あば)” の例文
こわがって——あばれて——われとわが身をずたずたに引き裂いて——死んでしまうか——どんな悪いことになるかわからないからでさ。
あばれるやつをグイと握ってびくに押し込む時は、水に住む魚までがこの雨に濡れて他の時よりも一倍鮮やかで新しいように思われました。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
虫も殺さねえような、あんなつらをしているが、いざとなったらどんなにあばれて、そのうえ、物の見事にずらかるかも知れねえのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かんしゃくまぎれにてつぼうげて、そとあばしてやろうと、何度なんどとなく、そのおりの鉄棒てつぼうびついたかしれません。
白いくま (新字新仮名) / 小川未明(著)
ところが、横丁々々から一斉に吹き出した火は長いなりに大巾おおはばになって一面火の海となり、諏訪町、駒形一円を黒烟に包んであばれ狂って来た。
最後に「返済してくれと再三ならず督促したところ、刀を抜いておどし、店へ来てまであばれる始末だから、やむを得ず御定法にすがって訴え出た」
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これらはきたないことのおきらいな水の神をいからせて、大いにあばれていただくという趣意らしく、もちろん日本に昔からあったまじないではない。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
後になつて、だん/\に分つて来たことであるが、伯父は子供の時分から、ふた親の手におへないほどのあばれ者であつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「今ネ、御輿の飾りを取って了ったところだ。鳳凰ほうおうも下した。これからが祭礼まつりだ。ウンと一つ今年はあばれ廻ってくれるぞ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ながえになっていた前の兵が、とつぜん地へ膝を折って俯ッ伏し、がたっと、地響きやら物音がしたせつなに、輿の内からあばれ出た皇子みこ宗良の姿が
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今ちょいと外面おもててめえが立って出て行った背影うしろかげをふと見りゃあ、あばれた生活くらしをしているたアが眼にも見えてた繻子しゅすの帯
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかるに私は、小さい頃から、無頼ぶらいの性質でございまして、あばれ者などのかしらとなって、仁侠にんきょう真似まねなど致しますのが、何より好きでございました。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三四郎は手紙をかへして、封に入れて、枕元へ置いた儘を眠つた。ねずみが急に天井であばれ出したが、やがて静まつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「お前は駄々ッ子で、鼻ッ端が強くって、威勢よくあばれるけれど、その実大の弱虫なんだから心配だよ、この頃は内でねえさんと喧嘩けんかはしないか。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とゝさんは——あの金を盜られては、生きてゐる張合もないから、助けると思つて殺してくれと、泣いたりあばれたり」
似せ天か本天かわからぬやつにまで引つたくられるのだからいゝ面の皮だ。天狗の中で一番あばれたのは田中愿藏だ。
天狗塚 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
今から三十二、三年ばかり前……前の世界大戦中のことですが、太平洋南水域で大あばれをした独逸の駆逐艦がある。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
あの弁士がまた為様しようのない男で、お金がないというと、あばれまわって姐さんと取っ組み合いの喧嘩けんかをするそうだわ。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
事の第一はこれなる化物道場のカラクリあばき出すが肝腎じゃ。それがためには抜いてもならぬ。斬ってもならぬ。
馬は張り切った勢いであばれまわった。暴馬あれうまうまやに押しこめるよりほかはない。外記は支配がしらの沙汰として、小普請組という厩に追い込まれることになった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「馬鹿な! そんな何が、ある理屈はねえけれど……どうもこう、見たところこんなおとなし作りの娘を、船乗りのあばれ者の女房にゃ可哀そうのようでね」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
この喧嘩けんかで私たちは助かったのだ。こうしてまだ盛んにあばれている間に、村の側にある丘の上から別の物音が聞えて来た。——駆けて来る馬の蹄の音である。
それが完成したので、持って帰ろうとしたところを、例の女がぎつけて、あばれこんだという訳なんでしょう
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
女は小田島がオンフルールでイベットに別れ、夕方帰って一休みして居ると、ほとんど部屋へあばれ込んで来た。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
出立しゅったつの朝だった。自分が捨てゝ置かれると云うことが分ると、勝彦は狂人のようにあばれ出した。毎年一度か二度は、発作的に狂人のようになってしまう彼だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その方がずっと派手で勇ましく、重吉を十倍も強い勇士に仕立てた。田舎小屋の舞台の上で重吉は縦横無尽にあばれ廻り、ただ一人で三十人もの支那兵をり殺した。
電車の停留する四辻では噛み付くやうな声で新聞の売子が、「紳士富豪の秘密をあばきました………。」
