こい)” の例文
なぞと考えまわすうちに、元来屈託のない平馬は、いよいよ気安くなって五六本を傾けた。こいの洗い、木の芽田楽でんがくなぞも珍らしかった。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あるものは小さい池の岸を掩って、水に浮かぶこいの影をかくしている。あるものは四つ目垣に乗りかかって、その下草を圧している。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ちょうど川から岸にはねあがって、死にそうになっていたこいを、再び川の中に入れてやると、元気になって泳ぎ出すようなものです
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ささや桃吉ももきち春本万竜はるもとまんりゅう照近江てるおうみこい富田屋八千代とみたややちよ川勝歌蝶かわかつかちょう富菊とみぎく、などは三都歌妓の代表として最もぬきんでている女たちであろう。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
幾百千とも知れぬ小魚が、くるくると光の渦を巻きながら魚紋を描いているのをゆびさして、ふなじゃ、こいじゃ、といい争っていると
「ええこいや鯉」というのも数年以来聞かないようである。「ええ竿竹さおだけや竿竹」というのをひと月ほど前に聞いたのは珍しかった。
物売りの声 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
とこにも座敷ざしきにもかざりといっては無いが、柱立はしらだちの見事な、たたみかたい、の大いなる、自在鍵じざいかぎこいうろこ黄金造こがねづくりであるかと思わるるつやを持った
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
六年前に来た時、例の汚い宿で、金鱗湖のこいは名物であるから見て来いと勧められて、夜おそくなって見に行ったことがあった。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
座敷のなかにこの二句を点じただけで、あともとのごとく静になる。ところへこいがぽちゃりとまたはねる。池は東側で、小野さんの背中に当る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この水路や沼や池には、ふなこいはやなまずなどがよく繁殖するため、陸釣おかづりを好む人たちの取って置きの場所のようであった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「たとえばこの魚じゃ。」と、鮎子ねんしは眼前を泳ぎ過ぎる一尾のこいつかみ取ったかと思うと、それをムシャムシャかじりながら、説くのである。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
門口から、声をかけながら雨の中をたずねて来る人がある。昔なじみの得右衛門だ。お民にと言って、自分の家からこいを届けさせるような人だ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あんなにおったこい何故なぜれないかなあ、あの山の陰には一ぴきや二疋いないことはなかったが、一体どうしたんだろう」
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かぎなりにまがった縁先えんさきでは、師匠ししょう春信はるのぶとおせんとが、すで挨拶あいさつませて、いけこいをやりながら、何事なにごとかを、こえをひそめてはなっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ただ、自分では何か大声に叫んでいる積りで、血の気の失せた唇を、こいのようにパクパク動かしているばかりであった。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こいちゃんとこのねえさんはね、まえだれにいっぱいあつめてったけど、ちっとも白くならないね。いまでもまっ黒だ。
病む子の祭 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
六六、三十六町を一里としたのは、コイのウロコから出た言葉で、こいという字は、魚へんに里と書くと教えてくれた。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
私には、どちらとも審判できないのであるが、これだけは、いい得る。窓ひらく。好人物の夫婦。出世。蜜柑みかん。春。結婚まで。こい。あすなろう。等々。
家職のものの息子で、年が二つばかり下なのがいたが、初て逢った日に、お邸の池のこいを釣ろうと云ったので、いやになって一しょに遊ばない事にした。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
お正月がすぎると、凧屋たこやでは五月ののぼりのこいやなにかをつくりはじめました。そうして五月もすむと、今度こんどはうちわやせんすをつくりはじめたのです。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
後楽園こうらくえんこいりにつてたなんてこと、まりがわるくてひとはなせやしない。だから、映画えいがていたなんていつちまつたのだが、ともかく、コリゴリだ。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
そして彼とともに「こいの肉料理」の秘法もわからなくなってしまった。けれども寡婦かふはとやかく店を続けていた。
大物のこいをやる人は、その執拗な、稀な、強さと電力が、絶世の張りある美人に思へようし、ぶり松魚かつおへまで望みを延ばし、或は外国流なかわり種を捜して
魚美人 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
「親分、北冥ほくめいの魚でしょう。こいでもふなでも構わないが、ここに魚がありさえすりゃ、三万両と転げ込むんだが、無住になった寺方じゃ、いわしの頭もねえ——」
木の影が老緑おいみどり色に澄んで、ぴちりぴちりと何か光るけはいがある。こいはえを釣るのだという。あの森にはまた鶴が棲んでいたこともあったとたれかがいった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「巡査をどうしてやめたんです。」「あんな巡査じゃだめでさあ、あのお神明しんめいさんの池ね、あすこにこいるでしょう、県の規則きそくだれにもとらせないんです。 ...
