じゅう)” の例文
よって此間じゅうよりギボン、モンセン、スミス等諸家の著述を渉猟しょうりょう致し居候おりそうらえどもいまだに発見の端緒たんしょをも見出みいだし得ざるは残念の至に存候ぞんじそろ
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ればそこらじゅうが、きれいな草地くさちで、そして恰好かっこういさまざまの樹草じゅそう……まつうめたけ、そのがあちこちに点綴てんせつしてるのでした。
とうとうおかまが上までけました。その時分じぶんには、山姥やまうばもとうにからだじゅうになって、やがてほねばかりになってしまいました。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「まず来年の春までは、雪も氷も解けはしませぬ。そのうちじゅうはあなた様には、この家の捕虜とりこにござります。そうご観念あそばされませ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かつ子さんたちはそれから一と晩じゅうバケツで池の水をはこんでは屋根へかけかけして、ひといきも休まずはたらきつづけました。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
実際現在の東京じゅうには何処いずこに行くとも心より恍惚として去るに忍びざるほど美麗なもしくは荘厳な風景建築に出遇であわぬかぎり
すぐ一目で特異性とくいせい看破かんぱし得らるるような、どこにもここにもあるという物品ぶっぴんではないというわけではなく、そこらじゅう
僕らが昔よく飲みに行ったUの女中に、おとくって女がいた。鼻の低い、額のつまった、あすこじゅうでの茶目だった奴さ。あいつが君、はいっているんだ。
片恋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼はその日じゅう死生の間をさまよい、私のうちで卒中の発作に罹ったあの老海賊のように荒い息遣いをしていた。
はじめてその路次の中へ女の家をたずねて入っていった時から折々顔を見て口をきき合っていたのであったが、せんだってじゅうからまたたびたび私が出かけていって
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「いやいや。確かに竹刀しない離れがして来たぞ。のう平馬殿……お手前はこのじゅう、どこかで人を斬られはせんじゃったか。イヤサ、真剣の立会であいをされたであろう」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
山林いえくらえんの下の糠味噌瓶ぬかみそがめまで譲り受けて村じゅう寄り合いの席にかたぎしつかせての正坐しょうざ、片腹痛き世や。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
少しのあいだでも自分一人が助かりたいと思った私は、心の中をそこらじゅうから針でつかれるようでした。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
此洋服で、鍔広つばびろの麦藁帽をかぶって、塚戸にを買いに往ったら、小学校じゅうの子供が門口に押し合うて不思議な現象を眺めて居た。彼の好物こうぶつの中に、雪花菜汁おからじるがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あの下宿屋の若旦那わかだんなは役者よりも美くしいと其処そこじゅうの若い女が岡惚おかぼれしたという評判であった。
誰が代を払えるのか当のつかない石油がそれ故夜じゅう、ストウブの中で燃やされるのであった。
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
僕は山から採ってきた、あけびや野葡萄えびづるやを沢山座敷じゅうへ並べ立てて、暗に僕がこんな事をして居たから遅くなったのだとの意を示し無言の弁解をやっても何のききめもない。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
... いわね、其代り阿父様おとうさまに願って、お前が此間じゅうから欲しい欲しいてッてるあれね?」と娘のかおを視て、薄笑いしながら、「あれを買って頂いて上げるから……仕方がないから。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「この人のうちは、千束せんぞく箒屋ほうきやさんでね」朝野が言った。「ゆんべの客のようなのを早く帰そうと、箒に手拭をかぶせようと思っても、うちじゅう、箒だらけで、どれにしていいか……」
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
彼方此方あっちこっちマゴマゴして、小倉じゅう、宿をさがしたが、何処どこでも泊めない。ヤット一軒泊めてれた所が薄汚ない宿屋で、相宿あいやど同間どうまに人が寝て居る。スルト夜半よなか枕辺まくらもとで小便する音がする。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
難有ありがとうございます。いつかじゅうも願って見ようかと思っていましたの。(間。)
このじゅうのおれの行状から見たら、ひとに意見がましいことなど言われた義理ではないが、おれにはまたおれの料簡りょうけんがある。鶯はただ鳴くだけのことで、やぶにあろうがかごにあろうが頓着とんぢゃくせぬ。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かついえ公は此のじゅうのことを水にながして仲直りをなさろうとおぼしめされ、御こんれいがござりましてから間もなく、のちの加賀大納言さま利家公、不破の彦三どの、かなもり五郎八どの
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その外家元門弟中より紅白縮緬ちりめんの天幕、杵勝名取きねかつなとり男女中より縹色絹はないろぎぬの後幕、勝久門下名取女じゅうより中形ちゅうがた縮緬の大額おおがく親密連しんみつれん女名取より茶緞子ちゃどんす丸帯の掛地かけじ木場贔屓きばひいき中より白縮緬の水引が贈られた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
このじゅう申し上げた滋賀津彦は、やはり隼別でもおざりました。天若日子あめわかひこでもおざりました。てんに矢を射かける——。併し、極みなく美しいお人でおざりましたがよ。りはたり、ちょうちょう。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
