“小脇(こわき)” の例文
彼の電鈴(でんれい)を鳴して、火の傍(そば)に寄来ると斉(ひとし)く、唯継はその手を取りて小脇(こわき)に挾(はさ)みつ。宮は懌(よろこ)べる気色も無くて、彼の為すに任するのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
金縁(きんぶち)眼鏡の紳士林檎柿など山の如く盛りたる皿を小脇(こわき)にかゝへて「分捕々々(ぶんどり/\)」と駆けて来たまふなど、ポンチの材料も少からず。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
舞台下の奈落(ならく)では、一匹の野獣が麻酔剤に気を失った美しい女優を小脇(こわき)にかかえて、穴蔵の暗闇(くらやみ)の世界を、気ちがいのように走っていた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
満足して、笠を小脇(こわき)にかかえた彼は、正門の真ン中からゆったりと庭を横ぎって、庁舎正面の泥だらけの玄関にぬッと立った。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
ちょっと日本の月琴(げっきん)のような形の楽器を小脇(こわき)にかかえて、それの調子を合わせながら針金の絃(げん)をチリチリ鳴らしているのです。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして、小半時(こはんとき)も経(た)たないところで跫音(あしおと)がして小柄な男が帰って来た。勘作が舟の中へ置いてあった空笊(からざる)を小脇(こわき)にしていた。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
人(ひと)の知(し)らない行(ぎやう)をします——其(そ)の晝(ひる)の寢床(ねどこ)から當番(たうばん)の女(をんな)を一人(ひとり)、小脇(こわき)に抱(かゝ)へたまゝ、廣室(ひろま)に駈込(かけこ)んで來(き)たのですが、皆(みんな)來(こ)い! と呼立(よびた)てます。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
預かった染め物の風呂敷包(ふろしきづつ)みをも小脇(こわき)にかかえながら、やがて彼は紺地に白く伊勢屋と染めぬいてある暖簾(のれん)をくぐって出た。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
O君は杖(つゑ)を小脇(こわき)にしたまま、或大きい別荘の裏のコンクリイトの塀に立ち小便をしてゐた。そこへ近眼鏡(きんがんきやう)か何かかけた巡査(じゆんさ)が一人(ひとり)通りかかつた。
O君の新秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その面(おもて)に一抹の暗雲がかかって、しきりに首を傾けながら歩くのです。ついには棒を小脇(こわき)にかかえたまま、両腕を組んで
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
近よってきた白鹿毛(しろかげ)の上には、かいがいしい装束(いでたち)をした彼女のすがたが、細身の薙刀(なぎなた)を小脇(こわき)に持って、にっことしていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毎日洋服を着て書類を入れた風呂敷包(づつみ)を小脇(こわき)に挾(はさ)んで、洋杖(すてつき)を突(つ)いて、京都府下の富豪や寺院をてくてくと歴訪(れきはう)する。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
ジャヴェルは帽子をかぶって、両腕を組み、杖を小脇(こわき)にはさみ、剣を鞘(さや)に納めたままで、室(へや)の中に二歩はいり込んだ。
その本を小脇(こわき)にかかへて(人間から見るとおかしいですが、兎の本屋さんはこんなものです)売りに出かけました。
兎さんの本屋とリスの先生 (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
紳士がインバネスの小脇(こわき)に抱え直したステッキの尖(さき)で弾かれるのを危がりながら、後に細身の青年が随(つ)いていた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
またそのころのやさ男が粉をふりかけた鬘(かずら)のしっぽをリボンで結んで、細身のステッキを小脇(こわき)にかかえ込んで胸をそらして澄ましている木版絵などもある。
ステッキ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
外(はづ)して小脇(こわき)に抱込(かひこみ)お島に對(むか)ひサア汝言はぬか何(どう)ぢや言ぬと此槍が其の美しき體(からだ)に御見舞申すぞ是でも言はぬか/\と既に突(つく)べき勢ひゆゑ安間平左衞門は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
