)” の例文
かりに帝堯ていぎょうをして今日にあらしめなば、いかに素朴節倹なりといえども、段階に木石を用い、おくもまた瓦をもってくことならん。
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
大窪の泉と云つて、杉の根から湧く清水を大きい据桶に湛へて、雨水を防ぐ為に屋根をいた。町の半数の家々ではこの水でめしかしぐ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
わたしは親方のかたに上って、屋根にいてあるえだたばの中を探してみた。二度も三度もんでみた。けれどもなんの返事もなかった。
ここははり別所べっしょというところの山の奥の奥。谷合たにあい洞穴ほらあなへ杉の皮をき出して、鹿の飲むほどな谷の流れを前にした山中の小舎こや
本堂の屋根のき替えから大太鼓の寄付まで何くれとめんどうを見てくれたことのあるのも、伊之助の養父金兵衛だからである。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
草庵というのも、び住んだ庵で、必ず草でいた庵ではなく、草家くさやというのも必ず草で葺いた家ではない。草戸もそれと同じ事である。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
旗の竿さお幡桙はたほこというのもその一つの例であり、草屋根くさやねくのにつかう棒にも、隅ぼく・縫いぼくなどといろいろのボクがある。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
荒れ果てた法勝寺のゆかをつくろい、屋根のかやいて、そのわきに、べつに粗末な一庵を建てて、やがて、朝夕ちょうせき勤行ごんぎょうの鐘も聞えだした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
町の中で降らなかつたのに、石庭を圍うてゐる土塀の六枚下ろしにいた瓦の上に、程よろしく新しい雪が鱗形に殘つてゐた。
京洛日記 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
例年のきく端午の菖蒲しょうぶまず、ましてや初幟はつのぼりの祝をする子のある家も、その子の生まれたことを忘れたようにして、静まり返っている。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ぶりき板の破片や腐つた屋根板でいたあばらは数町に渡つて、左右さいうから濁水だくすゐさしはさんで互にその傾いたひさしを向ひ合せてゐる。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
けれども煉瓦が積んであるだけで屋根もいてなければ窓硝子まどガラスもついてない。足場に使った材木さえ処々に残っているくらいの半建はんだてである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒ずんでいて、今にも倒れそうになっており、壁は格子になってはいたが、屋根がいてあって、まだ雨露をしのぐことができそうである。
樺林かばばやしひらいて、また一軒、熊笹と玉蜀黍とうもろこしからいた小舎こやがある。あたりにはかばったり焼いたりして、きびなど作ってある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
もつと便たよりよきはとしこそつたれ、大根だいこんく、屋根やねく、みづめばこめく、達者たつしやなればと、この老僕おやぢえらんだのが、おほいなる過失くわしつになつた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
毎年まいねんれがすむと、やはりいへつくりかへ、あるひ屋根やねへたりして、おなじく、新室にひむろのうたげをおこなひました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
同じ檳榔樹びんろうじゅの葉を壁代りに、椰子やしの葉骨で屋根をいた土民の家であっても、巫女のそれは屹立するように破風が高く、がっているのである。
蒐集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
車庫といっても今日のように立派な鉄板でかれたものではなく、何だか原っぱに、電車が置きっぱなしになっている感じのするものであった。
四谷、赤坂 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
前も後も急峻な樹木の山、この山に挟まれ渓流に向った一軒家、木材だけは巌丈がんじょうなものを用いて、屋根も厚くいてある。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
かつて天皇の行幸に御伴をして、山城の宇治で、秋の野のみ草(すすきかや)を刈っていた行宮あんぐう宿やどったときの興深かったさまがおもい出されます。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
しかし大谷附近に行ってみると、蔵はほとんどこの大谷石の建物であって、かつ同じ石で屋根をいたものが甚だ多い。
野州の石屋根 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
山陰道筋の鉢屋をとまとも、かまとも云ったのは、薦を携帯しているが故に薦僧であり、またその薦を苫として小屋がけの屋根をくが故に苫と云い
そこにはかわらいたばかりでそのままになっている建てかけの家があった。菊江はその建物の中に隠れるつもりかそのままその陰へ入って往った。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一軒いっけんの旅館があります。そしてその真向いに、大きな馬車小屋があります。小屋の屋根はちょうどいたばかりでした。
これは、草にかれた自分の小屋ではなかった、と、しばらく考えて、それから独りうなずくのだ。いくど、この錯覚におそわれたことであろう。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
