睡眠ねむり)” の例文
それからそれへと種々なことを思つてゐる中に、かれはいつとなく睡眠ねむりの襲つて来るのを感じた。そのまゝぐつすりと寝込んで了つた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
峠の中腹と覚しい辺りから虚空こくうに高く一条の烽火のろしが金竜のように昇ったかと思うと再び前の静寂に帰り谿谷は睡眠ねむりに入ったらしい。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「かくの如く人もね臥してまた起きず、天の尽くるまで目覚めず睡眠ねむりを醒まさざるなり」とは、死後陰府よみにおける生活を描いたもので
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
飮居たりしが其中に年の頃六十餘と見ゆる老人らうじん獨酌どくしやくにて一二合飮て其後代錢は拂ひたれども酒のゑひまはりしにやしきりに睡眠ねむり居たるが不※ふと
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そして勝代が出て行った後で、まだ見たこともない女と自分とが、この二階にすまうことを、夢のように感じながら、ぐっすり睡眠ねむりおちいった。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
暗い蚕棚かいこだなと、襲うような臭気と、蚕の睡眠ねむりと、桑の出来不出来と、ある時はほとんど徹夜で働いている男や女のことを想ってみてもらわなければ
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いまや夜が、それを平和な睡眠ねむりのなかへつゝまうとするとき、そのどれもが、つぶに肖た灯を点けたまんま…
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
瞬間の睡眠ねむりから醒めた心地で、ぐるりと後ろの方を向くと家が在り、若い女がしきりとはたを織っている。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
かれが再び卓についたときに、睡眠ねむりよりもっと静かな娘のこえがこの二人の前にいくども囁やかれた。
みずうみ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
る、かれはランプをして寐室ねべやつた。が、奈何どうしても睡眠ねむりくことは出來できぬのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
これにれるひとみづから睡眠ねむりもよふすほどの、だらりとした心地こゝち土地柄とちがらせいでもあらう。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
雲霧は山につきものであり、塵埃は都の屬物つきものであるが、萬丈の塵は景氣が好い代りに少し息苦しい。山の湖の霧は凉やかでこそあれ、安らかに吾人の睡眠ねむりを包んでくれた。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
で、たれこめた沈默が今またやしきの中を支配してしまふと、もう一度睡眠ねむりが私に歸つて來るのが感じられたけれども所詮しよせんその夜は眠るやうに運命づけられてはゐなかつたのだ。
『イエ、このはよくねむりましたが、わたくしふねれませんので。』とこたふ。さもありぬべし、ゆきあざむほうへん幾分いくぶん蒼色あをみびたるは、たしかに睡眠ねむりらぬことしようしてる。
うす蒲團ふとんにくるまつて百姓等ひやくしやうら肌膚はだには寒冷かんれいがしみ/″\ととほつて、睡眠ねむりちてながら、すべてがあごおほふまでは無意識むいしき蒲團ふとんはしいてもぢ/\とうごころであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
なかには幾年いくねんいくねんながなが睡眠ねむりをつづけているものもまれにはあるのでございます。
睡眠ねむりは覚めたろう。翼を鳴らせ、朝霜に、光あれ、力あれ、寿いのちながかれ、鷭よ。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
銀座あたりをおそくまでのそのそとほっつき歩いた疲労つかれから、睡眠ねむりも思ったよりむさぼり過ぎたためか、妙に今朝の寝醒ねざめはどんよりとしていたので、匆々そうそうタオルと石鹸を持って飛び込んで来たのだった。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ああ死よ、睡眠ねむり
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
銀之助は直にもう高鼾たかいびき。どんなに丑松は傍に枕を並べて居る友達の寝顔を熟視みまもつて、その平穏おだやかな、安静しづか睡眠ねむりを羨んだらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
睡眠ねむりはとらなければならないだろう。しかし眠りはまどかではあるまい。だが彼は疲労つかれていた。間もなく眠りに入ったらしい。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何時もならば、目を閉ぢると直ぐに睡眠ねむりに落ちるのだが、今夜は慣例を破つて、まだ眠氣の催さぬさきに炬燵を離れたゝめか、頭が冴えて眠付ねつきが惡かつた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
る、かれはランプをして寐室ねべやった。が、どうしても睡眠ねむりくことは出来できぬのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
取直してこゝろよくさしさゝれつのみたりしが何時しか日さへ暮果くれはてて兩人共睡眠ねむりの氣ざしひぢまくらにとろ/\とまどろむともなしに寢入ねいりしが早三かうころ靱負は不※ふと起上おきあがり其のまゝ爰を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その風音にあやされて、私は、つひに、睡眠ねむりに落ちた。大して寢ないうちに、急な停車が、私を目醒めざめさした。馬車のドアが開いた。召使ひふうの者が、ドアのところに立つてゐた。
火夫くわふ船丁等ボーイら周章狼狽しうしようらうばいまでもない、其内そのうち乘客じやうきやく※半くわはん睡眠ねむりよりめて、何事なにごとぞと甲板かんぱんはしでんとするを、邪魔じやまだ/\と昇降口しようかうぐちへんより追返おひかへさんとひしめく二三船員せんゐんこゑきこえる。
