芝居しばい)” の例文
鴎外が芝居しばいを見に行ったら、ちょうど舞台では、色のあくまでも白いさむらいが、部屋の中央に端坐たんざし、「どれ、書見しょけんなと、いたそうか。」
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それから、三人そろって、芝居しばいを見に行きました。なにをやっていたか、もう忘れています。多分、碌々ろくろく、見ていなかったのでしょう。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
また時々は夫人に芝居しばい見物をすすめて、『歌舞伎座かぶきざ団十郎だんじゅうろう、たいそう面白いと新聞申します。あなた是非に参る、と、話のお土産』
それから帰り道に金ができるかもしれないから、そのときシャヴァノンへ行って、王子さまの雌牛めうしのおとぎ芝居しばいえんじることにしよう。
あの大傷手おおいたでをこうむりながら、なお自若じじゃくとして、わが陣前近く、三日にわたって、芝居しばい(戦場)を踏まえているは、敵ながら天晴者よ。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「兄さん。なんだか、そんな、こじつけみたいな、あてこすりみたいな、芝居しばいのせりふのようなものは、一向あなたに似合いませんよ。」
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
要するに普通ふつう世間に行きわたっている範囲はんいでは、読み本にも、浄瑠璃じょうるりにも、芝居しばいにも、ついぞれたものはないのである。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「不景気、不景気でも、芝居しばいばかりは大入りですね。春の狂言なぞはどこもいっぱい。どれ——青山さんに、猿若町さるわかちょう番付ばんづけをお目にかけて。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ほんとうに、芝居しばいなんか、たくありません。おまえも、令二れいじも、そうやさしくいってくれます。それだけで、わたしは、もう、幸福こうふくなんです。」
金歯 (新字新仮名) / 小川未明(著)
馬小屋が芝居しばい小屋になっていました。つまり、馬をつなぐ仕切りはそのまま残してあって、これをかざりたてて、見物の桟敷さじきにしてあったのです。
松立てぬうちはあるとも、着物更えて長閑のどかに遊ばぬ人は無い。甲州街道は木戸八銭、十銭の芝居しばいが立つ。浪花節が入り込む。小学校で幻燈会げんとうかいがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
きちちゃんが、去年きょねん芝居しばいんだときだまってとどけておくんなすったお七の衣装いしょう、あたしにろとのなぞでござんしょう」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そこにはワグナーの征服的な有頂天うちょうてんさも、フランクの理知的な要素も、ロマン派の作曲者達の芝居しばいじみた情熱もない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
それは近江のおかねである。この女のことは江戸時代に芝居しばい所作事しょさごとなどにも出ているし、絵草子にもえがかれている。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
結局それは一つのお芝居しばいに過ぎないのだ。なぜなら私は自分のこと、自分だけのことしか考えなかったのだから。
今までの事がまるで芝居しばいでも見て楽しんでいたようだった。木村のやる瀬ない心の中が急に葉子にせまって来た。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
おやじはちっともおれを可愛かわいがってくれなかった。母は兄ばかり贔屓ひいきにしていた。この兄はやに色が白くって、芝居しばい真似まねをして女形おんながたになるのが好きだった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから数日後すうじつごのこと、クリストフは自分のまわりに椅子いすをまるくならべて芝居しばいへいった時のきれぎれなおもをつなぎあわせて作った音楽劇おんがくげきえんじていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
丁々坊 またたというは、およそこれでござるな。何が、芝居しばいは、大山おおやま一つ、かきみのったような見物でござる。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……それでつまり、その四つのヒントを結び合せると、あの男のお芝居しばいの筋はこういうことになるんだね。
断崖 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
単純な説話で置いたらまだしも、無理に場面をにぎわすためかき集めた千々石ちぢわ山木やまきの安っぽい芝居しばいがかりやら、小川おがわ某女の蛇足だそくやら、あらをいったら限りがない。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
なにをそんなによろこぶのかわたくしにはわけわかりません。』と、院長いんちょうはイワン、デミトリチの様子ようすがまるで芝居しばいのようだとおもいながら、またそのふうひどってうた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
兵曹長は、ひとり芝居しばいをやりながら、また水筒の水をがぶがぶとのみ、とうとう水筒をからにしてしまいました。よほどのどが乾いていたようです。むりもありません。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ヘヘヘヘ」与吉は悪党らしく小刻みに笑って、「なあにね、ちょっくら芝居しばいを打って来ました」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
翌十五日には、ここで飯をき、村の若者連のおどり芝居しばいをする組に送る例になっている。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それは見かけ倒しの立派な、芝居しばいの建て付けに、全身の信頼をもってもたれかかって、一緒に倒れるのと同じ人々の運命であらねばならぬ。彼は、芝居の建具によっかかっていたのだ!
