あまつさ)” の例文
旧字:
あまつさえ「物惜しみをするな」とまで云われたのがぐっと答えて、左大臣が所望しょもうとあらば、どんな物でも差出す料簡りょうけんになったのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あまつさよひじようじて、三人さんにんおの/\、うち三婦人さんふじんざうゆびさし、勝手かつて撰取よりどりに、おのれにはいして、むねで、うでし、みゝく。
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あまつさえ勝手なる幽霊主人公を自由自在に操り来り操り去る等、歴史小説としては許されざること甚だしきものが少くないのである。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
あまつさえ大阪より附き添い来りし巡査は皆草津くさつにて交代となりければ、めてもの顔馴染なじみもなくなりて、きが中に三重県津市の監獄に着く。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
あまつさえ、最初は自分の名では出版さえ出来ずに、坪内さんの名を借りて、やっと本屋を納得させるような有様であったから、是れ取りも直さず
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それにはあきんどやのおかみさんを奥さんといったり、往来に道ぶしんの石をごろごろさせたり、あまつさえ、その上を貨物自動車を通らせたり。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
彼は周囲の事情が刻々に自分に不利に展開し、あまつさえ立派な自白と云うものがあるので、最早云い逃れられぬ羽目に陥っていた。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
一、(前略)城より落つるもの三四人御座候処に、命を御助けなされ、其上金銀を下され、あまつさへその在所の内にて当年は作り取につかまつり(後略)
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
輝綱の日記「あまつさへ童女ニ至ルマデ死ヲ喜ビ斬罪ヲ蒙ル。是レ平生人心ノ至ス所二非ズ。彼ノ宗門浸々タル所以ナリ」
今となってあれにせんを越されてあまつさえ、我々が支配として頭に頂かねばならぬとは情けない。ああ、そう聞いては酒がうまくない、世の中が面白くないわい
あまつさえ、その時御来朝の英国のコンノート殿下の御目にとまり御買上の光栄に浴しました時から始まり、その後幾多の展覧会に次々と出品致して参りましたが
あまつさ洋襪くつしたも足袋も穿いて居ず、膝をつかんだ手の指の太さは、よく服装みなりと釣合つて、浮浪漢か、土方の親分か、いづれは人に喜ばれる種類の人間に見せなかつた。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あまつさえ御門弟しゅもとゞりを取って門外へ引出し、打ち打擲して割下水へさかさまに投入なげいれられ、半死半生にされても此方こっちは町人、相手は剣術の先生で手向いは出来ず
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あまつさ何方いずかたにて召されしものか、御酒気あたりをくんじ払ひて、そのおそろしさ、身うちわなゝくばかりに侍り。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
なほ彼は色を以て富貴を得たる人たちの若干そくばくを見たりしに、そのかたちおのれかざるものの多きを見出みいだせり。あまつさへ彼は行く所にその美しさを唱はれざるはあらざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
自分らの解放せられた喜びを忘れて婦人の解放を押え、あまつさえ昔の五障三従ごしょうさんしょう七去説しちきょせつ縄目なわめよりも更に苛酷かこくな百種のなかれ主義を以て取締ろうというのは笑うべき事である。
婦人と思想 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
さなきだにあおざめて血色しき顔の夜目には死人しびとかと怪しまれるばかり。あまつさえ髪は乱れてほおにかかり、頬の肉やや落ちて、身体からだすこやかならぬと心に苦労多きとを示している。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
四十不惑ふわくというが、おれは四十を七つも越えてからあんな失策をやって、ろくを離れ家名をつぶし、あまつさえ独りの子まで他国へ流浪させてしまった。……考えれば慚愧ざんきにたえない。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
舞台の上で、客席へ聞えるばかりに、「大根々々」と罵られ、あまつさへ毎日、傘でなぐられる。今日こそなぐり返して東京へ出奔しようと、決心した際、菊五郎妻女に見咎められて、訓された。
市村羽左衛門論 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
あまつさえ、二日以来足の痛みは、今朝宿を出た時から常ではないので、この急峻な山道では一方ひとかたならぬ苦痛を覚えた。途中の用意にもと、宿から持って来た「サイダー」を一口二口飲みながら上る。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
しかるに日本の国民が乱暴をしてあまつさえ人を殺した、如何いかにしてもそのせめは日本政府にあっまぬかるべからざる罪であるから、こののち二十日はつかを期して決答せよとう次第は、政府から十万ポンドの償金を取り
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あまつさえ横からは灌木の繁みがっかかっている。
あまつさえ陰々として、もすそは暗く、腰より上の白き婦人が、たけなる髪を振乱ふりみだしてたたずめる、その姿の凄じさに、予は寧ろ幽霊の与易くみしやすさを感じてき。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
就中なかんずく儂の、最も感情を惹起じゃっきせしは、新聞、集会、言論の条例を設け、天賦てんぷの三大自由権を剥奪はくだつし、あまつさのうらの生来せいらいかつて聞かざる諸税を課せし事なり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
