たが)” の例文
「ではおたがいに子を生んであかしを立てましょう。生まれた子によって、二人の心のよしあしがわかります」とおっしゃいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
塾長と塾生とが川をへだてて相対峙あいたいじしているような格好では、懇談できない。第一、これでは君らおたがいの間の話し合いに不便だろう。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そのつらい気持ちをおたがいにざっくばらんにいえないだけに、余計焦々して私はピントを合せるのに、微笑の顔がゆがみそうであった。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「さあ、おりるんですよ」青年は男の子の手をひきあねたがいにえりやかたをなおしてやってだんだんこうの出口の方へ歩き出しました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
測る道具と測る品物が往々にしてことなるので、この二者を混同するとつまらぬことにあらそいが起こり、たがいに不愉快ふゆかいの念をしょうずるにいたる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
まあ、おたがいに自分じぶんまれついた身分みぶん満足まんぞくして、けもの獣同士けものどうしとり鳥同士とりどうし人間にんげん人間同士にんげんどうしなかよくらすほどいいことはないのだ。
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
たゞみなあまり仲間なかまづきあひがさかんにおこなはれたゝめに、うたは、おたがひによい影響えいきようばかりでなく、わるい流行りゆうこうおこすことになりました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
へだては次第しだいかさなるばかり、雲霧くもきりがだんだんとふかくなつて、おたがひのこゝろわからないものにりました、いまおもへばそれはわたしから仕向しむけたので
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
柳吉は反対側のかべにしがみついたままはなれず、口も利けなかった。おたがいの心にその時、えらい駈落ちをしてしまったというくい一瞬いっしゅんあった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
かくてたがひにいつっつのをりから、おひ/\多人數たにんず馳加はせくははり、左右さいふわかれてたゝかところへ、領主とのえさせられ、左右さうなく引別ひきわけ相成あひなりました。
二人はぶるぶるふるえながら、しっかりとき合って、子供らしい言葉でたがいになぐさめ合うよりしかたがありませんでした。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
その上、それがたがちがいに奥さんの心を支配するのでなくって、いつでも両方が同時に奥さんの胸に存在しているのだと思うようになったのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
知りながら夫となしに梅をすみやかに離縁りえんに及び其上叔母へ金子迄をつかはしたるを阿容々々おめ/\と二人ながら引取親子たがひに妻と致し其上にも厭足あきたらず傳吉を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
父はわたしに、奇妙きみょう影響力えいきょうりょくを持っていたし、そう言えば、たがいの関係にしたところで、やはり奇妙なものだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
そこで別れの接吻ベエゼなどしてから、おたがいに、片手をあげては、スカアルの小さくなるまで、合図をかわしていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
僕もそれについては何もおきしなかったが、それでもる気持はおたがいに通じ合っていたようでしたけれど、いま僕は、あの時のようにこだわらずに
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そとにでても、此處こゝで一つのさやなかで、かうしておたがひにおほきくなつたことをわすれないで、仲善なかよくしませうね」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
おかみさんはきいきいって、火箸ひばしでぶとうとするし、子供達こどもたちもわいわいはしゃいで、つかまえようとするはずみにおたがいにぶつかってころんだりしてしまいました。
あるいはまた、家道みだれて取締なく、親子妻妾あいたがいに無遠慮狼藉ろうぜきなるが如きものにても、その主人は必ず特に短気無法にして、家人に恐れられざるはなし。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
子供達はびっくりして、たがいに顔を見合わせました。するうちに、ある一人がふと思い出しました。
お山の爺さん (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「半十郎、貴様とは、たがいにかたきになったぞ。おれは、これから西へ行くが、どこかの果てでめぐりあったら、五百目玉の抱え大砲で勝負をつけることにする。忘れるな」
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
では王族の一人が病臥びょうが中の王のくびをしめて位をうばう。では足頸を斬取きりとられた罪人共が王をおそい、晋では二人の臣がたがいに妻を交換こうかんし合う。このような世の中であった。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
これ等はたがい違いに執拗しつこ明滅めいめつを繰り返すが、その間にいくつもの意味にならない物の形や、不必要に突きめて行くあだな考えや、ときどきぱっと眼を空に開かせるほど
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「いや、おたがいの年齢としとなっては、疲れを除くには睡眠にかぎるようじゃ。すなわち、いよいよ年齢をとれば、大量の睡眠が必要となり、すなわち永遠の眠りにつくというわけじゃ」