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
これらの面々が、いかなる芝居しばい、いかなるダンス、いかなる曲芸、いかなる魔術、いかなる猛獣を演出えんしゅついたしますか、今晩こんばん六時より当町とうちょう御役場裏おんやくばうらの大テントで相もよおすこととなりました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
芝居しばいのつもりだがそれでもやはり興奮するのか、声になみだがまじる位であるから、相手はおどろいて、「無茶いいなはんナ、何もわてはたたかしまへんぜ」とむしろ開き直り、二三度押問答おしもんどうのあげく
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
この居酒屋いざかやのむすこから、「戦争せんそうにいった村のわかものは、みんな戦死せんししてしまった。ペテロも戦死してしまった」と聞いたとき、村の人たちは、かなしい芝居しばいを見たあとのように、首をふって
丘の銅像 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
學士がくし出立後しゆつたつごの一日二日より處業しよげうどことなく大人をとなびていままでのやうわがまヽもはず、ぬひはり仕事しごとよみかきほか以前いぜんしてをつヽしみさそひとありとも人寄ひとよ芝居しばいきしことあしけねば
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
鰻まで出て芝居しばいをやって見せたというありさまだったから、まずまずこれまでにはない愉快な日であった。極端に自由を奪われた境涯きょうがいにいて見ると、らちもない事にも深き興味を感ずるものである。
水籠 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
とちょっと芝居しばいのようなことをして、内藤氏は玄関へ出る。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
芝居しばいがきたというから、行ったんじゃないかな」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
たとい芝居しばいの背景の前にも。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
道化芝居しばいの男役です。
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
そら、いい工合ぐあいだろう。僕がこいつをはいてすっすっと歩いたらまるで芝居しばいのようだろう。まるでカーイのようだろう、イーのようだろう。
蛙のゴム靴 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
わたしは村の中を歩いて、どこか芝居しばいにつごうのいい場所を見つけようとした。それに村の人びとの顔色を見て、てきか味方かさぐろうとした。
わたしは、いろいろのひとたちの旅行りょこうはなしや、芝居しばいはなしや、音楽おんがくはなしなどをきます。あめや、かぜにいじめられていたわたしは、こうしていま蘇生よみがえっています。
煙突と柳 (新字新仮名) / 小川未明(著)
自慢にしたくらいで色の白きは京阪に及ばない大阪の旧家に育ったぼんちなどは男でさえ芝居しばいに出て来る若旦那わかだんなそのままにきゃしゃで骨細なのがあり
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あたまのてっぺんまで、汚泥はねがるのもおかまいなく、よこびにした市松いちまつには、あめなんぞ、芝居しばい使つかかみゆきほどにもかんじられなかったのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
蛾次郎、それをかきあつめては、毎日、卜斎の家を留守るすにして、野天のてん芝居しばいをみたりいに日をらしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
晩になると、いつもいくらかの金をどうにか手に入れて、この小人は芝居しばいに行く。ところがその蠱惑的こわくてきしきいを一度またぐと、彼らの様子は変わってしまう。
芝居しばいは、と尋ねると、市村いちむら、中村、森田三座とも狂言名題なだいの看板が出たばかりのころで、茶屋のかざり物、燈籠とうろう提灯ちょうちん、つみ物なぞは、あるいは見られても
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まじめくさった様子で、芝居しばいで見た通り、三拍子曲ミニュエットふしにあわせて、テーブルのうえにかかっているベートーヴェンの肖像しょうぞうに向かい、ダンスの足どりや敬礼けいれいをやっていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
僕はトルストイの「懺悔ざんげ」をK氏の邦文訳で日本にいる時読んだだけですが、あの芝居しばいを見てから、暇があったらもっと深くいろいろ研究したいと思うようになりました。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
つまり、わたしと同じ国の人で、旅まわりの芝居しばい監督かんとくだったのです。この人は、一座のものを、いつもみんな、引きつれていました。それは、大きなはこの中にはいっていました。
廉直れんちょくなる方針ほうしん地方ちほう新聞紙しんぶんし芝居しばい学校がっこう公会演説こうかいえんぜつ教育きょういくある人間にんげん団結だんけつ、これらはみな必要ひつようからざるものである。また社会しゃかいみずかさとっておどろくようにしなければならぬとかなどとのことで。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
また従兄いとこにも通人がいた。全体にソワソワと八笑人か七変人のより合いのいえみたよに、一日芝居しばい仮声かせいをつかうやつもあれば、素人落語しろうとばなしもやるというありさまだ。僕は一番上の兄に監督せられていた。
僕の昔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そのお若さでお芝居しばいがお好きとはおめずらしい。御感心ですこと」
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
芝居しばい科白せりふの受取渡しよろしくと云う挨拶が鄭重ていちょうに交換される。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)