ぴき)” の例文
さてかたばかりの盃事さかずきごとをすませると、まず、当座の用にと云って、塔の奥から出して来てくれたのがあやを十ぴきに絹を十疋でございます。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
学者の例証するところによると、一ぴき大口魚たらが毎年生む子の数は百万疋とか聞く。牡蠣かきになるとそれが二百万の倍数にのぼるという。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蜥蜴が一ぴき、その岩の面を昇ったり降りたりしている。それが前からの遊びどころででもあったかのように、いかにも自適している。
真円まんまるく拡がった薔薇の枝の冠の上に土色をした蜥蜴とかげが一ぴき横たわっていた。じっとしていわゆる甲良こうらを干しているという様子であった。
蜂が団子をこしらえる話 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
うなじには銀の頸飾くびかざりをかけて、手に一本の刺又さすまたをかまえて一ぴきチャー(西瓜を食いに来るという獣、空想上の獣で、猹の字は作者の造字)
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
そして昼なか、僅に日光の縞がこぼれかかる時になると何処どこからか一ぴき蜥蜴とかげがやって来て、その花蔭にじっと身を温めるのが見えた。
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「いゝえ。なあに、毒蛾なんて、てんでこの町には発生なかったんです。昨夜、こいつ一ぴき見つけるのに、四時間もかかったのです。」
毒蛾 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
深閑しんかんとして、生物いきものといへばありぴき見出せないやうなところにも、何處どことなく祭の名殘なごりとゞめて、人のたゞようてゐるやうであつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
おや、また来るのも曳いている。五六ぴき——八九疋。——こっちの田からも飛込んでまた引いて出る。すらすらと長い髪の毛です。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先頃もお手飼にちんが欲しいと夫人の御意、きくよりも早飲込み、日ならずして何処でもらッて来た事か、狆の子一ぴきを携えて御覧に供える。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
馬は四分より一ぴき出す。人足は五分より一人ひとり出す。人馬共に随分丈夫なものを出す。老年、若輩、それから弱馬などは決して出すまい。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
章一のすぐうしろを歩いていた一人の遊人あそびにんは、章一の倒れた時その脚下あしもとから一ぴきの猫のような小さなけものの飛びだして走ったのを見た。
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ふくみ二下り讀では莞爾々々にこ/\彷彿さもうれなる面持おももちの樣子をとくと見留て長庵は心に點頭うなづきつゝやがて返書を請取千太郎よりも小遣こづかひとて金百ぴき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其処そこには一ぴきの竜のこま(たつのおとしご)の大きなのが、金銀、珊瑚さんご、真珠などの飾りのついたくらを置かれ、その上には魚の形をした冠に
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
かなり古いお寺で、その庭に大きな古池があって、鰐が五六ぴきいるので、それで鰐寺などと呼んでいるんですが、本当の名は別にあるんです。
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
どうせ最後は静粛なる自然の中に葬られるにしても、少くとも山上の自分は、ゆうべ小舎の中で微小なるねずみぴきに恐怖した自分ではなかった。
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「主人主人ってお言いだが、私は坊っちゃん達のお母さんとは違うよ。亭主野郎を一ぴき養っているんだから、あやまる筋なんかっともない」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
礼拝堂らいはいどうの扉も調べたがみんな錠がかかっており、一枚の窓硝子も壊れていなかった。僧院の隅から隅までとり調べたが、猫の子一ぴきも出なかった。
はて、何をするのだろうと見つめていると、その白い手が擬宝珠のかげへつッ込まれると、ふいに、その陰草から一ぴきの赤蛙が飛び出しました。
不思議な国の話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
いまちひさいことにがつくとともに、それが矢張やつぱり自分じぶんのやうにすべちた一ぴきねずみぎないことをりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
けれどその人の心は余程慈悲深い寛大な人で善い方で、財産も余程あるものと見えてヤクなども五、六十ぴき飼ってたです。羊も二百疋あるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
或はまた身寄りも何もない老僧が死んでから、いつも一ぴきの片目の蛇が、寺の後の松の木の下に来てわだかまっている。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ぴきで金串がまったくめられるような大きなのも二つ三つはあった。薄くこげるくらいに焼いて、それをわらにさした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ぴきの親の海豹あざらしが、氷山ひょうざんのいただきにうずくまって、ぼんやりとあたりを見まわしていました。その海豹は、やさしい心を持った海豹でありました。
月と海豹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
旅人は心のうちで、「これだ!」と思ったものですから、早速声を張り上げて、「鼠が一ぴき御入来ごにゅうらい、鼠が一疋御入来、」
でたらめ経 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
ある時、北独逸から来てここを通過した日本の旅客が一ぴき持ち運んだことがあつたが、辛うじてそれをとらへたのちは、依然として南京虫は出なかつた。