睡眠ねむり安息あんそくだ。自分じぶんねむることがなによりきである。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そなたの睡眠ねむりは、夜つぴて白く窓をめる
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
みなにが睡眠ねむりちた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私の睡眠ねむりの底には
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
飲むと、地獄の底へでも引き込まれるようににわかに深い睡眠ねむりに誘われ、そのまま昏々睡ったが最後、明けの光の射す迄はかつて眼を覚ましたことはない
赤格子九郎右衛門の娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
承知して居乍ら、働く気が無くなつて了つた。あゝ、朝寝の床は絶望した人を葬る墓のやうなもので有らう。丑松は復たそこへ倒れて、深い睡眠ねむり陥入おちいつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
猫を追ひ出すやうにこの睡眠ねむりの邪魔物を遠ざける譯には行かない。……で、彼れはランプを點けて、そつと自分の寢床を、先日こなひだまで良吉のゐた次の室へ持つて行つた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
かれ其後そのゝち讀書どくしようちにも、睡眠ねむりいてからも、イワン、デミトリチのことあたまかららず、翌朝よくてうさましても、昨日きのふ智慧ちゑある人間にんげんつたことをわすれること出來できなかつた
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
吉原角町の海老屋えびやへ勤め奉公に賣渡し身の代金しろきん二十兩血の涙にて受取持歸る途中餘りのかなしさにむねふさがりしまゝせめてもの憂晴うきはらしと豐島屋へ立寄て一合飮しに心氣のつかれより我を忘れて暫時しばし睡眠ねむり不※ふと目を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
暁近い深い睡眠ねむりに未だ湖水は睡っていた。時々岸のあしの間でバタバタと羽音を立てるのは寝惚ねぼけたばんに違いない。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一寸した仮寝うたたねにも直ぐ夢を御覧なさる位ですから、それは夢の多い睡眠ねむりに長い冬の夜を御明しなさるので、朝になっても又たくそれを忘れないで御話しなさるのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かれはそののち読書どくしょうちにも、睡眠ねむりいてからも、イワン、デミトリチのことがあたまかららず、翌朝よくちょうさましても、昨日きのう智慧ちえある人間にんげんったことをわすれることが出来できなかった
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
歯朶しだの葉の茂っている地面の上へ私はパッタリ腰を下ろした。すぐに睡眠ねむりが襲って来る。私は眠りに落ちたらしい。眠りながら私は手の触覚を体の全体に感じていた。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何かの碑面にでもありそうな漢文体の文句を暗誦あんしょうしながら睡眠ねむりを誘おうとしているらしい兄はと見ると、まくらを並べたその人の方からは何時いつの間にか高いいびきが聞えて来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
甘々うまうま部屋から誘惑おびきだし、鳳凰の間まで連れて来るや活をもって息吹き返させ、さらにオースチン師の催眠術をもって睡眠ねむりに入れられた白虎太郎は今や昏々こんこんと眠っている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
のみならず、深いところへ陥落おちいるやうな睡眠ねむりで、目が覚めた後は毎時いつも頭が重かつた。其晩も矢張同じやうに、同じやうな仮寝うたゝねから覚めて、暫時しばらく茫然ぼんやりとして居たが、やがて我に帰つた頃は、もう遅かつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
呼吸をしている証拠として、額から、高い鼻の脇を通って、頬にかかっているおくれ毛が、揺れていた。しかし尋常の睡眠ねむりとは思われなかった。気を失っているのらしい。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人々は皆疲労つかれていたのですぐさま深い睡眠ねむりに落ちたが、一人ホーキン氏は眠られなかった。
「これは尋常の眠りではない! 五更呪縛ごこうじゅばくの妖術によって睡眠ねむりの中へ引き込まれ、前後を失ったに相違ない! それにしてもいったい何奴なにやつめが、かかる妖術を使ったものぞ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼らは木の上で生活しまた木の上で睡眠ねむりを取りそして木を渡って遊戯した。彼らの日常の食物は、草の根、鳥獣などで、彼らは勤勉によく働いて沢山の食物を漁るのであった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「静かな睡眠ねむり永遠の睡眠ねむり……お姫様は几帳の蔭で眠っておられるのでござります」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人声も聞こえず灯火も洩れず、睡眠ねむりと平和があるばかりであった。「聖壇」と人家、これらの物を、保護するように聳えているのは一万二千尺の富士であったが、今はその富士も眠っていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
睡眠ねむりを通して——私の快い睡眠を通して、微妙な一筋の音楽の音色が聞えて来るではございませぬか。ああ兄が銀笛を吹いているそうな——私はうとうとしていながら、そう思ったのでございます。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼らは睡眠ねむりにとりかかった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)