佳人かじん)” の例文
それをいま、道誉からふいに彼女の名が言い出されたので、薄命な佳人かじんの以後のただよいを、兼好もすぐ現実の波間に置いてみたのだった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「良家の令嬢、深窓しんそう佳人かじんなら、そんな心配はない。そういうのを吟味ぎんみして、早く貰うんだよ。光子さんだって賛成するだろう」
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
声を碧雲へきうんの外に断ち、影を明月の中に沈めた佳人かじんの艶姿が、いつ迄も眼底を去りやらず、断腸の思いに堪えられないまゝに
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
病院の門を出て、彼が一つの町角まちかどを曲ると、そこには洋装の佳人かじんが待っていて、いきなり彼にとびついた。それは外ならぬ山崎美枝子だったのである。
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
念珠一串いつかん水晶明らか 西天を拝しんで何ぞ限らんの情 只道下佳人かじんひとえに薄しと 寧ろ知らん毒婦恨どくふのうらみ平らぎ難きを
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それはみな一流の佳人かじんと才子、または少なくとも選抜せられた或る男女の仲らいをべたものでありました。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
もうすもかしこけれど、お婿様むこさまは百だい一人ひとりわれる、すぐれた御器量ごきりょう御子みこまたきさきは、しとやかなお姿すがたうち凛々りりしい御気性ごきしょうをつつまれた絶世ぜっせい佳人かじん
一個ひとり天女てんによごと絶世ぜつせ佳人かじん! たれらん、この二人ふたりは、四ねん以前いぜんにネープルスでわかれた濱島武文はまじまたけぶみ
北方に佳人かじんありといひしも、北は陰位いんゐなれば女に美麗びれいを出すにやあらん。二代目の高尾は(万治)野州にうまれ、初代の薄雲うすぐもは信州にさんして、ともに北廓ほくかくに名をなせり。
こゝに於て花魁の何うも……実に取敢とりあえず即答の御返歌になるてえのは、大概の歌詠うたよみでも出来んことでございますのに、花魁は歌嚢うたぶくろ俳諧嚢何んでも天稟てんぴん備わった佳人かじんなんで
女がふりかえって微笑しながら、「初めより桑中そうちゅう無くして、すなわ月下げっかぐう有り、偶然にあらざるに似たり」と持ちかけたので、喬生は、「弊居咫尺へいきょしせき佳人かじんく回顧すべきや否や」
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そんなその、紅立羽あかたてはだの、小紫こむらさきだの、高原かうげん佳人かじん、おやすくないのにはおよばない、西洋化粧せいやうけしやう化紫ばけむらさき、ござんなれ、白粉おしろいはなありがたい……はや下界げかいげたいから、真先まつさき自動車じどうしやへ。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
昔から小説家は必ず主人公の容貌ようぼうを極力描写することに相場がきまってる。古今東西の言語で、佳人かじん品評ひんぴょうに使用せられたるものを列挙したならば、大蔵経だいぞうきょうとその量を争うかも知れぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
眼のきれの長い佳人かじんである。更衣室も無いので、仕切りの障子をしめ、二畳の板の間を半分はんぶんめた古長持の上に妻の鏡台きょうだいを置いた。鏡台の背には、破簾やれみすを下げてすすだらけの勝手を隔てた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
佳人かじんこころようやなり——これは八五郎が、お染さんに嫌われたというこころだ」
つまりその一句と云うのが、『ルクレチア盗みレイプ・オヴ・ルクリース』という沙翁シェークスピアの劇詩の中にあって、羅馬ローマ佳人かじんルクレチアがタルキニウスのためにはずかしめをうけ、自殺を決意する場面に現われているからなんだ
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
覺束おぼつかなしや才子さいし佳人かじんかがなべてよろこびののいつかべき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かけあげなと言れてハイと答へなし勝手口かつてぐちより立出るは娘なる年齡としのころまだ十七か十八こうまつの常磐のいろふかき緑の髮は油氣あぶらけも拔れどぬけ天然てんねん美貌びばうは彌生の花にも増り又中秋なかあき新月にひづきにもおとらぬ程なる一個の佳人かじん身にはたへなる針目衣はりめぎぬ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あの夜以来、範宴のひとみにも、心にも、常に一人の佳人かじんんでいた。追おうとしても、消そうとしても、佳人はそこから去らなかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
というような現実曝露ばくろは決して見受けない。みな才子さいし佳人かじんである。但し親が町家か百姓で肩書のない場合には新聞社の方で然るべく計らってくれる。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