黄金丸はいと不憫(ふびん)に思ひ、件(くだん)の雌鼠を小脇(こわき)に蔽(かば)ひ、そも何者に追はれしにやと、彼方(かなた)を佶(きっ)ト見やれば、破(や)れたる板戸の陰に身を忍ばせて、此方(こなた)を窺(うかが)ふ一匹の黒猫あり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
下巻には楽屋総浚(そうざら)ひのさま面白く尾上雷助(らいすけ)の腰掛けて髪を結(ゆ)はする床屋(とこや)の店先(みせさき)、大谷徳治(おおたにとくじ)が湯帰りの浴衣(ゆかた)に手拭(てぬぐい)を額(ひたい)にのせ着物を小脇(こわき)に抱(かか)へて来かかるさまも一興なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私たち三人は濡れたままで、衣物(きもの)やタオルを小脇(こわき)に抱(かか)えてお婆様と一緒に家の方に帰りました。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「もう藁(わら)のオムレツが出来あがった頃(ころ)だな。」と呟(つぶ)やいてテーブルの上にあった革(かわ)のカバンに白墨のかけらや講義の原稿(げんこう)やらを、みんな一緒(いっしょ)に投げ込んで、小脇(こわき)にかかえ
フィンランド人のお巡(まわ)りさんが一人、上から下までやはり灰色の服を着け、壺(つぼ)みたいな格好(かっこう)の、おそろしく大きな古くさい筒形帽子(つつがたぼうし)をかぶり、ほこ形の警棒を小脇(こわき)にして
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
桑の葉の充満(つまッ)た目籠(めかご)をてんでん小脇(こわき)に抱えていたが、われわれを見るとこそこそ土堤の端の方へ寄ッて、立ち止まッて,「あれはどこ様の嬢様だが、どこさアへ往かッせるか」
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
青い迷送香(まんにょうこう)、赤い紫羅欄花(あらせいとう)、アネモネ、薔薇(ばら)、そして枝も撓(たわ)わなミモザ。それはお雪の手にもモルガンの小脇(こわき)にも抱えこぼれ、お供の少年の、背中の籠にも盛りこぼれるほどだった。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そこへ大槻が粋(いき)な鳥打帽子に、紬(つむぎ)の飛白(かすり)、唐縮緬(とうちりめん)の兵児帯(へこおび)を背後(うしろ)で結んで、細身の杖(ステッキ)を小脇(こわき)に挾(はさ)んだまま小走りに出て来たが、木戸の掛金を指(さ)すと二人肩を並べて、手を取るばかりに
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
そのうしろに、伯爵隊長が、猟銃(りょうじゅう)を小脇(こわき)にかかえて、おそるおそるついて来る。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「これ、貸してや。」と落ちついた口調で言ってその回覧板を小脇(こわき)にはさんだ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かの者等は何事か語り合ひしが、やがて九助を小脇(こわき)にかゝへ、嶮岨(けんそ)巌窟(がんくつ)の嫌ひなく平地の如くに馳せ下り、一里余りも来たりと思ふ頃、其まゝ地上に引下して、忽(たちま)ち形を隠し姿を見失ひぬ。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
よしッ、とばかりモンクスは、いきなり富田(とみた)六段(だん)の片方(かたほう)の足へ飛びついて、小脇(こわき)に抱(だ)きかかえた! すかさず右の手をのばして、弾丸(だんがん)のような顎打(アッパー・カット)の打撃(だげき)、がんとあごへ飛ぼうとしたそのときだ。
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
立ち上ると、その妻の片腕を小脇(こわき)にかかえこむようにして
日めくり (新字新仮名) / 壺井栄(著)
平次は風呂敷に包んだ脇差を小脇(こわき)にフラリと外へ出ました。
それは巴里のサン・ミッシェルの並木街あたりを往来(ゆきき)する人達の小脇(こわき)に挾(はさ)まれるような、書籍(ほん)や書類などを納(い)れるための実用向の手鞄であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
双(さう)の玉(たま)の乳房(ちぶさ)にも、糸一条(いとひとすぢ)の綾(あや)も残(のこ)さず、小脇(こわき)に抱(いだ)くや、此(こ)の彫刻家(てうこくか)の半身(はんしん)は、霞(かすみ)のまゝに山椿(やまつばき)の炎(ほのほ)が𤏋(ぱつ)と搦(から)んだ風情(ふぜい)。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
