面倒めんどう)” の例文
また或時あるとき、市中より何か買物かいものをなしてかえけ、鉛筆えんぴつを借り少時しばらく計算けいさんせらるると思ううち、アヽ面倒めんどうだ面倒だとて鉛筆をなげうち去らる。
妻はせきを抜いて実家に帰り、女の子は柳吉の妹の筆子が十八の年で母親代りに面倒めんどうみているが、その子供にも会わせてもらえなかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それを火から卸して一晩おいて明日から食べ始めると寒い時なら四、五日はちますから煮る時面倒めんどうでも毎日の副食物おかずになります。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
顔を洗って、朝食あさめしをやっていると、台所で下女が泥棒の足痕あしあとを見つけたとか、見つけないとか騒いでいる。面倒めんどうだから書斎へ引き取った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「内藤さん、照彦はあれから毎日指折りかぞえて、あなたをお待ち申しあげていましたのよ。相かわらず面倒めんどうをみてあげてくださいませ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
面倒めんどうくさいのでかけ金もかけず、締革しめかわをぶらさげたまませなかにしょい、パンの袋だけ手にもって、又ぶらぶらと向うへ歩いて行きました。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一面からえば氏はあまり女性に哀惜あいせきを感ぜず、男女間の痴情ちじょうをひどく面倒めんどうがることにおいて、まったくめずらしいほどの性格だと云えましょう。
私はもう面倒めんどうな結婚なんかどうでもいい。あの古い家を訪問して、気の毒なような荒れた縁側へ上がって話すだけのことをさせてほしいよ。
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そんな面倒めんどう手続てつづきんであってさえも、ゆうからけんに、肉体にくたいのないものから肉体にくたいのあるものに、うつかわるには、じつ容易よういならざる御苦心ごくしん
「なんの、お前様にお礼を言われるようなことをすべえ、行届かねえ田舎者いなかものですから、面倒めんどうを見てやっておくんなさいまし」
なにか面倒めんどうな事件があって、これを処理しに出かけると、案外にもすでに半分以上解決されておったなどということがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「仕方がない。戦闘だ! 手荒なことはしたくないがクロクロ島の秘密を知られては、面倒めんどうだ。さあ、君たちいそいで、そこの階段を下りたまえ」
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あの面倒めんどうくさい西洋かぶれの小説ですらも、なお最も熱心なる読者は作者側にいる。少しく余分よぶんに感歎する者は、すぐさま自分でも書いてみようとする。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
何と云っても今だにすすけた標本のように、もうひとつの記憶のらち内に固く保存しているので、今更いまさらなんぞかぞ」と云い合いする事は大変面倒めんどうな事でもあった。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
以前いぜんねこつて、不潔ふけつなものをかれてこまつたばかりか、臺所だいどころらしたといふので近所きんじよから抗議かうぎまうまれて、ために面倒めんどう外交關係がいかうかんけいおこしたことがあつてから
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
そんでてえもんだから他人ひとにも面倒めんどうられてくれえだからぜにつてんでさ、さうしたら何處どこいたかだましてれてつてね、えゝわしらあねせお内儀かみさん
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
石之助いしのすけ其夜そのよはをとなしく、新年はる明日あすよりの三ヶにちなりとも、いへにていはふべきはづながら御存ごぞんじのしまりなし、かたくるしきはかまづれに挨拶あいさつ面倒めんどう意見いけんじつきゝあきたり
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
度々のことで面倒めんどうだから、今度からめにして、先へ勝手に寝ることにしろと何度も言うが、妻は婦道に背くと言い、なかなか承知しないので困っている云々うんぬん(大意)と。
ヤア面倒めんどうだ、一打ひとうち打殺うちころして仕舞うからめなさんなと、れする中に往来の人は黒山のように集まっておお混雑になって来たから、此方こっちお面白がって威張いばって居ると
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
面倒めんどうじゃ! やせ浪人を荒蓙あらむしろへのせて水の用意ッ」阿波守が呼ばわると、「はっ」と庭先にいた天堂一角や番士たち、あわただしく働いて、瞬間に成敗せいばいすべき死の座を作る。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから彼は作代さくだいに妻をもたせて一家を立てゝやったり、義弟が脚部に負傷ふしょうしたりすると、荷車にのせて自身いて一里余の道を何十度も医者へ通ったり、よく縁者の面倒めんどうを見る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
生来せいらい貴方あなた怠惰者なまけもので、厳格げんかく人間にんげん、それゆえ貴方あなたんでも自分じぶん面倒めんどうでないよう、はたらかなくともむようとばかり心掛こころがけている、事業じぎょう代診だいしんや、そののやくざものにまか
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
とりわけがそっくりだった。わたしは、この少年の面倒めんどうを見てやるのが楽しくもあったけれど、同時にまた、相も変らぬうずくようなわびしさが、そっとわたしの胸をむのであった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
とこの八じょうで応じたのは三十ばかりの品のいい男で、こんの勝った糸織いとおり大名縞だいみょうじまあわせに、浴衣ゆかたかさねたは、今しがた湯から上ったので、それなりではちとうすら寒し、着換きかえるも面倒めんどうなりで
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
Kさんは、未だ高等商船を出たばかりで、学生気のけない明るい青年で、後輩のぼくの面倒めんどうをよくみてくれて、船の隅々迄すみずみまで、案内もしてくれるし、一緒に記念撮影さつえいなどもしていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
