正月しやうぐわつ)” の例文
正月しやうぐわつまへひかえたかれは、實際じつさいこれといふあたらしい希望きばうもないのに、いたづらに周圍しうゐからさそはれて、なんだかざわ/\した心持こゝろもちいだいてゐたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
正月しやうぐわつのおかざりを片付かたづける時分じぶんには、村中むらぢう門松かどまつ注連繩しめなはなどをむらのはづれへつてつて、一しよにしてきました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
葬式とむらひをしたのは五ねんばかりまへで、お正月しやうぐわつもまださむ時分じぶんでした。松戸まつど陣前ぢんまへにゐる田村たむらといふ百姓家しやうやひとがお葬式とむらひをしてくれたんで御在ございますが……。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
成程なるほどうでございますかね、それから正月しやうぐわつぼんの十六にちふたくとふ、地獄ぢごくの大きなかまうしました。
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
A 大隈侯おほくまこうまへ正月しやうぐわつ受取うけとつた年始ねんし葉書はがき無慮むりよ十八まん五千九十九まいで、毎日々々まいにち/\郵便局いうびんきよくからだいぐるまはこびこんだとふが、隨分ずゐぶんきみエライもんぢやないか。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
まへさん、お正月しやうぐわつからうたうたつてるんぢやありませんか。——一層いつそ一思ひとおもひに大阪おほさかつて、矢太やたさんや、源太げんたさんにつて、我儘わがまゝつていらつしやいな。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
三十七ねん正月しやうぐわつ掘初ほりそめとして望玄ぼうげんしたがへてつてると、如何いかに、りかけてあな附近ふきんに、大男おほをとこが六七にんる。うして枯萱かれかやつてる。
總領そうりようのるたまがころがるとはらぬか、やがてきあげて貴樣きさまたちに正月しやうぐわつをさせるぞと、伊皿子いさらごあたりの貧乏人びんぼうにんよろこばして、大晦日おほみそかてに大呑おほのみの塲處ばしよもさだめぬ。
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夫婦ふうふ乳呑兒ちのみごと三にん所帶しよたい彼等かれら卯平うへいから殼蕎麥からそばが一しようむぎが一と、あとにもさきにもたつただけけられた。正月しやうぐわつ饂飩うどんてなかつた。有繋さすがにおふくろ小麥粉こむぎこかくしておしなつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ちゝ正月しやうぐわつになると、屹度きつとこの屏風びやうぶ薄暗うすぐらくらなかからして、玄關げんくわん仕切しきりにてて、其前そのまへ紫檀したんかく名刺入めいしいれいて、年賀ねんがけたものである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
うまひましたが、ゆきればうまでもうれしいかととうさんはおもひました。やまなかふゆやお正月しやうぐわつには、お前達まへたちらないやうなたのしさもありますね。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
金澤かなざは正月しやうぐわつは、お買初かひぞめ、お買初かひぞめの景氣けいきこゑにてはじまる。初買はつがひなり。二日ふつか夜中よなかよりいでつ。元日ぐわんじつなん商賣しやうばいみなやすむ。初買はつがひとききそつて紅鯛べにだひとて縁起えんぎものをふ。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その時分じぶんには丁度ちやうどきう正月しやうぐわつるので、一先ひとまづ國元くにもとかへつて、ふるはるやまなかして、それからまたあたらしい反物たんもの脊負しよへるだけ脊負しよつてるのだとつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そのもちつきのおとくと、とうさんは子供心こどもごゝころにもお正月しやうぐわつやまなかのおうちることをりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
さゝに、大判おほばん小判こばん打出うちで小槌こづち寶珠はうしゆなど、就中なかんづく染色そめいろ大鯛おほだひ小鯛こだひゆひくるによつてあり。お酉樣とりさま熊手くまで初卯はつう繭玉まゆだま意氣いきなり。北國ほくこくゆゑ正月しやうぐわつはいつもゆきなり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
苛々いら/\しながら、たわいのない、あたかぼんとお正月しやうぐわつ祭禮おまつりを、もういくると、とまへひかへて、そして小遣錢こづかひせんのないところへ、ボーンと夕暮ゆふぐれかねくやうで、なんとももつ遣瀬やるせがない。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
九歳こゝのつ十歳とをばかりの小兒こどもは、雪下駄ゆきげた竹草履たけざうり、それはゆきてたとき、こんなばんには、がらにもない高足駄たかあしださへ穿いてたのに、ころびもしないで、しかあそびにけた正月しやうぐわつの十二時過じすぎなど
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)