くだ)” の例文
それはくだってまた昇るのであるが、暫くは密林帯で、数町の間樹木におおわれて、日の目も漏らぬトンネルのような幽邃ゆうすいな谷がつづく。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
それから段々年代がくだるに従って混乱がひどくなって、実際の発音としては全然区別が出来なかったろうと思う位になっております。
古代国語の音韻に就いて (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
我は聖光みひかりいと多く受くる天にありて諸〻の物を見たりき、されど彼處かしこれてくだる者そを語るすべを知らずまたしかするをえざるなり 四—六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ちょうどそのころ、兵免令へいめんれいくだったので、かれはひとまずいのいえにおちついて、いよいよ故郷こきょうかえることにしたのであります。
村へ帰った傷兵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その地が今化してエケレジヤとなり、信徒が群れ、ガラサ(聖寵)はくだり、朝夕アンゼラスの鐘が鳴る。世事茫々ぼうぼうとはこの事だらうか。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
る霊は、理想型の人間を造るべく、自から進んで現世にくだることもあるが、これは高級霊にとりて、特に興味ある仕事である。
州の諸侯をはじめ、郡県市部のおさや官吏は、逃げ散るもあり、くだって賊となるもあり、かばねを積んで、き殺された者も数知れなかった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あなたは女ではあるが出會つた神に向き合つて勝つ神である。だからあなたが往つて尋ねることは、我が御子みこのおくだりなろうとする道を
苦しいながらも思わず荘厳雄大なる絶景に見惚みとれて居りますと「久しくここにとどまって居ると死んでしまいますから早くくだりましょう」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この連中と道伴みちづれになって登り一里、くだり二里を足の続く限り雲に吹かれて来たら、雨になった。時計がないんで何時なんじだか分らない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人間世界にくだって蕃殖し、且つ兇暴をたくましくするのだと、ある限りの悪称をもって憎みののしっているのは、珍らしい古文献といってよい。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
思うに、彼が死せずしてくだったというのも、ひそかにかの地にあって何事か漢に報いんと期してのことではあるまいか。……
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
さうして、女たちの苅つた蓮積み車が、廬に戻つて来ると、何よりも先に、田居へのくだり道に見た、当麻の邑の騒ぎの噂である。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
船長せんちやう一等運轉手チーフメートうしなつて、船橋せんけうあがり、くだり、後甲板こうかんぱんせ、前甲板ぜんかんぱんおどくるふて、こゑかぎりに絶叫ぜつけうした。水夫すゐふ
概して見ますと輪島のものも近頃の品はくだる一途なので、工人に望むところは形をゆたかにし絵附を活々したものにして貰うことであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
プラトーの言へりし如く、恋愛は地下のものにはあらざるなり、天上より地下にくだりたる神使の如きものなることを記憶せよ。
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
一品の宮様のお消息などをいただけませんことを人妻にくだったことで愛をお捨てになったように思って楽しまないふうなのでございますが
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
くだって中世紀に及び、諸国の王侯に処女権あり。人が新婦を迎うれば初めの一夜、また数夜、その領主にはべらしめねば夫の手に入らぬのだ。
そうの船が海賊船の重囲に陥った。若し敗れたら、海の藻屑もくずとならなければならない。若しくだったら、賊の刀のさびとならなければならない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
すなわチ一策ヲ進メ京紳ノ間ニ周旋ス。事すなわチ行ハレズ。他日石河鵜飼うがいノ諸氏遊説スルヤ別勅終ニくだル。アルイハコレニもとづクカ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
三十日近くの時の間には、幕府方にくだった宍戸侯ししどこう(松平大炊頭おおいのかみ)の心事も、その運命も、半蔵はほぼそれを聞き知ることができたのである。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夫切それきりたえ此落語このらくごふものはなかつたのでございます。それよりくだつて天明てんめいねんいたり、落語らくごふものが再興さいこういたしました。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
口々に、うぬ! とか、悪魔! とか叫びながら相搏つのみで暫しは手のくだしようもなかつたのであるが、今始めて鴎丸に訳を聞いて見れば
円卓子での話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
ガリレヤに、弟ピリポ、イツリヤとトラコニチスとに、リサニヤスはアビレナに分封わけもちきみたりし世、荒野あれののヨハネに御言葉みことばくだりし時の如し。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
保吉やすきちは二階の食堂を出た。文官教官は午飯ひるめしのちはたいてい隣の喫煙室きつえんしつへはいる。彼は今日はそこへ行かずに、庭へ出る階段をくだることにした。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
