大家たいけ)” の例文
年の頃三十二三、善兵衛に比べると少し若いが、大家たいけの女房にふさわしい美しさも品もあり、奉公人の評判もまず悪くない方です。
梁もそうであろうかと思って、結局連れて帰って自分の妻としたが、あとで聞くと彼女は楊州でも人に知られた大家たいけの娘であった。
「そなたの家は甲州で並ぶもののない大家たいけ、それでもあのくらいの松はあるまい、あのくらい見事な松は、そなたの屋敷にもあるまい」
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
うしろの池を廻つて八重の桜が十本程もある位に過ぎないのですから、まあ大家たいけの庭にも、ある程の春色とも云ふべきものなのですが
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
近代的なひらめきはないが、そうしたところのないのが、しっとりとした落付きのある、大家たいけの夫人としての品を保たせていた。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
とある大家たいけの別荘のようなやしきのまえを通りましたら琴や三味線や胡弓こきゅうのおとが奥ぶかい木々のあいだかられてまいるのでござりました
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おせい様は鼠小紋ねずみこもんの重ねを着て、どこか大家たいけの後家ふうだった。小さくまとまった顔にくちびるが、若いひとのようにあかいのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お向うというのは、前に土蔵どぞう二戸前ふたとまえ格子戸こうしどならんでいた大家たいけでね。私の家なんぞとは、すっかり暮向きがちがう上に、金貸だそうだったよ。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうこうするうちにこの阿Qの評判は、たちまち未荘の女部屋の奥に伝わった。未荘では錢趙両家だけが大家たいけで、その他はたいてい奥行が浅かった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
明樽買へれ程の大家たいけの娘をくれて、計り炭屋の嫁に遣りたいと云うなら貰っても宜しい、お前の娘なら貰おうが、わし一存でめる事は出来ない
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
但し町までひとの土地を踏まずに行けるという程の大家たいけでない。街道筋の金持は兎角粒が小さい。それでも国会議員に四度や五度は出られそうな身代しんだいである。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
小藩でも大家たいけの子だから如何どう我儘わがままだ。もう一つは私の目的は原書を読むにあって、蘭学医の家に通うたり和蘭通詞つうじの家に行ったりして一意専心いちいせんしん原書を学ぶ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
臙脂屋と申せば商人ながら、堺の町の何人衆とか云われ居る指折、物も持ち居れば力も持ち居る者。ことに只今の広言、流石さすが大家たいけの、中々の男にござる。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
うばの幾が浪子について来しすら「大家たいけはどうしても違うもんじゃ、武男が五器わん下げるようにならにゃよいが」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
岩公も、大家たいけの娘へ、声をかけては悪いと思うのか、眼で、眸で、お辞儀だけで、もうその姿へ呼びかけた。
下頭橋由来 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大家たいけで新仏のあるところでは、舟を仕立てて幾十もの行燈みたいなものを、沖の方に浮べ流すのです。
そんな所を見ても、妙子さんが、世間知らずのねんねえではなくて、大家たいけ育ちの云うに云われぬしとやかさの内に、どこかりんとした物を持っていることが分るのだが。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
荒れた家の庭の木立ちが大家たいけらしく深いその土塀どべいの外を通る時に、例の傍去そばさらずの惟光が言った。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
大島紬おおしまつむぎ被布ひふなどを着込んでどこかの大家たいけ御隠居ごいんきょさんとでもいいたいようないでたちなので、田舎の百姓家のこちらの母などとは大違いで、年もよっぽど若く見えた。
しかし忠兵衛は大家たいけ若檀那わかだんなあがりで、金をなげうつことにこそ長じていたが、おしんでこれを使うことを解せなかった。工事いまだなかばならざるに、費す所は既に百数十両に及んだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
品のいい、どこから見ても大家たいけの若君らしい容貌、それ等はどうしても小間使風情の子とは思われない、お母様似だと他人様ひとさまは仰しゃる、達也は誰が何と云っても自分の児だ。
美人鷹匠 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
誰か、——と云うよりもそれは二度と聞かずに、女だと云う事さえわかりました。こう云う大家たいけの茶座敷に、真夜中女の泣いていると云うのは、どうせただ事ではありません。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すべて将軍家とか、大家たいけの檀那方とかいふものは、出入の者が白い徳利を持つてゐようと、短銃ピストルを持つてゐようと、成るべく見て見ぬ振をしなければならぬ。もしかとがだてをして
元は少し世話になった潰れた大家たいけの道楽息子だから、人情をかけて見逃がそうと、骨を折っているのがわからねえで、好き放題をほざきやがると、一緒に江戸へ差立者さしたてものにしてやるぞ。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
僕は大分だいぶん巴里パリイに慣れて仕舞しまつた気がするが、何時いつも飽くことを知らないのはジユラン・リユイル氏の本邸へ印象派諸大家たいけの絵を観にくのと、芝居と、サン・クルウの森の散歩とだ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「駄賃取りの娘、大学校を卒業した人、三郎さんは大家たいけの可愛がり子息むすこ、自分は小作人の娘」お小夜はただ簡単にそんな事を口の内で繰り返す。そうしてらちもなく悲しくなって涙が出る。