たがちがいに、槍と槍をもって、彼の体を挟んだ二人の法師は、わめき合って、味方へ
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういえば、ここで問題としていた高真空と象限電位計による極微電流の測定との間には、その技術のこつに、たがいに一脈通ずるものがあった。両方ともに、おそるべきものは漏洩ろうえいである。
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
五六度おしたりひきあげたりしてみたが、水の中へぼうをさしこむようなものである。正九郎は加平かへいと顔をみあわせた。たいへんなことをしてしまったという気持ちがおたがいの顔にあらわれていた。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「やるか。ではおたがいがたおされてねむってしまうまでやろう。」
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
おれときみとはへいへだてゝめくらさがしにおたがひをもと
いや、どうも おたがひさまで
「ひとつためしに二人で道具を取りかえて、たがいに持ち場をかえて、りょうをしてみようではありませんか」とおっしゃいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
しかしわたしには、またかんがえがあるから、そんなに心配しんぱいしないでもいいよ。お前たちはきりでおたがいに顔も見えずさびしいだろう
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのうちおさけますと、みんなおたがいに土器かわらけのおさかずきをうけたり、さしたり、まるで人間にんげんのするとおりの、たのしそうなお酒盛さかもりがはじまりました。
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
兄妹は少しでもあたたまろうと、たがいにぎっしりとき合っていました。そしてそのまましずかなねむりに落ちて行きました。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
大路おほぢあなぎつきのかげになびいてちからなささうの下駄げたのおと、村田むらたの二かい原田はらだおくきはおたがひのにおもふことおほし。
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ロミオ 眞實しんじつわしにも、そもじかほゆる。憂悲愁うきかなしみたがひの血汐ちしほらしたのぢゃ。おさらば、おさらば!
願ふならば忽ちに相分らんと申しけるに傳吉さて其の盜人は此座中に在りと申しければ皆々夫はと云つてたがひにかほ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それでいて、黙々もくもくと寄りって、歩いているだけで、おたがいには、なにもかもが、すっかりわかりきっているのだ。あたたかい白砂だ。なごやかな春の海だ。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
これからのおたがいの共同生活をどう組立てて行くか、それを今から相談したいと思うが、しかし、これだけの人数が、まだめいめいの頭を整理しないうちに
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
つまり上手じようずどうしが、みな肝腎かんじんてんよりもごく枝葉えだはにわたるところに苦勞くろうをして、それをおたがひにほこりあつたゝめに、それがかさなり/\して、いけないことがおこつてました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
とっさに意を決した紀昌が矢を取って狙いをつければ、その気配を察して飛衛もまた弓をって相応ずる。二人たがいに射れば、矢はその度に中道にして相当り、共に地に墜ちた。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それぞれ父親から縁談えんだんをもち出されると、我々は見る見るおたがいどうし好きになって、一足とびに結婚けっこんしてしまったというわけ。わたしの話は、ほんの二言ふたことで済んでしまいますよ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
与平が五十七、千穂子が三十三であったが、おたがいは、まるで、無心な子供に近い運命しか感じてはいないのだろう……。二人とも、ただ、隆吉だけを恐ろしいと思うだけである。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
たがいの子弟していを依頼するは、ただ文字や数学を教えらるるが目的でない。いわば霊魂たましいの教育をお頼みするのである。かかる重大事を十五円の月給取りに頼むことはあまり心もとない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
二人の刑事は顔を衝突せんばかりに近づけて、おたがいの腕をつかみ合った。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その瞬間しゅんかん、ニワトコの木のえだの中でザワザワという音がしました。子供たちは両手を合せて、たがいに顔を見合せました。たしかに神さまが子供を連れてきたのです。——ふたりは手を取り合いました。
「わしのつり道具を返してくれ、海のりょうも山のりょうも、おたがいになれたものでなくてはだめだ。さあこの弓矢を返そう」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
お日さまはずうっと高くなり、シグナルとシグナレスとはほっとまたためいきをついておたがいに顔を見合わせました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しかし、子供めいたおたがいの友情を、そんなふうに歪曲わいきょくしてもてあそばれることは、我慢がまんできない腹立たしさでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
入れんと云に四郎右衞門書付には及び申さず御同商賣の事故たがひに融通ゆうづうは致すはずなりと眞實面に顯れければ三郎兵衞はまことかたじけなしと厚く禮を述て歸らんとするを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)