北方に佳人かじんありといひしも、北は陰位いんゐなれば女に美麗びれいを出すにやあらん。二代目の高尾は(万治)野州にうまれ、初代の薄雲うすぐもは信州にさんして、ともに北廓ほくかくに名をなせり。
たしかにその人、我が年紀とし十四の時から今に到るまで一日も忘れたことのない年紀上としうえの女に初恋の、その人やがて都の華族に嫁して以来、十数年間一度ひとたびもその顔を見なかった、絶代ぜつだい佳人かじんである。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
郊外こうがいに移し令嬢れいじょうたちもまたスポーツに親しんで野外の空気や日光にれるから以前のような深窓の佳人かじん式箱入娘はいなくなってしまったが現在でも市中に住んでいる子供たちは一般に体格が繊弱せんじゃくで顔の色などもがいして青白い田舎いなか育ちの少年少女とは皮膚ひふえ方が違う良く云えば垢抜あかぬけがしているが悪く云えば病的である。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この家の深窓しんそう佳人かじんと玄徳とが、いつのまにか、春宵しゅんしょうの秘語を楽しむ仲になっているのを目撃して、関羽は、非常なおどろきと狼狽ろうばいをおぼえた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
佐藤量順さとうりょうじゅんとある。郷里くにの中学校で英語を習った先生と同姓同名だ。長く英語の教師をした人だと聞いていたから、あの量順先生に相違ないと結論した。その瞬間、門が開いて妙齢の佳人かじんが現れた。
ロマンスと縁談 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
沈光ちんくわういたゞきよりひつくりかへりざまに梯子はしごひかへたるつなにぎり、中空なかぞらよりひとたび跳返はねかへりてけんふるふとへり。それ飛燕ひえん細身さいしんにしてよく掌中しやうちうふ、絶代ぜつだい佳人かじんたり。沈光ちんくわう男兒だんじのためにくものか。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
蛾次郎がじろう竹童ちくどうのいるのを知らず、ワラ小屋で幸福こうふくないびきをかいていたころに、その源氏閣の上で、しのびやかに佳人かじんふえがしていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつて、ものにしるして、東海道中とうかいだうちう品川しながはのはじめより、大阪おほさかまはり、山陰道さんいんだうつうじて、汽車きしやから、婀娜あだと、しかして、窈窕えうてうと、に、禽類きんるゐ佳人かじんるのは、蒲田かまた白鷺しらさぎと、但馬たじま豐岡とよをかつるばかりである
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やがていつもの土塀門どべいもんへ近づいて来ると、そこにたたずんで、客を待ち顔の佳人かじんの姿が見えた。いつぞや見た折よりも、美しく身躾みだしなみをしたおゆうであった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また問題の佳人かじん月江つきえ様という人も、そんなことはどこ吹く風かで、少しも、気にかける様子がありません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八王子の宿しゅくを遠いうしろにして、満目、すすきと露ばかりな武蔵野の一路をたどって来る佳人かじんがあります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふと、周瑜のあたまに浮んだのは、主君孫権の妹にあたる弓腰姫きゅうようきであった。——佳人かじん年はまだ十六、七。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこでかの女と馴染なじまれたかは、よくわからないが、世間へは、中御門家なかみかどけの息女とふれて、八坂のほとりに、清洒せいしゃ桧垣ひがきをめぐらした一と構えができ、さる白拍子あがりの佳人かじん
次郎という山猿のような下僕しもべの少年と、おりんというこれはまた愛くるしい小間使いをつれて、三人ひと組、この隠居藤屋の二階にいりようおかまいなしで、春先から入湯にきている妙齢な佳人かじん
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真岡もおかの判官三善為教みよしためのりの息女で朝姫あさひめという佳人かじんがその候補者であった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
佳人かじん。はやくおのりなさい。泣いているところではない」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
早田わさたノ宮の妹で、弘徽殿こきでん西台にしのだいといわれた佳人かじんがある。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
持つならば、かかる佳人かじんを持ちたいものだ。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『拙者に、相愛の佳人かじんができたのでな』
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岳南がくなん佳人かじん
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)