十坪の庭まわりに板塀いたべいがあり、屋根は杉皮でいてある。建物は古く、風雨にさらされてしらちゃけ、はしゃいで、木理が彫ったように浮き出ている。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
三方が窓で、勾配こうばいのついた天井を結晶ガラスでき、レモン色のカーテンが、自在に動くような仕掛けになっている。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
農家は小ざっぱりと、趣深く建てられ、そして大きないた屋根があるので絵画的であった。時々お寺やお社を見た。
むしろなどしきちらして、郵便配達夫までが仰向けに昼寝している。そのそばに杉の皮でいた風流な門があった。額には青い字で掬水園きくすいえんと題してあった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
しかも二本の烟突は五六けん位離れて相並んで石油かんのブリキ板でいた平たい小屋の頭からにょきりと突出ていた。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かようなおほきいかはら屋根やねくにはおもすぎるので、のちにはかるかはらつくるようになつたことゝ、瓦師かはらしもなるだけやすいものをたくさんにつくらうとしたので
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
太平洋の濤に囲まれた小さな島の・椰子の葉でいた土民小舎の中で、家の周囲まわりにズシンと落ちる椰子の実の音を聞いている時に、突然思出されたものか。
屋根だけいた車庫グラアジが怪物のような口をあけて中には立派なイスパノスイザが灰色の胴体に月光を浴びていた。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
朱の柱の上に五色の瓦をいた屋根、それに陽が映えた色彩の美事さもあることであったが、五亭橋の上にあがっての遠望は、まさに好個の山水図であった。
中支遊記 (新字新仮名) / 上村松園(著)
暑くないやうに、一ところとまいてあつて、其処そこに長火鉢や茶箪笥が置いてある。炭取には炭が入れられてある。いつでも茶位入れられるやうになつて居た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
眼の前にぐいと五大力のとまいたへさきが見え、厚く積った雪の両端から馬の首のように氷柱つららを下げている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それは緑色の雨戸のついた、小さい白い海水浴旅館だった。一団の低い家々の真ん中にあって、木でいた塔が、砂浜とスウェエデンの海岸とを見渡していた。
いそに漂着ひょうちゃくしたる丸太や竹をはりけたとし、あしむすんで屋根をき、とまの破片、藻草もぐさ、松葉等を掛けてわずかに雨露あめつゆけたるのみ。すべてとぼしく荒れ果てている。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ことに、そういう仕事に用いることで、これから先の生活にどんな必要であるかもしれない道具が破損することを、恐れねばならなかった。屋根は、唐竹でいた。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そして何処どこやらに唐風からふうなところがあります。ずその御門ごもんでございますが、屋根やね両端りょうたん上方うえにしゃくれて、たいそう光沢つやのある、大型おおがた立派りっぱかわらいてあります。
かわらき土を塗り固めたお倉でございますので、まあ此度このたび大事だいじはあるまいと、太閤たいこうさまもこれには一さい手をお触れにならず、わざわざこのわたくしを召出されて
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
椰子やしの葉でいたひさしの下で、ぼろぼろのお米をみしめて、一晩じゅう発達した性技巧をろうして、そのお米の数ほども多い子供を産んで、つまり、一口には、皆がみな
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
丸太を組合せて骨を造り、赤土をねて壁を塗り、近所から麦藁を譲つてもらつて、屋根をいた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
タメルランののち哈里ハリ(Hali)雄志ゆうし無し、使つかいあんに伴わしめ方物ほうぶつこうす。六年、白龍庵さいあり、程済ていせいつのく。七年、建文帝、善慶里ぜんけいりに至り、襄陽じょうように至り、てんかえる。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かれ粟幹あはがらげられたぎのから二三にち近所きんじようまりてそばはたけからつち運搬けた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
勾配こうばいの急な、全体の高さの半分以上もあるかと思われる、赤いスレートでいた屋根。マッチの箱のように白い壁で包んだ外側。ところどころに切ってある長方形のガラス窓。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
屋根は巻き上った長い耳のある瓦でいてある。建物の木造部はどこも皆黒ずんだ色で、それにはたくさん彫刻がしてあるが、その彫刻の模様はほんのわずかしか違っていない。
鐘塔の悪魔 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
道をへだてて井戸があり、そばに屋根をかやいた庵室といったかたちの小さなうちがあった。さし木のような柳がその門に枝を垂れ、おどろに雑草がそのあたりを埋めていた。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
ささやかな地蔵堂が建ててあり、屋根だけいた、怪しい崖の上に、三体の石地蔵様がましまし、その一番大きい中の一体が、崖の下に転がり落ちて、巴屋の主人の山三郎の身体を
兄弟は二、三人の仲間が来ていて、鳩の部屋にトタンで屋根をいた。老人は鳩笛を作ってみようと思った。野桜のことを思い出した。野原にも、池のほとりにも、野桜は見える。
老人と鳩 (新字新仮名) / 小山清(著)