をひ)” の例文
と聲を掛けたのは、主人萬兵衞のをひで、藤屋の番頭をしてゐる喜八の女房、綽名あだながガラ留と言はれる、二十七八の大年増お留でした。
だまれ! をひくせ伯父樣をぢさまめかけねらふ。愈々いよ/\もつ不埒ふらちやつだ。なめくぢをせんじてまして、追放おつぱなさうとおもうたが、いてはゆるさぬわ。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一本多長門守領分遠州榛原郡はいばらごほり水呑村百姓九郎兵衞同人さいふか右兩人願ひ上奉つり候當村名主九助儀は私しどもをひに御座候に付私し娘里儀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
丑松は室の入口に立つて眺めた。見れば郡視学のをひといふ勝野文平、灰色の壁に倚凭よりかゝつて、銀之助と二人並んで話して居る様子。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
僕のをひは、紙を乾かすのを手伝ひながら、『軽いものですから、二階の焼落ちるときに跳ね飛ばされたんでせう』などと云つた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
いかなれば我は赤心を棒げて人々に依頼せしに、人々は我をして鹽の柱と化すること彼ロオト(亞伯拉罕アブラハムをひ)が妻の如くならしめしぞ。
わしのをひの、おとうとの! おゝ、御領主とのさま! おゝ、をひよ! わがつま! おゝ、大事だいじの/\、親族うから血汐ちしほながされてゐる! 公平こうへい御領主ごりゃうしゅさま
をひの法師の頼みますには、丹波たんば前司ぜんじなにがしの殿が、あなた様に会はせて頂きたいとか申して居るさうでございます。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
蘿月らげつころとよの家を訪ねた時にはきまつてをひ長吉ちやうきちとおいとをつれては奥山おくやま佐竹さたけぱら見世物みせものを見に行つたのだ。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
伯父といふものは借金かりを拵へたり、恋病こひやまひつかれたり、猫にたゝられたりするをひにとつては、少くとも一人は無くてならない実用品なのである。伯父は言つた。
清らかに片づいたその店には、何一つおいてなかつた。私は八十を幾年いくつか越した筈の、お婆さんにことわつて茶の間の前にある電話にかゝつた。そしてをひを呼出した。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
平八郎の母の兄、東組与力大西与五郎おほにしよごらう病気引びやうきびきをしてゐる所へ使つかひつて、をひ平八郎に切腹させるか、刺し違へて死ぬるかのうちを選べと云はせたのが三つである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「知つてるだらう? 加納君の子供だよ。つまり徳次郎のをひさ」と野田が和作を見返つた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
かくはかなき事して見せつれば、をひなる子の小さきが真似まねて、あねさまのする事れもとて、すずりの石いつのほどにて出でつらん、我れもお月さま砕くのなりとて、はたと捨てつ。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
をひや彼の肉親の者はほんの義理で電報を打つたつもりらしく、しかも伯父が生き返つたので、もしかしてこの昔の養子に遺産の分前のことなど云ひ出しはすまいかとはらはらして
現代詩 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
しか宗助そうすけ興味きようみたない叔父をぢところへ、不精無精ふしやうぶしやうにせよ、ときたま出掛でかけてくのは、たん叔父をぢをひ血屬けつぞく關係くわんけいを、世間並せけんなみこたへるための義務心ぎむしんからではなくつて、いつか機會きくわいがあつたら
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
煙草たばこの好きな叔母が煙管きせるを離さずに、雇人やとひにん指揮さしづしていそがしい店を切盛きりもりしてゐるさまも見えるやうで、其の忙がしい中で、をひの好きな蒲鉾かまぼこなぞを取り寄せてゐることも想像されないではなかつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
雪子のをひの香川を眼の前に置いて、やはり思はれるものは、し雪子と結婚してゐたら、田舎の村で純樸な一農夫として真面目まじめに平和な生涯をおくるであらうこと、寵栄ちようえいを好まないであらうこと
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
大馬の黒の背鞍に乗りがほのをひはれぬ野分のわきする家
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
虫干やをひの僧ふ東大寺
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
そんなわけで、今晩といふ今晩、をひの世之次郎樣が、旦那樣の枕許の用箪笥へ手を掛けなすつたので、たまり兼ねて持ち出しました。
私が今、どれほど僅かな生活費で自分の家を支へて居るかといふことを打ち明けたら、定めしをひなどは驚くだらう。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
三日みつかは孫娘を断念し、新宿しんじゆくをひたづねんとす。桜田さくらだより半蔵門はんざうもんに出づるに、新宿もまた焼けたりと聞き、谷中やなか檀那寺だんなでら手頼たよらばやと思ふ。饑渇きかついよいよ甚だし。
渡世となし夫婦さし向ひにて金持かねもちと云にはあらねども不自由もなくくらしけるがの勘兵衞のをひ彌七と云者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今一人の妹とか、幾人かのめひをひ、又従姉妹いとこたち——その他の人達とも話をまじへたりして、各人のその後の運命や生活内容にも、久しぶりで触れることができた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
白井孝右衛門かうゑもんをひ儀次郎ぎじらう般若寺村はんにやじむらの百姓卯兵衛うへゑは死罪、平八郎のめかけゆう、美吉屋の女房つね、大西与五郎と白井孝右衛門のせがれで、をさない時大塩の塾にゐたこともあり
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
モン長 このふる爭端さうたんをば何者なにものあたらしうひらきをったか? をひよ、おぬしは最初はじめからそばにゐたか?
