奈何いかん)” の例文
独り奈何いかんせむ、彼諸会社は皆正学と好事との二派を一網打尽せむと欲してゐる。世間好事者の多いことは、到底正学者の比ではない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
奈何いかんせん寒微より起りて、智浅く徳すくなし、といえるは、謙遜けんそんの態度を取り、反求はんきゅうの工夫に切に、まず飾らざる、誠に美とすべし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
余は某の好意に対して深く感謝の意を表する者なれども、奈何いかんせん余が現在の苦痛余り劇しくしていまだ永遠の幸福を謀るにいとまあらず。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
見す見す実家さとの零落して行くのを、奈何いかんともする事の出来ない母の心になつて見たら、叔父の道楽が甚麽どんなに辛く悲く思はれたか知れない。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しかしながら、奈何いかんせん合衆国においては、法典編纂の挙に対する種々の故障があって、今や容易にこれを実行すべき見込がない
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
つまり形勢奈何いかんとか様子如何にというような場合に自分の意志、感情、妄想なぞいうものをピタリと押え付けた気持ちを云ったものであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かたくびよりたかそびえて、ぞく引傾ひきかたがりと代物しろものあをぶくれのはらおほいなるうりごとしで、一尺いつしやくあまりのたなちりあまつさびつこ奈何いかん
鑑定 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
... しんひそか(九九)留心りうしんきをおそる」と。武矦ぶこうすなははん、「奈何いかんせん」と。きみつて武矦ぶこうつてへ、「こころみに(一〇〇)くに公主こうしゆもつてせよ。 ...
而して胸中一物のねがふところなく、だ一寺の建立を願欲せしむるに過ぎざりしもの、抑も奈何いかんの故ある。
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
得んと欲する心は既に得て止むべし。われ。若し汝が妻アヌンチヤタの如く美しく又賢からむには奈何いかん。友。其薔薇花の美しき間は、わが愛づべきこと慥なり。
これに反して一助詞がどう一動詞がどう第三句が奈何いかん結句が奈何というようなことを繰返している。読者諸氏は此等これらの言に対してしばらく耐忍せられんことをのぞむ。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
右両説のいづれをるも同じと雖も、奈何いかんせん十日間の食糧を以て探検たんけん目的もくてきを果さんとの心算なれば、途中如何なる故障こしやうおこるありて一行餓死がしうれへあるやも計られず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
勝敗の奈何いかんはともかく、彼の自刃が東条から受けた陰険な侮蔑に対抗するがためだけのものだったとしたら、尠くとも文章をもって経国の大業とする彼が、不明瞭な
交際上かうさいじやう得失とくしつ大関係だいくわんけいのある事ぢやから是非ぜひとも世辞せじうたらからうと忠告ちゆうこくを受けたのぢや、ぼく成程なるほど其道理そのだうりふくしたから出かけてはたものの奈何いかんせん
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
今朝与謝野氏来訪、不折ふせつ書林太郎君墓銘数葉持参致し、誠によき出来に候。礼金は先づ筆墨料として×円ばかり投じては奈何いかんとの事に候。三十余枚も書き試みたる趣に候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
かうふです。我々われ/\這麼格子こんなかうしうち監禁かんきんしていてくるしめて、さうしてこれ立派りつぱことだ、理窟りくつことだ、奈何いかんとなれば病室びやうしつと、あたゝかなる書齋しよさいとのあひだなん差別さべつもない。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「できたら私のほうと連絡をして、もし困るようなことがあるときには、そう申してよこすがよい、事情の奈何いかんかかわらず、必ず力になるであろうから、——次に半次だが」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかしこの死に対する観念態度の奈何いかんは即ち凡俗と聖賢とを区別する標準じゃないかと思う。
「死」の問題に対して (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
吾人の心中には底なき三角形あり、二辺並行せる三角形あるを奈何いかんせん、し人生が数学的に説明し得るならば、若し与へられたる材料よりXなる人生が発見せらるゝならば
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
日は傾きて風吹き酔ひて人呼ぶ者の声も淋しく女は笑ひ児は走れどもなほ旅愁を奈何いかんともするあたはざりき。盂蘭盆うらぼんに新しき仏ある家は、紅白の旗を高く揚げて魂を招く風あり。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
未熟の智慧を振うて失策を取るを猴智慧といい始めたらしい。されば仏経にしばしば猴を愚物とし、『百喩経』下に猴大人に打たれ奈何いかんともする能わずかえって小児をうらむとあり。
奈何いかんせん、きたくも哭くことの出来ない程、心は重く暗く閉塞とぢふさがつて了つたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
私はこの儘だと体力の消耗が烈しく精神的の萎縮いしゅくが甚だしい、それに苦痛も想像外の酷い影響があるから、これを機会にカテーテル挿入を一時中止して排尿奈何いかんをためして見たらどうでしょう。
財用を濫り民を殺し法を乱して而して亡びざるの国なし、これを奈何いかん
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
言つて見れば、己といふものは或る事物の、昔あつた湊合の繰り返しに過ぎない。その癖その昔の湊合は、己は知らない。言つて見れば己といふことはなんにもならない。只湊合の奈何いかんにあるのだ。
