あに)” の例文
然れども吾人、あに偏狭みづから甘んぜんや、凡そ道義を唱へ、正心せいしんを尊ぶもの、釈にも儒にもあれ、吾人いづくんぞ喜んで袂を連ねざらんや。
「平和」発行之辞 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
田中の奴、おれが息せききってかけつけたと思っているが、あに計らんや、俺は、煙草をふかしながら見物のつもりでやって来たのだ。
頭と足 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
一身の小楽に安んじ錦衣きんい玉食ぎょくしょくするを以て、人生最大の幸福名誉となす而已のみあに事体の何物たるを知らんや、いわんや邦家ほうか休戚きゅうせきをや。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
聖教量しやうげうりやう、「スペクラチオン」)逍遙子はあに釋迦しやかと共に法華ほつけ涅槃ねはんの經を説いて、に非ず、空に非ず、亦有、亦空といはむとするか。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
何ぞわが諸〻の願ひを滿たさゞる、もしわが汝のうちに入ること汝のわが衷に入るごとくならば、我あに汝の問を待たんや。 七九—八一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「なんと。お取立てと思ってよろこんで下向げこうして来たら、あにはからんや、こんな土地の、こんな群盗退治が、これからの仕事なのか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これがまただいのおめかしとて、當世風たうせいふう廂髮ひさしがみ白粉おしろいをべた/\る。るもの、莫不辟易へきえきせざるなしあにそれ辟易へきえきせざらんとほつするもんや。
鑑定 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
痩容そうようあに詩魔しまの為のみならんや。往昔自然主義新に興り、流俗の之に雷同するや、塵霧じんむしばしば高鳥を悲しましめ、泥沙でいさしきりに老龍を困しましむ。
「鏡花全集」目録開口 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この通り別に損のつかない問題なら、頼まれなくてもお冗舌しゃべりをする。論説にこそあにべんを好まんやと書くけれど、決して無口の方でない。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
不誠不実は日常の習慣となり、恥ずる者もなく怪しむ者もなく、一身の廉恥すでに地を払いて尽きたり、あに国を思うにいとまあらんや。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
前車ぜんしゃ覆轍ふくてつ以てそれぞれ身の用心ともなしたまはばこの一篇の『矢筈草』あにいたずらに男女の痴情ちじょうを種とする売文とのみさげすむを得んや。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
さらに狸は、冬月に極肥し、山珍の首なりと説明してあるから、狸汁に憧憬する者、あにわれ一人ならんやと、多年思つてきたのであつた。
たぬき汁 (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
天賦人権の語はルーソーを仮りて初めて世に現れた如くであるけれども、この思想はあに必ずしもルーソーを待って初めて有りと言わんや。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「国歌の人を鼓舞して忠誠を貫かしめ人を劇奨げきしょうして孝貞こうていくさしめ」云々「あにただに花を賞し月をで春霞におもいり風鳥に心を傾くる」
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
あに図らんや人は猴よりもまた一層の猴智恵あり、機械仕懸けで動きの取れぬよう作った履故、猴一たび穿きて脱ぐ能わずとある。
きじき竜戦ふ、みづからおもへらく杜撰なりと。則ち之を摘読てきどくする者は、もとよりまさに信と謂はざるべきなり。あに醜脣平鼻しうしんへいびむくいを求むべけんや。
通人はしきりに新参者しんざんものを求めたりしに、あにはからんや新参者は数多あまたの列座中にあったので、それが分った時の通人の驚きは一方ひとかたならなかった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
仙人せんにん張三丰ちょうさんぼうもとめんとすというをそのとすといえども、山谷さんこくに仙をもとめしむるが如き、永楽帝の聰明そうめい勇決にしてあに真にそのことあらんや。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「白細砂」とあって、やはり砂のことを云っているし、なお、「八百日やほかゆく浜のまなごも吾が恋にあにまさらじかおきつ島守」(巻四・五九六)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
故曰、形は偶然のものにして変更常ならず、意は自然のものにして万古易らず。易らざる者は以てあてにすべし、常ならざる者あにあてにならんや。
小説総論 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
よつせいいへせり。の・老子らうしまなものすなは儒學じゆがくしりぞけ、儒學じゆがくまた老子らうししりぞく。『みちおなじからざれば、あひめにはからず』とは、あにこれ
加えん。“軍用鳩あり、軍用犬あり、軍用鼠あり。しかしてあにそれまた軍用鮫なくして、どうしてどうして可ならん哉”と
軍用鮫 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「尾ノ道の地由来文化なし、いはんや文政をや。ここを以て殷賑の市いまだ一つの図書館だになし、あに恥じざるべけんや……」
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
しかしあにはからんや楓はけっしてカエデすなわちモミジではなく、全然違った一種の樹木で、カエデとはなんの縁もない。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「百行依ルトコロ孝ト忠、これヲ取ツテ失フ無キハ果シテ英雄、英雄ハタトヘ吾曹わがそうノ事ニアラズトスルモ、あに赤心ヲ抱イテ此ノヲ願ハンヤ——」
