口癖くちぐせ)” の例文
年頃としごろ遠野郷の昔の話をよく知りて、誰かに話して聞かせ置きたしと口癖くちぐせのようにいえど、あまりくさければ立ち寄りて聞かんとする人なし。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
父の上野介が、母へ気がねしては、口癖くちぐせにこう云っていた邸である。その父の気持を考えると、左兵衛佐は、耐えられなくなる。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「家鴨馴知灘勢急、相喚相呼不離湾」何処どこぞへ往ってしまいたいと口癖くちぐせの様に云う二番目息子の稲公いねこうを、阿母おふくろ懸念けねんするのも無理は無い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さむい、きたほうちいさなまちに、ひとものおとこんでいました。べつに不自由ふじゆうはしていなかったが、口癖くちぐせのようにつまらないといっていました。
幸福の鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
れいだいでうだいでう口癖くちぐせにする決鬪師けっとうし嫡々ちゃき/\ぢゃ。あゝ、百ぱつちゅうすゝづきとござい! つぎ逆突ぎゃくづき? まゐったかづきとござる!
しかし、古来日本では「口づけ」をば口癖くちぐせと同じ意味に使つて来たけれども、接吻の意味には用ゐなかつたやうである。
接吻 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
藝術げいじゆつ價値かちだの、理想りさう永遠えいえんだのといふことを、いつ口癖くちぐせのやうにしてゐる友としては、今日の云ふことはなんだかすこ可笑おかしい……と私は思ツた。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「二十年間、夢にもうつゝにも、口癖くちぐせにいつたのは、——俺はきつと檢校になる、どんな事をしても檢校になる——と」
日頃ひごろわたくしは、ねばひいさまの形見かたみ小袖こそでせてもらって、すぐおそばっておつかえするのだなどと、口癖くちぐせのようにもうしていたのでございますが
おいらァとれてるんだ。かおといい、姿すがたといい、おまえほどのおんな江戸中えどじゅうさがしてもなかろうッて、師匠ししょうはいつも口癖くちぐせのようにいってなさるぜ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
さて我楽多文庫がらくたぶんこの名がやうや書生間しよせいかんに知れわたつて来たので、四方しはうから入会を申込まをしこむ、社運隆盛といふことば石橋いしばし口癖くちぐせのやうに言つてよろこんでたのは此頃このころでした
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
私はその頃しきりに「麻雀マージャン摸牌モーパイするのと新聞を鳴らすのは君子のよくせざるところである。」など口癖くちぐせにしていたが、ひとえに私の負け惜しみに過ぎない。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
一人でへやにいる時も口癖くちぐせに唱歌の譜が出た。この間、女の室で酒に酔って、「ひびきりんりん」を歌ったことが思い出された。女は黙ってしみじみと聞いていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
岡安の電気恐怖病症状については、この上述べると際限さいげんがないので、この辺でよしたい。「俺は電気に殺されるに違いないんだ」と彼は口癖くちぐせのように言っていたもんだ。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『それはわたし子供こどもときに、始終しゞゆう口癖くちぐせのやうにつてたのとはちがふ』とグリフォンがひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
自動車じどうしや相乘あひのりして、堂々だう/\と、淺草あさくさ上野うへの銀座ぎんざばす、當今たうこん貴婦人きふじん紳士しんしいへども、これをたら一驚いつきやうきつするであらう。たれ口癖くちぐせことだが、じつ時代じだい推移すゐいである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
れを腑甲斐ふがひなしとおもふな、うでにはしよくありすこやかなるに、いつまでくてはあらぬものをと口癖くちぐせあふせらるゝは、何處どこやらこゝろかほでゝいやしむいろえけるにや
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「万年青の扱いかたで、その人柄がわかるってね。先代が口癖くちぐせのようにおっしゃったよ。」
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
「おうい」とおつぎのじやうふくんだこゑとほくからいつた。おつぎの返辭へんじいては與吉よきち口癖くちぐせのやうにねえよとぶ。そのたびごとにおつぎはいそがしいうごかしながらそれにおうずるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「よく日蔭者日蔭者とお前は口癖くちぐせに言うが、日蔭者の拙者といるがいやになったか」
あなたの口癖くちぐせ十八番おはこじゃアありませんでしたかしら? それに何です? その江戸ッ児の、黒門町の心意気はどこへ行ったのです? そりゃあこのお方は、いま江戸中の目あかしが
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これは、何か改まって大切なことを言い出される時のイエスの口癖くちぐせでありました。
偶娼あひかたにせしが惚合やみづきにて二度が三度と深くなり互ひに思ひ思はれてわりなき中とは成りにけり偖此伊勢屋五兵衞と云ふはためしなき吝嗇りんしよく者にて不斷ふだん口癖くちぐせにて我程仕合者しあはせものは有るまじ世の中に子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
愛国忠君などということを口癖くちぐせにいう人にはこれが実行の翻訳をあやまる人が多い。愛国だといってみだりに外国人を悪口したり、戦争をしないでもよいのに、戦争を主張したりする人がある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「ふん、それでまた貯金ちよきんでもしたいつていふれい口癖くちぐせだらう?」
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
いつも養子は口癖くちぐせにして、女性の生甲斐いきがいなさを嘆いていた。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
ところで、圓三郎は先代の久兵衞のことばかり口癖くちぐせに言つて、今の主人の久兵衞はあまり仲がよくねえやうだ。
好きなところは吉原で、きらいなところはお役所だといつも口癖くちぐせのようにいっていたから察しても、大概たいがいその心持は、わかり過ぎるほどわかっている筈だった。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
彦兵衛は、いつもの低い構えと口癖くちぐせを今夜はわすれ果てていた。すこし反身そりみ気味になって、理屈をこねた。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くど/\二言ふたこと三言みこと云うかと思うと、「それじゃまた」とお辞儀じぎをして往ってしまった。「弟が発狂した」が彼の口癖くちぐせである。弟とはけだし夫子ふうしみずからうのであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そして、それからというものは、仕事しごとにつかず、はたけへもませんでした。おとこは、くちなかで、千三百りょう……と、口癖くちぐせになって、かえして、いっていました。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
兩親りやうしんあに意見いけんなどは、あしかぜほどもみないで、朋輩ほうばい同士どうしには、何事なにごとにも、きにの、おれおれががついて𢌞まはつて、あゝ、ならばな、と口癖くちぐせのやうにふ。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
口癖くちぐせに仰せらるゝは、何所どこやら我が心の顔に出でゝ、卑しむ色の見えけるにや。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
捕物の名人錢形の平次は、口癖くちぐせのやうにかう言つて居りました。血みどろの死體をいぢり廻すのを商賣冥利と考へる爲には、平次の神經は少し繊細に過ぎたのです。
彼女は人毎に本家の悪口を云って同情を獲ようとした。「本家の兄が、本家の兄が」が彼女の口癖くちぐせであった。彼女は本家の兄を其魔力の下に致し得ぬを残念に思うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
柳生但馬守の顔を見ると、次郎右衛門忠明は、よく口癖くちぐせのように
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
して、萬一お召捕になる時は、八五郎親分の繩にかゝる——と口癖くちぐせに言つて居るくらゐだから
と、口癖くちぐせのように言っていた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兄は口癖くちぐせのやうに言つて居ましたが、その兄が死んだ今となつて、此世帶は何處へ行くか解りませんが、私が言ひ立てたところで、二十年の間の給料を誰も拂つてくれる筈はありません