南無なむ)” の例文
そこで私もとうとう我慢が出来なくなって、合掌した手をさし上げながら、眼をつぶって恐る恐る、「南無なむ天上皇帝」ととなえました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
カントの超絶てうぜつ哲学てつがく余姚よよう良知説りやうちせつだいすなはだいなりといへども臍栗へそくりぜに牽摺ひきずすのじゆつはるかに生臭なまぐさ坊主ばうず南無なむ阿弥陀仏あみだぶつおよばず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
腫物はれもの一切いっさいにご利益りやくがあると近所の人に聴いた生駒いこまの石切まで一代の腰巻こしまきを持って行き、特等の祈祷きとうをしてもらった足で、南無なむ石切大明神様
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
乳母 そのきずましたが、此眼このめましたが……南無なむさんぼう!……ちょうどこの立派りっぱ胸元むなもとに。いた/\しい、無慚むざんな、いた/\しい死顏しにがほ
南無なむ……。これで先の年、博多において、少弐、大友らのためたばかられて無念の死をとげたわが父寂阿殿じゃくあどのあだを取ッた」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と観ずる途端に発矢はっしと復笞の音すれば、保胤はハラハラと涙を流して、南無なむ、救わせたまえ、諸仏菩薩ぼさつ、南無仏、南無仏、と念じたというのである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
やがて、今こそと、念仏百遍、高らかに唱え、南無なむと叫ぶとともに、水の中に身を躍らせたのである。重景も石童丸も、続いて後を追って入水した。
南無なむ大師、遍照金剛へんじょうこんごうッ! 道の左右は人間の黒山だ。おひねりの雨が降る。……村の嫁女は振袖で拝みに出る。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山道をかけくだるいのししのような一本調子で『ヘルキュレス』めがけてまっしぐらに飛び込んで来たが、南無なむ三、少々方角が違ったので、『ヘルキュレス』の尻尾のそばを通り過し
南無阿弥陀仏なむあみだぶつ、南無阿弥陀仏、南無なむ……阿弥陀あみだ……南無阿弥なむあみ…………ぶつ南無なむ……」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
片手かたてわざにもなつより手足てあしいろどりて、新年着はるぎ支度したくもこれをばてぞかし、南無なむ大鳥大明神おほとりだいめうじんひとにさへ大福だいふくをあたへたまへば製造せいぞうもとの我等われら萬倍まんばい利益りゑきをとひとごとにふめれど
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「彼岸の中日ちゅうにちになると真赤な夕日が斜坑の真正面まむこうに沈むぞい。南無なむ南無南無……」
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
仏教を愛し、敬い、これを信ずる心がなくては、とうてい、仏教をほんとうに知ることはできないのです。合掌する心持、南無なむする心、それはいずれも信心のしるしです。信仰の象徴です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
風体ふうていによりて夫々それ/″\の身の上を推測おしはかるに、れいるがごとくなればこゝろはなはいそがはしけれど南無なむ大慈たいじ大悲たいひのこれほどなる消遣なぐさみのありとはおぼえず無縁むえん有縁うえんの物語を作りひとひそかにほゝゑまれたる事にそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
亭主ひそかに、あの犬の名は虎だから虎とさえ呼ばば懐き来る、何ぞ虎という語の入った経文を唱えたまえとおしえる。因ってその僧が南無なむきゃらたんのうとらやあ/\と唱えるや否や犬出家にれ近づく。
南無なむ、天地、仏神、すこやかにましまし給え。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
南無なむ大悲だいひ観世音くわんぜおん、守らせたまへ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「死んだ者の惡口は止せよ、南無なむ
南無なむ疾翔大力しっしょうたいりき、南無疾翔大力。」
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「有難え、南無なむお祖師様」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
南無なむ大願成就だいがんじょうじゅ。——」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
南無なむ当来の導師」
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
はじかれたように思いだして、大鳥居おおとりいの上を見ると、南無なむ三、そこに立っていたはすでにぬき取られてあるではないか。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ロレ 南無なむやフランシス上人しゃうにんまもらせられい! はれ、けったいな、今宵こよひこの老脚らうきゃくいくたび墓穴はかあな蹉躓けつまづいたことやら!……れぢゃ、そこにゐるのは?
