)” の例文
坂をけおりるのを! そら、自動車にかれそうになりました! 白はもう命の助かりたさに夢中になっているのかも知れません。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
佐吉さきちは、そのそばにってみますと、かごのなかには、らないような小鳥ことりがはいっていて、それがいいごえでないていました。
酔っぱらい星 (新字新仮名) / 小川未明(著)
女の人数を聞いたりする客を胡散うさん臭いと見るのは当り前だ。け出しの刑事みたいだが、気のきいた風紀係はそんな科白せりふは吐かない。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
通路で、房枝が向こうからけてきて、その足のわるい青年に、こえをかけた。曾呂利本馬という妙な名が、その青年の芸名げいめいだった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
火事くわじをみて、火事くわじのことを、あゝ火事くわじく、火事くわじく、とさけぶなり。彌次馬やじうまけながら、たがひこゑはせて、ひだりひだりひだりひだり
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その声をきくと、首領を縛りつけておいてさてどうしたものかと相談してゐた海賊たちは、いちどに立上つて、けつけてきました。
金の猫の鬼 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
これだけ見てくれば、同志の前に面目の立たぬようなこともあるまい。そう思って、彼はまたけだすようにして林町の宿へ帰った。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
あの日、雪子と悦子とが大急ぎで突堤へけ付けると、シュトルツ父子はもうさっきから甲板に出て待ちこがれていたところであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
他の誰のところへ行ったよりも安心だとは思いながら、春日夫妻のところへけこんで行ったことを思うと、やっぱり心配であった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
若い女が、キャッと声を立てて、バタバタと、草履ぞうりとばして、楽屋の入口の間へけこんだが、身を縮めて壁にくっついていると
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
だ、やだ! お父さんは一人で行け。俺は里へ遊びに行く!」と言つて京内はドン/\と、山路やまみちふもとの方へけて行きました。
熊と猪 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
犬は、ぱつとけだして逃げる、と思ひのほか、同じ場所に首をれてじつとしてゐるのでした。鳥右ヱ門は拍子ひやうしぬけがしました。
鳥右ヱ門諸国をめぐる (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
それを聞いた哀れな街子は、人の影へかくれるようにしながら、うちの方へけ出しました。それが街子の最初のかなしみでありました。
最初の悲哀 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
そのくせこの連中の蟇口の中のお金にはみんなそれぞれ脚がえて我先にとびだしけ去るシクミだから、まことに天下はままならぬ。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
と大型の名刺を投げるようにして、くれて、そのままこれも木立のかなたへけ去ってしまった。まことに夢のような一時だった。
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
つづく砂浜の路を、彼は一散にけつけて行った。彼らがつくったシップの部落には、目を閉じていても辿りつくほどれていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
仰ぎ見る彼等は、流るゝ雲に引きずられてやゝもすればけ出しそうになる足をみしめ踏みしめ立って居なければならなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そこでは、家畜かちくたちがちょうど野原のはらにいるのとおなじように、すきなように草をたべたり、遊んだり、けまわったりしています。
お時が自働電話へけつけて津田の返事を持って来る間、二人はなお対座した。そうして彼女の帰りを待ち受ける時間を談話でつないだ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
子供は丁度ラシャの靴をはいてチヨコ/\とけ歩くやうになつてゐたが、孤独な詩人のためには唯一の友であり兄弟であつた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
小學校歸りの兒童が五人八人ぐらゐづつ一塊ひとかたまりになつて來て、二人の姿をヂロヂロ見やつては、不思議さうな顏をしてけ去つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
寺の門前でしばらく何かを言い争っていた五六人の中から、二人の男がけ出して、井のはたに来て、石の井筒に手をかけて中をのぞいた。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その年の師走しわすの十三日、おせきのうち煤掃すすはきをしてゐると、神明前の親類の店から小僧がけて来て、おばあさんが急病で倒れたとしらせた。
昭和二年しようわにねん大噴火だいふんかをなしたときも噴火口ふんかこうからなが鎔岩ようがんが、あだか溪水たにみづながれのように一瀉千里いつしやせんりいきほひもつくだつたのである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
屋上には、たいてい初冬の荒い風がひとりで居丈高いたけだかけめぐっていたが、閑静でもあったし、晴れた日には日当りがよかった。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
