仕度したく)” の例文
さほど広い家でもないから、次の間ではお浜が客をもてなす仕度したくの物音が聞える。お浜の方でも、二人の話し声がよく耳に入ります。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おおように姫宮の移っておいでになる前の仕度したくなども院とごいっしょになってしたような可憐かれんな態度に院は感激しておいでになった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
すると、「すわ、大事だいじだ!」と、いって、三まん兵士へいしは、るものもとりあえず、いくさ仕度したくをして、御殿ごてんのまわりにあつまりました。
春の日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
借金が有るなれば有ると云って、借金を片付けて貰えるからよ、うして仕度したくして行かなければならねえ、借金が有ると云え、エヽおい
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すると町の家々ではこんやの銀河の祭りにいちいの葉の玉をつるしたりひのきのえだにあかりをつけたりいろいろ仕度したくをしているのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
其後そのご雲飛うんぴ壮健さうけんにして八十九歳にたつした。我が死期しききたれりと自分で葬儀さうぎ仕度したくなどをとゝの遺言ゆゐごんして石をくわんおさむることをめいじた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
デューラン氏は、不意の襲撃に怯え切って、香港に一時避難する仕度したくの為に、書斎と居間の間を忙しく歩き廻っていたのである。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
命令を出すと、大統領は仕度したくのため別室へ入った。やがて彼は、黒のオーバーに中折帽なかおれぼう、肩から防空面ぼうくうめんの入った袋をかけて玄関に立ち現れた。
ザビーネの仕度したくがととのわないうちに、小婢こおんなが帰ってしまうこともたびたびだった。すると客は、店の入口のベルを鳴らした。
モウタアの音がけたゝましくあたりにひゞいて聞えたので、仕度したくをして待つてゐた二人はそのまゝ裏の石垣になつてゐるところへと出て行つた。
モウタアの輪 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
話題に上って、ふっと消え、火をき起してお茶を入れかえ、秋祭りの仕度したくに就いて話題が移ってゆく、という、そんな状態ではないかと思う。
善蔵を思う (新字新仮名) / 太宰治(著)
亜米利加アメリカ何処どこかの海岸なり。海水浴の仕度したくをしてゐる女、着物を泥棒に盗まれ、一日近くも脱衣場から出る事出来ず。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こうはいつものように庭掃除に忙しく、祖母は台所で朝御飯の仕度したくをし、叔母は私の役目である部屋の掃除に障子や置物をバタバタとはたいていた。
藤村はそれからやがて小諸こもろへ行くことにきまり、その仕度したくをしていた時分かとおもう。鶴見は俳人の谷活東たにかっとうと一しょに新花町を訪ねたことがある。
彼は自分の最も働き盛りのほとんどすべての歳月と精力とをその子供等の教育費や、それから娘たちの嫁入りの仕度したくの為めに費さなければならなかつた。
(新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
彼は寝床の中から、竈のほのほに照りえてゐる其のふくよかな彼女の横顔を盗み眺めた。かうして今朝の食事の仕度したくはすつかり彼女の手で出来たのだ。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
日出雄少年ひでをせうねん鐵工てつこうとなるより、立派りつぱ海軍士官かいぐんしくわんとなる仕度したくをせねばならんよ。』と武村兵曹たけむらへいそうひざなる少年せうねん房々ふさ/″\した頭髮かみでやりつゝ、わたくしむか
けれどもちょっと敷居際しきいぎわにとまるだけでけっして中へは這入はいらなかった。「仕度したくはまだか」とも催促しなかった。彼はフロックに絹帽シルクハットかぶっていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「では随分気ぜはしなうございますね。私が出来ることだけ何なりといたしますから、あなたはいゝ加減にしていろんなお仕度したくをなすつて下さいよ。」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
こんなことまで叔父に打開けて、済まないとは思いつつ、耳をふさいで、試験の仕度したくしたことなどをも語った。話せば話すほど、お俊は涙が流れて来た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夜明よあけまで書を読んで居て、台所の方で塾の飯炊めしたきがコト/\飯を仕度したくをする音が聞えると、それを相図あいずに又寝る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
二人はいそいそとその仕度したくを急いでおりますが、我々岡焼党おかやきとうは、一応言葉の上では目出度めでたがり乍ら、心の中では甚だ面白くない毎日を送っていたのです。
そして体の調子のよい折を見ては、夜、妻と三番目の娘が、嫁入よめいりの仕度したくに着物を縫っているかたわらで胡弓を奏でた。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
篠原「十日ばかりあとにもどったが。きょうはあんまりあついから。その宮崎と涼みに出かける約束だから今にくるだろう。屋根を一そう仕度したくしてくんな」
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
そこで二人は少なからずテレて、急いで仕度したくをし出て来たところで、みれば博徒風の三人の男が、若い一人の女を担ぎ、耕地を走って行くところであった。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
芸者に口がかかり、箱が動きだしたので、話はそれきりになり、銀子は台所へ出て、自分の食事の仕度したくをした。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