世がくだって、世人は漸く Orchidaceous Plants の蘭を愛好するようになったが、元来これに用いてあるこの蘭の字は
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
左門座をすすみて、伯氏宗右衛門、塩冶が旧交よしみを思ひて尼子に仕へざるは義士なり。士は、旧主の塩冶を捨てて尼子にくだりしは士たる義なし。
と、江崎満吉は、やけ糞で、命令をくだしたけれども、誰も、飛びこむ勇気を持った者はなかった。あべこべに、逃げだした。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
くだるに従って、深い穴の底はいよいよ暗かった。彼がわずかに頼みとするのは、鬼火のように燃ゆる一挺いっちょうの蝋燭の他は無かった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
天皇憐愍れんみんして使を遣して犯状の軽重を覆審ふくしんせしむ。是に於きて、恩をくだしてことごとくに死罪已下いげゆるし、並に衣服を賜ひ、其れを自ら新にせ令む。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
美緒つ! 馬鹿野郎! 眠つちやいかん! 眠るなと言つたら! 反歌! いゝかつ! 十五もちくだち清き月夜つくよに吾妹子に
浮標 (新字旧仮名) / 三好十郎(著)
余は何事なるや知らざれどこゝにて目科と共に馬車をくだり群集を推分おしわけて館の戸口に進まんとするに巡査の一人強く余等よらさえぎりて引退ひきしりぞかしめんとす
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
こういって彼は彼としてはごく珍らしい、馬が無鉄砲に飛跳ねるような足取りをしながら、二人の前に立って山をくだった。
之に遇えば物に害あり。ゆえ大厲だいれい門に入りて晋景しんけい歿ぼっし、妖豕ようしいて斉襄せいじょうす。くだようをなし、さいおこせつをなす。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
及びそのもと相知れる者どもことごときたりて彼と共にその家にて飲食をし、かつエホバの彼にくだし給いし一切の災禍わざわいにつきては彼をいたわり慰め
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
仲間の者達を説いたそうだ『俺を信じて味方になれ。神保帯刀様にくだるのだ。いつまでも香具師やしの身分では置かぬ。立派な侍に取り立ててやる』
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その夜またともに夢む。この度や蒋侯神、白銀の甲冑し、雪のごとき白馬にまたがり、白羽の矢を負いて親しくみずから枕にくだる。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この猫をひざへのせて夕刊を読んでいたら号外が来て、後継内閣組織の大命が政友会総裁にくだったとある。犬養いぬかいさんは総理大臣を拾ったのである。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
実は最初はなはだ簡単な構造を有する先祖から分かれくだったもので、つねに漸々ぜんぜん変化し、代を重ねるにしたがい、変化も次第にいちじるしくなって
進化論と衛生 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
白馬一匹つなぎあり、たちまち馬子まご来たり、いて石級いしだんくだり渡し船に乗らんとす。馬おそれて乗らず。二三の人、船と岸とにあって黙してこれを見る。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ついウッカリと、古い記憶におぼれながら坂道をくだっていった。あの小便ひっかけられた赤ン坊が自分の小説を読んだ。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
私の願は親の口から今一度、薄着して風邪をお引きでない、お腹がいたら御飯にしようかと、詰らん、くだらん、意味の無い事を聞きたいのだが……
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
こういう趣向はくだって春水作中の一齣となり、お化蝋燭を持出したりして、道具立はいよいよこまかくなるけれども、あまり感心したものではない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
古代に日本武尊やまとたけるのみこと、中世に日蓮上人の遊跡ゆうせきがあり、くだって慶応の頃、海老蔵えびぞう小団次こだんじなどの役者が甲府へ乗り込む時、本街道の郡内ぐんないあたりは人気が悪く
彼らは自身たちの領主がすでに明治にくだったと知ると、明治の飯を食わずと連袂れんべいして山間の僻地へきちに立てこもり、今なお一団となって共産村を造っていた。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
私はそのまま階段をくだって街へ出た。門の所で今出て来た所を振りかえって見た。階段はそこからは見えなかった。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
くだっては貴族の美的生活に調和した藤原時代の仏教、これらを通じて著しいのは、彼らの法悦がいかに強く芸術的恍惚にいろどられているかの一点である。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ロレ 諸天善神しょてんぜんじんねがはくはこの神聖しんせいなるしきませられませい、ゆめ後日ごじつ悲哀かなしみくださしまして御譴責ごけんせきあそばされますな。
そこで松右衛門は好次とはかって、四郎をもって天帝くだす処の天章と為し、大矢野島宮津に道場を開き法を説いた。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
時勢のくだった徳川期にあっても、将軍とか大名とかが死ぬと、家臣は主従三世の武士道を重んじ、三人または五人の殉死者のあるのが尋常とされていた。
本朝変態葬礼史 (新字新仮名) / 中山太郎(著)