国境くにざかい)” の例文
旧字:國境
その時も、吉左衛門は金兵衛と一緒に雪の中を奔走して、村の二軒の旅籠屋はたごやで昼じたくをさせるから国境くにざかいへ見送るまでの世話をした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
遠くには、町の家根やねが見えた。その彼方には、高い国境くにざかいの山々がつらなって見えた。淋しい細い道は無限に何処いずこへともなく走っている。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかしこの新潟の女たちの旅は、伊勢に参るというのが心ざしで、国境くにざかい番所ばんしょまでは、年老いたる男に送られて来ている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これから皆様御案内の通り福島を離れまして、の名高い寝覚ねざめの里をあとに致し、馬籠まごめに掛って落合おちあいへまいる間が、美濃みのと信濃の国境くにざかいでございます。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
土佐の国の東端、阿波の国境くにざかいに近い処に野根山と云う大きな山があって、昔は土佐から阿波に往く街道になっていた。
鍛冶の母 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
峰のいただき伊弉諾いざなぎみこと髪塚かみづかに立って、程近き間道かんどうを手に手をとって、国境くにざかいへ逃げてゆくふたりの姿を認めたのである。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
領分は変り、国境くにざかいは違っているのだけれども、いったん生梟いきざらしにまでかけられた自分の古瑕ふるきずが、不必要なところであばかれた日には気がかねえやな。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それから信濃しなのへおはいりになり、そこの国境くにざかいの地の神をち従えて、ひとまずもとの尾張おわりまでお帰りになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
国境くにざかいあたりまでは、追っていったんですが、そこで見うしなって、そのあと、どこへ行ったか、あの怪しい機械人間の行方は分からないのだそうです」
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
越中飛騨の国境くにざかいという加賀澤かがそに着くと、天地の形がいよいよ変って来て、「これが飛騨へ入る第一の関門だな。」と、何人なんぴとにも一種の恐怖と警戒とを与えるであろう。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は国境くにざかいを離れると、すぐに一行に追いついた。一行はその時、ある山駅さんえきの茶店に足を休めていた。左近はまず甚太夫の前へ手をつきながら、幾重いくえにも同道を懇願した。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
となかいと、もう一ぴきのとなかいとは、それなり、ふたりのそりについてはしって、国境くにざかいまでおくってきてくれました。そこでは、はじめて草の緑がもえだしていました。
このままくつろいで少しの待っていて下されば結構だし、御一所に願えればなお結構、第一汽車で国境くにざかいの峠を抜けた時、これからが故郷ですと云うと、先生は何と言いました。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
としふゆ雪沓ゆきぐつ穿いて、吉備国きびのくにから出雲国いずものくにへの、国境くにざかい険路けんろえる。またとしなつにはくような日光びつつ阿蘇山あそざん奥深おくふかくくぐりりてぞく巣窟そうくつをさぐる。
ちょうどはるのことで、奥州おうしゅうを出てうみづたいに常陸ひたちくにはいろうとして、国境くにざかい勿来なこそせきにかかりますと、みごとな山桜やまざくらがいっぱいいて、かぜかないのにはらはらとよろいそでにちりかかりました。
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
頂上には一個の石標があって、ここは常陸ひたち下野しもつけ国境くにざかいである事を示す。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
飛地の伊豆いず田方郡たかたごおりの諸村を見廻りの初旅というわけで、江戸からは若党一人と中間ちゅうげん二人とを供に連れて来たのだが、箱根はこね風越かざこしの伊豆相模さがみ国境くにざかいまで来ると、早くも領分諸村の庄屋しょうや、村役などが
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
摂津の国境くにざかいまでは船で、それからは馬に乗って乳母は明石へ着いた。入道は非常に喜んでこの一行を受け取った。感激して京のほうを拝んだほどである。そしていよいよ姫君は尊いものに思われた。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
登りつむればここは高台の見晴らし広く大空澄み渡る日は遠方おちかた山影さんえいあざやかに、国境くにざかいを限る山脈林の上を走りて見えつ隠れつす、冬の朝、霜寒きころ、しろかねの鎖の末はかすかなる空に消えゆく雪の峰など
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
康頼 わしはまだ童子であったとき、兄の花嫁はなよめ輿こしを迎えに行ったことがあった。国境くにざかいでわしたちは長く待った。輿は数百の燈火ともしびに守られて列をつくってやって来た。あれでもない、これでもない。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
下総武蔵しもふさむさし国境くにざかいだという、両国橋りょうごくばしのまんなかで、ぼんやり橋桁はしげたにもたれたまま、薄汚うすぎたなばあさんが一ぴきもんっている、はなかめくびうごきを見詰みつめていた千きちは、とおりがかりの細川ほそかわ厩中間うまやちゅうげんたけろう
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
わたしはそれより以前に伊賀いが近江おうみのさみしい国境くにざかいを歩いて越したこともありますが、鹿野山の峠道はもっとさみしいところでした。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「信長めは、生来、軽挙けいきょたちだから、美濃勢が国境くにざかいけば、すぐ城をからにして出てゆくにちがいない。——その留守に事をなせば何の造作もない」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう国境くにざかいを出てしまって、手がつけられなくなっている、ということを聞いたから、それで安心しましたの
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あの国境くにざかいやましますと、もうゆきはありません。いまごろは、あたたかいはないています。そこへゆけば、いつだって仕事しごとのないことはありませんよ。」とこたえました。
