ふし)” の例文
モミの木からは、毎年毎年新しい芽がでて、のびていきますから、そのふしの数をかぞえれば、その木がいくつになったかわかるのです。
見慣みなれない小鳥ことりみょうふしまってうたをうたっていました。むすめは、いままでこんな不思議ふしぎうたをきいたことがありません。
ふるさとの林の歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
どうもそうでないらしいふしがあり、事実は一種の精神病で、忰の顔を見ても忰ということが分らないと云った風な性質のものらしい。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
又は呉青秀を慕う芬女の熱情が、思う男の手にかかって死んだ姉の身の上を羨ましがる位にまで高潮していたと認められるふしもある。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今日もらった手紙によるとだいぶ神経衰弱ではないかと思われるふしがあるのですが……つまり元素変換の実験について疑問を起し
宇宙爆撃 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
中流より石級の方を望めば理髪所の燈火あかり赤く四囲あたりやみくまどり、そが前を少女おとめの群れゆきつ返りつして守唄もりうたふし合わするが聞こゆ。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いまネ、鴨下ドクトルの邸に、若い男女が訪ねてきたそうだ。ドクトルの身内のものだといっているが怪しいふしがあるので、保護を
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
御経おきやうふしをつけて外道踊げだうをどりをやつたであらう一寸ちよツと清心丹せいしんたんでも噛砕かみくだいて疵口きずぐちへつけたらうだと、大分だいぶなかことがついてたわ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さま/″\の聲下界にてうるはしきふしとなるごとく、さま/″\のくらゐわが世にてこの諸〻の球の間のうるはしきしらべとゝのふ 一二四—一二六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
勿論あの女には、既往において婦人科的手術をうけた形跡がないばかりでなく、中毒に対する臓器特異性を思わせるふしもないのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
公使アールコツクが日本国民の霊場として尊拝そんぱいする芝の山内さんないに騎馬にて乗込のりこみたるが如き言語ごんごに絶えたる無礼なりと痛論したるふしもある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
牛にこういう鋭敏な感覚があるのは、ちょっと考えると不思議なようであるが、人間の感覚はもっと鋭敏とおもわれるふしがある。
十人は翡翠ひすいはすの花を、十人は瑪瑙めのうの牡丹の花を、いずれも髪に飾りながら、笛や琴をふし面白く奏しているという景色なのです。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
といって、がって、おうぎをつかいながらいをいました。四天王てんのうこえわせて拍子ひょうしをとりながら、ふしおもしろくうたうたいました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
が、その程度のつぐなひとして充分あの時追悼ついとうはしてやつた——彼はまた幾らか奉公人に酷な所もなかつたかと省みられるふしもないではない。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
『悪意にお執りなされては、内匠頭、当惑仕とうわくつかまつりまする。至らぬかど、不束ふつつかふしは、何とぞ、仮借かしゃくなく、仰せくだされますように』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俺が酔興すいきょうであんな軽業をさせるんじゃねえと思うふしもあるだろう……おやおや、役人が大勢来やがったな、あ、百の野郎を引き上げたな。
ふと麥藁むぎわらにはかなら一方いつぱうふしのあるのがります。それが出來できましたら、ほそはう麥藁むぎわらふと麥藁むぎわらけたところへむやうになさい。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それは倉地が葉子のしつっこいいどみと、激しい嫉妬しっとと、理不尽な疳癖かんぺきの発作とを避けるばかりだとは葉子自身にさえ思えないふしがあった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
盲目娘は編み物の針を運びながら、あるうたふしを小声で歌っていた。その節は、クリストフに種々の古い事柄を思い起こさした。
絹の絲車は今迄は工合よくまはつて來た。しかしやがてふしだの、もつれだのが來るだらうとはいつも知つてゐた。今のがそれだ。
彼は、背丈は、京一よりも低いくらいだったが、頑丈で、腕や脚がふしこぶっていた。肩幅も広かった。きかぬ気で敏捷だった。
まかないの棒 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
それをじっと聞いていますと、みょうなふしをつけて、だれかがものをいっているように感じられ、時計の音さえきみ悪くなってくるのです。
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
鳥羽は道円に舟で饗応きやうおうせられたことなどがあるから、果して道円が毒を盛つたとすると、鳥羽に疑はしいふしがないでもないが
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
半七は家主に逢って、売卜者のふだんの行状などに就いて問い合わせたが、庄太からきのう聞いた通りで、別に怪しいようなふしもなかった。
