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香
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こう
ふりがな文庫
“
香
(
こう
)” の例文
「今朝の味噌汁が悪うございました。飯にも
香
(
こう
)
の
物
(
もの
)
にも
仔細
(
しさい
)
はなかった様子で、味噌汁を食わないものは何ともございませんが——」
銭形平次捕物控:081 受難の通人
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
床柱
(
とこばしら
)
に
懸
(
か
)
けたる
払子
(
ほっす
)
の先には
焚
(
た
)
き残る
香
(
こう
)
の煙りが
染
(
し
)
み込んで、軸は
若冲
(
じゃくちゅう
)
の
蘆雁
(
ろがん
)
と見える。
雁
(
かり
)
の数は七十三羽、
蘆
(
あし
)
は
固
(
もと
)
より数えがたい。
一夜
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
この茶漬けは、ほかになにひとつ
惣菜
(
そうざい
)
を用いる必要がなく、最後にひと切れの
香
(
こう
)
のものを添えて、ぜいたくな味を満足させれば足りる。
鮪の茶漬け
(新字新仮名)
/
北大路魯山人
(著)
僧正
(
そうじょう
)
は
紫
(
むらさき
)
の
衣
(
ころも
)
をきました。人形の前に
香
(
こう
)
をたき、ろうそくの火をともしました。そしてじゅずをつまぐりながら、
祈
(
いの
)
りをはじめました。
活人形
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
「……見ました、下は、……
香
(
こう
)
——です。——(
釈玉香信女
(
しゃくぎょくこうしんにょ
)
)です。
確
(
たしか
)
に、……何ですか、一つまくってお目にかかるとしますかね。」
露萩
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
彼女は静かに珠数の珠を
算
(
かぞ
)
えながら、鋪石に
跫音
(
あしおと
)
一つ立てないで歩いて行った。
傍
(
そば
)
へ寄ると何となく
香
(
こう
)
や湿った石の匂いがした。
老嬢と猫
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
火鉢でじいじいと
炒
(
い
)
ためてくれるハムの味、
卵子
(
たまご
)
のむし方、
香
(
こう
)
のもの、思い出して
涎
(
よだれ
)
が出るのだから、よっぽど美味かったのに違いない。
朝御飯
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
衣
(
きぬ
)
を商う家、革をひさぐ家、魚をならべる店、わけて
薄男
(
すすきお
)
がよく訪れた
香
(
こう
)
さばく家、それらの店にすわる男らの顔にみな見覚えがあった。
荻吹く歌
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
どこもかしこも、
金
(
きん
)
や、大理石や、
水晶
(
すいしょう
)
や、絹や、
灯火
(
ともしび
)
や、ダイヤモンドや、花や、お
香
(
こう
)
や、あらんかぎりの
贅沢
(
ぜいたく
)
なもので、いっぱいなの
はつ恋
(新字新仮名)
/
イワン・ツルゲーネフ
(著)
あの実の落ちて
居
(
い
)
る木の下へ行ったことがありますか。あの
香
(
こう
)
ばしい木の実を集めたり食べたりして遊んだことがありますか。
二人の兄弟
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
旧
(
ふる
)
い記憶が
香
(
こう
)
のようにしみこんだそれらの物を見ると、葉子の心はわれにもなくふとぐらつきかけたが、涙もさそわずに淡く消えて行った。
或る女:1(前編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
夏の鮒で脂は落ちていますが身は新しいので
燻
(
くすぶ
)
る山椒と醤油の
香
(
こう
)
ばしい匂と共にあまい滋味の湯気が周りに立ち拡がりました。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
そして、両列の間には、
大香炉
(
おおこうろ
)
に
薫々
(
くんくん
)
と惜しみなく
香
(
こう
)
が
焚
(
た
)
かれ、正面に神明を祭り、男と男との義の誓いがここに
交
(
か
)
わされる。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その次は鼻で皿の中から
香
(
こう
)
ばしい
匂
(
にお
)
いが鼻を
掠
(
かす
)
めればそこで一段の食慾を起す。悪い匂いが鼻を
衝
(
つ
)
いたら
忽
(
たちま
)
ち胸が悪くなる。