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
東京に行ってひとつ俺はあばれ放題に暴れるだ。何をやったっても人間一生だ。手ごたえのある処にいって暴れてみないじゃ腹の虫が承知しないからな。けれどもだ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
初め剃刀かみそりいぢつてゐたのを看護婦がだまして取り上げたんやが、其の次ぎにまた匕首あひくちを弄つてたのを見付けたんで、取り上げて了ふと、それからあばれ出したんだすな。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
おどろいてかへるにあばもの長吉ちようきち、いま廓内なかよりのかへりとおぼしく、浴衣ゆかたかさねし唐棧とうざん着物きもの柿色かきいろの三じやくいつもとほこしさきにして、くろ八のゑりのかゝつたあたらしい半天はんてん
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
然し再び故郷の町へ帰つてステーション前に宿屋を始めてからは家業に忠実であつた。俥夫等がいかにあばれ込んで幾度喧嘩を持ちかけても父はおとなしく下から出てゐた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
しかしあめ浮橋うきはしの上までおいでになって、そこからお見おろしになりますと、下では勢いの強い神たちが、てんでんにあばれまわって、大さわぎをしているのが見えました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
どっちを追っていのやらと戸惑うた万豊が八方に向って夢中で虚空をつかみながらあばれ出た。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
吉田磯吉の勢力をバックにして、友田喜造一派は、いよいよ、これからあばれる算段をしとる。この前のパナマ丸では失敗し居ったが、この先、どんな手段てだてで来るかも知れん。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そりゃそうだろう、ひどく重い体をしているくせに、無茶苦茶にあばれまわったんだからな。
負けない少年 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
外ではいよいよあばれ出した。とうとう娘が屏風びょうぶむこうで起きた。そして(酔ったぐれ、大きらいだ。)とどうやらこっちを見ながらわびるようにさそうようになまめかしくつぶやいた。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
これからもっとあばれまわって、町や村のひとたちを恐れさせてやるんだと話していました
「弁慶様、大きいぞ、刀だけじゃ物たりねえ、七つ道具をかつぎ出してウンとあばれろ!」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だが、荒々しいものや、あばれ狂うものは、日毎ひごとその家のへいの外まで押し寄せていた。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
ねえ、ピエールさん、あたしがこんなあばれかたをしたって、嫉妬ジャルウだなんて思ってもらっては困るぜ。そんなんじゃないんだ。お前のことなんぞ、馬の尻尾だとも思っちゃいないんだ。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
奪われた形かな。支那へでも行ってあばれたい気もする。清さんもそれで行ったのかな
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
私はコップに水んで来て、えらいあばれてて飲まされしませんのんを無理におさえつけながら口移しに飲ましたげると、おいしそうにのどをぐいぐいいわしながら、飲んでしまうとまた
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
つののあるもの、いもの、おおきなもの、ちいさなもの、ねむっているもの、あばれているもの……。はじめてそんな無気味ぶきみ光景ありさませつしたわたくしは、おぼえずびっくりしてけてさけびました。——
も少しはるとつたやうな多芸たげい才子さいしで、学課がくくわ中以上ちういじやう成績せいせきであつたのは、校中かうちう評判ひやうばんの少年でした、わたしは十四五の時分じぶんはなか/\のあばれ者で、課業くわげふの時間をげては運動場うんどうばへ出て
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
筆でくちびるを真っ赤に塗った佝僂の子がそこの机のところに立ち、その子がおりをしなきゃならない小さな妹たちはあばれまわって、部屋の隅々すみずみまでよごしているというような有様なんです。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
『三月兎ぐわつうさぎとは大變たいへん面白おもしろいのね、大方おほかたこれが五ぐわつなら狂人きちがひになつてあばまはるだらう——假令たとひぐわつほどではなくとも』あいちやんはつてうへると、其猫そのねこえだうへすわつてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
お蔦 ちょいとちょいと、弥あさん、又あばれるのかい、親分に叱られるよ。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「へべれけになってあばれられてたまるもんですか、子供たちをどうします」
セメント樽の中の手紙 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
しかし伯父の前に引据えてひざまずかせようとされた時、彼はあばれだし、母をはねのけ、家の外に逃げ出した。息がつけなくなってからようやく野の中に立止った。遠くに自分を呼ぶ声が聞えていた。
何故なら、あの女があばれ出すと私の祕密をどうしても洩らすのですから、その上、あの女は幾日か——時には何週間も——正氣しやうきに返るときがあつて、その時には立てつゞけに私を罵るのですから。