もっとも真面目な話の最中に彼女がいきなり突拍子もなく笑い出したり、家へけ込んでしまったりするような場合もあったけれど。
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
どうするだろうと思って見ていると、ドロシイはちょっとその傾斜を見て首をかしげていたが、いきなりそこをけ下りてきた。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あわてふためいた老人は、何を考える暇もなく、いきなりかんぬきをはずして板戸をひらき、火焔をみ消すために、室内にけ込んだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
斯くて鳥の地に落ちたる時は、捕鳥者は直ちに其塲にけ獲物をおさひもくなり。石鏃とちがひて此道具は幾度にても用ゐる事を得。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
或時書生さんがお勝手までけて来て、真赤な顔をして、しきりにくさめをして苦しそうなので、「どうなすったの」と聞きましたら
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
仮初かりそめにも人にきずを付ける了簡りょうけんはないから、ただ一生懸命にけて、堂島五丁目の奥平おくだいらの倉屋敷に飛込とびこんでホット呼吸いきをした事がある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
と、けよりざま、雷喝らいかつせい、闇からうなりをよんだ一じょう鉄杖てつじょうが、ブーンと釣瓶もろとも、影武者のひとりをただ一げきにはね飛ばした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
韋駄天は天のはてからどし/\けてきて、爺の目のまへにぴつたり立ちふさがりました。爺はとぢてゐた目を一寸ちよつとばかり開いて見ました。
天童 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
……夜間、警報が出ると、清二は大概、事務所へけつけて来た。警報が出てから五分もたたない頃、表の呼鈴がはげしく鳴る。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
で、師匠の気息いきを引き取られると、直ぐにその番頭さんがけ附けて参り、間もなくしらせによっての高橋定次郎氏も駈けつけて参られた。
両手で尻を叩きながら、爺さんは慌てて裏庭へけだして行った。なにか不服なことがある時、両手で尻を叩くのは爺さんの癖なのである。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
あちこちまわり枠なぞを倒し、紙の張りある板何枚かをひっくり返して、その一枚を画架に載せ、箪笥を引開け、チョオクの入れある箱を
おつぎはだまつて草履ざうり脱棄ぬぎすてゝ座敷ざしきけあがつて、戸棚とだなからちひさなふる新聞紙しんぶんしふくろさがして、自分じぶんひらすこ砂糖さたうをつまみして
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
車掌が革包かばんを小脇に押えながら、帽子を阿弥陀あみだに汗をふきふきけ戻って来て、「お気の毒様ですがお乗りかえの方はお降りを願います。」
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
躊躇ためらっていたらしい静子が、信一郎の顔を見ると、艶然にっこりと笑って、はち切れそうなうれしさを抑えて、いそ/\とけ降りて来るのであった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
見ていた父も母も小作人の妻も、その方へけ寄って行きました。今でも息詰まるようなその一瞬間を、青年は忘れることができないのです。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
山西は石垣の上を右に左にけ歩いて、今に女の姿が見えるか見えるかと、水のおもてのぞきながら両手を腰にやって兵子帯へこおびを解き解きしていた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「御免」という挨拶だけを彼に残して、矢部は星だけがきらきら輝いた真暗なおもてへけ出すように出て行ってしまった。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それから舟を着けると、女は男の側へけ付けて、背後うしろから男の目隠しをして、「さあたれだか当てて御覧なさい」と云った。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
野猪ゐのしゝかたちぶた全身ぜんしん黒褐色こつかつしよくのあらいでおほはれてをり、くびみじかいのでけだすときゆうには方向ほうこうへられない動物どうぶつです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
矢田平のたて、長いのでは有名な方なるを、訥子とつしの勤むることなれば、見ぬ方大だすかりなり。宋蘇卿の最期にくる所も騒がしきだけなり。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
僕たちが研究室へ飛びこむと同時に、廊下のドアから、顔面蒼白そうはくの鰐博士がけこんで来、あとから黒い影が二つ、風のやうに押しこんで来た。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
やがて荒っぽい足音がきこえると、縁側から二階の梯子段はしごだんへむかっていたたまれぬようにけあがってゆく後姿が見えた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
あいちやんはこれを哄笑おほわらひしました、しかし其聲そのこゑきつけられては大變たいへんだとおもつていそいでもりなかもどりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
追っけてつかまえることも出来ない。お前さんはただ獲ものの出て来るのを、澄まして待っているのね。いつでもこの隅のところに坐っていてさ。