わか)” の例文
おつぎは晝餐ひる支度したくちやわかした。三にん食事しよくじあとくちらしながら戸口とぐちてそれからくりかげしばらうづくまつたまゝいこうてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
お杉は参木の服を壁にかけると湯をわかした。彼女は二人のうちの誰か起きたら、自分を今日からここへ置くように頼んでみようと考えた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
処々ところ/″\売って歩きますが、もとより稽古が好きで、ひまの時は、水を汲みましょうお湯をわかしましょうなどと、ヘエ/\云ってまめに働きます。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
艇長室において、辻艇長は睡眠中、コーヒーわかしは、もうすぐにぶくぶくやるだろう。ゴム風船地球儀は、目下印度洋インドようの附近を書いていられる。
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、答える振りはしたが、伊織はついとそこから駈けて、土蔵のわきの露地口にある湯わかし場の陰へ来てまた、たたずんでいた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それ以来これに代わるべき実直な奉公人が見付からぬ処からわたしは折々手ずからパンを切り珈琲コーヒーわかしまた葡萄酒ぶどうしゅの栓をも抜くようになった。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「さあさあ、あなたがた。キャラコさんに手伝って、お釜でお湯をわかしてちょうだい。火の起こし方を知っていますか」
秋の日落ち谷蒼々そうそうと暮るゝゆうべ、玉の様な川水をわかした湯にくびまでひたって、直ぐそばを流るる川音を聴いて居ると、陶然とうぜんとして即身成仏そくしんじょうぶつ妙境みょうきょうって了う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
湯をわかす炭もなく、茶も切れていたのです。年も二十以上違っている。どうしてこんな細君を。いや、あの、片時へんじも手離さない「魔道伝書」を見るがいい。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その晩、太郎右衛門夫婦は、大きなかまに湯をわかして、うまやの前で赤児に湯をつかわせてやることにしました。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
「ところが、やって見て驚きましたよ、大釜に一杯湯をわかして、流しにたらいを置いて、病人をとこから牛蒡抜ごぼうぬきにつれ出して見ましたが、臭いの臭くないのって——」
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
どうか水のある辺まで行って今夜茶をわかして飲んで寝たいものだと思って四時頃になってもなお歩みを続けて、山また山を踰えて行きましたがちっとも水がない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
あとは実験室の片隅でやすりがけや盤陀はんだ付けで小さい実験装置の部分品を作ったり、漫談に花を咲かせたり、時にはビーカーで湯をわかして紅茶をれて飲んだりしていた。
二三度んで見たが、阿母さんは桃枝もヽえおぶつて大原へ出掛けて居無かつた。貢さんは火鉢の火種ひだね昆炉しちりんに移し消炭けしずみおこして番茶ばんちや土瓶どびんわかし、しやけを焼いて冷飯ひやめしを食つた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
わかしてつかはすはずなれど夫よりは近所ゆゑ湯に入てるがよいお文も父と共にゆくべしと辯舌べんぜつ利口りこうを以て口車くちぐるまに乘せ金のつると思ふめひのお文は如何なる容貌しろものかとお文が仰向あふむくかほ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
とほるばかりのわかに身体を浸し温めて、しばらく清流の響に耳をなぶらせる其楽しさ。夕暮近い日の光は窓からさし入つて、けぶる風呂場の内を朦朧もうろうとして見せた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
婆やを起して、湯たんぽの湯をわかさした。三人は夜が明けるまで枕頭についていた。
二つの途 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
土器どき發明はつめい出來できてから、多量たりようわかすことも出來できるようになつたのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
えんから上手かみてへ一だんりて戸袋とぶくろかげにはすでたらい用意よういされて、かまわかした行水ぎょうずいが、かるいうずいているのであろうが、上半身じょうはんしんあらわにしたまま、じっとむしきいっているおせんは
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ほほ私とした事が、ついお話に身が入りて、御飯のお邪魔をいたしました。さあさあ早う召上がれ。そして御飯が済みましたらば、おぐしをお上げなされませぬか。お湯もわかしてござりまする。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
