)” の例文
あなたは母様のひざに抱っこされて居た。そとではこがらしおそろしくえ狂うので、地上のありとあらゆる草も木も悲しげに泣き叫んでいる。
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
日本で天火、英国で火竜ファイアドレークと言い、大きな隕石いんせきが飛びえるのだ。その他支那で亢宿こうしゅくを亢金竜と呼ぶなど、星を竜蛇と見立てたが多い。
と、後から、人々は義元の敷物やら膳部を、あわててそこへ移して行ったが、楠の巨木は根土をゆるがして、烈風の中にえていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猛虎の野にゆるや、其音おそる可し、然れども、其去れる跡には、莫然ばくぜん一物の存するなし、花は前の如くに笑ひ、鳥は前の如くに吟ず。
想断々(2) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
巫子かんなぎ祝詞のつとをはり、湯の沸上わきあがるにおよびて、吉祥よきさがには釜の鳴るこゑ牛のゆるが如し。あしきは釜に音なし。是を吉備津の御釜祓みかまばらひといふ。
飛行機を初めあらゆる近世の科学が生んだ器械や発動機とを、同時に鳴かせ、えさせ、うならせ、きしらせた如きものであると云ふ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
王のえるように怒る声がして、細君をひッつかんで出ていくようであったが、続いてどぶんと物の水に落ちる音が聞えて来た。
庚娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
獣類のえるように、うなるような余韻を引いて、そして機関車はもくもくと黒煙をあげながら麦畑の中をつつみの上を突進して来た。
汽笛 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
低き廊の方より叫ぶ聲、ゆる聲聞ゆ。忽ち虎豹の群ありて我前をはしり過ぐ。我はその血ばしる眼を見、その熱き息に觸れたり。
ふ、ふ、黒門町のお初ともあろうものを、あんな助平坊主に預けた程のうすぼんやりが、さぞ見ッともないえづらをくのだろうねえ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
僕の胃袋ゐぶくろくぢらです。コロムブスの見かけたと云ふ鯨です。時々しほも吐きかねません。える声を聞くのには飽き飽きしました。
囈語 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
大きな役ばかり引受けていましたが、演技はがさつで、味もそっけもなく、やたらにえ立てる、大仰おおぎょうな見得を切る、といった調子でした。
少年連のいる獄舎の位置を心探しにしている様子であったが、忽ち雄獅子のえるような颯爽さっそうたる声で、天も響けと絶叫した。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私に獅子ししの役をやらしてください。ひなをやる女鳩めばとのように、私はやさしくえてみせます。うぐいすかと思われるように、私は吼えてみせます。
五月蠅うるさいとばかりに、首を沈めてモウ! とえると、かねて逃げ腰の組下はあわてて遮塀パレエの後ろへさか落しに飛び込んだ。
ごう/\とたけつて彼等に吹きあたる風の音は、その既に幾十の人命を呑みくらつてなほ飽きたらぬ巨獣のえる如く思はれた。
あるいは「仇」「敵」という意味の「あだ」は昔は「あた」で人麿ひとまろの歌の「あたみたるとらゆる」の「あた」を清音の仮名で書いてあります。
古代国語の音韻に就いて (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
ゆる荒熊あらくまと一しょにもつながれう、はかなかにも幽閉おしこめられう、から/\と骸骨がいこつむさくさ向脛むかはぎばんだあごのない髑髏しゃれかうべ夜々よる/\おほかぶさらうと。
大洋の波が朝な夕なに岸を打ってはえているのでございます……小湊へおいでになった方も多いでございましょうが
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あ、あれはね(按摩あんま)とつてね、矢來やらいぢや(いわしこ)とおんなじに不思議ふしぎなかはひるんだよ」「ふう」などと玄關げんくわん燒芋やきいもだつたものである。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
獅子いでゆる時は百獣脳裂すというて、王獣がいかって吼える時は小さい獣の頭が砕けるというぐらいでございます、と比喩たとえにも申しますことで
北海の浪のゆる日、お蘭は、四郎が今は北海道までさすらって興行の雑役に追い使われているということを聞いた。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
驚いてうしろを振り返つてみますと、そこはもう水ばかりで、白いなみ物凄ものすごいやうにえたり、み合つたりして、岸の方へ押掛て行くのが見えました。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
「まずえてみろ。ブウと鳴くようならお前は豚じゃ。ギャアと鳴くようなら鵝鳥がちょうじゃ」と。他の賢者はこう教えた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
かのビンドラバンの大林の獣王なる幾千の大獅子の奮迅ふんじんしてゆる声もかくやあらんかと思わるるばかりであります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「貝十郎!」とえるような声で、意次はいい歯を噛んだ。「余が旅へ出た真の目的、存じおるか⁉ 存じおるか⁉」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