おやおやとの許嫁いひなづけでも、十年じふねんちか雙方さうはう不沙汰ぶさたると、一寸ちよつと樣子やうすわかかねる。いはん叔父をぢをひとで腰掛こしかけた團子屋だんごやであるから、本郷ほんがうんで藤村ふぢむら買物かひものをするやうなわけにはゆかぬ。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「有りますよ。」と商人あきんどくれ気味ぎみに言つた。「をひが一人お国に捕虜になつてまさ。」
をひ長吉ちやうきち釣台つりだいで、今しも本所ほんじよ避病院ひびやうゐんに送られやうとさわぎ最中さいちゆうである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
散歩がてらに、平岡の所へ行てやうかと思ひしたが、散歩が目的か、平岡が目的か、自分には判然たる区別がなかつた。婆さんに着物をさして、着換きかへやうとしてゐる所へ、をひの誠太郎がた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
をひの手をひにけり
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
内儀のお紺は、土藏の二階から降りると、丁度其處にゐ合はせた、をひの房吉に頼んで、お勝手にゐる筈の下女のお榮を呼ばせました。
彼女は明治四五年頃に、古河屋政兵衛こがやせいべゑをひに当る、今の夫と結婚した。夫はその頃は横浜に、今は銀座の何丁目かに、小さい時計屋の店を出してゐた。……
お富の貞操 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
當夏中より中風相煩歩行相成兼其上をひ鎌作かまさく儀病身に付(中略)右傳次方私從弟定五郎と申者江跡式相續爲仕度つかまつらせたく(中略)奉願候、もつとも從弟儀いまだ若年に御座候に付右傳次儀後見仕
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
かうむりたるかなさけなきは九郎兵衞殿如何なる前世のかたき同士どうし現在げんざいを分し伯父をひの中で有ながら娘や婿むこかたきなりと後家のお深にくるめられ解死人げしにん願ひは何事ぞと姑くは人をもうらみ身を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
大学だいがくかみに尋ねた。大学の頭ですらも。それから守は宗教に志し、渋谷の僧に就いて道を聞き、領地をばをひに譲り、六年目の暁に出家して、飯山にある仏教の先祖おやと成つたといふ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
カピ長 はて、をひよ、なんとしたのぢゃ! おぬしはなん其樣そのやう息卷いきまくのぢゃ?
その折独帝カイゼルは、六歳むつつになるをひを相手に何か罪のない無駄話にふけつてゐた。
「何とかしませう。」をひは言つたけれど、当惑の色は隠せなかつた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
をひなる者の歎くやう
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「——その上店のこと萬端取仕切つてゐるをひの吉三郎さんが、大阪へ商賣用で行つてゐるとかで、迎ひの飛脚ひきやくを出す騷ぎでしたよ」
しかし二三行も読まないうちに「あなたの『地獄変』は……」と云ふ言葉は僕を苛立いらだたせずにはかなかつた。三番目に封を切つた手紙は僕のをひから来たものだつた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これでいくらか清々した……今日は阿部の老爺おぢいさんに手紙を書いて、斯う自分の身の周囲まはりのことを報告しようと思つてサ……おそのさん(亡くなつたをひの妻)もいよいよ東京へかたづいで来たし
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
重三郎は主人のをひで、音松は主人の弟だ。この二人とお染を殺せば、萬といふ金が遠縁乍らめひの自分へ入つて來るとお今は考へたのさ。
秦豊吉はたとよきち これも高等学校以来の友だちなり。松本幸四郎まつもとかうしらうをひ。東京の法科大学をいで、今はベルリンの三菱みつびしに在り、善良なる都会的才人。あらゆる僕の友人中、最も女にれられるが如し。
学校友だち (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
をひがですか、あゝ左様さうでしたらう。私のところへも長い手紙をよこしましたよ。其を読んだ時は、彼男あのをとこの喜ぶ顔付が目に見えるやうでした。実際、甥は貴方の為を思つて居るのですからな。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
折角きづき上げた大身代を、をひや養女や、赤の他人に、熊鷹くまたかゑさうばはれるやうに滅茶々々にされて了ふのが心外でたまらなかつたのです。
それ以来廉一は、外へも出ずにせつせと叔父の手伝ひをし出した。——次男は又をひを慰める為に、木かげに息を入れる時には、海とか東京とか鉄道とか、廉一の知らない話をして聞かせた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
をひの助十郎を家督に決め、林太郎の許嫁のお禮を改めて助十郎の嫁として内祝言をさせ、明後日は公儀の御屆を濟ませて、庄司右京は隱居