かど)” の例文
かえりに、女中が妙な行燈あんどうに火を入れて、かどまで送って来たら、その行燈に白いが何匹もとんで来た。それがはなはだ、うつくしかった。
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ここの勘定は半七が払って、三人は料理屋のかどを出ると、宵闇ながら夜の色は春めいて、なまあたたかい風がほろよいの顔をなでた。
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
横笛今は心を定め、ほとほととかどを音づるれども答なし。玉をべたらん如き纖腕しびるゝばかりに打敲うちたゝけども應ぜんはひも見えず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
口をそろえて、長屋の者、遠い旅立ちのかどでも見送るように、涙にくれるお綱をうながして、手を取らんばかり、否応いやおうなく外へ出る……。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
のべ用意ようい雨具あまぐ甲掛かふかけ脚絆きやはん旅拵たびごしらへもそこ/\に暇乞いとまごひしてかどへ立出菅笠すげがささへも阿彌陀あみだかぶるはあとよりおはるゝ無常むじやう吹降ふきぶり桐油とうゆすそへ提灯の
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ポン引というのはお客を釣ることで、ポッと出の田舎の人を釣るのだが、七兵衛さんは、かどに立って夕方になると、宿とまり客をひくのだ。
「當り前ですよ。錢形の親分は、どんなに捕物が名人でも、大名になつてくれとは言やしません。公方くばう樣だつて、おかど多いことだから」
僧衣を著けて托鉢たくはつにさへ出た。托鉢に出たのは某年正月十七日が始で、先づ二代目烏亭焉馬うていえんばの八丁堀の家のかどに立つたさうである。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
空屋か、知らず、窓も、かども、皮をめくった、面にひとしく、おおきな節穴が、二ツずつ、がッくりくぼんだまなこを揃えて、骸骨がいこつを重ねたような。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すそ海草みるめのいかゞはしき乞食こじきさへかどにはたず行過ゆきすぎるぞかし、容貌きりようよき女太夫をんなだゆうかさにかくれぬゆかしのほうせながら、喉自慢のどじまん腕自慢うでじまん
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かどの戸引啓ひきあけて、酔ひたる足音の土間に踏入りたるに、宮は何事とも分かず唯慌ただあわててラムプを持ちてでぬ。台所よりをんなも、出合いであへり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ただの昼間ばかりのかどつけとはちがって、彼らは是によって幾分か多くの収入を得、少なくとも寝食の入費を省き得たようである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
五日の月松にかかりて、朧々ろうろうとしたる逗子の夕べ、われを送りてかどに立ちで、「早く帰ってちょうだい」と呼びし人はいずこぞ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
新婦は首をりて、否々、かどの口をばえひらきはべらず、おん身のこゝに來給はんはよろしからずと云ひ、起ちてかなたの窓を開きつ。
重い重い不安と心痛が、火光あかりを蔽ひ、かどを鎖し、人の喉を締めて、村は宛然さながら幾十年前に人間の住み棄てた、廃郷すたれむらかの様に𨶑乎ひつそりとしてゐる。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
喬生は、その座下に拝して、かの牡丹燈の一条を訴えると、法師は二枚のあかをくれて、その一枚はかどに貼れ、他の一枚は寝台ねだいに貼れ。
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
妙なものですね。正直を言へば、お内のかどを通りながら、さう思ひましたよ。この内で己を泊めてくれるか知らと思ひましたよ。
その洋杖が土間の瀬戸物製の傘入かさいれに入れてあると、ははあ先生今日はうちにいるなと思いながら敬太郎は常に下宿のかど出入でいりした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
町のかどごとに立って胡弓きがひく胡弓にあわせ、鼓を持った太夫たゆうさんがぽんぽんと鼓をのひらで打ちながら、声はりあげて歌うのである。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「八つのかど」のそれぞれに「酒船さかぶねを置きて」とあるのは、現在でも各地方の沢の下端によくあるような貯水池を連想させる。
神話と地球物理学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
既に世の塵に立交らで法のかどに足踏しぬる上は、然ばかり心を悩ますべき事もまことは無き筈ならずや、といと物優しく尋ね問ふ。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
馬込緑ヶ丘、このかどのヒマラヤ杉、來て見れば木高こだかくなりぬ。夜寒にもはとぼりをり。人や來て住みつきたらし、わがごとやこもり息づく。
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
以前彼が江戸を去る時と同じように、引きまとめた旅の荷物は琉球りゅうきゅう菰包こもづつみにして、平兵衛と共に馬荷に付き添いながら左衛門町のかどを離れた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
此處ここらのうまだつてろえ、博勞節ばくらうぶしかどつあきでやつたつくれえまやなか畜生ちきしやう身體からだゆさぶつて大騷おほさわぎだな」かれひとりで酒席しゆせきにぎはした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
福包み(かや勝栗かちぐりなどを紙に包んで水引みずひきを掛けて包んだもの、延命袋えんめいぶくろのようなもの)などを附けてかど飾りにしたものです。