バキチの仕事 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
太公望たいこうぼう然として百本杭にこいを釣つて居るのも面白いが小い子が破れたざるを持つてしじみを掘つて居るのも面白い。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
まきを使った鉱泉に入って、古めかしいランプの下、物静かな女中の給仕で沼のこいふなの料理を食べて、物音一つせぬ山の上、水のきわの静かな夜のねむりに入った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
豚肉の串焼くしやきの中にも、きじきも揚物あげものの中にも、こい丸煮まるにの中にも、その他いろんな見事な料理の中には、みな強い酒がまぜてありましたし、それを食べながら
天狗の鼻 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
血の気の少ない寝脹ねばれた顔をし、低い額をし、息をするために口を開き、ふくれつき出たくちびるこいのような口つきをしていて、今は美しくないことを知っている。
また普通の凧の絵は、達磨、月浪つきなみ童子格子どうじごうし、日の出に鶴、雲龍うんりゅう玉取龍たまとりりゅうこい滝上たきのぼり、山姥やまんばに金太郎、あるいは『三国志さんごくし』や『水滸伝すいこでん』の人物などのものがある。
凧の話 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
そして日の暮れるころには、笭箵びくの中に金色こんじきをしたふなこいをゴチャゴチャ入れて帰って来る。店子たなこはおりおりばちにみごとな鮒を入れてもらうことなどもある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
勾欄こうらんの下をめぐって流れる水に浮いているこいを眺めながら、彼の舌にもかなうような酒をんだりした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
例えばこいだとか菊水などは前者で、打出うちで木槌こづち扇子せんすの如きは後者の場合であります。煙で充分にくすぶり、これをよくきこみますから、まるで漆塗うるしぬりのように輝きます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
或男が太郎坊のこいを盗んで次郎坊の側を通りかかると、其鯉が次郎坊と呼んだ、すると池の面に大きな緋鯉が浮び上り、太郎坊と答えたので、其男は鯉を池に投げ込み
山と村 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「鱗と云えば、お前が持って来たこいの地獄壺を割ってみないかね、引越しの費用位はあるだろう」
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
その形がこいの頭に似ているからコヒグチと東京では謂い、東上総ひがしかずさではブタグチとも謂っている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
雨垂あまだれの音が早くなった。池のこいはどうしているか、それがまた灸には心配なことであった。
赤い着物 (新字新仮名) / 横光利一(著)
こいが空気と住んでいるようなものだ、鯉は水と住まなくてはならない、即ち魚心うおごころ水心みずごころというて心と心と相通じる事がなくてはやり切れない、魂はおなじ魂を呼ぶからだろう。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
けふなん葉月はづき十四日の野辺のべにすだく虫の声きかんと、例のたはれたる友どちかたみにひきゐて、両国りょうごくの北よしはらの東、こいひさぐいおさきのほとり隅田のつつみむしろうちしき
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
仲人なこうどの私のまえに五人の老人が、先頭は手ぶらで次は一升徳利を三人めはこいのいきづくりの鉢を四人めは鶴亀の島台を捧げて、つぎつぎとあらわれては禿げた頭を物堅くさげ
加波山 (新字新仮名) / 服部之総(著)
六日の夜は、流言の如く、又焼打の騒ぎあり、翌七日には、市内全く無警察のしょうを現はしけるが、浅草公園の池にては、咎むる者の無きをとし、こい釣大繁昌との報を得たり。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
生簀いけすこい——うまいことを言うぞ。だから、俺も、人が食やがったら骨を立ててやるんだ。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
三人は押し黙って両国橋を渡って米沢町よねざわちょうのほうへ行って、それから新地しんちへ曲がった。そこのごたごたした横町をはいったところに、こいこくで有名な川半かわはんという料理屋があった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
実は、調子に乗ってこいうなぎの養殖にも手を出しかけているんだが、人任せでうまく行かないんだ。同じ淡水産のものだからそう違うまい。君に一つその方の面倒を見て貰おうか。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
竹や水や古いむしろの破れたのなどが、いちめんに濃い陰影をつくって、そこにもこいふななまずのようなものまで、一つずつの魚巣うろもぐりこんで、れいの青い目でそとを眺めていました。
寂しき魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
この日はあゆの塩焼、こいのアライに、吸物、ヤッコ豆腐、オシタシという献立であった。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そうすれば××町のあたりは軒並のきなみも多少変ったろうし、賑やかにもなったろう……あの池も、この前のように、あんな沢山たくさんふなこいはいなくなったかも知れない……ひょっとすれば
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
御屋形おやかたの空へ星が流れますやら、御庭の紅梅が時ならず一度に花を開きますやら、御厩おうまや白馬しろうま一夜いちやの内に黒くなりますやら、御池の水が見る間に干上ひあがって、こいふなが泥の中であえぎますやら
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
... やっぱりこい濃漿こくしょうのようなわけで」妻君「アラ鯉こくもそうですか」お登和
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)