或時あるときにね、カンタイといふ人が、孔子様を憎んで、をの斬殺きりころさうとしたのさ。所が孔子様は、(天、徳をわれせり、カンタイわれ奈何いかん。)とおつしやつて、泰然自若としてすわつていらしたんだ。
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
ここおいテ項王すなわチ悲歌慷慨こうがいシ自ラ詩ヲつくリテいわク「力山ヲ抜キ気世ヲおおフ、時利アラズ騅カズ、騅逝カズ奈何いかんスベキ、虞ヤ虞ヤなんじ奈何いかニセン」ト。歌フコト数けつ、美人之ニ和ス。項王なみだ数行下ル。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
而もこれ必ず為さざるべからざるの業たるを奈何いかんせんや。
史論の流行 (新字旧仮名) / 津田左右吉(著)
その気持は我ながら奈何いかんともする事が出来ない。………
(新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
魔の遊戯の奈何いかんを。
五百は東京に来てから早く一戸を構えたいと思っていたが、現金のたくわえは殆ど尽きていたので、奈何いかんともすることが出来なかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
民心の彼に向うを奈何いかん、とありけるに、昂然こうぜんとして答えて、臣は天道を知る、何ぞ民心を論ぜん、と云いけるほどの豪傑なり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かかるが故に、歴山アレキサンダア大王は一乞食学者ダイオゼニアスを奈何いかんともする事が出来なかったのではないでしょうか。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
令史れいしすくなからず顛動てんどうして、夜明よあけて道士だうしもといた嗟歎さたんしてふ、まことのなすわざなり。それがしはたこれ奈何いかんせむ。道士だうしいはく、きみひそかにうかゞふことさら一夕ひとばんなれ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さうだ。僕が四月の初めに辭表を出した時、村教育の前途を奈何いかんと謂ツて、涙を揮ツて留めたのも彼。それならばといツて僕の提出した條件に、先づ第一に賛成したのも彼。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
人の噂には、四五年前に重き病にかゝりてより、聲はたとつぶれぬといふ。その人の爲めにはいと笑止なる事ながら、聽衆の過去の美音を喝采せざるをば、奈何いかんともすべからず。
たとひ材能の衆に超ゆるあるも年歯の少きは遂に奈何いかんともするなきなり。英のピツトの例は再びあるべからず。一般の例に拠るに少くも四十歳を越えざれば天下を動かす能はず。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
田文でんぶんすでして、公叔こうしゆくしやうる。((公叔))(九三)公主こうしゆ(九四)しやうし、しかうして呉起ごきむ。公叔こうしゆくぼくいはく、『(九五)やすし』と、公叔こうしゆくいはく、『奈何いかんせん』と。
都を出る時、遠く西方に旅する友と約するあり、東海道の某地を卜して相会見せんとす、期する日は明後、彼は西より来り、我は東よりせん、相見る時、情奈何いかん。われ尤も之を憶ふ。
客居偶録 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
併し奈何いかんともすることが出来ない。耳をすませば、火口のあるらしい方嚮はうかうに遠雷の如き鋭く鈍い音が無間断にしてゐるが、しかし単にそれだけで、あとは奈何いかんともすることが出来ない。
ヴエスヴイオ山 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
果して然らば、わたくしの未だ聞知せざる牧の観察奈何いかんしばらく措き、鰐水は五郎のことを伝へたもので、鰐水自己は只修辞の責を負ふべきに過ぎない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
奈何いかんせん寒微かんびより起りて、古人の博智無く、善をよみし悪をにくむこと及ばざること多し。今年七十有一、筋力衰微し、朝夕危懼きくす、はかるに終らざることを恐るのみ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
回天の事業、独力を奈何いかんせん……と人知れず哀号アイゴーを唱えているところへ又、天なるかなめいなる哉と来た。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかりとはいへども、生前せいぜんをとりてしたしかりしときだに、そのかたちるにかず、そのこゑくをたらずとせし、われら、きみなきいま奈何いかんせむ。おもひ秋深あきふかく、つゆなみだごとし。
芥川竜之介氏を弔ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さうだ。僕が四月の初めに辞表を出した時、村教育の前途を奈何いかんと謂ツて、涙を揮ツて留めたのも彼、それならばといツて僕の提出した条件に、先づ第一に賛成したのも彼。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
併しこれは民謡風のものだから自然そうなるので、奈何いかんともしがたいのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
げにおん身のきぬほころびたりといへば、ジエンナロ手もてその破れたる處をつまみ、この端のちぎれたるはいばらにかゝりて跡に殘りぬ、われは直ちに心附きぬれど、奈何いかんともすること能はざりき
ハムレツトは其対手の悔悟の時に手を下すを以て、復讐の精神に外れたるものとして、之を為さず、復讐は敵を地獄に追ひ堕すを以て、尤も成功あるものと思へり、嗚呼復讐、汝の心果して奈何いかん
復讐・戦争・自殺 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
奈何いかんせん一人にして地球上の地名とその光景とをことごとく知るを得ず。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
手早く申しますと私は、事情の奈何いかんに拘わらず、その宝石が欲しくてたまらなくなったのです。
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)