう閻魔えんまのござるが、女體によたいよりも頼母たのもしい。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つきが、雲間くもまからもれてなみおもてらしたときは、まことに気味悪きみわるうございました。
赤いろうそくと人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
すくい投げに小石を打って、その小石が川のおもてを、つッ――つッ――と千鳥に水をかすって飛ぶ数をかぞえて興がりだした。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、月にひとすじのむごたらしい縄が、黒い影と影とをつないで、万吉も鴻山もお千絵も思わずおもてをそむけさせられた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とばりを払っておもてを向けて見ると、驚くべし、山のような濁流の浪が、浪また浪を重ねて、すぐ陣前へち煙っている。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いしうえしろかわいて、しめったくろっぽいつちおもてからていました。
石段に鉄管 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一瞬いっとき、彼の真実なことばに打たれた者達は、酒の酔いもどこへやら、声をのんで、藤吉郎のおもてを見まもり合っていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夕闇のせいか、半兵衛のおもては、琅〓ろうかんのようにきれいである。――かくまで人は痩せるものかと、涙なきを得なかった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
語り終っても彼はなお幾たびも、膝にかためているこぶしを眼へやっては、暗然と、鳥肌のようになったおもてをそむけていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駒繋こまつなぎの前で、ひらと降り、手綱を扈従こじゅうの手へ渡した後、一瞬、無量な感慨をおもてにして、城内を見ていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふくよかな白絹の頭巾ずきんの中に、老母のおもては、いわずしてもういう以上のうれしさをほころばせていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兼ねて求馬もとめと取換した起請文きしょうもんおもて反故ほごにするのが、いかにも彼にはつらく思われた。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自分はそのなめらかな石のおもてに、ちらばっているすみれの花束をいかにも樗牛にふさわしいたむけの花のようにながめて来た。
樗牛の事 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
友はわずかにおもてげて、額越ひたいごしに検事代理の色をうかがいぬ。渠は峻酷しゅんこくなる法官の威容をもて、
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年若くおもてきよき海軍の少尉候補生は、薄暮暗碧はくぼあんぺきたたへたるふちに臨みて粛然しゆくぜんとせり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
フワリ/\と生温なまぬるかぜゐてはなかほりせままどからひとおもてかすめる
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
さまざまの世と思えば、彼も悲しく、これもつらく、浪子はいよいよくろうなり来る海のおもてをながめて太息といきをつきぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
さし入る月は蒼白あおじろおもてを照らして、微咲えみはなお唇に浮かべり。されど浪子はながく眠れるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
武蔵は暫く小次郎のおもて凝視みつめていたが、木刀を捨てて膝をつき、小次郎の口へ手を当てて呼吸を窺っていた。
巌流島 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
もうこのグルデンフイツシユの窓のすきから黒い水のおもてに落ちてゐる明りの外には、町ぢゆうに火の光が見えなくなつてゐる。
春の桜や秋の紅葉にはおもてをそむけて生きても行かれるだろうが、年にいちどの大みそかを知らぬ振りして過す事だけはむずかしい。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そのおもてに一抹の暗雲がかかって、しきりに首を傾けながら歩くのです。ついには棒を小脇こわきにかかえたまま、両腕を組んで、
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
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