海辺うみべ)” の例文
くもったのことです。太郎たろう海辺うみべにゆきますと、ちょうど波打なみうちぎわのところに、一のややおおきなとりちて、もだえていました。
薬売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしはつい四五日まえ西国さいこく海辺うみべに上陸した、希臘ギリシャの船乗りにいました。その男は神ではありません。ただの人間に過ぎないのです。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
加ふるに、この海辺うみべのホテルは家具の質素な西洋室である為、其の周囲の光景が自分にはまた特別の事件を思起おもひおこさせるのであつた。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
『あのひとにはあのひととしての仕事しごとがあり、めいめいることがちがいます。良人おっとぶのは海辺うみべ修行場しゅぎょうばうつってからのことじゃ……。』
「去年あの経帷子を流したのは海辺うみべのどこらあたりか、お前はおぼえているだろう。今夜そっと私を連れて行ってくれないか。」
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そういう企画の可能なる場合は限られており、したがってまたその条件のそなわった海辺うみべを、見つけることもさまで困難ではない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼等は未来の健康のため、一夏ひとなつさきに過すべく、父母ふぼから命ぜられて、兄弟五人で昨日きのうまで海辺うみべけ廻っていたのである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
磯崎いそざき神社前の海辺うみべに組立てられた高さ五十尺のやぐらの上には、薄汚れた一枚の座布団ざぶとんを敷いて、祖父そふと孫とが、抱き合っていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
目の下に、クルクルまわる山やとうげや町や村をいくつも見て、およそ小半日こはんにちも飛んだころ、やっと青々とした海辺うみべにおりた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
●さて又頸城郡くびきごほり海辺うみべ能生宿のうしやうしゆくといふは北陸道ほくろくだう官路くわんろなり、此宿より山手に入る㕝二里ばかりに間瀬口ませくちといふ村あり、こゝの農家のうかに地火をいだす㕝如法寺によほふじ村の地火に同じとぞ。
海辺うみべの鳥は私たちの周り中で魚をあさって啼き叫んでいたし、永く航海をして来た後に上陸出来ることはだれだって嬉しかろうと思われるだろうが、私の心はすっかり滅入っていた。
そのうち「いこいの地」や「影法師」や「海辺うみべにて」は聴くに堪えないものがあるが、歌の良さもまた格別である。悲劇的な芸術の美しさとして、これに匹敵するものは決して沢山ない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
されば必ず見よと云ひ給ひし狭き港口かうこうづる大船おほふねの運転士の手際も知らず過ごしさふらふ。南仏蘭西フランス海辺うみべに立てる木のすくなき山を船室の窓より見ながら、私はいかなる思ひをか致しさふらひし。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
旅人は横穴にはいって、波の引くのを待っていて、狭い巌石の下の道を走り抜ける。そのときは親は子を顧みることが出来ず、子も親を顧みることが出来ない。それは海辺うみべの難所である。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
腫物の湯治に、郷里熊本から五里ばかり有明ありあけ海辺うみべ小天おあまの温泉に連れられて往った時、宿が天井の無い家で、寝ながら上を見て居ると、真黒にすすけた屋根裏の竹を縫うて何やら動いて居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
こう暑くなっては皆さんがたがあるいは高い山に行かれたり、あるいはすずしい海辺うみべに行かれたりしまして、そうしてこの悩ましい日を充実した生活の一部分として送ろうとなさるのも御尤ごもっともです。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
するうち室長は三学期の始頃、腎臓の保養のため遠い北の海辺うみべに帰つて間もなく死んでしまつた。遺族から死去の報知を受けたものは寄宿舎で私一人であつた程、それだけ私は度々見舞状を出した。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
いひの中にまじれるすなにしつつ海辺うみべ宿やど明暮あけくれにけり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
朝は海辺うみべの石の
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
パアドレ・オルガンティノ! 君は今君の仲間と、日本の海辺うみべを歩きながら、金泥きんでいの霞に旗を挙げた、大きい南蛮船を眺めている。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし、兄弟きょうだいは、じきに、自分じぶんたちの仲間なかまが、海辺うみべおかうえいているのをったので、ただちに、そのほうんでいったのであります。
兄弟のやまばと (新字新仮名) / 小川未明(著)
高輪の海辺うみべをぶらぶらあるいて行くと、摺れ違う牛のつのにも春の日がきらきらと光って、客を呼ぶ茶屋女の声もひとしお春めいてきこえた。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
落城後らくじょうごわたくしがあの諸磯もろいそ海辺うみべ佗住居わびずまいをして時分じぶんなどは、何度なんど何度なんどおとずれてて、なにかとわたくしちからをつけてくれました。
少なくとも大和島根やまとしまねの方では、南北両面の海辺うみべづたいに、久米くめという氏族の次々と移住していった昔の痕跡をとどめているに対して、奄美大島にも沖縄の主島にも
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
海辺うみべどての上を、露八とお菊ちゃんと、まだ暗い雑草の霜をふんでとぼとぼと歩きだした。酒のめたせいか、急に風の冷たさが身にこたえて、水洟みずばなが出てきた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
洲崎の遊里に留連りゅうれんしたころ、大門前おおもんまえから堀割に沿うて東のかたへ行くとすぐに砂村の海辺うみべに出るのだという事を聞いて、漫歩したことがあったが、今日記憶に残っているのは
元八まん (新字新仮名) / 永井荷風(著)
