裏口うらぐち)” の例文
うすもころがしてました。おもちにするおこめ裏口うらぐちかまどしましたから、そこへも手傳てつだひのおばあさんがたのしいきました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
裏口うらぐちからはいってきた卜斎ぼくさいであった。と——一しょに、ドカドカとやりや刀や鉄棒てつぼうをひっさげた武士ぶしのすがたが、庭へあふれこんできた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宗助そうすけ浴衣ゆかた後影うしろかげが、裏口うらぐちところへてなくなるまで其處そこつてゐた。それから格子かうしけた。玄關げんくわんへは安井やすゐ自身じしんあらはれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かりはたらかせしが其の夜はおそなりしかば翌朝かへしけるにはや辰刻頃いつゝごろなるに隱居所の裏口うらぐちしまり居て未だ起ざる樣子なれば大いにあやし何時いつも早く目を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ねこは、ようやくにしてあやういいのちをおばあさんにたすけられました。おばあさんは、ねこのきそうなさかなをさらにいれて裏口うらぐちいてやりました。
おばあさんと黒ねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
台所のはうはしつて来た貢さんは、其処に阿母さんが見えないので、草履を穿いて裏口うらぐちから納屋のうしろへ廻つた。阿母さんは物干竿ものほしざをに洗濯物を通して居る。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
それで、とうとうこっそり裏口うらぐちのご門からけ出して、沙本毘古さほひこのとりでの中へかけつけておしまいになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
おやとおもふと、灰色はひいろひらきいて、……裏口うらぐちですから、油紙あぶらがみなんからかつた、廊下らうかのつめに、看護婦かんごふつて、ちやう釣臺つりだい受取うけとところだつたんですつて。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
師匠の家にも三毛猫が一匹いるが、裏口うらぐち合せの長屋ながやの猫がたちが悪く、毎度こちらの台所を荒らすところから、疑いはその猫に掛かっている様子であります。
とぴよこ/\出掛でかけましたが、おろかしいゆゑ萬屋よろづや左衛門ざゑもん表口おもてぐちから這入はいればよいのに、裏口うらぐちから飛込とびこんで、二ぢう建仁寺垣けんねんじがき這入はいり、外庭そとにはとほりまして、漸々やう/\庭伝にはづたひにまゐりますと
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
とたぬきはいながら、大きなしっぽをして、裏口うらぐちからついとげていきました。
かちかち山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
私は寝ている娘を起して留守番るすばんをさせ、すぐ外套がいとうをひっかけて出ていった。F病院の表戸はもうしまっていたので私は裏口うらぐちへまわり、足音をしのばせるようにして二階の病室へあがった。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
雨雲の隙から、星の濡れた光をおとしてゐる空を仰ぎながら、杉田がN—子と坂の下の闇がりに待つてゐると、I—子はすつかり戸締りをして裏口うらぐちの方から、家主の庭を突つきつて来た。
草いきれ (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
このとき、病院の青白き裏口うらぐちの戸に佇める看護婦は
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
こめのろくれんと三郎兵衞の人形ひとがたこしらへ是へくぎうつて或夜三郎兵衞が裏口うらぐちよりしのび入り居間ゐまえんの下にうづめ置是で遺恨ゐこん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
呼出よびだしをけるの、勝手かつてつた裏口うらぐち𢌞まはつて、垣根かきねからのぞくと、長閑のどか障子しやうじけて、背戸せどにひら/\と蝶々てふ/\ぶのをながら、かべくろ陰氣いんき納戸なんど
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お濱さんは裏口うらぐちから廻つて、貢さんの居間ゐまえんに腰を掛けて居た。眉のうへで前髪を一文字にそろへて切下げた、雀鬢すゞめびん桃割もヽわれに結つて、糸房いとぶさの附いた大きいかんざしを挿して居る。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
一寸ちよつと失禮しつれいします」とつて、自分じぶんだけ裏口うらぐちはうまはつたが、やがておくから
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いま、ようやくうちひとたちはきました。そして、勝手かってもとでガタガタおとをさせています。いま、ろうそくにけて、裏口うらぐちほうてゆきます。きっとうまにまぐさをやるのでしょう。
ものぐさなきつね (新字新仮名) / 小川未明(著)
ヘヽヽ御冗談ごじようだんばかり……へえ成程なるほど……えゝ予々かね/″\天下有名てんかいうめいのおかたで、大人たいじんいらつしやるとことぞんじてりましたが、今日けふ萬屋よろづやうちはじめてくのだから、故意わざ裏口うらぐちからお這入はいりになり
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
おろしありしかば甚兵衞勝手はかねて覺え居れば今日こそ好機よきをりなれと裏口うらぐちまはり水口をおして見ればあんの如く掛錠かけがねけざる樣子故シテやつたりとついと入り居間ゐま箪笥たんす
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
元気の無ささう顔色かほいろをして草履を引きずり乍ら帰つて来た貢さんは、裏口うらぐちはいつて、むしつた、踏むとみしみしと云ふ板ので、雑巾ざふきんしぼつて土埃つちぼこりの着いた足を拭いた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
ちやうひとみはなして、あとへ一歩ひとあし振向ふりむいたところが、かは曲角まがりかどで、やゝたか向岸むかうぎしの、がけうち裏口うらぐちから、いはけづれるさま石段いしだん五六段ごろくだんりたみぎはに、洗濯せんたくものをしてむすめが、あたかもほつれくとて
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わたしは、あかいほうせんかのいている裏口うらぐちをはいって、元気げんきよく
白壁のうち (新字新仮名) / 小川未明(著)