)” の例文
片腕のないところもまたおつでしょうけれど、あの男が片腕をなくしたわけを聞いてしまったらお前さん、三年の恋もめるでしょう。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そしてなお、月の彼方を、めつけていたが、ようやく、眸のほのおめてくると、眼はおのずから、自分の姿と足もとへ戻って来る。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足袋たび穿かぬあしかふさめかはのやうにばり/\とひゞだらけにつてる。かれはまだらぬ茶釜ちやがまんでしきりにめし掻込かつこんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
お前たち二人のよろこびが、あたしのめきつた心に、いくらかでも暖かみをつたへてくれるだらうと、それを楽しみにしてるの。
傀儡の夢(五場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
今朝けた佐倉炭さくらずみは白くなって、薩摩五徳さつまごとくけた鉄瓶てつびんがほとんどめている。炭取はからだ。手をたたいたがちょっと台所まできこえない。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それであるからして、熊城でさえも一時の亢奮こうふんめるにつれて、いろいろと疑心暗鬼的な警戒を始めたのも無理ではなかった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
また、焼いたハゼをまして頭を落とし、身を二つに割り、親骨をとって、薄い醤油にヒネショウガをきざみこんで煮つける。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
僕のめ果てた魂は、己の生命の血、そのものをあえて賭けずにおられなかったのではあるまいか。次のように書いてみよう。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
頭の中に籠ツてゐた夜の温籠ぬくもりを、すツかり清水せいすいまして了ツた、さて長火鉢ながひばちの前にすはると、恰で生まれ變ツたやうな心地だ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
復一はボートの中へ仰向あおむけにそべった。空の肌質きじはいつの間にか夕日の余燼ほとぼりましてみがいた銅鉄色にえかかっていた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
たった鉄びんは、またもともとにめてしまって、急いで七輪にかけて沸かさなければならないようなわけになります。
女中訓 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
そこらが薄暗くなっているのに気がつくと、笹村はマッチをってランプをけて見たが、余熱ほとぼりのまだめない部屋は、息苦しいほど暑かった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
栄三郎もうなずいた。相手はにんきしょうばいであるし、二人で山歩きなどしているところをみつかったのだから、暫くほとぼりをますほうがいい。
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
俺は決してお前を憎むのではないが暫らく余焔ほとぼりめるまで故郷くにへ帰って謹慎していてもらいたいといって、旅費その他のまとまった手当をくれた。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それにおおかたはめきっている。そうだろう。これくらい多量に焼くうちには何のぬくみも飛び去ってしまうであろう。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
むら気で無分別で権柄けんぺいがましい、いささか智慧ちえの足りない連中で、グーロフは恋がめだすにつれて相手の美しさがかえって鼻についていやでならず
「阿呆らしいこと言はずに置いとくれ。」と、源太郎も笑ひを含んで漸く杯を取り上げ、めた酒を半分ほど飲んだ。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
かれは好きな煙草ものまないで、まず火鉢のひきだしから大きい湯呑みを取り出して、めかかっている薬罐やかんの湯をひと息に三杯ほども続けて飲んだ。
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「さあ、どうぞ、めないうちに召し上がってください。」とお民は言って、やがて子供の方をかえり見ながら
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼が私を見ていゝ氣持になれないのを恐れたからである。しかし今はもう彼に向つて顏をあげても、その表情が彼の愛情をましはしない確信があつた。
この時娘は料理と共に酒の銚子を持ちきたり「兄さんやっとおかんも出来ました。料理の方で火を使いましたからお湯がんなめてしまって遅くなりました」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
遠慮しているうちに、もてなした人の心も、料理もめて、不味まずくなったものを食わねばならぬ。しかも、遠慮したやつにかぎって、食べ出せばたいがい大食いである。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
と東一君のおじいさんは話をむすんで、めたお茶をすすった。巳之助さんというのは東一君のおじいさんのことなので、東一君はまじまじとおじいさんの顔を見た。
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「まあ、自分の勝手なお饒舌しゃべりばかりしていて、おかん全然すっかりちゃった。一寸ちょっと直して参りましょう。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