●さて又頸城郡くびきごほり海辺うみべ能生宿のうしやうしゆくといふは北陸道ほくろくだう官路くわんろなり、此宿より山手に入る㕝二里ばかりに間瀬口ませくちといふ村あり、こゝの農家のうかに地火をいだす㕝如法寺によほふじ村の地火に同じとぞ。
元来叔父は余り海辺うみべを好まない性質たちなので、一家いっけのものは毎年軽井沢の別荘へ行くのを例にしていたのだが、その年は是非海水浴がしたいと云う娘達の希望をれて、材木座にある
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
続いて『セレナーデ』(四五一〇八)と『海辺うみべにて』(六〇一六二)も逸してはいけない。この『海辺にて』の裏にあるシューマンの『胡桃くるみの樹』は、やはりスレザークの傑作の一つだ。
くるひるごろ、正雄まさおさんは、海辺うみべへいってみますと、いつのまにやら、昨日きのう空色そらいろ着物きもの子供こどもがきていまして
海の少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
吉助「われら三年の間、諸処を経めぐった事がござる。その折さる海辺うみべにて、見知らぬ紅毛人こうもうじんより伝授を受け申した。」
じゅりあの・吉助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
『イヤそろそろ修行しゅぎょうに一段落だんらくつくところじゃ。本人ほんにん生前せいぜんたいへんにった海辺うみべがあるので、これからそこへ落付おちつかせることになってる……。』
海辺うみべづたいに鈴ヶ森の縄手へ行き着いて、二人はかの睨みの松あたりに、ひと先ず立ちどまった。きょうは海の上もおだやかに光って、水鳥の白い群れが低く飛んでいた。
半七捕物帳:52 妖狐伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小止おやみもなく紛々として降来ふりくる雪に山はそのふもとなる海辺うみべの漁村と共にうずも天地寂然てんちせきぜんたる処、日蓮上人にちれんしょうにんと呼べる聖僧の吹雪ふぶきに身をかがめ苦し山路やまじのぼり行く図の如きは即ち然り。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一昨日おとといの晩は二人で浜を散歩しました。私たちのいる所から海辺うみべまでは約三丁もあります。細い道を通って、いったん街道へ出て、またそれを横切らなければ海の色は見えないのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕は熱もあったから、床の中に横たわったまま、伯母おばの髪を結うのをながめていた。そのうちにいつかひきつけたとみえ、寂しい海辺うみべを歩いていた。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
家来けらいやまくだって、海辺うみべへきて、毎日まいにちその海岸かいがんとおふねていたのであります。けれど、一そうもにとまりません。
不死の薬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
誰やらの詩で読んだ——気狂きちがひになつた詩人が夜半やはんの月光に海の底から現れ出る人魚の姫をいだ致死ちしの快感に斃れてしまつたのも、思ふにう云ふ忘れられた美しい海辺うみべの事であらう。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
なるほど平原の尽きるあたりを、眼を細くして、見究みきわめると、暗くなった奥の方に、一筋鈍く光るものがあるように思われる。海辺うみべかなと橋本に聞いて見た。その時日はもう暮れかかっていた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あとにひと父親ちちおやのこされました。海辺うみべよこたわったふねは、ふるちてしまいました。煙突えんとつからけむりがるくもったに、オルゴールがっています。
汽船の中の父と子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この海辺うみべには舟も見えぬ。見えるのは唯浪ばかりぢや。阿弥陀仏の生まれる国は、あの浪の向ふにあるかも知れぬ。
往生絵巻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わたくしは葛西村かさいむら海辺うみべを歩いて道に迷い、日が暮れてから燈火を目当にして漸く船堀橋ふなぼりばしの所在を知り、二三度電車を乗りかえた後、洲崎の市電終点から日本橋の四辻に来たことがあった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
路も先刻さきよりはひらたくなって、真白に草と木の間をつらぬいている。ある所には大きな松があった。葉の長さが日本の倍もあって色は海辺うみべのそれよりも黒い。ある所は荒れ果てた庭園のていに見えた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
Nさんの話はこう言う海辺うみべにいかにもふさわしい喜劇だった。が、誰も笑うものはなかった。のみならず皆なぜともなしに黙って足ばかり運んでいた。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
海辺うみべまでくると、ゆきすくなく、おきほうれば、もう名残なごりえてしまって、くらいうちになみおとが、ド、ドー、とっているばかりであった。
大きなかに (新字新仮名) / 小川未明(著)
この二、三日方々からしきりに絵葉書が来る。谷川を前にした温泉宿や松の生えた海辺うみべの写真が来る。友達は皆例の如く避暑に出かけたのだ。しかし自分はまだ何処へも行こうという心持にはならない。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
やっと、海辺うみべまちいて、魚問屋さかなどんやや、漁師りょうしうちへいっていてみましたけれど、だれも、昨夜ゆうべゆきうえいていたというものをりませんでした。
大きなかに (新字新仮名) / 小川未明(著)
僕等のいるのは何もない庭へ葭簾よしず日除ひよけを差しかけた六畳二間ふたまの離れだった。庭には何もないと言っても、この海辺うみべに多い弘法麦こうぼうむぎだけはまばらに砂の上にを垂れていた。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
若者わかものは、このごろつづけてゆめが、ふかく、かれこころをとらえて、仕事しごとおもうようににつかなく、海辺うみべては、おきをながめながらぼんやりとらしていました。
塩を載せた船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
太郎たろうは、おとうさんにつれられて、海辺うみべまちへいってみることになりました。二人ふたりうちからかけました。
大きなかに (新字新仮名) / 小川未明(著)