)” の例文
茶店の床几しょうぎ鼠色ねず羽二重はぶたえ襦袢じゅばんえりをしたあら久留米絣くるめがすりの美少年の姿が、ちらりと動く。今日は彼は茶店の卓で酒をんでいるのだ。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
謹慎中も同志うち寄って盛んに宇内うだいの形勢を論じて、酒をんで時には夜を徹したものであるけれども、母は少しもいとわれなかった。
青年の天下 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
かれ生活せいくわつかくごとくにしていた。あさは八き、ふく着換きかへてちやみ、れから書齋しよさいはひるか、あるひ病院びやうゐんくかである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ごうごうとたけって彼らに吹きあたる風の音は、そのすでに幾十の人命をみ食らってなお飽きたらぬ巨獣のほえるごとく思われた。
自分はぐずついてすこぶる曖昧あいまい挨拶あいさつをした。その時み込んだ麺麭パン一片いっぺんが、いかにも水気がないように、ぱさぱさと感ぜられた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吹雪、青の光をふきだす千仭せんじん氷罅クレヴァス。——いたるところに口を開く氷の墓の遥かへと、そのエスキモーは生きながらまれてゆく。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それも折角さがしたやつを、すぐその人にまれてしまっては困るといふので、暑いのを馬車に乗って、自分で林にやって参りました。
よく利く薬とえらい薬 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
といいさして、案の定、母親は声をんで、にぎやかな通りに眼を落している。その放心したようなさびしげな横顔が心を打ったから
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
そして気がついて、日のカン/\照つた往来を、涙をんで歩いてゐるのであつた。けれども、彼もだん/\とそれに慣れては行つた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
「魚が水を飲むごとく酒をむ」という一項を挿入そうにゅうする必要があるとフォン・リンデン伯爵夫人は思った。なかなか酔わないのだ。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
学円 (がぶがぶと茶をみ、衣兜ポケットから扇子を取って、あおいだのを、とかざして見つつ)おお、咲きました。貴女あなたの顔を見るように。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大蛇だいじやなどが出て来て頭の禿げた猟人かりうどむところをやると、児童らは大ごゑをあげて、アア! などといふのでひどく愉快である。
イーサル川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
そこで話もたちまち途切とぎれた。途切れたか、途切れなかッたか、風の音にまれて、わからないが、まずは確かに途切れたらしい。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
男なら酒のよしあしをやかましくいう酒みのように、ものの吟味ぎんみを注意深くするようになれば、料理のよしあしが語れるわけである。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
そらにあるつきちたりけたりするたびに、それと呼吸こきゅうわせるような、奇蹟きせきでない奇蹟きせきは、まだ袖子そでこにはよくみこめなかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
きに病氣びやうきとばかりおもひぬれば、よしらうかぎりもなくいたましくて、醫者いしやにかゝれの、くすりめのと悋氣りんきわすれて此事このことこゝろつくしぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
石田は平生天狗てんぐんでいて、これならどんな田舎いなかに行軍をしても、補充の出来ない事はないと云っている。たまには上等の葉巻を呑む。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
不思議な好奇心と恐怖とが、頭の中でうずを巻いた。女が自分の性癖をみ込んで居て、わざとこんな真似をするのかとも思われた。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
倉持は空腹を感じていたので、料理と酒を註文ちゅうもんし、今母のいた部屋で、気仙沼けせんぬま烏賊いかの刺身でみはじめ、銀子も怏々くさくさするので呑んだ。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
吾妻はばし川地のおもてながめ居りしが、忽如たちまちあをりて声ひそめつ「——ぢや、又た肺病の黴菌ばいきんでもまさうといふんですか——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それでも竜騎兵中尉は折々文士のいるたくに来て、余り気も附けずに話を聞いて、微笑して、コニャックをもう一杯んで帰ることがある。
それよりか、これまでの学校でやって来た白鳥会の気持ちを、塾の共同生活のすみから隅まで生かす、といったほうがみこみやすいかね。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
人々は固唾かたずんで博士の顔を見つめた。すると、その顔は唇の周りから崩れかけ、見る間にうれしそうな表情が顔いっぱいに広がった。
みたい。イモクテネ。と小さい広告おだしになれば、その日のうちにお金、お送り申します。五年まえ、おたがいに帝大の学生でした。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
