うるわ)” の例文
阪神間は今が一番うるわしい時で、毎年のことですけれども、今時分になると私はいつも家の中にじっとしていられないようになります。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ご快気の由、めでたい。今朝こんちょう、出陣と聞しめされ、天機もことのほかおうるわしく拝された。尊氏の首をみる御殊勲の日をお待ち申すぞ」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そぞろにわれわれの過ぎ去った学生時代を意味深く回想させ、ゴンクウル兄弟が En 18… の篇中に書いた月夜げつやムウドンのうるわしい叙景は
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
主上則ち南殿の御簾みすを高く捲せて玉顔殊にうるわしく、諸卒を照臨ありて正行を近く召して、以前両度の戦に勝つことを得て、敵軍に気を屈せしむ。
四条畷の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
これにりて須坂を出ず。足指漸くあおぎて、遂につづらおりなる山道に入りぬ。ところどころに清泉ほとばしりいでて、野生の撫子なでしこいとうるわしく咲きたり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
うみは、一つのおおきな、不思議ふしぎうるわしい花輪はなわであります。青年せいねんは、口笛くちぶえいて、刻々こくこく変化へんかしてゆく、自然しぜんまどわしい、うつくしい景色けしきとれていました。
希望 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その雪峰の前を流れて居る水は潺々せんせんとして静かに流れ去る。その漣波さざなみに明月が影を宿して居る。その月光がいちいち砕けて実にうるわしき姿を現わして居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
うるわしき御尊顔を拝し奉り、恐悦至極に存じ奉ります。早速、拝謁仰せつけられ、冥加至極、恐れ入り奉ります。某は、岩下佐次右衛門にござりまする」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
これが世にもまことにうるわしい妙齢の婦人の相貌を備え、しかも機械力で二十人力の腕力があり、要所要所に六個の耳を備えて居り、時速六十マイルの快速力で
人造物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
焼岩の大きな割れ目の内部は、光沢つやうるわしい灰青色の熔岩があらわれている、三島岳つづきの俵岩たわらいわの亀裂せる熔岩塊と、すれすれによじ登ったが、ベエカア山や
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
右のまなこは「いんへるの」の無間むげんの暗を見るとも云えど、左の眼は今もなお、「はらいそ」の光をうるわしと、常に天上を眺むるなり。さればこそ悪において全からず。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たといここに、天津乙女の、うるわしき翼を休めたとて、すがる力も絶えたのが、三人といわず、五人といわず、濃く薄く湯気の動くに連れて、低くむらむらと影が行交う。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空のうるわしさ、地の美しさ、万象のたえなる中に、あまりにいみじき人間美は永遠を誓えぬだけに、もろき命にはげしき情熱の魂をこめて、たとえしもない刹那せつなの美を感じさせる。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そういう中でもうるわしい龍顔を拝しに東の村はずれをさして出かけるものは多く、山口村からも飯田いいだ方面からも入り込んで来るものは街道の両側に群れ集まるころであった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すると癩者の身体は急にうるわしく光りを発し、仏の姿と化して立ち去ったというのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
僕は窓を見ていると、あれが人間の感情を浪漫的にするうるわしい象徴だと思うのです。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
さりとてはしからずうるわしきまぼろしの花輪の中に愛嬌あいきょうたたえたるお辰、気高きばかりか後光朦朧もうろうとさして白衣びゃくえの観音、古人にもこれ程のほりなしとすきな道に慌惚うっとりとなる時、物のひびきゆる冬の夜
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
倉子の容貌は真に聞きしより立優たちまさりてうるわしく、其目其鼻其姿、一点の申分無く、容貌室中に輝くかと疑われ、余はかゝる美人が如何でか恐しき罪をもくろみて我が所天おっとに勧めんやと思いたり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
東の方は村雨むらさめすと覚しく、灰色の雲の中に隠見する岬頭こうとういくつ糢糊もことして墨絵に似たり。それに引きかえて西の空うるわしく晴れて白砂青松に日の光鮮やかなる、これは水彩画にもたとうべし。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ここにおかしきは妾と室を共にせる眉目うるわしき一婦人いっぷじんあり、天性いやしからずして、しきりに読書習字の教えを求むるままに、妾もその志にでて何角なにかと教え導きけるに、彼はいよいよ妾をうやま
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
紅白の珊瑚さんごの林に花とちり実と落ちた貝の殻は、竜の乙女が玉をみがいたかかとにふまれて、その足指の白さに、爪のうすべにに、髪の紫に、ひとみのみどりに染みてこのうるわしい色は得たのであろう。
小品四つ (新字新仮名) / 中勘助(著)
どこか女の身形に相応ふさわしいうるわしさを持ちます。元は外来のものでも、日本で育てられた染の一つとしてたたえられてよいでありましょう。ただ色味を落さぬようにすることが肝要だと思います。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
MRミスタ・タニジャーキを蹴飛ばしたり、ワサント、マヘンダーラたちを相手にしながらも、むさぼるように私は少年のうるわしさに見惚みとれ切っていた。眺めれば眺めるほど、ほとほと感にえざるを得なかった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
わが面影のいかばかりうるわしかろうと
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
