)” の例文
海にはこの数日来、にわかに水母がえたらしかった。現に僕もおとといの朝、左の肩から上膊じょうはくへかけてずっと針のあとをつけられていた。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
中国の若者も眼鏡がえているし、お会いして伺いますが、上海にいて魯迅全集の仕事をしていた内山完造の『支那漫語』(改造)
そこで、大好きな田圃の中でも、選分えりわけて、あの、ちょろちょろ川が嬉しい。雨上あまあがりにちっと水がえて、畔へかかった処が無類で。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
文作の話をどこまでも本当にして、云い伝え聞き伝えしたので、足萎え和尚を信仰するものが、前よりもズッとえるようになった。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
したって、兄は呑んだくれの我儘わがまま者だけれど、それでも苦労してあげていい値打があるし、そのうえ新さんって人までえたでしょう
門人が名主なぬしをしていて、枳園を江戸の大先生として吹聴ふいちょうし、ここに開業のはこびに至ったのである。幾ばくもなくして病家のかずえた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「さよう、近頃のように卒業生がえちゃ、ちょっと、口をるのが困難ですね。——どうです、田舎の学校へ行く気はないですか」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すさびかけている心をかえりみて、やがて、吉水の説教の日には、夫婦して打ち連れてくる者がにわかにそのころえてきたという。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一々算盤珠そろばんだまはじいて、口が一つえればどう、二年って子供が一人うまれればどうなるということまで、出来るだけ詳しく積って見た。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
人間の数がえて、この地球の上にはりきらないのも一つじゃ。だが、それだけではない。人間の漂泊性ひょうはくせいじゃ。人間の猟奇趣味りょうきしゅみじゃ。
遊星植民説 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あなあはれ、摩訶曼珠沙華、出で入るとひとり眺めて、時をりは妻と眺めて、昨日きのふゆかいよよえしと、まだ今日も赤しとぞ見る。
さうして此後このご大凡おほよそこんな状勢じやうせいすゝむからしてしたがつすくなくも是迄これまでいやうへえて國債こくさい總額そうがくふやさずにまし次第しだいである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
先刻さつきも申したやうに来年は旋盤も四五台やす積りでごわす。此所で取つてゐなさるだけの給金は、わつしの所でも差し上げますわい。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
あるひはまた廷臣ていしんはなうへはしる、と叙任ぢょにん嗅出かぎだゆめる、あるひは獻納豚をさめぶた尻尾しっぽ牧師ぼくしはなこそぐると、ばうずめ、寺領じりゃうえたとる。
中頃は大きな泡が段々小さくなって小さい泡ばかりになります。この時でも最初玉子を入れた時より分量が二倍位にえています。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかしこの論争は、波紋が段々大きくなり、私たちの方言価値論に味方する者は非常にえ、日本本土でもやかましい問題になりました。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その思いはいねの子供たちがえ、毎年の盂蘭盆うらぼんや年忌などに墓へゆくたびにどの子供かの質問でよけいはっきりとそう思うのであった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
或時あるとき土方どかたとなり、或時あるときは坑夫となって、それからそれへと際限はてしもなく迷い歩くうちに、二十年の月日は夢と過ぎた。彼の頭には白髪しらがえた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
生々せいせい又生々。営々えいえいかつ営々。何処どこを向いてもすさまじい自然の活気かっき威圧いあつされる。田圃たんぼには泥声だみごえあげてかわずが「めよえん」とわめく。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あきぼんには赤痢せきりさわぎもしづんであたらしいほとけかずえてた。墓地ぼちにはげたあかつちちひさなつかいくつも疎末そまつ棺臺くわんだいせてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その頃東京の場末にえつつあつた小さい見すぼらしいマッチ箱みたいな人家を建てさせないために買ひ取つたものだといふことであつた。
桂離宮 (旧字旧仮名) / 野上豊一郎(著)
世の中には怪物ばけものが沢山居る、学問が進んで怪物ばけものの数がすくなくなったと云うがそれはいい加減なことでかえってえたかも知れない
大きな怪物 (新字新仮名) / 平井金三(著)
その裡に群衆は、ますますえて行った。千人をした群衆が、この橋を上流下流、四五十間の間ぎっしりと詰めかけている。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
だが、息子のそれらの良質や、それに附随ふずいする欠点が、世間へ成算せいさん的に役立つかとあやぶまれるとき、また不憫ふびんさの愛がえる。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あるひ飮食店いんしよくてんける揚物あげものあぶらあるひはせるろいど工場こうじようなど、文化ぶんかすゝむにしたがひ、化學藥品かがくやくひんにして發火はつか原因げんいんとなるものが、ます/\えてる。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