……私は急に、私のそばにいる彼女の腕をとって、向うから苦手の人が来るらしいのでつかまると面倒めんどうくさいからと早口に言訣いいわけしながら、いま来たばかりの水車場の方へ引っ返していった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「ええもう、しずかにしろというのに。おふくろみみへへえッたら、こと面倒めんどうンなる」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
夜なども、馬のことが気になってろくろく眠れないというような具合で、伝平は、母親がその病児を養うようにして馬の面倒めんどうを見ているのだった。そして、老耄おいぼれの痩馬は、次第に肥り出して来た。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
しかし生徒の訳読に一応耳を傾けた上、綿密めんみつあやまりを直したりするのは退屈しない時でさえ、かなり保吉には面倒めんどうだった。彼は一時間の授業時間を三十分ばかりすごしたのち、とうとう訳読を中止させた。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
せめては御荷物なりとかつぎて三戸野みどの馬籠まごめあたりまで御肩を休ませ申したけれどそれもかなわず、こう云ううちにも叔父様帰られては面倒めんどう、どの様な事申さるゝか知れませぬ程にすげなく申すも御身おんみため
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ところが、このレミイの間抜野郎まぬけやろうが、こと面倒めんどうにし、なにもかもぶちこわしてしまった。にんじんは、もう結末がどうであろうとかまわないのである。彼は、足で草を踏みにじり、そっぽを向いている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
『遠くの水では近処の火事が救えない』、とても面倒めんどうだよ
端午節 (新字新仮名) / 魯迅(著)
それも面倒めんどうの添った縁だと人の言うそれですからね、だから私も相手をだれとも仮定して考えて見ることができないのです。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
何を云っても、えとかいえとかぎりで、しかもそのえといえが大分面倒めんどうらしいので、しまいにはとうとう切り上げて、こっちからご免蒙めんこうむった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
修行時代しゅぎょうじだいには指導役しどうやく御爺おじいさんがわきから一々面倒めんどうてくださいましたかららくでございましたが、だんだんそうばかりもかなくなりました。
蒸物は少し面倒めんどうですがそれへ米利堅粉と玉子とを入れて全体ならカステラ鍋で一時間ほど蒸焼むしやきにするのですがただお湯で蒸してもようございます
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
言うのはおかしいし、それにあのお武家はお眼の不自由な人、あれでは始終お徳さんの面倒めんどうを見ることもできますまいし
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
店のいそがしいときや、面倒めんどうなときに、家のものは飯をにぎり飯にしたり、または紙にせて店先からあたえようとした。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
むしろ彼らの便利を標準とすれば簡便かんべんなる裏門をもうけ、面倒めんどうな礼をはぶくのが相互の便利とするのではあるまいか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
勲章など貰っても、持って帰るのに面倒めんどうだから、いやじゃ。それよりも、当国とうごく逗留中とうりゅうちゅうは、イギリス製のウィスキーを思う存分ぞんぶんませてくれればそれでよろしい。
消化吸収排泄はいせつ循環じゅんがん生殖せいしょくう云うことをやる器械です。死ぬのがこわいとか明日病気になって困るとかたれそれと絶交しようとかそんな面倒めんどうなことを考えては居りません。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
むしやくしやとせし思ひの晴るゝ處なければ、暫時にても此苦のわすらるゝやう、その一條は面倒めんどうなれどお辰が話しのをかしきは聞きたくなきにもあらで、よし例の話しのいでたらば
花ごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「行くとも! さア行こう」たけりたった相手は、ぼくのかたつかみます。振りきったぼくは、ええ面倒めんどうとばかり十銭はらってやりました。「ざまア見ろ」とか棄台詞すてぜりふを残して車は行きました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「この上は、もはや御上意に委せるほかはありますまい。万一、事面倒めんどうな時にはと、念のため、これへ招いておいた鉄淵禅師すら、あれ、あのように、すずしい顔して、見物けんぶつものじゃと申しておる」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何かまとまったお話をすべき時間はいくらでも拵えられるのですが、どうも少し気分が悪くって、そんな事を考えるのが面倒めんどうでたまらなくなりました。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
面倒めんどうな夫人たちの訪問の供を皆してまわって、時のたったことで中将は気が気でなく思いながら妹の姫君の所へ行った。
源氏物語:28 野分 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「あたし、何にも知らないけれど、あんた、この頃でもうちの父に、何かお金のことで面倒めんどうを見ているの」
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「これは貴女あなた耳飾みみかざりから落ちた石でしょう。これは僕が拾って持っていたのです、警官や探偵などに知れると面倒めんどうな品物です。お土産として、貴女にお返しします」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は毎日の実習じっしゅうつかれていましたので、長い説明が面倒めんどうくさくてこう答えました。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「おのおの方は早くここをお引取りなさい、また悪者が立帰ると事が面倒めんどうじゃ」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)