八〇 右の話をよくみこむためには、田尻氏の家のさまを図にする必要あり。遠野一郷の家の建てかたはいずれもこれと大同小異なり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかし、彼女がみ込むものは、脂肪にはならないで、みんな乳になる。一定の時刻に、乳房がいっぱいになり、真四角になる。
清濁せいだくあわせむ、という筆法で、蜂須賀小六はちすかころくの一族をも、そのでんで利用した秀吉が、呂宋兵衛に目をつけたのもとうぜんである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ホラ鯨がいわしをおつかけるといふこともおききなすつたでせう。それからさめなどの様な大きい魚になり升と、随分人間をみ兼ねないのですよ。
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
「あれ、あれ。」といううちに、そのあかえなくなってしまいました。まったくおおきななみまれてしまったものとおもわれます。
青いランプ (新字新仮名) / 小川未明(著)
ただ、彼には顔淵の受動的な柔軟じゅうなんな才能の良さが全然み込めないのである。第一、どこかヴァイタルな力の欠けている所が気に入らない。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
負け嫌いの椿岳は若い時から誰でもんで掛って人を人臭いとも思わなかった。その頃横山町に家内太夫という清元きよもとのお師匠さんがあった。
たとい自分の口が裂けようとみこみますが、死んでいるものはどんなうまそうなものでも見向みむきもしないという美食家びしょくかです。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼らの表情はみくちゃになり険しい影をきざんで変貌きわまりないのだ。足もとの砂はめらめらと赤くなり、はたと夜にまれたりした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
何だか物騒な下知げちだが、めると聞いてよろこんだのは家来達だ。それぞれ手分けして、言いつけられた用に散らばって行く。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「いや、これはただちょっと伺っただけなんです。つまり、あなたの論文をよくみ込むために、ただ文学的な意味でね……」
手をたたくことさえ忘れていた。生唾なまつばみ込み呑み込み、眼をみはって、口をあけて、名女優の命がけの演技に見とれていた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なまじ御報告を一寸ちょっとのばしに延ばせば延ばすほど、かえつてますます御不安をつのらせるだけらしいことが、千恵にもよくよくみこめました。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
帰ったすぐその晩、父親を真ン中にしてみんなで酒をんだときにも、妹はもうそれとなく予防線を張って、事こまかに家計をならべあげた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
もみ、松などの大なる幹、潮流にまれたるのちふたたび浮び上がるや、はなはだしく折れ砕けてあたかもそが上に剛毛あらげを生ぜるがごとく見ゆ。
「蜆河岸道場の出火の夜、貴公は門人たちと奥の植半でみ明していたそうだが、あの晩貴公は道場へ戻ったのではないか」
初午試合討ち (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
小さな汽船ぐらいはたちまちひとみにするほどの荒浪あらなみたけり狂っているから、その入江には出入りする船舶の数もすくない。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
彼女は赤ん坊が小便をしたといってはまたつねった。乳のみ方が悪いといっては平手で頭をった。それからすべての器物にも手荒く当たった。
猟奇の街 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
なあにを、お前——(手についているものを、吐気をこらえながら、なめ取って食う)グッ! (吐きそうになるのをおしころして、みこむ)
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
かくて孤児みなしご黄金丸こがねまるは、西東だにまだ知らぬ、わらの上より牧場なる、牡丹ぼたんもとに養ひ取られ、それより牛の乳をみ、牛の小屋にて生立おいたちしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
ぐっと酒をみこみ、胸をらせ、息を吸いこんで眼を白黒させると、わ、わ、わしは、く、く、く、く、組合は、は、は、反対だ、と云った。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
三四にん先客せんきゃくへの遠慮えんりょからであろう。おきぬがちゃみにってしまうと、徳太郎とくたろうはじくりと固唾かたずんでこえをひそめた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
この墓の下には妻ばかりか、父母の骨も納っているのだった。持って来た線香にマッチをつけ、黙礼を済ますと私はかたわらの井戸で水をんだ。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
蕎麦そばもこの頃はめました、かゆ野菜やさい少しばかり、牛乳ぎゅうにゅう二合ほどつとめてみます、すべて営養上えいようじょう嗜好しこうはありませんと。
書いておいたものを読んで「なきかげに」という歌もすずりの下にあったのを見つけては、騒がしい響きを立てる宇治川が姫君をんでしまったかと
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
まあ、そう笑い給うな、兎に角そんな風なな、殆ど無我的な気分になれる所は、神楽坂の外にはそう沢山ないよ。
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)