祖五郎如何いかにもお気の毒なことで、おかゝさまには確か早く別れたから、大概織江殿の手一つで育てられた、其の父が何者かに討たれあまつさえ急にお暇になって見れば
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
訴へ「近代、長門守殿内検地詰存外の上、あまつさへ高免の仰付けられ、四五年の間、牛馬書子令文状、他を恨み身を恨み、落涙袖をひたし、納所なっしよつかまつると雖も、早勘定切果て——」
島原の乱雑記 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
あまつさ謀判ぼうはんの罪を犯したことが明白になり、身柄みがらを吉長に下げ渡されて即時に首をねられた。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あまつさへ久く病院の乾燥せる生活にこうじて、この家をおもふこと切なりければ、追慕の情はきはまりて迷執し、めては得るところもありやと、夜のおそきに貫一はいちなる立退所たちのきじよを出でて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
云われなかったのは、云うに足らずと思ったからである。の人は天台宗の達者である上にあまつさえ諸宗に亙ってあまねく修学して智恵の深遠なること常の人に越えている。返答が出来ないで物を
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
然るに昇は何の道理も無く何の理由も無く、あたかも人をはずかしめる特権でももっているように、文三を土芥どかいの如くに蔑視みくだして、犬猫の如くに待遇とりあつかッて、あまつさえ叔母やお勢の居る前で嘲笑ちょうしょうした、侮辱した。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「おゝ御館おやかたでは、藤のつぼねが、我折がおれ、かよわい、女性にょしょう御身おんみあまつさただ一人にて、すつきりとしたすゞしき取計とりはからひを遊ばしたな。」
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
繼「これ又市見忘れはすまい、お繼だ、よくも私のお父様とっさまを薪割で打殺して本堂の縁の下へ隠し、あまつさ継母まゝはゝを連れて立退たちのき、また其の前に私を殺そうとして追掛おっかけたな」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あまつさへ御自ら御手を下し給ひしは生々しやう/\世々の面目とこそ存候へとて、しばし感涙にむせび候。
かえって儂らの真意にもとり、あまつさえ日清談判の如く、国辱こくじょくを受くる等の事ある上は、もはや当路者をかえりみるのいとまなし、我が国の危急を如何いかんせんと、益〻政府の改良に熱心したる所以ゆえんなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
右の者商人の身ながら元来賄金まひなひきんを請ひ、府下の模様を内通致し、あまつさへ婦人を貪り候段、不届至極につき、一夜天誅を加へ両国橋上にさらし候所、何者の仕業に候、取片附け候段、不届かつ不心得につき
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あまつさえ貴い血まで見せた、その貴下あなた、いきれを吹きそうな鳩尾みずおちのむき出た処に、ぽちぽちぽちとのみのくった痕がある。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日頃罪人一同の喰物くいものの頭をね、あまつさねんに二度か三度のお祭日まつりび娑婆飯しゃばめしをくれません、余り無慈悲な扱いゆえ、三人の総代を立てゝ只管ひたすら歎願たんがんいたしました処が、聞入れないのみか
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いきくさこと……あまつさへ、つでもなくすはるでもなく、中腰ちゆうごししやがんだ山男やまをとこひざれかゝつた朽木くちぎ同然どうぜんふしくれつてギクリとまがり、腕組うでぐみをしたひぢばかりがむね附着くつつ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あまつさえ来月の四日中川で殿様を殺そうというたくみの一伍一什ぶしゞゅうくわしく殿様の前へ並べ立て、そしてお手打になろうという気でありますから、少しもおくする色もなく、平常ふだんの通りで居る。
この中にも書いてある、まるで何だ、親か、兄弟にでも対するやうに、恐ろしく親切を尽してつてな、それで生命を助かつて、阿容々々おめおめと帰つて来て、あまつさへこの感状を戴いた。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
盗み出し、根津の清水の花壇に埋め、あまつさえ萩原様を蹴殺けころしてていよく跡を取繕とりつくろ
また奥方様おくがたさまをくはせる……あまつさへ、いま心着こゝろづいて、みゝませてけば、われみづからも、ごろでは鉦太鼓かねたいここそらさぬけれども、土俗どぞくいまる……天狗てんぐさらはれたものをさが方法しかた
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
駒形へ世帯を持たせてったに、なんじ友之助に意地をつけ、文治郎に無沙汰で銀座三丁目へ引越ひっこし、あまつさえ蟠龍軒の襟元に付き心中までしようと思った友之助を袖にして、斯様かような非道なことをしたな
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
屑屋くずやにな大形おおがた鉄砲笊てっぽうざるに、あまつさへ竹のひろひばしをスクと立てたまゝなのであつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
音助の話を聞くたびに新吉が身の毛のよだつ程辛いのは、丁度今年で七年前、忘れもしねえ八月廿一日の雨のに、お賤が此の人の親惣右衞門の妾に成って居たのを、己と密通し、あまつさえ病中にくびり殺し
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
這奴しゃつ横紙を破っても、縦に舟を漕ぐ事能わず、あまつさ櫓櫂ろかいもない。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)