先生夫妻はこの豪雨季を避けてシシリイ島へ移る仕度したくをはじめました。半月ほどのシシリイ滞在の後で、ノルマンディの郷里へ帰つて静養するのださうです。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
何事か面白相に語らい行くに我もお辰と会話はなし仕度したくなって心なく一間いっけんばかもどりしを、おろかなりと悟って半町歩めば我しらずまよいに三間もどり、十足とあしあるけば四足よあし戻りて
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ロイド夫人が入浴したいと言うので、その仕度したくをして、おかみのブラッチ夫人が階下から呼ばわった。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
彼はひとり隣室に入って、煙草を吸った。障子一重隔てて、台所では義母が昼餉ひるげ仕度したくをしていた。
死のなかの風景 (新字新仮名) / 原民喜(著)
それから仕度したくをして外へ出ると、ざあざあつて雨なの。橋を渡らうとすると、橋の板が一枚々々めくれさうにしてゐるのよ。姐さんは死んでも渡るのは厭だつていふの。
梅龍の話 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
「扇子なんかどうでもええわな。早う仕度したくしやんし」と言って煙管きせるの詰まったのを気にしていた。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
仮りにだ、色々な仕度したくをして、此処まで出掛けてくるのに、金持が金をだせたからとしてもいいさ。俺達が働かなかったら、一匹の蟹だって、金持のふところに入って行くか。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
勝手元かってもと御馳走ごちそう仕度したくだ。人夫がって来た茶盆大ちゃぼんだい舞茸まいたけは、小山の如くむしろまれて居る。やがて銃をうてアイヌが帰って来た。腰には山鳥やまどりを五羽ぶら下げて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
破天荒はてんくわうなる国会は、三百議員を以て、其開会を祝さんとて、今や仕度したく最中なり、私権を確定し、栄誉、財産、自由に向て担保を与ふべき民法は、やうやく完全に歩みつゝあり
兎に角仕度したくが出來てしまつたから僕は行きます。人間はいつか死ぬんですからね。死んでしまへば肉體は解剖にでも利用される外には何の役にも立ちはしないんですからね。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
朝も五時に起きて仕度したくをなし、女監取締りの監房を開きに来るごとに、他の者と共に静坐して礼義を施し、次いで井戸端いどばたに至りて順次顔を洗い、終りて役場えきじょうにて食事をなし
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
千歳が、明日の朝の箱根行きの仕度したくをしに部屋へ引取ろうとすると、仲子は鼻声で言った。
呼ばれし乙女 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
桑田が朝飯の仕度したくをしにと台所へ降りて行つた時には、主人の浅野は既に立つて行つた後と見えて、板の間に置かれた茶ぶ台の上には、食べ残されたものが其儘になつてゐて
人妻 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
と太郎右衛門は、朝の仕度したくにかかっている、お神さんを呼んで、子供の顔を見せました。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
女房にようぼうをだまくらかしてめかけところやう不人情ふにんじやう仕度したくても出來できない、あれだけはらふとゑらいのではらうが、かんがへると此處こゝ旦那だんなおにせうさ、二だいつゞきて彌々いよ/\らうと
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
されば家塾かじゆく放任主義はうにんしゆぎおこなふのは畢竟ひつきやう獨立心どくりつしんやしなためであつて、このせまちひさな家塾かじゆく習慣しふくわんをつけてくのは他日たじつおほひなる社會しやくわいひろ世界せかいことけない仕度したく御在ございます。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
井戸端で顔を洗つたが、何となくはつきりしないので改めて近間ちかまの銭湯へ出かけて、帰つて来ると食事の仕度したくが出来てゐた。時子にお給仕して貰つてゐると、開け放されたふすまの蔭から
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
潜水夫もぐりは私達の立っている近くの岸壁まで来て、暫く何か喬介から指図さしずを受けていたが、やがて二人の職工を呼び寄せると、気管ホースやポンプの仕度したくを手伝わせ、間もなく岸壁に梯子を下げて
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
『さァ!おまへすこしあやして御覽ごらんきなら!』公爵夫人こうしやくふじん赤子あかごしながらあいちやんに、『わたしはこれからつて、女王樣ぢよわうさま毬投まりなげをする仕度したくをしなければなりません』つていそいで
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
その日の四ツごろようように仕度したくが出来て、城下を去ること半里はんみちばかりの長井戸の森をさして出かけた,同勢は母と、姉と、娘と、自分と、女中二人に下部しもべ一人、都合七人であッたところへ
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
両方で、ケンカをしたくないしたくないといいながら、セッセとケンカの仕度したくをしてるんだ。ヘヘ! こんなコッケイなムジュンがあるかい?……いや、誤解しちゃ困るよ、誤解はしなさんな。
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
「まあ、心を落ちつけて話してください。その間に仕度したくしますから」
暗夜の格闘 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
すぐ仕度したくをしてげださなければ大変です
駈けくらごつこの 仕度したくです
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)