『いいえ。この泰子にも、むかしは、あなたみたいな、はだのうるわしい時代があったのにと、うらやましさに、つい、見とれるのですよ』
われわれは今日こんにち春の日のうるわしい自然美を歌おうとするに、どういう訳で殊更ことさらダリヤとすみれの花とを手折たおって来なければならなかったのであろう。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ほんとうに、きさきは、うるわしい、しろかおりのたかはなのようなかたでした。そのは、ほしのようにんでいました。そのくちびるには、みつばちがくるかとさえおもわれたくらいです。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
だが由来はともかくとして、現存する香薬師如来の古樸こぼくうるわしいみ姿には、拝する人いずれも非常な親しみを感ずるに相違ない。高さわずかに二尺四寸金銅立像の胎内仏である。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
それなら、ちょいとうかがってみたい一条がある、とでもねじ込みたい。大尉どのの、あのうるわしい奥様のことなんだ。あんな見事な麗人れいじんをお持ちでいて、『恋はすまじ』は、すさまじいと思うネ。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
花園はなぞの牡丹ぼたん広々とうるわしき眺望ながめも、細口の花瓶にただ二三輪の菊古流しおらしく彼がいけたるをめ、ほめられて二人ふたり微笑ほほえみ四畳半にこもりし時程は、今つくねんと影法師相手にひとり見る事の面白からず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
己が奇怪な幻を見たり、不思議な妄想に悩まされたりするのは、ちょうど桜の枝にうるわしい花が咲いたり孔雀くじゃくの体に絢爛けんらん羽根はねが生えたりするのと同じく、自然の意志の純真なる発現ではあるまいか。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あらためて申すまでもなく、才貌さいぼうともにおうるわしく気高い武子姫に、御縁談の申込みは、すでに方々から集まっていました。中にも、先ず指を折られるのは、東本願寺の連枝(法主の親戚しんせき)の方でした。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
早瀬は今更ながら、道子がその白襟の品好くうるわしい姿をながめて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いずれそのことは、目前のおん大事もすんでから、み気色のおうるわしい日に、お聞え上げいたしましょう。今は余りにどうも……」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今もなお箕輪心中みのわしんじゅうと世に歌われる藤枝外記ふじえだげき、また歌比丘尼うたびくに相対死あいたいじにの浮名を流した某家のさむらいのように、せめて刹那せつなうるわしい夢に身をはたしてしまった方がと
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いちばんうえねえさんは、やさしい、さびしい口数くちかずすくないかたで、そのつぎのいもうとは、まことにうるわしい、おおきいぱっちりとしたかたで、すえおとうと快活かいかつ正直しょうじき少年しょうねんでありました。
王さまの感心された話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そういって帆村探偵は、うるわしい年若の婦人客に丁寧な挨拶をした。
千早館の迷路 (新字新仮名) / 海野十三(著)
うるわしいことは、桃山城の豪華を小さくまとめ込んだほども麗しいが、その上に千年も経ったような匂いの高いくすみがかかっているのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楽しい恋のい心地は別れたあとの悲しみを味わしめるためとしか思われませぬ。秋の日光は明日あした来る冬の悲しさを思知おもいしれとて、かようにうるわしく輝いているのでしょう。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし、この若木わかぎは、無事ぶじにそれをしのいで、いくたびもはるむかえて、うるわしいはなひらくであろう、が、こうとしをとったわたしは、はたして、もう一、そのはなれるだろうかとおもったのでした。
手風琴 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いつ見てもうるわしい西湖せいこの風景だった。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
きょうの清洲の町は、自分たち夫婦ふたりに眼をあつめている気がした。寧子のうるわしい姿に振り向く往来人に、若い良人はむしろ好意を持った。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
輝く初夏しょかの空のした、際限なくつづく瓦屋根の間々あいだあいだに、あるいは銀杏いちょう、あるいはしいかし、柳なぞ、いずれも新緑の色あざやかなるこずえに、日の光のうるわしく照添てりそうさまを見たならば
信長の機嫌はいよいようるわしい。それからも侍臣がしょくること数度だったが、白湯さゆのみ飲みながらなお時の移るも知らない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無論、実際よりもなおうるわしくなお立派なものにして憬慕けいぼするのである。
銀座界隈 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
義元は、戯れ顔に、そんなことをいって、近習から伺候しこうの人々にまで、残らず杯を与えて、いよいようるわしい機嫌であった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無論、実際よりもなおうるわしくなお立派なものにして憬慕けいぼするのである。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その上、この君の眉目のうるわしさは、金瓶きんぺいの花も、玉盤ぎょくばんの仙桃の匂いも、色を失うほどであった。だから、やがてのこと。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、うるわしい友禅に身をつつみ、ろうより青白い顔をカラカラと笑みくずしながら、大勢の者に抱き戻されてゆく、お千絵の姿をありありと見た。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毛利家という歴史ある大家庭に見られるいろいろな家風のうちでも、もっともうるわしいものは、父子兄弟けいていのあいだの正しく一致していることだった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)