見廻みまわ)” の例文
今まで無邪気に天空で戯れていた少年が人のいない周囲を見廻みまわし、ふと下をのぞいたときの、泣きだしそうな孤独な恐怖がれていた。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
鷲尾は礼を述べて赤ン坊を受取ると、いくらかラクになった気持で四辺あたり見廻みまわした。夜中ででもあるか、車内は眠ってる人が多かった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
男は助けを求めるようにあたりを見廻みまわした。「してくれ。そんな事を聞かないでくれ。そんなに人をいじめるものじゃない。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
一郎はさらに、天井を見廻みまわしたり、ジュウタンをめくって床板を調べたりしたが、秘密の出入口があるようにも見えなかった。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
奇妙な事に、リリーは窮屈なかごの中からぐには外へ出ようとせずに、不思議そうに首だけ伸ばしてしばらく室内を見廻みまわしていた。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
胆潰きもつぶれたれど心をしずめ静かにあたりを見廻みまわすに、流しもとの水口の穴より狐のごとき物あり、つらをさし入れてしきりに死人の方を見つめていたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
此樣こん工夫くふうをやるのだもの、この武村新八たけむらしんぱちだつてあんまり馬鹿ばかにはなりますまい。』と眞丸まんまるにして一同いちどう見廻みまわしたが、たちまこゑひくくして
兎は一息ひといきに、百ヤードばかり走りぬきました。そして、自分のまわりを見廻みまわしてみると、そこには、亀の姿すがたも形も見えないではありませんか。
兎と亀 (新字新仮名) / ロード・ダンセイニ(著)
同時に彼は物を落して驚いたようなふうをして、その四辺あたりをきょろきょろと見廻みまわし、やっとそれを敷石の上に見つけたようにして急いで拾った。
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
余は今車の上から見廻みまわして、当年のわびしい記憶を喚起よびおこそうとしたが、明治四十三年の旭川から七年前の旭川を見出すことは成功しなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
小初は、み台のやぐらの上板に立ち上った。うでを額にかざして、空の雲気を見廻みまわした。軽く矩形くけいもたげた右の上側はココア色に日焦ひやけしている。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「そう。これがそんなにあなたに気に入って?」お宮は乳のまわりを見廻みまわしながらそういって、柳沢の方を見守りつつ
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
役員のひとりで、豪放磊落ごうほうらいらくなG博士が肩幅かたはばの広い身体からだをゆすりあげ、設けの席につくと、みんなをずっと見廻みまわしたのち
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
それはさておき、一同がおとし穴に気をとられているとき、キョロキョロとあたりを見廻みまわしていた牛丸平太郎が、突然とつぜん
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何時間なんじかんかじっとすわって様子ようすていましたが、それからあたりを丁寧ていねいにもう一ぺん見廻みまわしたのちやっとあがって、今度こんど非常ひじょうはやさでしました。
二人が門へはいった時、省作はまだ二人の来たのも気づかず、しきりに本堂の周囲を見廻みまわし堂の様子を眺めておった。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
殊更うれいを含む工合ぐあい凄味すごみあるに総毛立そうけだちながらなおくそこら見廻みまわせば、床にかけられたる一軸たれあろうおまえの姿絵ゆえ少しねたくなって一念の無明むみょうきざす途端
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それでもKの身体からだちっとも動きません。私はすぐ起き上って、敷居際しきいぎわまで行きました。そこから彼の室の様子を、暗い洋燈ランプの光で見廻みまわしてみました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「何にしようか」と見廻みまわすと、いろいろなものの名前を書いた白い紙片が、たくさんぶら下っていた。その中に「メロン五十せん」と書いたのがあった。
寺田先生と銀座 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
咆哮ほうこうし終ってマットン博士は卓を打ち式場を見廻みまわしました。満場しんとして声もなかったのです。博士は続けました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ゆめからゆめ辿たどりながら、さらゆめ世界せかいをさまよつづけていた菊之丞はまむらやは、ふと、なつ軒端のきばにつりのこされていた風鈴ふうりんおとに、おもけてあたりを見廻みまわした。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
これはすごいね、このままケズらず載せたものかね、と見廻みまわすと、真杉静枝が間髪かんはつれず、ケズることないわ、ホントにそう言ったのですもの、と叫んだ。
二十七歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
男はそう答えながら、ぶらぶらと、老百姓が田を見廻みまわってでもいるかのように、暢気そうに歩きだした。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「はてな、今日はもうだれほかの蟹が来たかしら?」と、見廻みまわしてみても、他に蟹は一ぴきもおりません。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
そのうちに彼の一人が子路の服装ふくそうをじろじろ見廻みまわし、やあ、これが儒服というやつか? 随分ずいぶんみすぼらしいなりだな、と言った。長剣がこいしくはないかい、とも言った。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