新万葉物語 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
おさゆるなみだそできてモシとめれば振拂ふりはら羽織はおりのすそエヽなにさるゝ邪魔じやまくさしわれはおまへさまの手遊てあそびならずおとぎになるはうれしからず其方そなた大家たいけ娘御むすめごひまもあるべしその日暮ひぐらしの時間じかんもを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
知らねばうたがはるゝも道理もつともなりいで其譯そのわけは斯々なり宵に御身たちが出行いでゆきし跡へ年の頃廿歳ばかり容顏ようがんうるはしき若者來れりいづれにも九しうへん大盡だいじん子息むすこならずば大家たいけつかはるゝ者なるべし此大雪にみち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
りぬ。——大家たいけの店に
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
年の頃三十二三、善兵衞に比べると少し若いが、大家たいけの女房にふさはしい美しさも品もあり、奉公人の評判も先づ惡くない方です。
それは二代目塩原多助の家にまつわる怪談で、二代目と三代目の主人が狂死を遂げ、さしもの大家たいけもついに退転するという一件であった。
寄席と芝居と (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ともすると夏はもろはだぬぎになったりして、当り屋仲間の細君が、以前から大家たいけだったように勿体もったいぶっているのと、歩調が合わなくなると
自薦じせん他薦たせんの養子の候補者は、りどり見どりだが、苦労を知らない大家たいけの次男三男を養子に貰ったところで、よくいう
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ええ、ええ、ええ、うかがいます。お話はお馴染なじみの東京世渡草よわたりぐさ商人あきんど仮声こわいろ物真似ものまね。先ず神田辺かんだへんの事でござりまして、ええ、大家たいけ店前みせさきにござります。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
初めのうちは自分が厄介やっかいになる上に犬までつれてと気兼ねをしていましたけれど、これほどの大家たいけで犬一匹が問題にもならず、心安く思っているうちに
永「お前は以前もと大家たいけと云うが、わざわいって微禄して困るだろう、資本もとでは沢山は出来ぬが十両か廿両も貸そう」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
案内してくれた熊の胆屋の丁稚は、なるほど、側まで連れて来て貰わなければそれとも分るまいと思われる——目の前の大家たいけを指さして、すぐ走り戻って行った。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうした大家たいけのことであって見れば、定めし沢山たくさんの親族がいることでしょうが、それらの人が亡き源三郎と瓜二つの人見廣介という男のあることを知っている筈もなく
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その中に此方こちらは余程エラクなったのが主公と不和の始まり。全体奥平と云う人は決して深いたくらみのある悪人ではない。ただ大家たいけの我儘なお坊さんで智恵がない度量がない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
今では大家たいけ御料人様ごりょうにんさんに出世した結構ずくめの娘の身の上を驚異をもって語っていた折があった。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大家たいけとなると二百三百とけたにして吊るすから山はイルミネーションのようで町中まちなかまで明るくなる。その提燈の下で一家眷属けんぞくが、うだねえ、十時頃まで酒を飲む、御馳走を食べる、爆竹ばくちくをやる。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
急ぐ物から大家たいけの事ゆゑ出入でいりの者まで萬事行屆かする其爲に支度にかゝりて日を送りまだ當日さへさだめざりけりさても此方は裏店うらだな開闢かいびやく以來いらい見し事なき釣臺三荷の結納物をかつぎ入ける爲體ていたらくに長家の者は目を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ればさて美男子びなんしいろこそはくろみたれ眉目びもくやさしく口元くちもと柔和にゆうわとしやうや二十はたちいち繼々つぎ/\筒袖つゝそで着物ぎもの糸織いとおりぞろへにあらためておび金鎖きんぐさりきらびやかの姿なりさせてたし流行りうかう花形俳優はながたやくしやなんとしておよびもないこと大家たいけ若旦那わかだんなそれ至當したうやくなるべし
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すると、ここにせんという大家たいけがありまして、その主人は銭翁と呼ばれ、この郡内では有名な資産家として知られていました。
人気渡世の、盛りの花菊を、無理にも手生ていけにと所望し、金にあかして大家たいけ御内儀ごないぎとしたのが廻船問屋石川佐兵衛だった。
治兵衛はこう言って首垂うなだれました。見たところ四十前後、大家たいけの主人らしい落着きと品の中にも、何となく迷信深そうな、篤実とくじつらしさも思わせます。
彼処あすこの師匠は娘を遣って置いても行儀もよし、言葉遣いもよし、まことに堅いから、あの師匠なら遣るがい、実に堅い人だ、と云うので大家たいけの娘も稽古に参ります。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おせい様が大家たいけの人であることは、身なりを見てもわかる。よくあるたちのわるいやり方で、この磯五の店を買いとった金も、おおかたおせい様から出ているのであろう。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
目鼻立めはなだちあいくるしい、つみ丸顏まるがほ五分刈ごぶがり向顱卷むかうはちまき三尺帶さんじやくおびまへむすんで、なんおほき染拔そめぬいた半被はつぴる、これは此處こゝ大家たいけ仕着しきせで、いてるくすのき持分もちぶん
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その客にはお供が二三ついて来たけれど、本客というのは、もう相当の年配で、しかるべき大家たいけの大旦那の風格を備えたお人であったということは、女中たちも言うのです。