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一目見て何か変に思われるふしがあったにせよ、お前のいつもの流儀で、あまり性急に気短かな判断をなさらぬように願います。
遠くの方から飴売あめうり朝鮮笛ちょうせんぶえが響き出した。笛のは思いがけない処で、妙なふしをつけて音調を低めるのが、言葉にいえない幽愁をもよおさせる。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
成程なるほどいてれば、わたくしおもあたふしいでもない。また、海賊船かいぞくせん海蛇丸かいだまる一條いちじやうについては、席上せきじやういろ/\なはなしがあつた。
二幕目に大薩摩おおざつまがあって、浮舟の君と匂う宮のすだまとの振事ふりごとじみたところがあると、急に顔色がうごいて、ふしをつけて朗読なさりはじめた。
古い暦:私と坪内先生 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ふしをつけてどなりました。浪花節のような太い声は、山の向こうでも聞こえたろう、と思われるくらいよくひびきました。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
ふしのない鼻唄をくちずさみましたが、凄い相手に、自分といふものの存在を教へてゐるやうな氣がして、それもフツツリ止してしまひました。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
ひなびた歌の掛け声である。永遠を思わせるような単調なふし、森の木立に反響し、「エ——、エ——、エ——」と返って来る。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、突然、私たちの前面の樹立の真中から、力のない、高い、震え声で、ふしも文句もよく知っているあの唄を歌い始めるのが聞えて来た。——
「ほほほほほ、そこんとこのふしまわしが、ちがうわ。あ、た、いのウであがって、ちゃんはアってさがるのよ。小父おじちゃんのは、それじゃ逆だわ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この女が最近土耳其トルコから帰つたばかしの男の友達と何処かで会つた。男は色々いろんな面白い旅行話を聞かせた後、指のふしをぽき/\鳴らしながら
その話は人に物の哀を感ぜさせ、興味を催させ、道義の念を感発せしむるふしの頗る多い話であつた。己はその話をこゝに書かずにはゐられない。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
お婆さんは布団の中から、痩せた青筋のふしくれだった大きな手を出したが、手はなかなか伸びそうもない。手よりも先に、あごの方が出て行った。
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
彼の指は細く長く、ふしくれていた。両手で頭をかかえると、両手の中に顔全体がおさまるぐらい、彼の顔は小さかった。セムシ詩人は立上った。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ジェリーはちょうど指のふしで触れられるだけの幅のひたいをしていた。それで彼はこの通牒と一シリングとを受けたしるしに指の節を額に触れた
なん審問しんもん?』あいちやんはあへぎ/\けました、グリフォンはたゞ『それッ!』とさけんだのみで、益々ます/\はやはしりました、かぜうたふし、——
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
単純な組合せは三人で一人が行司ぎょうじ、数を当てられた児が次の馬になることは普通で、ただ問答の文句とふしとが、土地ごとに少しずつちがっている。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
御者は何の答えもせず、ただラ・パリス(訳者注 素朴な小唄)のふしを口笛で吹いて、馬にむちを当てて行ってしまった。
海から細く入江になっていて、伝馬てんまはしけがひしひしとへさきを並べた。小揚人足こあげにんそくが賑かなふしを合せて、船から米俵のような物を河岸倉かしぐらへ運びこんでいる。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
私自身にも不満足を感じる点もあると何かの場合におらしになるが、私らとしてもそう思われるふしがないでもない。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
しらみひねる事一万疋に及びし時酒屋さかや厮童こぞうが「キンライ」ふしを聞いて豁然くわつぜん大悟たいごし、茲に椽大えんだい椎実筆しひのみふでふるつあまね衆生しゆじやうため文学者ぶんがくしやきやう説解せつかいせんとす。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
何やら訳のわからぬ言葉を妙なふしまわしで唱えていたかと思うと、私たちには物も言わずにこんどは水掛地蔵の前へ来て、目鼻のすりへった地蔵の顔や
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「ポローニヤス、重大な事ですよ。浮薄な言動は、つつしみなさい。たしかに、信ずべきふしが、あるのですか?」
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
つれなき人に操を守りて知られぬふしたもたんのみ、思へば誠と式部が歌の、ふれば憂さのみ増さる世を、知らじな雪の今歳も又、我が破れ垣をつくろひて
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もくしてわかることはその性格においてドラマチックのふしのなきことで、この点が同じ米国人でありながら、ルーズヴェルトとは大いに性格をことにしている。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
竿というものは、ふしと節とが具合よく順〻に、いい割合を以て伸びて行ったのがつまり良い竿の一条件です。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)