「こいつは綺麗きれいだ、この秣槽かいおけは……」と、にんじんは、小賢こざかしい調子でいった——「なるほど。金物を入れて、血をやそうってわけだね」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
他日、幾人にえて来るかも分りません。木彫りの方がもし殖えた場合「牙」の字を表わした会名では如何いかがかと思われます。
「灯をもっとやせ、観音様も笑って御座るよ。ちと剥げちょろになったが、木地きじが見えると金箔の時よりは不思議に明るく温かにおなりだ」
冬になると橋から馬力が馬ぐるみ吹き落されるくらいですから、人間にもこたえます。一風毎ひとかぜごと結膜炎けつまくえんの患者がえて私の病院へ泣き込みます。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
今のまゝの顔だちでよいから、表情と肉附にくづき生生いきいきとした活動の美を備へた女がえてしい。髪も黒く目も黒い日本式の女は巴里パリイにも沢山たくさんにある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
政七はこれを見て驚きましたというのは仙太郎が助けに出たのを泥坊が一人えたのだと思い、ブル/\ふるえて居りました。
が、やがて、その彼の、いや私達のかなしい恋情は、月日が経って、私達の顔に次第に面皰にきびえてくるに従って、何処かへ消えて行って了った。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
維新後でもこんな有様でありますから、徳川時代の百姓、町人らが、一向えなかった間にも、彼らは非常に殖えました。
人口がえ、自動車の数も増し、煙突から吐き出される煙の量も著しく増加したということによって説明されるであろう。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
今日勝った、今日負けた、今度こそ負けるもんか——血のにじむような日が滅茶苦茶に続く。同じ日のうちに、今までより五、六割もえていた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
幾億とも知れぬ極微なる蟲共は、いつえるともなく、いつ動くともなく、まるで時計の針の様に正確に、着々と彼等の領土を侵蝕して行った。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ああ、たくさんえてこまるのだから、きみきなのを一ぽんこいで、ってゆきたまえ。」と、こうちゃんはいいました。
親木と若木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なるほどこうして置けば、お金はズンズン利に利を産んでえてゆくだろうけれど、つかえないお金では全くつまらない。
少しずつ移住の賛成者もえているらしく思われた。やがて、春の北海航路の開ける前にその概数を知ることが出来た。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
生徒の数も段々えて、塾生の数は常に二百から三百ばかり、教うる所の事は一切いっさい英学とさだめ、英書を読み英語を解するようにとばかり教導して
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
今では利に利が積もって千ルーブルから二千ルーブルにもえた、自分の子供の時分からの金が、この国ではなんともしようのないいろんな形式や
犬の居る前を通過ぎる度毎に吠えられるから、気を付けて見れば、皆な識らない顔の犬仲間です。村も変つて、大きくなり、また人もえて居ます。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
そして翌年の春には、どの鶏舎にも白色レグホンやミノルカがさわがしく走りまわるようになり、生まれる卵の数も日に日に多少ずつえて行った。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「よかったわね。」と義妹も笑い、「兄さんにしちゃ大手柄じゃないの。おかげで、うちの財産が一つえたわ。」
薄明 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ナオミは人手がえたとなると、いよいよ横着を発揮して、横のものを縦にもしないで、一々女中をコキ使います。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
仲間がえれば殖えるほど本当の人間に依って滅亡されてしまう。猟師が、狼を狩り尽すように——虫ケラ同様に
狂人日記 (新字新仮名) / 魯迅(著)
これを二万籠の方に持込めば、また一つ数学の問題がえるわけであるが、それはわれわれの領分ではない。二万籠の橙の量は、常人の想像以上に属する。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
そしてそういう不覚の感じは一層彼から彼女をなくささせる、変な暗示のようなものをその心にやして行った。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
植物の研究が進むと、ために人間社会を幸福にみちびき人生を厚くする。植物を資源とする工業の勃興ぼっこうは国のとみやし、したがって国民の生活をゆたかにする。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ところが、私が如何どうにか斯うにか取続とりつづいて帰らなかったので、両親は独息子ひとりむすこたまなしにしたように歎いて、父の白髪しらがも其時分僅のあいだ滅切めっきえたと云う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)