鮮麗あざやか)” の例文
……うでないと、あのふくろふとなへる呪文じゆもんけ、寢鎭ねしづまつたうしたまちは、ふは/\ときてうごく、鮮麗あざやか銀河ぎんが吸取すひとられようもはかられぬ。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
歩くともなしに土橋どばしの上まで歩いて往った山西は、ふと橋のむこうからきれい小女こむすめの来るのを見た。それは友禅ゆうぜん模様の鮮麗あざやかな羽織を着た十六七の色の白い女であった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
判然はっきりすすの中に、塵を払ってくっきりと鮮麗あざやかな姿が、二人が机に向った横手、畳数たたみかず二畳ばかりへだてた処に、寒き夜なれば
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは眼と眉の間の晴ばれとした、そして、眼にしっとりとしたうるおいのある水の中へ飛びこんだ小女こむすめであった。その羽織はおり鮮麗あざやか青光あおびかりのする友禅ゆうぜん模様の羽織はおりであった。彼は箸をり落した。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
少し斜めに向をかえて、通を向うへ放れたと思うと、たちまちさっあかねを浴びて、きぬあやが見る見る鮮麗あざやかに濃くなった。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人の衣服きものにも、手拭てぬぐいにも、たすきにも、前垂まえだれにも、織っていたそのはたの色にも、いささかもこの色のなかっただけ、一入ひとしお鮮麗あざやかに明瞭に、脳中にえがいだされた。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いろも……うすいながら、判然はつきりすゝなかに、ちりはらつてくつきりと鮮麗あざやか姿すがたが、二人ふたりつくゑむかつた横手よこて疊數たゝみかずでふばかりへだてたところに、さむなれば
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そこで、卓子にひじをつくと、青く鮮麗あざやか燦然さんぜんとして、異彩を放つ手釦てぼたんの宝石を便たよりに、ともかくもこまを並べて見た。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……眉は鮮麗あざやかに、目はぱっちりとはりを持って、口許くちもとりんとした……ややきついが、妙齢としごろのふっくりとした、濃い生際はえぎわ白粉おしろいの際立たぬ、色白な娘のその顔。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほとんどその半身をおおうまで、うずだかい草の葉活々いきいきとして冷たそうに露をこぼさぬ浅翠あさみどりの中に、萌葱もえぎあか、薄黄色、幻のような早咲の秋草が、色も鮮麗あざやかに映って
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
戸外おもてはあたかも真昼のよう、月の光はひろげたうちへはらはらとさして、紫陽花あじさいの色も鮮麗あざやかあおかった。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
表に夫人の打微笑うちほほえむ、目も眉も鮮麗あざやかに、人丈ひとたけやみの中に描かれて、黒髪の輪郭が、細く円髷まげくぎってあかるい。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
戸外おもてあたか真昼まひるのやう、つきひかりひろげたうちへはら/\とさして、紫陽花あぢさいいろ鮮麗あざやかあをかつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
俺たちが見れば、薄暗い人間界に、まぶしい虹のような、その花のパッと咲いた処は鮮麗あざやかだ。な、家を忘れ、身を忘れ、生命いのちを忘れて咲く怪しい花ほど、美しい眺望ながめはない。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俺たちが見れば、薄暗い人間界に、まぶしい虹のやうな、其の花のパツと咲いたところ鮮麗あざやかだ。な、家を忘れ、身を忘れ、生命いのちを忘れて咲く怪しい花ほど、美しい眺望ながめはない。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「ええ、死神のような奴、取附かれてたまるものか。」力に任して突飛ばせば、婆々ばばあへたばる、三吉にげる、出合頭であいがしらに一人の美人、(木賃宿のあの人の)宵月の影鮮麗あざやかなり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さしのばしたまう白く細き手の、その姉上の姿ながら、へやの片隅の暗きあたり鮮麗あざやかにフト在るを、見返せば、月の影窓より漏れて、青き一条の光、畳の上にしたるなり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日蔽ひおおい葭簀よしずを払った、両側の組柱は、鉄橋の木賃に似て、男もおんなも、折から市人いちびと服装なりは皆黒いのに、一ツ鮮麗あざやかく美人の姿のために、さながら、市松障子の屋台した
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紫の矢絣やがすりの、色の薄いが鮮麗あざやかに、朱緞子しゅどんすに銀と観世水のやや幅細な帯を胸高に、緋鹿子ひがのこ背負上しょいあげして、ほんのり桜色に上気しながら、こなたを見入ったのは、お妙である!