ちやんわたりが付いてゐるんだから、阿母おつかさんはそばから『ちやほや』して、そりや貴方、真面目まじめぢや見ちやゐられないお手厚てあつさ加減なんだから、那奴は図に乗つて了つて、やあ、風呂をわかせだ事の
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
這入って見ると鉄渋かなしぶ色の鉱泉で、それもわかし湯だった。上って浴衣を借りると、実に薄汚なくてくしゃくしゃしている。一室に通してもらうと、生新らしい廉物やすものの畳のにおいと木材のにおいだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
これは湯わかし、換言すれば茶を熱する物である。
「ミルクをわかしたから、いらっしゃい」
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
垣隣りの家では風呂でもわかすと見えて、焚付の火のちら/\閃くのが植込の間から見える。新太郎は腕時計を見ながら
羊羹 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
勘次かんじ羞恥しうち恐怖きようふ憤懣ふんまんとのじやうわかしたがそれでも薄弱はくじやくかれは、それをひがんだ表現へうげんしてひとごと同情どうじやうしてくれとふるがごとえるのみであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
母様かあさんが可い、と云ったら、天下晴れたものなんだわ。ゆっく召食めしあがれ。そして、是非今夜は泊るんですよ。そのつもりで風呂もわかしてありますから、お入んなさい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひとまずラサ府からダージリンへ来るまでの間においてこの辺が一番寒い所でしょう。その翌六月十一日朝四時に起きて少しく茶をわかして飲んでから発足ほっそくしたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
次郎は母親にいいつけられて、まきを割り、掛樋かけひを掛けて、野天に出ているすえ風呂をわかしています。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そつ拔出ぬけい家主いへぬしの庄兵衞方へ至り見れば此方こなたまちに待たることゆゑもやらず茶をわかし菓子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
スタンドだ、ヒーターだ、コーヒーわかしだ、シガレット・ライターだ、電気行火あんかだ、電気こてだと、電気が巣喰っている道具ばかりが出来て殺人の危険は、いよいよ増加してきた。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
また以前いぜんみづわかすことは非常ひじよう困難こんなんであつて、わづかにいしのくぼみへみづれて、それにいしむとか、貝殼かひがられたみづ近寄ちかよせてすこしのたにぎなかつたのでありますが
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
ちゃんの脛ばかりは咬っていねえ、是でもお客がえら有れば種々いろんな手伝をして、洗足すゝぎ持ってこ、草鞋わらじを脱がして、きたねえ物を手に受けて、湯うわかして脊中を流してやったり、みんなうちの為と思ってしているだ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
垣隣りの家では風呂でもわかすと見えて、焚付の火のちらちら閃くのが植込の間から見える。新太郎は腕時計を見ながら
羊羹 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おつぎはちやわかためあせさらいたのを手拭てぬぐひでふいて、それからみだれたかみくしいれさら丁寧ていねい手拭てぬぐひかぶつてさうしておつたをんだのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
とうとう夜の十一時頃になって余り寒くて仕様がないから茶をわかして飲み掛けて居ると、そこへ国王付きの巡査がやって来て、これから直ちにビールガンジへ来いという。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
料理場の火の上にかかっていたコーヒーわかしの口から、にょろにょろと外へでてきた熱い熱いコーヒーだった。重力がなくなったので、コーヒーはコーヒー沸しの底にじっとしてなくなったのだ。
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お前のおとっちゃんに叱られてから、お花なんざ引くまいと思って、水もわかしたんでなくッちゃ飲まないでいたけれども、おっかちゃんはおいとまが出たんですもの、体を大事にしたってつまらなくなってよ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
てまえは、急いで、竹の橋までくだりますで、汽車でぐるりと一廻り、直ぐに石動から御堂へ戻ると、貴辺あなたはまだ上りがある。事に因ると、先へ帰って茶をわかして相待てます。それが宜しい、そうなさって。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「謹さん、わかしましょうかね。」とかろくいう。
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わかすんですよ……ただの水を。」
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)