(驚きて四辺あたり見廻みまわす。画室のちり一本もなきように綺麗に掃除しあるに心付く。)うむ、なるほど。
貸金かしきんとりたて、みせへの見廻みまわり、法用はうようのあれこれ、つき幾日いつか説教日せつけうびさだめもあり帳面ちやうめんくるやらけうよむやらくては身體からだのつゞきがたしと夕暮ゆふぐれの縁先ゑんさきはなむしろをかせ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
日に都合四度ずつ竹のつえをついて庭を見廻みまわる振りをして、人知れず植込みの奥にを光らせてはいって行き、その隠し場所の安泰をたしかめ、私がまだ五つ六つの時分は
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
一心に沖を見ていた為吉は、ふと心づいてあたりを見廻みまわしました。浜には矢張やはり誰もいませんでした。何の物音もなく、村全体は、深い昼寝の夢にふけっているようでした。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
アリョーシャはあたりを見廻みまわした。それから眼をとても大きくして、彼の耳にささやいた。
小波瀾 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「いったいこりゃどこへ置いたもんだろう?」血塗ちまみれになって正気を失っているマルメラードフが部屋の中へかつぎ込まれたとき、巡査の一人はあたりを見廻みまわしながら、こう尋ねた。
何か民さんにさせる仕事はないかと、彼は彼の庭をぐるぐる見廻みまわしたが、植木も石も入れる余地もなく、職人をつかって重い石の据附すえつけ監督かんとくをする気なぞ、もう頭のどこにもなかった。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
なんのためだか知らないが僕はあっちこちを見廻みまわしてから、誰も見ていないなと思うと、手早くその箱の蓋を開けて藍と洋紅との二色ふたいろを取上げるが早いかポッケットの中に押込みました。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
猟人「たしかこの辺へ逃込んだがなあ」(独語ひとりごとをしながら四辺あたり見廻みまわす)
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
その夜中、一度わたしはロボのほえ声を聞いたように思った。が、しかとしなかった。翌日よくじつ私は早く見廻みまわりに出かけた。しかし百三十個も飛び飛びにわなを見まわるので、北の谷間を残して日がれた。
念のために川の上下かみしもを一わたり見廻みまわろうか。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やな見廻みまわつて口笛吹くや高嶺晴たかねばれ
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
こんな事を考えながら女は寐入ねいってしまったが、ある一刹那せつなにその眠りが突然めた。あたりを見廻みまわせば、ほとんど真っ暗になっている。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
そばの五六人が、パタ、パタと立上った。向うから、見廻みまわりの『組長』たちが、肩章をヒラつかせて三人ばかりでやって来た。
工場新聞 (新字新仮名) / 徳永直(著)
一片いつぺんのパンも一塊いつくわいにくもなきこのみじめな艇中ていちう見廻みまわして、ふたゝわたくしかほながめた姿すがたは、不憫ふびんともなんともはれなかつた。
一月十日 午前運動のめ亀井戸までゆき。やや十二時すぐる頃かえって来ると。妻はあわてて予を迎え。今少し前に巡査がきまして牛舎を見廻みまわりました。
牛舎の日記 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
それは夜の九時過ぎまでも明るい欧洲の夏の夕暮に似ていると、かの女はあたりを珍しがりながら、見廻みまわしている。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そのあいだに二度ほど、梯子段はしごだんをギシギシいわせて、階下から見知らぬ大男が、監禁者を見廻みまわりにやってきた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その時の私がもしこの驚きをもって、もう一返いっぺん彼の口にした覚悟の内容を公平に見廻みまわしたらば、まだよかったかも知れません。悲しい事に私は片眼めっかちでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
若い大工がかなづちをこしにはさんで、もっともらしい顔をして庭のへいや屋根を見廻みまわっていたがね、本当はやっこさん、僕たちの馳けまわるのが大変面白かったようだよ。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
円盤えんばんの石見嬢が残っていましたが、石見さんもみんなのにわかに席から立ち去ってしまったのにおどろくと、きょろきょろあたりを見廻みまわして、初めてあなたとぼくに気づくと
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
ことに今、母はお浪の源三を連れて帰って来たのを見て、わたしはちょいと見廻みまわって来るからと云って、少しはなれたところに建ててある養蚕所ようさんじょ監視みまわりに出て行ったので
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
川北先生はその間、部屋をぐるぐる見廻みまわしていた。そのとき先生が入口の扉の方へ眼をやったとき、暗い廊下からこっちをのぞきこんでいる背の低い洋装の少女があった。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
最初さいしょにおむらが、こえをかけた。が、菊之丞きくのじょうこころには、こえぬしだれであるのか、まだはっきりうつらなかったのであろう。きょろりと一見廻みまわしたきり、ふたたじてしまった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
蟹はふしぎそうに見廻みまわしますと、そこに一本の樹があって、それに実がなっております。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)