まき)” の例文
旧字:
仲平はまきをおいて、徳利の酒をうまそうに飲んで寝るのであった。なか一年おいて、二十三になったとき、故郷の兄文治が死んだ。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「は、じゃない、昨日きのう、入江先生より頂戴ちょうだいして参った免許の目録やら皆伝のまきがあろう。なぜ、叔父御おじごに、お見せ申さぬ。父にも見せい」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……もっとも、そのような夢を忘れておいでになる間は、附添人の結うがまにまに、一般の患者と同様のグルグルまきにしておられるのですが……
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まき安里あんりは、甚だコーヒーをたしなんでゐた。彼は、朝昼晩、家にあつても外にあつても、機会を選ばずコーヒーを飲んだ。
田巻安里のコーヒー (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
町の小学校でもいしまきの近くの海岸に十五日も生徒せいとれて行きましたし、となりの女学校でも臨海りんかい学校をはじめていました。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
死んで蘇る妃は、「十二ひとへにしやうずき、くれないのちしほのはかまの中をふみ、金泥こんでいの法華経の五のまきを、左に持たせ給ふ」
……又膝栗毛で下司げすばる、と思召おぼしめしも恥かしいが、こんな場合には絵言葉まきものや、哲理、科学の横綴よことじでは間に合わない。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おやお花さん、よく来たね」声と一緒にあらわれたのは、友蔵の家内のおまきであった。三十前後の仇っぽい女で、茶屋上りとは一眼で知れた。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それはしかしまだいい。いけないことは、ここから学校に通うのは、私とその理髪屋の娘と——おまきさん——ばかりになったということである。
更に進みて仙童に言はせたる予言のうちに、「今このやつの子をのこせり。八はすなはち八房の八をかたどり。又法華経のまきかずなり。」
天王寺てんのうじ別当べっとう道命阿闍梨どうみょうあざりは、ひとりそっと床をぬけ出すと、経机きょうづくえの前へにじりよって、その上に乗っている法華経ほけきょう八のまきあかりの下に繰りひろげた。
道祖問答 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ベルの鍵を験べて見ると、それはすつかりまきが切れてゐます。(して見るとベルはちやんと鳴つたのだ。どうしてそれに気づかなかつたのだらう。)
目醒時計の憤慨 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
新潟やまきできいたことばかりでなく、毒消し部落の村役場で村長さんから得た知識すら暗いことばかりなのである。
ト、その日は怒りを忍びて帰りぬ。——畢竟ひっきょうこの猿は何者ぞ。また狐罠の落着なりゆき怎麼いかん。そは次のまきを読みて知れかし。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
此書このしよの前編上のまき雪中の火といふくだりに、六日町の(魚沼郡)西の山手に地中ちちゆうより火のもゆる事をしるせしが、地獄谷の火の㕝をもらせしゆゑこゝにしるす。
ふくろうの声。しものかたより村の青年団員二人、詰襟つめえりの洋服にまきゲートルの姿にて、を入れない提灯ちょうちんを持ちてづ。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
古事記こじき神代しんだいまきに、豐玉姫とよたまひめからおうまれになられたお子様こさまを、いもうと玉依姫たまよりひめ養育よういくされたとあるのは、つまりそうった秘事ひじ暗示あんじされたものだとうけたまはります。
この権衡つりあひうしなはれたる時においむなづくしを取るもおそからずとは、これも当世たうせう奥様気質也おくさまかたぎなりとらまきの一節也せつなり
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
だもんで、やつはずかしがって、あんなにえりまきやオーバーをしっかり身につけて、かくしてるんだよ
むかし唐の太宗皇帝は王羲之わうぎしの書を三千六百余りも持合せてゐた。何でも一まきの長さを一丈二尺で一軸としたもので、なかで蘭亭の叙が一番名高かつたといふ事だ。
越して来た頃、いしまきの女でおきみと云う非常に美しい女を女中に使っていた。二十一歳で本を読むことがきらいであったが、眼のキリっとした娘で、髪の毛が実に黒かった。
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
かいまきに長き夜守よもるやヴァイオリンはどうだい。東風君、新体詩でそんな事が云えるかい
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今じゃ第四ちつまで進行しております。一帙四巻としてありますが、もう第十六のまきを出しました。お聞き及びかどうか知りませんが、その上木じょうぼくを思い立ったのは座光寺の北原稲雄です。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さて刀を置き、若君を戸棚に入れ、戸の前にぬかづく。伝授のまきを内懐に入るる仕草は除けり。刀を提げ、表を開き見て、女房に手にて奥へ行けといひ、二重にて入り替り、暖簾口のれんぐちに入る。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
それからの三十分間は電波収録班大苦闘でんぱしゅうろくはんだいくとうまきであった。なにしろ目がさめた名津子は、好きなように暴れた。弟の三木も何もあったものではなく、空中線はいくたびか折られそうになった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