おかしいまちがい (新字新仮名) / 小川未明(著)
……夜汽車が更けて美濃みの近江おうみ国境くにざかい寝覚ねざめの里とでもいう処を、ぐらぐらゆすってくようで、例の、大きな腹だの、せた肩だの、帯だの、胸だの、ばらばらになったのが遠灯とおあかり
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
広子の聯想れんそうはそれからそれへと、とめどなしに流れつづけた。彼女は汽車の窓側まどぎわにきちりとひざを重ねたまま、時どき窓の外へ目を移した。汽車は美濃みの国境くにざかいに近い近江おうみ山峡やまかいを走っていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たけくらべの里とは近江おうみ美濃みの国境くにざかいにありまして、両国の山々がたけくらべするように見えるところから、その名があります。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
国境くにざかいを越える難路のなやみは、とても想像のほかだった。親鸞の手も、弟子たちの手も、凍傷とうしょうで赤くただれていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
がんりきは、楢の木の蔭に居堪いたたまらないで、身軽に飛んで、高さ一丈余りある国境くにざかいの道標の後ろへ避ける。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あるとしのこと、おとこは、街道かいどうあるいていました。きたほうくにであって、なつのはじめというのに、国境くにざかい山々やまやまには、まだ、ところどころ、しろゆきえずにのこっていたのでした。
窓の下を通った男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「三里離れた処でしゅ。——国境くにざかいの、水溜りのものでございまっしゅ。」
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とうとう、彼は信濃しなのと美濃の国境くにざかいにあたる一里塚いちりづかまで、そこにこんもりとした常磐木ときわぎらしい全景を見せている静かなの木の下まで歩いた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その辺りから、備前びぜん国境くにざかいの方へ、白く蜿蜒うねうねはてを消しているのが、海岸線と見て間違いはあるまい。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
にんは、かしのしたこしろして、西南せいなん国境くにざかいにある金峰仙きんぷせんほうながら、まだあのたかやまみねには不死ふしいずみがあるだろうかというようなことをはなして空想くうそうにふけりました。
不死の薬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
上野こうずけと信濃の国境くにざかいは夢で越え、信濃路に入ってはじめて、浅間の秋に触れました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
近江おうみ、越前の国境くにざかいすさまじい山嘯やまつなみ洪水でみずがあって、いつも敦賀つるが——其処そこから汽車が通じていた——へく順路の、春日野峠かすがのとうげを越えて、大良たいら大日枝おおひだ山岨やまそば断崕きりぎしの海に沿う新道しんみちは、崖くずれのために
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこは上州と信州の国境くにざかいにあたる。上り二里、下り一里半のごくの難場だ。千余人からの同勢がその峠にかかると、道は細く、橋は破壊してある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ほりの柳や梅に、うぐいすが啼いている日でも、国境くにざかいのどこかしらには戦があったのである。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これよりさき、境はふと、もののかしらを葉ごしに見た時、形から、名から、牛の首……と胸に浮ぶと、この栗殻くりからとは方角の反対な、加賀と越前えちぜん国境くにざかいに、同じ名の牛首がある——その山も二三度越えたが
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
福井を出立した宇津木兵馬は、浅水、江尻、水落、長泉寺、鯖江、府中、今宿、脇本、さば波、湯の尾、今庄、板取——松本峠を越えて、中河、つばえ——それからやなへ来て越前と近江の国境くにざかい
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二人ふたりずつの押し手にそのあとを押させ、美濃と信濃しなの国境くにざかいにあたる十曲峠じっきょくとうげの険しい坂道を引き上げて来たのでもわかる。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「さ、昼間になったら、油断は出来ませんよ。それに、すぐ国境くにざかいにかかりますから」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
渝州ゆしゅうに下る——思われた君というのが、つまり、そのうつのやの福松君ですな、福井の城下で、あなたとお別れになって、友情綿々、ここ越前と近江の国境くにざかいに来て、なお君を思うの情に堪えやらず
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その間には落合おちあいの宿一つしかない。美濃よりするものは落合から十曲峠じっきょくとうげにかかって、あれから信濃しなの国境くにざかいに出られる。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかしそこまでいって、ハタと竹童ちくどうがとうわくした、というのは、いたるところの国境くにざかいに、徳川家とくがわけ関所せきしょがきびしく往来おうらいをかためていて、めったな者は通さないという風評ふうひょうであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おっしゃいます、ほかの意趣や遺恨いこんとちがいまして、相手はかりそめにも土地のお代官でございます、ここまで来られたのが不思議なくらいでございますが、どう間違っても国境くにざかいへ出るまでには、きっと捕まってしまいます
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
駅路時代のなごりともいうべき石を敷きつめた坂道を踏んで、美濃と信濃しなの国境くにざかいにあたる木曾路きそじの西の入り口に出た。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それのみでなく、ここは国境くにざかいなので、役人が来て
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旅の荷物は馬につけ、出入りの百姓兼吉に引かせ、新茶屋の村はずれから馬籠の地にも別れて、信濃しなの美濃みの国境くにざかいにあたる十曲峠じっきょくとうげの雪道を下って来た。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)