笑うかどには福来たるといいます。とかく腹を立てやすく、おこりながらに仕事をすると、仕事は少しも身になりません。
女中訓 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
朔郎 金でもやればすむのかも知れないが、こつちへ来るのは、ちつとおかど違ひだ。尤も書かれやうによつては、いゝ宣伝になるかも知れないさ。
ママ先生とその夫 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
夕暮時に脚立を担いだ点灯夫が、蝙蝠のやうに駆け廻つてを入れてゆくかど々の瓦斯灯オイル・ランプがもはや細々として今にも消えかゝりさうな時刻であつた。
サクラの花びら (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
そして私等はその年方々の取引先から贈られました団扇の中で一番気に入つたのをしまつて置いたそれを持つて、新しい下駄を穿いてかどへ出ます。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
と云っている処へ参りましたのは、あい衣服きものに茶献上の帯をしめ、年齢は廿五歳で、実に美しい男で、かどへ立ちまして
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
我国にて児童等こどもらが人のかど斗棒とぼうにてたゝき、よめをだせむこをだせとのゝしりさわぐは、右の風土記の俗習ぞくしふ遺事ゐじなるべし。
其に入りこみの多い池をめぐらし、池の中の島も、飛鳥の宮風に造られて居た。東のなかかど、西の中み門まで備って居る。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
魏法師は喬生に二枚の朱符しゅふをくれて、一つをかどに貼り一つをねだいに貼るように云いつけ、そのうえで二度と湖心寺へ往ってはいけないと云っていましめた。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「イヤそうでない、全くうまいものだ、これほど技があるなら人のかどを流して歩かないでも弟子でも取った方が楽だろうと思う、お前独身者ひとりものかね?」
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そこには、おおきな呉服屋ごふくやがありました。たり、はいったりする人々ひとびとで、そこのかどは、黒山くろやまのようにぎわっていました。
灰色の姉と桃色の妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
……明日もまた、からむし殻を焚いておそくまでかどに立ちつくすのかと思うと、それを見るのがいまから辛くてなりませんわ
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「それは、おかど違いじゃありませんかな。ここには人を置いたりしませんですよ。脊の低い身体の不自由な者なんて、一向心当りがございませんな」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
押しつまるにつれて店はだんだんせわしくなって来た。かどにはもう軒並み竹が立てられて、ざわざわと風に鳴っていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「そしたら、初ちやん、そつちの部屋からかど見張つてゝ、見えたら直ぐに知らしとくなはれ。頼みまつさ。………」
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
堺の豪商魚屋ととや利右衛門家では、先ず小僧が眼を覚ました。眠い眼を渋々こすりながら店へ行ってかどの戸を明けた。
郷介法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かどT. Hamashimaはまじまたけぶみ, としるしてあるのは此處こゝ案内あんないふと、見晴みはらしのよい一室ひとまとうされて
怪しき声してなき狂ひ、かどを守ることだにせざれば、物の用にもたたぬなれど、主人は事の由来おこりを知れば、不憫さいとど増さりつつ、心を籠めて介抱なせど。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
なるほど、あの和尚は、随分奇抜な風采ふうさいで人のかどに立つこともあるが、犬に吠えられたというためしを見なかった。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
廊下ろうかまがかどのところで、正吉は大人の人に、はちあわせをした。誰かと思えば、それはあい色の仕事服を着て、青写真を小脇に抱えているカコ技師であった。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それはおかどちがいでしょう、あなたたちの直系のものたちにやらせたらどうですか、というようないまいましい感を抱くのを禁ずる事が出来ず、逃げました。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
先日こなひだから門司へ写生に来てゐましたが、今日は一寸釣りに出掛けて、おかどを通り掛つたものですから……」
「およそ朝廷みかどの人どもは、あしたには朝廷に參り、晝は志毘がかどつどふ。また今は志毘かならず寢ねたらむ。その門に人も無けむ。かれ今ならずは、謀り難けむ」
(キリスト教と蛇とは仲がよくない)ドラゴンを踏まへてゐるのはイギリスのセントジヨージで、アイルランドのセントパトリツクでないことはかどちがひみたいだけれど
大へび小へび (新字旧仮名) / 片山広子(著)
「小僧のいふことは、誰の耳にもきこえないのだから、いくら大きな声をしたとて聞えない。もしかすれば、今じぶんおうちかどへきて立つてゐるかも知れない。」
大寒小寒 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
ということは、その空しい、白け切った、浮足立った感じの行きかいの中に、その花壇の菊のいろは褪せ、下葉は枯れ、茶屋々々のかどの番手桶の濡れは乾いていた。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)