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、通掛とおりかかりに、めし屋へ声を掛けてきました。が、ぱっと燃えてる松明たいまつの火で、おくれ毛へ、こう、雪の散るのが、白い、その頬をぐようで、鮮麗あざやかに見えて、いたいたしい。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
トタンに一人の肩を越して、空へ躍るかと、もう一匹、続いてへさきからと抜けた。最後のは前脚を揃えて海へ一文字、細長い茶色の胴を一畝ひとうねり畝らしたまで鮮麗あざやかに認められた。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは、と思うと、縁の突当り正面の大姿見に、渠の全身、飛白かすりの紺も鮮麗あざやかに、部屋へ入っている夫人が、どこから見透みすかしたろうと驚いたその目の色まで、歴然ありありと映っている。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
容子ようすは似つかわしく外国語で行こう、ヤングゼントルマンというのが、その同伴つれの、——すらりとして派手に鮮麗あざやかな中に、扱帯しごきの結んだ端、羽織の裏、つまはずれ、目立たないで
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今言ったその運転手台へ、鮮麗あざやかに出た女は、南部の表つき、薄形の駒下駄こまげたに、ちらりとかかった雪の足袋、紅羽二重こうはぶたえ褄捌つまさばき、柳の腰になびく、と一段軽く踏んで下りようとした。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひしと詰込んだ一列の乗客のりてに隠れて、内証で前へ乗出しても、もう女の爪先つまさきも見えなかったが、一目見られたひとみの力は、刻み込まれたか、と鮮麗あざやかに胸に描かれて、白木屋の店頭みせさき
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
石段の下あたりで、緑に包まれた夫人の姿は、色も一際鮮麗あざやかで、青葉越に緋鯉ひごいの躍る池の水に、影も映りそうにたたずんだが、手巾ハンケチを振って、促がして、茶店から引張り寄せた早瀬に
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
清らかなきものを着、あらたくしけずって、花に露の点滴したたよそおいして、馬に騎した姿は、かの国の花野のたけを、錦の山の懐にく……歩行あるくより、車より、駕籠かごに乗ったより、一層鮮麗あざやかなものだと思う。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
対合むかいあった居附いつきの店の電燈瓦斯がす晃々こうこうとした中に、小僧のかげや、帳場の主人、火鉢の前の女房かみさんなどが、絵草子の裏、硝子がらすの中、中でも鮮麗あざやかなのは、軒に飾った紅入友染べにいりゆうぜんの影に、くっきりとあらわれる。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
声のあやに、我を忘れて、道成寺の一条ひとくだりの真紅の糸が、鮮麗あざやかに織込まれた。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大魔の形体ぎょうたい、片隅の暗がりへ吸込すいこまれたようにすッと退いた、がはるかに小さく、およそ蛍の火ばかりになって、しかもそのきぬの色も、はかまの色も、顔の色も、かしらの毛の総髪そうがみも、鮮麗あざやかになお目に映る。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
惜気おしげなく真鍮しんちゅうの火鉢へ打撒ぶちまけると、横に肱掛窓ひじかけまどめいた低い障子が二枚、……其の紙のやぶれから一文字いちもんじに吹いた風に、又ぱっとしたのが鮮麗あざやか朱鷺色ときいろめた、あゝ、秋が深いと、火の気勢けはいしもむ。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
見透みとほしうら小庭こにはもなく、すぐ隣屋となり物置ものおきで、此處こゝにも犇々ひし/\材木ざいもく建重たてかさねてあるから、薄暗うすぐらなかに、鮮麗あざやかその淺黄あさぎ手絡てがら片頬かたほしろいのとが、拭込ふきこむだはしらうつつて、トると露草つゆぐさいたやうで
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
見透みとおしの裏は小庭こにわもなく、すぐ隣屋となり物置ものおきで、此処ここにも犇々ひしひしと材木が建重たてかさねてあるから、薄暗い中に、鮮麗あざやかなその浅黄の手絡と片頬かたほの白いのとが、拭込ふきこんだ柱に映って、ト見ると露草つゆぐさが咲いたようで
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薄色友禅の長襦袢ながじゅばんひるがえりたる紅裏もみうらは燃ゆるがごとく鮮麗あざやかなり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「やあ、鮮麗あざやかなり、おらがねえさん三人ござる。」
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)