こちや畜生になる事はいやぢやいの。(中略)多聞たぶん悪いと畳を叩いて腹を立てる。さて南無なむさん姉ぢやさうな。
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
すかさず咽喉のどもと突貫つきとほさんとしけれども手先てさきくるひてほゝより口まで斬付きりつけたり源八もだえながら顏を見ればおたかなりしにぞ南無なむ三と蹴倒けたふして其所そこ飛出とびいだつれ七とともあと
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あとにたのむは老人夫婦らうじんふうふこれまた補陀落山ふだらくさんからかりにこゝへ、いほりむすんで、南無なむ大悲だいひ民子たみこのために觀世音くわんぜおん
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
片手わざにも夏より手足を色どりて、新年着はるぎの支度もこれをば当てぞかし、南無なむ大鳥大明神おほとりだいめうじん、買ふ人にさへ大福をあたへ給へば製造もとの我等万倍の利益をと人ごとに言ふめれど
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一念いちねん弥陀仏みだぶつ即滅そくめつ無量むりやう罪障ざいしやうと聞けど、わが如き極重悪人の罪を救はれざらむ事、もとより覚悟の前ぞかし。南無なむ摩里阿マリア如来によらい。南無摩里阿如来と両手を合はせて打泣き/\方丈に帰り来りつ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
南無なむといえば阿弥陀来にけり一つ身をわれとやいわん仏とやいわん
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
南無なむ疾翔大力しっしょうたいりき、南無疾翔大力。」
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
南無なむ——」
子にはなんのとがもないはず、親の罪は親にこそむくえ、南無なむかんぜおん菩薩ぼさつ、城太郎のうえに大慈の御眸みひとみありたまえ
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頼みし女中は今日は通駕籠とほしかごにて鎌倉迄かまくらまでゆくべき約束ゆゑ善六は朝早く龜屋へ來り亭主にかくと言入れ約束やくそくかごむかひに參りたりといはせたり徳右衞門は南無なむ三と思ふ色を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
南無なむ大慈大悲の泥烏須如来デウスにょらい! わたくしはリスポアを船出した時から、一命はあなたに奉って居ります。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
南無なむ身延様みのぶさま——三百六十三段。南無身延様、三百六十四段、南無身延様、三百六十五段……」
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
乳母 零餘はした如何どうあらうと、一ねん三百六十にちうちで、初穗節はつほまつりよるになれば、ちゃうどお十四にならッしゃります。スーザンとぢゃうとは……南無なむあみだぶ……おなどしでござりました。
南無なむ南無南無南無南無南無南無」
眼を開く (新字新仮名) / 夢野久作(著)
南無なむ疾翔大力、南無疾翔大力。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
南無なむ三と心のうちでさけびながら、必死に、敵の腕くびを掴まえて、肩越しに投げ捨てようとするらしいが、所詮、彼のわざにかかるようなもろい相手ではない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「(喜多八)……また思切って手を合せ、南無なむ志渡寺しどじの観音薩埵さったの力をあわせてたびたまえとて、大悲の利剣を額にあて、竜宮に飛び入れば、左右へはっとぞ退いたりける、」
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もつて遊興いうきようなしける中平馬靱負の兩人相尋ねべきこれあるに付所司代しよしだい御役宅おやくたくへ差出すべく旨日野殿へ掛合かけあひありしかば南無なむばうと思ひ兩人申合其の夜の中に日野家を逐電ちくでんして願山ぐわんざん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あの沙門の加持かじを受けますと、見る間にその顔が気色けしきやわらげて、やがて口とも覚しい所から「南無なむ」と云う声が洩れるや否や、たちまち跡方あとかたもなく消え失せたと申すのでございます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
南無なむ疾翔大力、南無疾翔大力。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
たった一声、南無なむとつぶやいただけで、牢獄へちこまれたり、河原へひきすえられて、むちで打ちすえられている老人などを、毎日のように目撃しているのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青膨あをぶくれの、ひたひ抜上ぬきあがつたのをると、南無なむぱう眉毛まゆげがない、……はまだ仔細しさいない。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
南無なむ三——もとの主人卜斎だったかと、仰天ぎょうてんした蛾次郎は、すばやく風をらって逃げだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南無なむ、南無、何かね、お前様、このお墓に所縁の方でがんすかなす。」
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
南無なむ三! 蛾次郎はポンと枝からがけへ飛びうつっていちもくさんにてんおかへかけのぼった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南無なむ」とあとは口のうちで念じながら、左右へかたかたとしずかに開けた。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)