袴羽織(はかまはおり)に紫の風呂敷包(ふろしきづつ)みを小脇(こわき)にしているところでは、これはおおかた借りていた書物でも返しに来たのであろう。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
江川蘭子の田舎娘(いなかむすめ)は、奉公先の高梨家の一丁ほど手前で車を捨てると、用意の小さな風呂敷(ふろしき)包みを小脇(こわき)に、チョコチョコ同家の門前に近づいて行った。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それに徳利(とくり)や椀(わん)などを入れた魚籃(びく)を掛け、一人は莚包(むしろづつみ)を右の小脇(こわき)に抱え、左の小脇に焼明(たいまつ)の束を抱えていた。
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
居士(こじ)の、こう呼ぶ声をきいたが、かれは小脇(こわき)に引っかかえられていて、こたえる声さえでなかったのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
慌(あわ)ててライカを小脇(こわき)に挟(はさ)んで急ぎ足に廊下へ出て行く板倉を認めたが、彼の姿が扉(とびら)の向うへ消えたのと間髪を入れずに、観客席の何処からか一人の紳士が非常な勢で走り出て
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
山男は達二を小脇(こわき)にかゝへました。達二は、素早く刀を取り返して、山男の横腹をズブリと刺しました。山男はばたばた跳ね廻って、白い泡を沢山吐いて、死んでしまひました。
種山ヶ原 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
労働者らしい男で、大きなポケットのついた上衣を着て、小脇(こわき)に鶴嘴(つるはし)を持っていた。
銀座の花村貴金属店の飾窓(ショー・ウィンドー)をガチャーンと毀(こわ)す覆面の怪漢が浮ぶ。九万円の金塊(きんかい)を小脇(こわき)に抱(かか)えて走ってゆくうちに、覆面がパラリと落ちて、その上から現れたのは赤ブイの仙太の赤づらだ。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その中(うち)に日も暮れて、夜も更(ふ)けて、四隣(あたり)も寝静まったと思う頃、三角定木わムクムクと床を出て例の鋏をば小脇(こわき)にかかえ、さし足ぬき足で、彼(か)の画板の寝ている処え、そっと忍んで参りました。
三角と四角 (その他) / 巌谷小波(著)
早く早くと喚(わめ)くを余所(よそ)に、大蹈歩(だいとうほ)の寛々(かんかん)たる老欧羅巴(エウロッパ)人は麦酒樽(ビイルだる)を窃(ぬす)みたるやうに腹突出(つきいだ)して、桃色の服着たる十七八の娘の日本の絵日傘(ゑひがさ)の柄(え)に橙(オレンジ)色のリボンを飾りたるを小脇(こわき)にせると推並(おしなら)び
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お君は泣き出しそうな面(かお)をして、三味線だけを小脇(こわき)にかかえ
小脇(こわき)に隱(かく)しぶら提燈を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
勿論(もちろん)素跣足(すはだし)で、小脇(こわき)に隱(かく)したものを其(その)まゝ持(も)つて出(で)て來(き)たが、唯(と)見(み)れば、目笊(めざる)の中(なか)充滿(いつぱい)に葉(は)ながら撮(つ)んだ苺(いちご)であつた。
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お俊はお延と一緒に、風呂敷包を小脇(こわき)に擁(かか)えながら帰った。包の中には、ある呉服屋から求めて来た反物(たんもの)が有った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たまたまこの家の前を通りかかった、髪の毛の長い画学生は細長い絵の具箱を小脇(こわき)にしたまま、同じ金鈕(きんボタン)の制服を着たもう一人の画学生にこう言ったりした。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
というと、もう忍剣(にんけん)は例(れい)の鉄杖(てつじょう)を小脇(こわき)にして、鐘巻一火(かねまきいっか)の幕前(まくまえ)へいきおいこんで馳(か)けだしていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山男は達二を小脇(こわき)にかかえました。達二は、素早(すばや)く刀を取(と)り返(かえ)して、山男の横腹(よこばら)をズブリと刺(さ)しました。山男はばたばた跳(は)ね廻(まわ)って、白い泡(あわ)を沢山(たくさん)吐(は)いて、死(し)んでしまいました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)