風は相変らず轟々ごうごうえて、灰ともけむりともたとえようの無い粉雪こゆきが、あなたの山の方から縦横上下じゅうおうじょうげに乱れて吹き寄せた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
口をすすぐために河原に下りていた戸田老人がわめいたものである。動物のえる声のような野太い叫びで呼んでいた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
土田正三郎はてれたような苦笑をもらし、十太夫はおうとえながら、力をこめて、右手のこぶしを空へ突きあげた。
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
湾を隔つる桜山は悲鳴してたてがみのごとく松を振るう。風え、海たけり、山も鳴りて、浩々こうこうの音天地に満ちぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
汽笛のゆるごとき叫ぶがごとき深夜の寂寞せきばくと云う事知らぬ港ながら帆柱にゆらぐ星の光はさすがに静かなり。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのうちに雨も加わって、木の枝の折れる音やら、海の波の音がごうごうとえるように、今にも自分の家が吹き飛ばされそうになりました。かねちゃんは
嵐の夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
大いなる山、大いなる空、千里をけ抜ける野分、八方を包む煙り、鋳鉄しゅてつ咽喉のんどからえて飛ぶたま——これらの前にはいかなる偉人も偉人として認められぬ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いいや、金のことになると、お由羅とて容赦せぬからのう。そうそう、彼奴の江戸下りも近づいたから、帳尻を合せておかぬと、何をえ出すかわからん」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「林をいでかえってまた林中に入る。便すなわち是れ娑羅仏廟さらぶつびょうの東、獅子ししゆる時芳草ほうそうみどり、象王めぐところ落花くれないなりし」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
年齡としむにしたがつてみじかかんずる月日つきひがさういふあひだ循環じゆんくわんして、くすんでえることのおほ江戸川えどがはみづ往復わうふくする通運丸つううんまるうしえるやうな汽笛きてきみて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
猫のやうな京都画家のなかで、たつた一人える事を知つてゐる華香氏は、番頭の前でその封を押切つてみた。
老木の蔭を負ひ、急湍きゆうたんなみひたりて、夜な夜な天狗巌の魔風まふうに誘はれてえもしぬべき怪しの物なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
もう暗くなったが風はまだ森で吹きえており、波はまだ打ちよせ、どれかの生き物はその調べでのこりの者をなだめすかしている。休息は決して完全ではありえない。
この大騷動だいさうどうのちは、猛獸まうじう我等われら手並てなみおそれてか、容易ようゐちかづかない、それでも此處こゝ立去たちさるではなく、四五間しごけんへだてゝ遠卷とほまき鐵檻てつおりくるま取圍とりまきつゝ、猛然まうぜんえてる。
そのとたんに雨がざあっと土砂降りにかわり、一陣の野風がごうとえ襲って来た。爺は一寸たじろいてよろめいたが、ふと上の方で婦が何か悲鳴を上げたように思えた。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
そのたまけむりの消えやらぬうちに、われは野獣のゆるがごとき獰猛どうもうなる叫び声を高く聞けり。モルガンはその銃を地上に投げ捨てて、おどり上がって現場より走り退きぬ。
自分より更に活溌な連れの男の胴衣にすがりついて、声楽ではその仲間の奮闘的の努力にも遙かにまさって、力のある肺の底から低音パッソオで牡牛のえるような声を出しながら。
風がまるでくまのようにえ、まわりの電信柱でんしんばしらどもは、山いっぱいのはちをいっぺんにこわしでもしたように、ぐゎんぐゎんとうなっていましたので、せっかくのその声も
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
日が、トップリ暮れてしまった頃から、あらしますます吹きつのった。海はしきりに轟々ごうごうえ狂った。波は岸を超え、常には干乾ひからびた砂地を走って、別荘の土堤どての根元まで押し寄せた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
するとお向うの部屋から牛がえるような声が聴こえて来ます。それはマルドネスというスペインのベース歌手ですが、その声の大きなこと、本当に牛のような感じがします。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
「只今もあき家になっておりますが、折り折り夜になると、虎が参ってえております」
寒山拾得 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
だが、親も家もない私だつたから、變な昂奮や向う見ずや熱狂からではあつたが、風がもつと劇しくえ、薄暗うすくらがりが暗黒になり、この混雜が大騷ぎになればいゝと思つてゐた。
馬や牛の群がえたり、うめいたりしながら、徘徊はいかいしだした。やがて、路傍ろぼうの草が青い芽を吹きだした。と、向うの草原にも、こちらの丘にも、処々、青い草がちら/\しだした。
雪のシベリア (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
窓越しに仰ぐ青空は恐ろしいまでに澄み切って、無数の星を露出している。嵐は樹にえ、窓に鳴ってすさまじく荒れ狂うている。世界は自然力の跳梁ちょうりょうに任せて人の子一人声を挙げない。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)