とおり)” の例文
(左様だ、今頃は弥六親仁やろくおやじがいつものとおりいかだを流して来て、あの、船のそばいで通りすがりに、父上ちゃんに声をかけてくれる時分だ、)
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
松さんは本を伏せて「全く狸の言うとおりだよ、昔だって今だって、こっちがしっかりしていりゃ婆化されるなんて事はねえんだからな」
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただもう、どうして、この不幸な帽子と別れたものかと、その事ばかり考えて、知らない街をとおりから通へと歩きつづけるのでした。
都の眼 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
花袋かたい先生が近頃『女子文壇』で「女というものは男子からみると到底疑問である」と言われたのは御説おせつとおりであろうと存じますが
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
『歯がけて演説の時に声がれて困まる』と、此頃口癖のように云うとおり、口のあたりが淋しくしなびているのが、急に眼に付くように思った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
初学の者にはずそのガランマチカを教え、素読そどくさずけかたわらに講釈をもして聞かせる。これを一冊読了よみおわるとセインタキスを又そのとおりにして教える。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
つたなき心には何ともわきまへがたく候、この文差上げ候ふ私の心お前様にく分り候はんや覚束おぼつかなく候へども、先ほど申し候ふとおりそれはどうでもよろしく
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
▲死んだ亡父おやじは、御承知のとおり随分ずいぶん幽霊ものをしましたが、ある時大磯おおいその海岸を、夜歩いて行くと、あのザアザアという波の音が何となく凄いので
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
たたく真似をして見せ、二重にじゅうへ上り、下手に向ひて戸棚の前にしやがみ、雁首がんくびにてこちこちと錠をうちて明け「へえおつかさん、このとおりでござります」
阿母かあさん阿母さん」、と雪江さんは私が眼へ入らぬように挨拶もせず、華やかな若いつやのあるい声で、「矢張やっぱり私の言ったとおりだわ。明日あしたらくだわ。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
また目方めかたにしてもそのとおり此処ここで十もんめあるものを赤道直下ではかったらきっと目方めかたが減る、らに太陽や惑星の力を受けない世界に行って目方めかたはかるとしたら
大きな怪物 (新字新仮名) / 平井金三(著)
で、これは怪しいぞと思いながら、立ち上って、ふらふらと表のとおりに出ていってしまったんでございます。ちょうど先生が部屋にお見えにならない最中に……
入院患者 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
婆「御存じのとおりわちきのとこは小部屋も何も有りませんが、何の御用でございますか、何うか此処で仰っしゃってねヘヽヽ何うも下さいませんと困りますねえ」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
半蔵御門はんぞうごもん這入はいって吹上御苑ふきあげぎょえんの裏手なる老松ろうしょう鬱々たる代官町だいかんちょうとおりをばやがて片側に二の丸三の丸の高い石垣と深い堀とを望みながら竹橋たけばしを渡って平川口ひらかわぐち御城門ごじょうもん
辰年たつどし六月に日本橋とおり一丁目、二丁目が年番に当った時、この二ヶ町で八千八百両の費用がかかった。
とおり町の西村家から養子に参って只今隠居しておりまするが、伜の与十郎夫婦は、いずれも早世致して、只今は取って十三か四に相成る孫の与一が家督致しておりまする。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
なにやら、うまそうに煮えているにおいもする。赤ちゃんが泣いている。よぼよぼしたお婆さんが、杖をつきながら露地ろじの奥からあらわれて、まぶしそうに、とおりをながめる。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
非常に時間がかかって料理用の間にあいませんから軽便法けいべんほうで剥いた者を炒りますけれどもこれも強い火で炒ると外面焦うわこげがして中へ火がとおりません。弱い火で気長に炒るのです。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
実に彼のよろこびは一とおりでなかった、彼は理想に達するの門を見付けたように雀躍こおどりしたのである。
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
世界一つにあるだけの、常の死をも、非業の死をも、君にかぶせて遣っても好い。言おうようの無い奴だ。いから己の云うとおりに連れて行き給え。そしてあの娘を助けて遣ってくれ給え。
漸々だんだん自分の行末いくすえまでが気にかかり、こうして東京に出て来たものの、何日いつ我がのぞみ成就じょうじゅして国へ芽出度めでたく帰れるかなどと、つまらなく悲観に陥って、月をあおぎながら、片門前かたもんぜんとおりを通って
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
ここは吾々にはかくれた倉庫である。特に町の街道がやがて終るあたりには、在方ざいかたの人々が寄る荒物屋が一、二軒必ずあるものである。山間や奥地の村々で日常使う品物がとおり揃えてある。
地方の民芸 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
とおりあるきながらもそうおもわれまいと微笑びしょうしながらったり、知人しりびといでもすると、あおくなり、あかくなりして、あんな弱者共よわいものどもころすなどと、これほどにくむべき罪悪ざいあくいなど、っている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「あいつらの一人がやったのさ」と亭主はポッポッと湯気を立てながら「何しろとおり一ぱいぶちまけちゃったんだ。阿呆め、自分で拾い集めないで行ったら、ふんつかまえてやるところだった」