その夜じゅう流れてまなかったもう一つの印象の流れがあった。
美沢さん。この間じゅうから、姉さんと三人で、話を
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
みぎひだりけずったようなたかがけ、そこらじゅうには見上みあげるような常盤木ときわぎしげってり、いかにもしっとりと気分きぶんちついた場所ばしょでした。
自分は母に叱られながら、ぽたぽたしずくを垂らして、三人と共に宿に帰った。どどんどどんという波の音が、帰り道じゅう自分の鼓膜こまくに響いた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして摂津国せっつのくに難波なにわから、おとうさんやおかあさんをせて、うちじゅうがみんなあつまって、たのしくの中をおくりました。
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その時分には初夏の長い日もそろそろたそがれかけて、興行町の燈影がそこらじゅう一帯に輝き初める頃になるのである。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
開けっぱなしで明るくて、智慧と腕力ちからのある奴が、智慧と腕力ちからのあるうちじゅう、お頭になっていられるのだからなあ。ところが裟婆はそうはいかねえ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
肉屋は町じゅうの人々や、買いものに来たお客たちに一々その犬の話をして聞かせました。すると、だれもかれも
やどなし犬 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
僕は驚いてそれを振り離そうとした。ところがもう両腕がかないのだ。何者かが、両腕をおさえているのだ。僕は仕方なしに、足でそこらじゅうを蹴っとばした。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それから、——それから先は誇張かも知れません。が、とにかく婆さんの話によれば、発頭人ほっとうにんのお上は勿論「青ペン」じゅうの女の顔を蚯蚓腫みみずばれだらけにしたと言うことです。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
八つ手の白い葉裏にあかと黒のせんだってじゅうはやって居た黒地に黄模様のはん袴のようなテントー虫が三つ、ポツン——ポツーンポツーンと言葉に云ったらこんな工合に散って居た。
そうするとしばらくをおいてまたあとの波が小山のように打寄うちよせて来ます。そして崩れた波はひどい勢いで砂の上にあがって、そこらじゅうを白い泡で敷きつめたようにしてしまうのです。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
十右衛 このじゅうはみんなも御苦労でした。さぞくたびれたことでしょう。
勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
勝久は看板を懸けてから四年目、明治十年四月三日に、両国中村楼で名弘なびろめの大浚おおざらいを催した。浚場さらいば間口まぐちの天幕は深川の五本松門弟じゅう後幕うしろまく魚河岸問屋うおがしどいや今和いまわと緑町門弟中、水引みずひきは牧野家であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
年を取ったせいかしらなんて悪口を云い云い出て参りましたが、あれもねあなた、せんだってじゅうから風邪を引いて咽喉のどを痛めておりますので
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのおれいまいりに、平生へいぜい信心しんじんする長谷はせ観音かんのんさまへ、うちじゅうのこらずれて、にぎやかに御参詣ごさんけいをなさいました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それこそ、この世界じゅうで一ばん美しい女ではないかと思われるような、何ともいえない、きれいな女の画姿えすがたです。ウイリイはびっくりして、その顔を見つめました。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
君江が家を出たわけは両親はじめ親類じゅうこぞって是非にもと説き勧めた縁談を避けようがためであった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
進少年は、かねて月の世界には黄金が捨てるほどあると聞いたが、こんな風に地球の石塊せきかいと同じように、そこらじゅう無造作むぞうさほうりだしてあるのを見ては、夢に夢みるような心地がした。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私達は検屍の来るうちじゅう兄の屍骸を其位置から少しも動かしはしませんでした。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
戸外おもて矢張やは戸外おもてらしく、わたくしじきなんともいえぬほがらかな気持きもちになりました。それに一かわ両岸りょうがんがのんびりとひらけてき、そこらじゅうにはきれいな野生やせいはなが、ところせきまでにおっているのです。
「二三日じゅうに是非こちらへ御返事をしなければならないからと云いますから、僕が代理にやって来たんです」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うちじゅうたずねまわっても、うらからおもてへとさがまわっても、もうどこにもくず姿すがたえませんでした。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
これまで世界じゅうで一ばんはげしかった地震火災は今から十五年まえに、イタリヤのメッシーナという重要な港とその附近とで十四万人の市民を殺した大地震と、十七年前
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そこらじゅう夜具箪笥風呂敷包の投出されている間々あいだあいだに、砂ほこりを浴びた男や女や子供が寄りあつまり、中には怪我人の介抱をしたり、または平気で物を食べているものもある。
にぎり飯 (新字新仮名) / 永井荷風(著)