押入おしいれ)” の例文
盗賊とうぞくどもがなくなった時、押入おしいれの中にかくれていたさるは、ようようでてきて、甚兵衛のしばられてるなわいてやりました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
商人は品物をもっていって、裏口の外から開く押入おしいれのようなところに置いてくるだけや云うてました。するとそこに代金が現金で置いてありますのや。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
旅に反対する理由もありませんでしたので、私は夫のよそゆきのあさの夏服を押入おしいれから取り出そうとして、あちこち捜しましたが、見当りませんでした。
おさん (新字新仮名) / 太宰治(著)
ところで、夫人ふじんむかへたあとを、そのまゝ押入おしいれしまつていたのが、おもひがけず、とほからず、紅葉先生こうえふせんせいれう用立ようだつた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
□□さん、サア洋燈ランプを持ってあちらへ行って勝手に休まっしゃい。押入おしいれの中に何かあろうから引出してまといなさい、まだ三時過ぎ位のものであろうから。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
醫者いしやすこ呼吸器こきふきをかされてゐるやうだからとつて、せつ轉地てんちすゝめた。安井やすゐこゝろならず押入おしいれなか柳行李やなぎがうり麻繩あさなはけた。御米およね手提鞄てさげかばんぢやうおろした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あの化粧机の向う側の押入おしいれの中に彼女のものだと云ふ服がもう既に私の黒い毛織のローウッドの服と麥藁帽子むぎわらばうしとに入れ代りになつてゐるだけで十分である。
寄って来る日は、眼鼻口はもとより、押入おしいれ箪笥たんす抽斗ひきだしの中まで会釈えしゃくもなく舞い込み、歩けば畳に白く足跡がつく。取りも直さず畑が家内やうちに引越すのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
戸棚とだな押入おしいれほか捜さざる処もあらざりしに、つひあるじ見出みいださざる老婢は希有けうなるかほして又子亭はなれ入来いりきたれり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
喇叭ラッパの響のみならず、昼のうちは馬場の砂烟すなけむりが折々風の吹きぐあいで灰のように飛んで来て畳の上のみならずふすまをしめた押入おしいれの内までじゃりじゃりさせる事がある。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「二階の押入おしいれか、天井裏か、包の中を探してみな。其處になかつたら、俺は十手捕繩をお上へ返すよ」
執達吏は其の産衣うぶぎをも襁褓むつきをも目録に記入した。何物をも見のがさじとする債権者の山田は押入おしいれ襖子からかみを開けたが、其処そこからは夜具やぐの外に大きな手文庫が一つ出て来た。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
何時いつでも客をする時には、客の来るまでは働く、けれども夕方になると、自分も酒がすきだから颯々さっさつと酒を呑でめしくっ押入おしいれ這入はいって仕舞い、客が帰た跡で押入から出て
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かいと謂ツても、ンの六でふで、一けん押入おしいれは付いてゐるが、とこもなければえんも無い。何のことはないはこのやうなへやで、たゞ南の方だけが中窓になツてゐる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
嫡子ちやくしに立られ候然耳しかのみならず藤五郎ならびに藤三郎儀は先平助實子に付始終しじうすけ五郎ため相成あいなり申さずと存じられ候藤五郎は座敷らう押入おしいれ食物しよくもつを相とゞめ藤三郎儀は幼少えうせうに之有候を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
出したあとの押入おしいれの中で稽古をした。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
半分はんぶんたあとが、にしてざつ一斤入いつきんいれちやくわんほどのかさがあつたのに、何處どこさがしても、一片ひときれもないどころか、はて踏臺ふみだいつてて、押入おしいれすみのぞ
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宗助そうすけ一人ひとり着物きもの着換きかえたが、てた洋服やうふくも、人手ひとでりずに自分じぶんたゝんで、押入おしいれ仕舞しまつた。それから火鉢ひばちいで、かす用意よういをした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
センイチがうちにゐるとき、人がたづねてくると、彼は急いで押入おしいれの中にかくれて、セイだけが会ひました。
悪魔の宝 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
灯火管制の用意に黒色こくしょく電灯カバーを作ったり、押入おしいれを改造して、防毒室を設けたり、配電所に特別のスイッチをもうけたりして、骨身をおしまないのは、感心にたえなかった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
付居たりしに十日ばかり立と博奕ばくちに廿兩かちたりとて家の造作を始しが押入おしいれ勝手元迄かつてもとまで總槻そうけやきになし總銅壺そうどうこ光輝ひかりかゞやかせしかば偖こそ彼奴きやつに違ひなしと思ふうち小間物屋彦兵衞と云者いふもの隱居いんきよ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ふと蘿月らげつなにかそのへんに読む本でもないかと思ひついて、箪笥たんすの上や押入おしいれの中を彼方此方あつちこつちのぞいて見たが、書物とつては常磐津ときはづ稽古本けいこぼん綴暦とぢごよみの古いものくらゐしか見当みあたらないので
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
如何どうしたのかと思うと、前夜の大嵐おおあらしで、袋に入れて押入おしいれの中に積上げてあった弗、さだめしじょうおろしてあったに違いないが、はげしい船の動揺で、弗の袋が戸を押破おしやぶって外に散乱したものと見える。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
さて其黄昏そのたそがれは、すこかぜ心持こゝろもちわたしねつ惡寒さむけがしたから掻卷かいまきにくるまつて、轉寢うたゝねうちこゝろかれる小説せうせつ搜索さうさくをされまいため、貸本かしほんかくしてあるくだん押入おしいれ附着くツついてた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今度はKの答えがありません。その代り五、六分経ったと思う頃に、押入おしいれをがらりと開けて、とこを延べる音が手に取るように聞こえました。私はもう何時なんじかとまた尋ねました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二階へ上ってから手早く鏡台や何かの引出しをあけて手紙や請取書うけとりしょなどの有無を調べ、押入おしいれからトランクと行李こうり手提革包てさげかばんを引ずり出した後、外へ駈出かけだし、円タクを二台呼んで来て
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二人は押入おしいれから金箱を取出しました。そして開けてみると、びつくりしました。
悪魔の宝 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
あけて見るに絹布けんぷ木綿もめん夜具やぐ夥多おびたゞし積上つみあげてあり鴨居かもゐの上には枕のかず凡そ四十ばかりも有んと思はれます/\不審ふしん住家すみかなりと吉兵衞はあやしみながらも押入おしいれより夜具取出して次の間へこそふしたりける
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其処そこで、人形にんぎやうやら、おかめのめんやら、御機嫌取ごきげんとりこしらへてつて行つては、莞爾につこりさせて他愛たあいなく見惚みとれてたものでがす。はゝゝ、はじめのうち納戸なんど押入おしいれかざつての、るなるな、とふ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
然るをなほも古き机の抽斗ひきだしの底、雨漏る押入おしいれの片隅に、もしや歓場かんじょう二十年の夢の跡、あちらこちらと遊び歩きし茶屋小屋の勘定書、さてはいづれお目もじの上とかく売女ばいじょが無心の手紙もあらばと
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
足袋たびなしでは仲見世なかみせ出掛でかにくい。押入おしいれでふと見附みつけた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)