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あに明治の思想界を形容すべき絶好の辞にあらずや。優々閑々たる幕府時代の文学史を修めて明治の文学史に入る者いづくんぞ目眩し心悸しんきせざるを得んや。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
所が、あにいづくんぞ圖らんや、この堂々として赤裸々たる處が却つて敵をして矢を放たしむる的となつた所以であつたのだ。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
天下の善人盡く惡人たりとせば、吾人あに道徳の鼎の輕重を問はざるを得むや。こゝを以て道徳の理想は戮力なくして成立し得るものならざるべからず。
美的生活を論ず (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
上下とか優劣とか持ち合せの定規じょうぎで間に合せたくなるのは今申す通り門外漢の通弊でありますが、私の見るところではあにひとり門外漢のみならんやで
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今日の私共がこれを読んで感じるのは、「あに英国のみならんや」と云うことである。又、ショウが英国で嫌われる。
無題(四) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
緑雨の『おぼえ帳』に、「まぐろ土手どての夕あらし」という文句が解らなくて「天下あに鮪を以て築きたる土手あらんや」
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
されど自ら穢れたりと知りて自ら穢すべきや。妻を売りて博士を買ふ! これあに穢れたるの最も大なる者ならずや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
よびやりけるに六右衞門は何事やらんと打驚怖おどろきすぐに其使ひとともに來て見ればあにはからん久八が主人に折檻せつかんうける有樣に暫時しばしあきれて言葉もなし五兵衞は皺枯聲しわかれごゑ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
こんなものは当分売れまいと思っていたら、あに計らんや。十日にならぬうちに売り切れてしまったという。ザッとそういったような気持ちの変り方である。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「卿等、碌々人に拠って事をなすの徒。燕雀えんじゃくいずくんぞ、大鵬の志を知らんや、か——吾に、洛陽負廓田ふかくでんけい有らしめば、あによく六国の相印をびんや、か」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
たとひ靈魂は逸し去らんも、吾あにその遺骸を拜せざらんやと。前壁には、ヂアナとアクテオンとの大圖を畫けり。
有識の徒あに道に与からざらんやである。要するに一見識を以て斯界に臨まむか、将に天下を把握為さんこと実に易々たるものであることを言明して憚らない。
日暮れた頃、城中三の丸辺から火が挙がるのを寄手見て失火であろうと推測したが、あに計らんや生木生草を焼いて、寄手の地下道をくすべて居たのであった。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「学、あに、益あらんや。」もともとこれを言うのが目的なのだから、子路は勢込んで怒鳴どなるように答える。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
だんこくを移して、いとまを告げて去らんとすれば、先生なおしばしと引留ひきとめられしが、やがて玄関げんかんまで送り出られたるぞ、あにらんや、これ一生いっしょう永訣えいけつならんとは。
それ衰勢ここに至る、いかにかの賢相が苦心もって祖宗の天下に回復せんと欲するもあにまた得べけんや。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
行為の自由に至りては気候の寒熱、土壌の肥硬、風俗の淑慝しゅくとく等に因り、その差異更に甚しき者あり。ああ心思の自由なり行為の自由なりこれあに少差異あるべけんや。
唯このために丹波路遥々はるばる(でもないが)汽車に揺られて来たのだから、あに目的を達せずんばあるべからずと、鉄条網を乗り越えて、王仁三郎の夢の跡へ踏みこんだ。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
有若曰く、あにただに民のみならんや。麒麟きりんの走獣に於ける、鳳凰ほうおうの飛鳥に於ける、泰山たいざん丘垤きゅうてつに於ける、河海かかい行潦こうろうに於けるは類なり。聖人の民に於けるもまた類なり。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
其不義惨酷、往古ノ夷狄ト雖ドモなさザル所ニテ、あに文明ノ世ニ出テ人ノ上ニ立ツ者ノ挙動ナランヤ。
忍月居士がアリストテレスの罪過説を引て小説を論ずるが如きものはあに其正を得たるものならんや
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
今かの森の中にて、黄金こがね……黄金色なる鳥を見しかば。一矢に射止めんとしたりしに、あに計らんやかれおおいなるわしにて、われを見るより一攫ひとつかみに、攫みかからんと走り来ぬ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
これ邪智じやちふかきゆゑ也。あに狐のみならんや、人も又これたり。邪智じやちあるものは悪㕝あくじとはしりながらかくなさば人はしるまじとおのれ邪智じやちをたのみ、つひには身をほろぼすにいたる。
ただ冒進ぼうしんの一事あるのみと、ひとり身をぬきんで水流をさかのぼり衆をてて又顧みず、余等つゐで是にしたがふ、人夫等之を見て皆曰く、あに坐視ざしして以ていたづらに吉田署長以下のたんやと
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
哀悼あいとう愁傷、号泣慟哭、一の花に涙をそそぎ、一の香にこんを招く、これ必ずしも先人に奉ずるの道にあらざるべし。五尺の男子、空しく児女のていすとも、父の霊あによろこび給わんや。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)