もと)” の例文
はらはらとその壇のもとに、振袖、詰袖、揃って手をつく。階子の上より、まず水色のきぬつまもすそを引く。すぐにみのかつぎたる姿見ゆ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紀州のお国もとの方からも多勢お里の方がお見えになっていらっしゃったが、もうその頃には女中さんの病気もだいぶ悪かったらしく
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
かの新婦はなよめ——即ち大聲おほごゑによばはりつゝ尊き血をもてこれとえにしを結べる者の新婦——をしてそのいつくしむ者のもとくにあたり 三一—三三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
オルガンやピアノの奏法から基礎的な理論、和声学等異常な熱心で修得し、さらにカムニックで一年の修業を積んで父のもとに帰った。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
彼は足の進まない方角へ散歩にたのを悔いた。もう一遍出直でなほして、平岡のもとかうかと思つてゐる所へ、森川町から寺尾がた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
常に都風みやびたる事を好んで、過活心わたらいごころがないので、家の者は学者か僧侶かにするつもりで、新宮しんぐう神奴かんぬし安部弓麿あべのゆみまろもとへ通わしてあった。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼女は彼のもとに、あまりえもしない詩人生活をした。彼が巡業を主としてゐたので、従つて彼女の生活は放浪的なものであつた。
デボルド―ヷルモオル (新字旧仮名) / 中原中也(著)
だから特殊な事情のもとで一地方に発達した様式で、遠くには及んでいない。これが今まで充分知られていない原因となったのであろう。
野州の石屋根 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
光はすえひて竹村の姉のもとへ、天神様のはとを見になど行き候。かしこに猿もあり、猿は行儀わろきものゆえ見すなといひきかせ候。
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
想ふに新石町しんこくちやうの菓子商で眞志屋五郎作と云つてゐた此人は、壽阿彌號を受けた後に、去つて日輪寺其阿のもとぐうしたのではあるまいか。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
信一郎は、もう四十分の後には、愛妻のもとに行けるかと思うと、汽車中で感じた焦燥もどかしさや、いらだたしさは、後なく晴れてしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「うむ……。そこにいるおもとの姿も、墨で描いたようにぼっと影しか見えぬ。治部、晴々と笑った時のお身の顔を、もいちど見たいぞ」
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たまたま私達のもとに訪れて来るような人でもあると、その青稲をそのまま馬に飼ってやっているのも、いかにもあわれが深かった。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そんなことがあってから数日後、はやその年も残り少なになった十二月の二十日頃に、又しても時平のもとから数々の贈物が届けられた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
絵の道であれ、刀鍛冶かじであれ、牙彫師げぼりしから、腰元彫りの名人——まあ、江戸一といわれる人間で、わしのもとに出入りせぬ者はない。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
甲州街道でお松の危難を助けて、江戸へ下った南条なにがしもまた、この老女のもとへ出入りする武士のうちのおもなる一人でありました。
付させられ懷姙くわいにんし母お三婆のもとへ歸るみぎり御手づから御墨付すみつきと御短刀たんたうそへて下し置れしが御懷姙の若君わかぎみは御誕生たんじやうの夜むなしく逝去遊おかくれあそばせしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
十年振りで帰国した鈴木の兄のうわさ、台湾の方の長兄の噂などにしばらく時を送った後、義雄は用事ありげに弟のもとを辞し去る支度した。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その頃の者は朝早く女のもとから帰るので、こういう実際を幾たびも経験してこういう語を造るようになったのは興味ふかいことである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
さて小三郎のもとから絶えて音信おとずれの無いわけで、小三郎は不図した感冒かぜ原因もとで寐つくと逆上をいたし、眼病になり、だん/″\嵩じて
変化を喜ぶ心と、も一つは友人のもとへ行くのにMからだと大変大廻りになる電車が、Eからだと比較にならないほど近かったからだった。
路上 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
磯田は近年激しい神経痛に悩まされ、駿河台の脳神経専門家のもとで絶えず電気療法を受けていた。朝子などには、慢性神経痛だと云った。
一本の花 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ここにおいて甲斐守はあらたに静岡の藩主となった徳川氏のもとに赴きみずから赦免を請うたのち白髪はくはつ孤身こしん飄然ひょうぜんとして東京にさまよいきたったと云う。
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ロンドンの母親スルイヤは巴里に居る娘のもとへ手紙を寄こした。余程心痛したと見えて取り急いで書いたらしく字も乱れていた。