さうして、この意識は、いままではげしく燃えてゐた憎惡の心を何時いつの間にかましてしまつた。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
婆さんは自分の茶碗にもその気持の悪いお茶をついで、——めないうちにどうぞ。そう言うと、平然として自分の茶碗を取り上げて、コクリと呑んで、ああ、おいしい。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
鍛冶屋の主人は馬の脚を膝に載せたままで、車が勢よく走りすぎるのを見ながら、手を休める。鐡砧かなしきの周圍の巨人サイクロプスたちは打鳴す鐡鎚をしばし止めて、鐡のめるのも構はない。
駅伝馬車 (旧字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
時候がければ、すこぶるせいせいするし、また、雨降りでも、ごく近くなのだから、れても大したことはなく、かえってからだのほてりをますぐらいのもので、その点
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
実業家は低声こごゑで呟きながら、酒のめるのをも忘れて襖にぴつたりと耳をおし当ててゐた。
はげしい昂奮こうふんからめたわたくしは、もちろんわたくし守護霊しゅごれいむかっていろいろと質問しつもんはなち、それでもちぬ個所ところがあれば、指導役しどうやくのお爺様じいさまにも根掘ねほ葉掘はほいつめました。
しかし植林の効果は単に木材の収穫にとどまりません。第一にその善き感化をこうむりたるものはユトランドの気候でありました。樹木のなき土地は熱しやすくしてめやすくあります。
たぎり切っていた湯がめるから、炭を継いで、それからしずかに上って見た。屏風の端から覗くと、お夏は床の上に起上って、あたたかに日のさす小春の朝。行燈の紙真白まっしろに灯がまだ消えず。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここの本業窯ほんぎょうがまといわれるものは、大した大きさで、中に何万個という品物を積み上げ、これを焼き上げるには一週間も松薪を燃やし続け、半月以上もめるのを待たねばなりません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「姉さん、明日があるがいやほんまに、えい加減にしい、味噌汁がめら」
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
味噌汁みおつけは熱くてすぐ飲めないから、早くめるようにおわんに盛ったまま、ずらりと窓際に並べておく。御飯をかっこんだら、出がけに、立ったままで、ぐいと一息にやるつもりなのである。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
舌鼓したうちをして古ぼけた薬鑵やかんに手をさわってみたが湯はめていないので安心して
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
冷やかなる石卓いしづくえの上にて、いそがわしげに筆を走らせ、小おんなが持て来る一盞ひとつきの珈琲のむるをも顧みず、あきたる新聞の細長き板ぎれにはさみたるを、幾種いくいろとなく掛けつらねたるかたえの壁に
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と父は上り段に腰掛け仰向あおむけになって了った。浅七は草鞋わらじの紐を解いて両足をたらいの中へ入れさせた。母はめかけた汁の鍋を炉に吊して火を燃やした。恭三は黙って立膝の上にあごをもたせて居た。
恭三の父 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
しまいにはかんめても手もつかず、奥方が酌に来ても眼で追い払いながら、しきりに腕を組み初めた。そうして平馬が恐る恐る話を終ると同時に、如何にも思い迷ったらしい深い溜息を一つした。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
えたりめたり冷めたり熱えたり、どちらがうとも突詰めかねて、自分で自分を武者苦者と掻むしるように苦ませた揚句が、とにかくもう一度小歌に逢った上でと、弱い決心をわずかに固めて
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
彼は食卓に両肱りょうひじをつき、彼女と向かい合いにすわって、今後どんなことをするか、それを彼女に話してやった。彼女はやさしい疑念の様子でそれに耳をかし、スープがめてしまうと静かに注意した。
子は「うん。」といって灯のついたままの提灯を畳んで枕もとに置いてから、母について降りた。そして鉢へめた鉄壜てつびんの湯をいっぱいいで、それを再び二階へ持って来て枕元の提灯の傍へおいた。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
焦土もまだろくにめないその年の十一月には東京を訪ねていた。
小父おじちゃん、ところ天がめちゃうよ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
めないうちにミルクをおあがり。』
めたるココアのひとさじすすりて
呼子と口笛 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
暖めもましもする5245
心は永久とわに むるなし
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
けるにしたがつてしもは三にん周圍しうゐ密接みつせつしてらうとしつゝちからをすらしつけた。彼等かれらめて段々だん/\むしろちかづけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
涙はこぼれて、はがねまし、冷めた鋼は又、火土ほどの中へ投げ込まれて、彼の苦しい胸のあえぎを吐くように、鞴の呼吸いきにかけられた。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)