太夫たゆうさんなぞとばずに、やっぱりむかしとおりり、きちちゃんとんでおくれな」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いかにも先生のいわるるとおりで、この時分の先生の容体は、人々各番に毎日看護に来るという有様であるから、以上のごとき複雑な問題に意見を述べるなどいうこと出来るはずがないのである。
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
教会堂は町のとおりから少し奥に入って、物音が聞えずに昼でも静かである。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
大伝馬町四丁目(この一町だけとおりはたご町)大丸呉服店にては一月一日表戸を半分おろして、店を大広間として金屏風きんびょうぶを立てまわし、元旦がんたん一日はおよそ(そのころで三百人以上)三、四百人の番頭
……其方共儀そのほうどもぎ一途いちずニ御為ヲ存ジ可訴出うったえいずべく候ワバ、疑敷うたがわしく心附候おもむき虚実きょじつ不拘かかわらず見聞けんぶんおよビ候とおり有体ありてい訴出うったえいずベキ所、上モナクおそれ多キ儀ヲ、厚ク相聞あいきこエ候様取拵申立とりこしらえもうしたて候儀ハ、すべテ公儀ヲはばかラザル致方
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此処が一番賑かなとおりだそうだ。名物の※甲細工べっこうざいくを売っている店頭みせさき
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私店けしいり軽焼の義は世上一流被為有あらせられ御座候とおり疱瘡はしか諸病症いみもの決して無御座ござなく候に付享和三亥年いどしはしか流行の節は御用込合こみあい順番札にて差上候儀は全く無類和かに製し上候故御先々様にてかるかるやきまたは水の泡の如く口中にて消候ゆゑあは
港八九は成就じょうじゅいたり候得共そうらえども前度せんどことほか入口六ヶ敷候むずかしくそうろうに付増夫ましぶ入而いれて相支候得共あいささえそうらえども至而いたって難題至極ともうし此上は武士之道之心得にも御座候得そうらえば神明へ捧命ほうめい申処もうすところ誓言せいげんすなわち御見分のとおり本意ほんいとげ候事そうろうこと一日千秋の大悦たいえつ拙者せっしゃ本懐ほんかいいたり死後御推察くださるべくそうろう 不具ふぐ
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と門附は、背後うしろの壁へ胸を反らして、ちょっと伸上るようにして、戸に立つ男の肩越しに、こうとした月のくるわの、細いとおりを見透かした。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼の眼の前に五番町の広いとおりが、午後の太陽の光の下に白く輝いていた。彼は、一寸ちょっとした興奮を感じながらも、しばらくは其処そこに立ち止まった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
▲話は一向いっこうまとまらないが堪忍かんにんして下さい。御承知のとおり、私共は団蔵だんぞうさんをあたまに、高麗蔵こまぞうさんや市村いちむら羽左衛門うざえもん)と東京座で『四谷怪談』をいたします。
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
「あのとおり行き届きませんものをそれほどまでにおっしゃって下さるのはまことにありがたい訳でございますが……」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もつとも前便に申上候とおり、不幸なる境遇に居られし人なれば、同じ年頃の娘とは違ふ所もあるべき道理かと存じ候。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
おいら達の家業は毎晩このとおりのお荷物だから。雨に逢っちゃ往生さ。何かいいもの、そう言いなさいよ。
例のとおり「真書太閤記」も一二節に芝居の衣をかけしまでにて、かたりに記せる修羅場の読切といへるには適すれども、むづかしき戯曲論など担ぎ出すべきものに非ず。
前なるとおりの電柱の先に淋しくまたたいている赤い電燈は、夏の夜の静けさを増すのであった。
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
自動車はもう、日比谷公園の中から虎の門を横筋かいに、溜池ためいけとおりを突き抜けている。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まだ時間があるからとおっしゃって、あそこはなんというとおりなの、明石町あかしちょう船澗ふなまのあたりにそっくりな河岸のレストラントで、見事な海老や生海丹なんかご馳走してくだすって、それから
ユモレスク (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と、魂消たまぎえる異様な悲鳴が、突然に闇を破って聞えた。どうやら向うのとおりらしい。途端とたんに向うに見える時計台から、ボーン、ボーンと十一時を知らせる寝ぼけたような音が響いて来た。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
◦実用料理教本 大村忠二郎氏著、東京日本橋区とおり三丁目成美堂せいびどう発兌はつだ、正価五十銭
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
アンドレイ、エヒミチはハバトフが自分じぶん散歩さんぽさそって気晴きばらしをさせようとうのか、あるいはまた自分じぶんにそんな仕事しごとさずけようとつもりなのかとかんがえて、とにかくふく着換きかえてともとおりたのである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
すぐに右のとおりの外題にしてると大層に当ったという話がある。
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
物にも書いてあるとおりに、あれはほんの夢だった。8880
間もなく心斎橋へ出て賑かなとおりを歩き始めた。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
成程、おっしゃりました名のとおり、あなた相の山までいらっしゃいましたが、この前方さきへおいでなさりましても、い宿はござりません。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親の身として、口にするさえ恥かしいが、あれは白痴ですよ。白痴も白痴も、御覧のとおり東西も弁じない白痴ですよ。あゝ云う者を三越に連れて行く。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)