母と娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そのみゝもとでは、『をんな一つで』とか、『よくまああれだけにしあげたものだ』とかいふやうな、かすかな聲々こゑ/″\きこえるやうでもあつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
コイツ失敗しまったと、直ぐびに君のもとへ出掛けると今度は君が留守でボンヤリ帰ったようなわけさ。イヤ失敬した、失敬した……
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
げにも浮世うきよ音曲おんぎよく師匠ししやうもとしかるべきくわいもよほことわりいはれぬすぢならねどつらきものは義理ぎりしがらみ是非ぜひたれて此日このひ午後ひるすぎより
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
二君が熱心な俳句宗となったのは後に子規居士のもとに直参してからの事であったが手ほどきはこの鈴木芳吉君の裏座敷であった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
不思議にもこの女にだけは人間的な片鱗へんりんを見せて、「浴槽の花嫁」で金を得次第、いつも矢のようにペグラアのもとに帰っている。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
巴里パリの街頭で焼いも屋をしていたというボアイエーの絵を、近頃ある私の知人のもとに十幾枚秘蔵されているのを見る事が出来た。
ある日のこと、祇園精舎ぎおんしょうじゃの門前に、彼はひとりでションボリと立っていました。それをながめられた釈尊は、静かに彼のもとへ足を運ばれて
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
そのうち香織かおりえんあって、鎌倉かまくらんでいる、一人ひとりさむらいもととつぎ、夫婦仲ふうふなかたいそう円満えんまんで、そのあいだ二人ふたりおとこうまれました。
さうすれば、私の心のつるをロチスターさんの心から引きちぎつてきずつけるやうな努力をしなくても濟むだらう。私は、あの方のもと
仕事はのろいが、挽賃ひきちんが安いので、その邊の山に住む人達は、何哩もの遠くから、石でゴツ/\した道も厭はず、彼のもとへ穀物を運んで來た。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
もとの砂にも、小砂利こじゃりにも、南豆ナンキン玉の青いのか、色硝子ガラスの欠けらの緑色のがこぼれているように、光っているものが交っている。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
酸いも甘いもずんと噛分かみわけておられる、この度もおもとを引取って快く世話をしようと仰せられるのだ、よくお礼を申上げるよう
嫁取り二代記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まだ独りもので、馬道に住んでいる良助という義太夫専門の箱屋の家に二階借りをしていて、そこから毎日父のもとに稽古に通ってきていた。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
そして、うしろからボソボソといて来る楢雄の足音を聴きながら、明日は圭介の知り合ひの精神科医のもとへ楢雄を連れて行かうと思つた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
勝手かって口の方もまだ締りをはずしたばかりで、女中共がずっと勝手もとにいたのでございますから、とても知れぬ様に出て行くことは出来ません
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
国吉は故郷熱海をあとにして東京に来り、養父のもとに暫時いたのであったが、養父は家に置いて家職のことを覚えさせるより
神の声こそ、ベートーヴェンが自らをその通訳者だと信じ、それを人々のもとまで運ぶ者だと信じていたところのものである。
次郎は最近二十日あまりも寝小便もたらさないで、お浜のもとに落ちついていた。そしてそろそろ実家の記憶もうすらぎかけたところであった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
あたかも言附られし役目を行うが如くに泰然自若として老人の死骸のもとに行き、そのそばひざまずきてそろ/\と死骸を検査し初めぬ。
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
彼奴きゃつ長久保ながくぼのあやしき女のもと居続いつづけして妻の最期さいご余所よそに見る事憎しとてお辰をあわれみ助け葬式ともらいすましたるが、七蔵此後こののちいよいよ身持みもち放埒ほうらつとなり
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大分だいぶん以前の話だが、独帝カイゼルには伯母さんに当る英国のヸクトリア女皇ぢよわうくなられて、葬儀の日取が電報で独帝カイゼルもとしらされて来た事があつた。
くも書かれたり、ゆるゆる熟読じゅくどくしたきにつき暫時ざんじ拝借はいしゃくうとありければ、その稿本こうほんを翁のもととどめて帰られしという。
瘠我慢の説:01 序 (新字新仮名) / 石河幹明(著)
なお通夜の晩の話を聞いてみると、某は、生前懇意にしていた尼僧のもとへも行っていた。時刻は、熊谷の実家をうたのより、少し前であった。
取り交ぜて (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
直ちに曹長のもとに行きて「飯の切符を下さい」と言へば曹長は仏頂面ぶっちょうづらにて「飯の切符はきまりの時間に取りに来ねばいかん」
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
かくて孤児みなしご黄金丸こがねまるは、西東だにまだ知らぬ、わらの上より牧場なる、牡丹ぼたんもとに養ひ取られ、それより牛の乳をみ、牛の小屋にて生立おいたちしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
もとゑんじはまこと心底の胸から出やるか、乃至ないしは唇のおもてからか。いやさ、それを告げいでは、ちやくと教へられぬわい。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)