松風まつかぜ)” の例文
はりに、青柳あをやぎ女郎花をみなへし松風まつかぜ羽衣はごろも夕顏ゆふがほ日中ひなか日暮ひぐれほたるひかる。(太公望たいこうばう)はふうするごとくで、殺生道具せつしやうだうぐ阿彌陀あみだなり。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
次は高く風を受けてもただ琴のに通うといわるるいわゆる松風まつかぜすなわちいわゆる松籟しょうらいがあるばかりで毫も動ぜぬその枝葉です。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「本隊は、高度三千メートルをとりて、鹿島灘上に待機中なり、貴官の命令あり次第、ただちに爆撃行動にうつる用意あり、隊長松風まつかぜ大尉」
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
気がつけば、自分が縷々るると述べたことなどは、松風まつかぜ彼方かなたに飛んでしまっている。半兵衛の耳に何も残っていないらしい。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歌は残って、関の址と云う程の址はなく、松風まつかぜばかり颯々さっさつぎんじて居る。人の世の千年は実に造作ぞうさもなく過ぎて了う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
めてつかへんかそれなんとしてもなることならずてもかくてもなればひとはぬ深山みやまおくにかきこもりて松風まつかぜみゝ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とものものは、不思議ふしぎおもって、みみませますと、やはり、松風まつかぜおととおくにこえるばかりでありました。
町のお姫さま (新字新仮名) / 小川未明(著)
あかいろ貝殻かいがらひとつ、かすかにひびく松風まつかぜひとつがわたくしにとりてどんなにも数多かずおおおも種子たねだったでございましょう! それは丁度ちょうど絵巻物えまきものひろげるように
浅虫というところまで村々みな磯辺いそべにて、松風まつかぜの音、岸波のひびきのみなり。海の中に「ついたて」めきたるいわおあり、その外しるすべきことなし。小湊こみなとにてやどりぬ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
床几しょうぎには一寸ちょっと煙草盆があって、店の方には粔籹おこし捻鉄ねじかね松風まつかぜたぬきくそなどという駄菓子が並べてございます。
心晦こころくらみて覚えず倒れんとする耳元に、松風まつかぜ驀然どつと吹起りて、吾にかへれば、眼前の御壕端おほりばた
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
するとどこからともなくいいかおりが、すうすうとはなさきながれてきました。そしてしずかな松風まつかぜおとにまじって、さらさらとうすきぬのすれうようなおとが、みみのはたでこえました。
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
一〇八まどかみ松風まつかぜすすりて夜もすがら涼しきに、一〇九みち長手ながてつかうまねたり。
松風まつかぜ村雨むらさめ」という二人の女のまいは、『源氏物語げんじものがたり』にもとづいて作ったというが、それが二つの桶を棒の両方にになって、しおを汲みに行くところを舞うのは、絵空事えそらごとというものである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
戀とは言はず、情とも謂はず、ふや柳因りういんわかるゝや絮果ぢよくわ、いづれ迷は同じ流轉るてん世事せじ、今は言ふべきことありとも覺えず。只〻此上は夜毎よごと松風まつかぜ御魂みたますまされて、未來みらい解脱げだつこそ肝要かんえうなれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
井手ゐでかはづの干したのも珍らしくないからと、行平殿のござつた時、モウシ若様、わたし従来これまで見た事の無いのは業平なりひら朝臣あそんの歌枕、松風まつかぜ村雨むらさめ汐汲桶しほくみをけ、ヘマムシ入道の袈裟法衣けさころも小豆あづき大納言の小倉をぐらの色紙
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
鹿じかなく山里やまざとえいじけむ嵯峨さがのあたりのあきころ——みねあらし松風まつかぜか、たづぬるひとことか、覺束おぼつかなくおもひ、こまはやめてくほどに——
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
忠利の「松風まつかぜ」の出来栄えを賞歎した手翰しゅかんであるが、師弟和楽の状が、紙面に躍如やくじょと溢れている。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いえ、だれもいるはずがございません。また、わたしどものみみには、なにもこえません。ただ、こえますものは、松風まつかぜおとばかりでございます。」とおこたもうしあげました。
町のお姫さま (新字新仮名) / 小川未明(著)
如是我聞によぜがもん佛説阿彌陀經ぶつせつあみだけうこゑ松風まつかぜくわしてこゝろのちりも吹拂ふきはらはるべき御寺樣おんてらさま庫裏くりより生魚なまうをあぶるけぶなびきて、卵塔塲らんたうば嬰兒やゝ襁褓むつきほしたるなど、お宗旨しうしによりてかまひなきことなれども
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
不図耳に入るものがある。颯々さあさあ——颯々と云う音。はっとして余は耳を立てた。松風まつかぜか。いや、松風でない。峰の嵐でもない。水声すいせいである。余は耳を澄ました。何と云うさわやかな音か。此世の声で無い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
松風まつかぜばかりがさびしそうなおとてていました。少女おとめはそのとき
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
もっとも、御堂みどうのうしろから、左右の廻廊かいろうへ、山の幕を引廻ひきまわして、雑木ぞうきの枝も墨染すみぞめに、其処そこともかず松風まつかぜの声。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けるほどにいくほどに、早足はやあし燕作えんさくは、さっさつたる松風まつかぜの声が、しだいに耳ちかくなるのを知った。臥龍がりゅうに似たる洛外天らくがいてんおかのすがたは、もう目のまえにおぼろの空をおおっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みたしとならば彼地かしこませ、きなことでも松風まつかぜはし、氣儘きまヽくらさせるがめてもと、父君ちヽぎみ此處こヽにおるしのでければ、あまりとても可愛想かあいさうのこと、よし其身そのみねがひとてやうとほくに
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
はげしく松風まつかぜこえで、旅人たびびとは、をさましておどろきました。
曠野 (新字新仮名) / 小川未明(著)
……すなはかぜこゑなみおとながれひゞき故郷こきやうおもひ、先祖代々せんぞだい/\おもひ、たゞ女房にようばうしのぶべき夜半よは音信おとづれさへ、まどのささんざ、松風まつかぜ濱松はままつぎ、豐橋とよはしすや、ときやゝるにしたがつて、横雲よこぐもそら一文字いちもんじ
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)