妾宅の台所にてはお妾が心づくしの手料理白魚の雲丹焼うにやきが出来上り、それからお取りぜんの差しつ押えつ、まことにお浦山吹うらやまぶきの一場いちじょうは、次のまきの出づるを待ち給えといいたいところであるが
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
寝宮しんきうと遊ぶ日の神の像かたへにするは琴とまき
大げさね ピチ君 白ハチまきなんかして
キャベツまき 秋 第二百十八 あじ料理
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
太郎が前にとぐらくこと十三まき
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
さけんだのはその拇指おやゆびを、竹童ちくどうにかまれたのであろう。むねをついて手をはなし、あけびまき錆刀さびがたなをザラリときかける。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金井君はこう思い直して、静にまきはじめから読み返して見た。そして結末まで読んだときには、夜はいよいよけて、雨はいつの間にか止んでいた。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
此書このしよの前編上のまき雪中の火といふくだりに、六日町の(魚沼郡)西の山手に地中ちちゆうより火のもゆる事をしるせしが、地獄谷の火の㕝をもらせしゆゑこゝにしるす。
南宗流乾術なんそうりゅうけんじゅつだいまき重天ちょうてん左行篇さぎょうへんだ! あの老人こそ鵞湖仙人だ! ……今に消えるに相違無い!」
鵞湖仙人 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
売婦ばいため、お玉杓子たまじゃくしめ、汚らわしい! と二三人、手と足を取って仰向けにひっくりかえしたので、泥水を飲んで真蒼まっさおになって帰ると、何条これを許すべき、突然いきなり細紐でぐるぐるまき
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
慣れた手附で、火鉢の縁へ縦にタタキ付けて、まきを柔らかくしながら吸い付けた。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
時秋は秘曲のまきを見ているのが本当だということですが、どうでしょうか。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
千田はこの臼井をかついで霊岸橋れいがんばしへ行って、辰馬丸に乗込んですぐ出てくれ。行先はいしまきだ、草枝はもんぺをはいてわしといっしょに来てくれ。松戸へ出てから、すこし歩くことにするからなあ
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『狂歌才蔵集さいぞうしゅう』夏のまきにいわずや
蛾次郎がじろうもすばやく水独楽みずごまをふところのおくにねじこみ、かわりにあけびまき錆刀さびがたなをもってかまえをとり、つかに手をかけて屋根裏やねうら虚空こくうをにらみつけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして今一たび其まきを繙閲する。巻は百れいけつの半紙本で、頁数けつすうは森枳園きゑんの朱書する所である。首に「葌斎詩集、伊沢信恬」と題してある。印が二つある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
氷をたのしみとする事暖国だんこくにはさらにあるべからず。此川にさかべつたうといふ奇談きだんあり、つぎまきにいふべし。
柳を植えた……その柳の一処ひとところ繁った中に、清水のく井戸がある。……大通りかどの郵便局で、東京から組んで寄越よこした若干金なにがし為替かわせ請取うけとって、まきくるんで、トず懐中に及ぶ。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こうなると、鉢の中に入れられた金魚きんぎょかめの子同然だ。金魚や亀の子なら、水中ですまして生きていられる。しかし僕は人間だ。空気を吸わねば生きていられない。これはいよいよ溺死できしまきか。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まきにした死骸を、海口へ捨てにでも行くらしい家来たちを追いかけて、大機の亡骸なきがらを、彼がいて、この空地の一隅へ埋葬まいそうさせたものだった。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
凍雲とううんとりあへず「はぎのすだれをまきあぐる月」此時のはせをが肉筆にくひつ二枚ありて一枚は書損しよそんと覚しく淡墨うすゞみをもつて一抹ひとふであとあり、二枚ともに昌庵主しやうあんぬしの家につたへしを
時としては座に就いてまきひらかずに、今日は疲れてゐるから書物よりは酒にしようと云つて、酒肴を饗した。清川安策の如きは午過に来て待つてゐて、酒を飲んで空しく帰るのをうらみとした。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
めし平生着ふだんぎに桃色のまきつけ帯、衣紋えもんゆるやかにぞろりとして、中ぐりの駒下駄、高いのでせいもすらりと見え、洗髪あらいがみで、濡手拭ぬれてぬぐい紅絹もみ糠袋ぬかぶくろを口にくわえて、びんの毛を掻上かきあげながら、滝の湯とある
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうやら、地下戦車第一号は、失敗のまきらしい。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ましてやいまは、竹童も般若丸はんにゃまる宮内くないの手にあずけてあるし、蛾次郎もあけびまき一腰ひとこしを取りあげられているから、この勝負こそ、まったく無手むてと無手。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)