日本媼 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
そばには、泥まみれになった惨めな雑種犬が一ぴき、身をふるわせて微かに吠えながら、一生懸命に尻尾をふっていた。
幻想 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「ね親分、主人あるじが死んだというのに、涙を流しているのは、風邪を引いた猫の子一ぴきだけは驚くじゃありませんか」
爺さんも婆アさんも大層喜んで今年は早く夏が来ればいがと思つて、蚊の出るころを待つてゐましたが、ブーン、ブーンとうなつて一ぴき二疋蚊が出て来ると
蚊帳の釣手 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
不審に思ってよくるとそれは箱根山椒魚だったのである。何十ぴきとなくもつれ合っていたから、蕃殖期はんしょくきであったかも知れない。土地の人の称呼は山カジカ。
大井川奥山の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
『エトナといふのは、百ぴきの馬の栗の木のあるあのシシリイ島の噴火山ですね。』とクレエルが云ひました。
巻絹十ぴき、砂金一のう、酒一、大鯛一台などの品々を供にになわせて、そのお使者は、女輿おんなごしを中門で降り、色代しきたいうやうやしげに——若殿さま御婚礼のお祝いに
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貧乏士族の生活としては、犬一ぴきの食い料も問題であったに相違ない。だから私も勿論、犬を飼おうとは言わない。また必ずしも毎度飯をやろうとは言わない。
私の父 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
華陰かいんの令をしている者があって、それが上官にびようと思って一ぴきの促織を献上した。そこで、試みに闘わしてみると面白いので、いつも催促して献上さした。
促織 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
皮肉屋の伊東橋塘「女役者は縁日の金魚さ、集まったところは綺麗だが、一ぴきずつ選りだすと、鼻が曲っていたり、目玉が飛び出していたり、取るとこはないよ」
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
孝「やい、何をしやアがるのだ、サア何奴どいつでも此奴こいつでも来い飯島の家来には死んだ者は一ぴきも居ねえぞ、お印物しるしものの提灯を燃やしてしまって、殿様に申訳もうしわけがないぞ」
凌暑りょうしょの候起居ますます御佳迪ごかてき欣勝たてまつり候。然れば先日ハ両度の朶雲だうん謝し奉候。五翁観蓮の儀宜しく御取計らひ、例年は百ぴきに候所此度製本等差越し候故弐百疋とリキミ申候。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
次は上官二十六人、中官八十四人、下官百五十四人、総人数二百六十九人であった。道中の駅々では鞍置馬くらおきうま百五十ぴき小荷駄馬こにだうま二百余疋、人足三百余人をぎ立てた。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
中央の水銀球に触れると、あだかもその水銀球は、生物であるかの如く動き始め、一ぴきの銀色の蜘蛛が足を伸ばしたり縮めたりするのではないかと思われる状態を出現します。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
わたしに残つてゐるものはグレー・ハウンドの犬一ぴきと紋章旗だけだ。わたしの肉体とても婦人の病気以外にはほとんどあらゆる病の餌食えじきとして与へてしまつたと云つてもい。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
人間一ぴき乗れそうな盥を売ってくれぬかと、そこらをウロウロ捜し回ったが、こんな寒村に大盥が八個やっつもあろう筈はないので、せっかくの妙案もあわれオジャンと相成った。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
ぴき小猿こざるが「おれのお父様とつちあんはおまへえらいんだぜ、うさぎ喧嘩けんくわをしてつたよ」とひました。
これを手当り次第に叩き落すと、五分か十分の間にたちまち数十ぴきの獲物があった。今日こんにちの子供は多寡たかが二疋三疋の赤蜻蛉を見付けて、珍らしそうに五人も六人もで追い廻している。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それぢやどうした、途中とちゆう見付みつけてたんだから一ぴきやつてねえか」勘次かんじランプをおしな枕元まくらもとつていわしつゝみいた。いわしランプのひかりできら/\とあをえた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
きんさかずききんのたちばな、にしきたんきぬ五十ぴき、これはおとうさんへのおくものでした。それからぎん長柄ながえぎんのなし、綾織物あやおりものそでが三十かさね、これはおかあさんへのおくものでした。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「女房ども、只今もどったぞ——と、いうなあ、実は嘘で、猫ッ子一ぴきいませんのさ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ぴきの白い蝶だ、最早もう四辺あたりは薄暗いので、よくも解らぬけれど、足下あしもとあたりを、ただばたばたと羽撃はうちをしながら格別かくべつ飛びそうにもしない、白い蝶! 自分は幼い時分の寐物語ねまのかたりに聞いた
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
尺璧せきへきの喜びにて、幾たびか魚籃びくの内を覗き愛賞あいしょうかざるに、尺余の鯉を、吝気おしげもなく与へて、だぼ沙魚はぜぴき程にも思はざるは、西行法師の洒脱にも似たる贅沢無慾の釣師かなと感じき。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
此処ここは妙なところで馬でも何でも腹が減ると、たちすくみになると云い伝え、毎日何百ぴきとも知れず、荷を付けて上り下りをする馬士まごまで、まさかの用心に握り飯を携帯もたぬ者は無いとの事だ
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
何も女郎めらうの一ぴき位相手にして三五郎をなぐりたい事も無かつたけれど、万燈まんどうを振込んで見りやあただも帰れない、ほんの附景気につまらない事をしてのけた、そりやあ己れが何処までも悪るいさ
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)