食道楽:冬の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
あのたおやかな古文の妙、たとえば
真名盤
(
まなばん
)
の
香
(
こう
)
を
炷
(
た
)
いたようなのが、現代のきびきびした
物言
(
ものいい
)
に移されたとき、どんな珍しい匂が生じるだろう。
『新訳源氏物語』初版の序
(新字新仮名)
/
上田敏
(著)
「
嘘
(
うそ
)
だといいなさるのかい。
証拠
(
しょうこ
)
はちゃんと
上
(
あが
)
ってるんだぜ。おせんの
爪
(
つめ
)
を
煮
(
に
)
る
匂
(
におい
)
は、さぞ
香
(
こう
)
ばしくッて、いいだろうの」
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
ありゃいけないね、あんまりゴテゴテの
戒名
(
かいみょう
)
なんぞつけたのは。子孫へ不孝っていうもんだ——なにってやがる、さんざ
香
(
こう
)
このように食っといて——
旧聞日本橋:11 朝散太夫の末裔
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
僕は実際疲れていましたから、ラップといっしょに長老に従い、
香
(
こう
)
の
匂
(
にお
)
いのする廊下伝いにある
部屋
(
へや
)
へはいりました。
河童
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
信じていたぜ、お前の云うことだけは信じられると思って、それこそ冷飯に
香
(
こう
)
こで寝る眼も惜しんで稼いでいたんだぜ
柳橋物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
それが何かといいますと
香
(
こう
)
を
焚
(
た
)
く台である。その大ラマの出て来る前からして僧俗の者が香を焚いて待ち受けて居る。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
そして、その
墨染
(
すみぞめ
)
の袖に沁みている
香
(
こう
)
の
匂
(
におい
)
に、遠い昔の
移
(
うつ
)
り
香
(
が
)
を再び想い起しながら、まるで甘えているように、母の
袂
(
たもと
)
で涙をあまたゝび押し
拭
(
ぬぐ
)
った。
少将滋幹の母
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
ある時、漁師が夜中に船を繋いでいると、そのあたりに笛や歌の声がきこえて、
香
(
こう
)
の匂いが漂っていた。漁師が眠りに就くと、なにびとか来て注意した。
中国怪奇小説集:04 捜神後記(六朝)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
朱
(
あか
)
い髪をし、おおどかな御顔だけすっかり
香
(
こう
)
にお
灼
(
や
)
けになって、右手を胸のあたりにもちあげて軽く印を結ばれながら、すこし伏せ目にこちらを見下ろされ
大和路・信濃路
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
かの岩間に咲く
蓮馨花
(
さくらそう
)
は人に見えざるがゆえに彼女は
紅衣
(
こうい
)
を以て
装
(
よそお
)
わざるか、年々歳々人知れずして
香
(
こう
)
を砂漠の風に加え、色を無覚の岩石に呈する花何ぞ多きや
基督信徒のなぐさめ
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
そうして問題はなお一歩を進めて、
香
(
こう
)
と信仰との年久しい習慣にも結びつけられそうに私は思う。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
逃
(
に
)
げるより、
子供
(
こども
)
を
守
(
まも
)
らなければなりません。四
方
(
ほう
)
を
見
(
み
)
まわしたけれど、
敵
(
てき
)
らしいものの
影
(
かげ
)
はなく、
落
(
お
)
ちたのは、なんと
香
(
こう
)
ばしい、バターのついたパンではありませんか。
どこかに生きながら
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
上には
飯茶碗
(
めしぢゃわん
)
が二つ、
箸箱
(
はしばこ
)
は一つ、
猪口
(
ちょく
)
が二ツと
香
(
こう
)
のもの
鉢
(
ばち
)
は一ツと置ならべられたり。
貧乏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
テカテカする
梯子段
(
はしごだん
)
を登り、長いお廊下を通って、
漸
(
ようや
)
く奥様のお
寝間
(
ねま
)
へ
行着
(
ゆきつき
)
ましたが、どこからともなく、ホンノリと来る
香
(
こう
)
は
薫
(
かお
)
り
床
(
ゆか
)
しく、わざと細めてある
行燈
(
あんどう
)
の
火影
(
ほかげ
)
幽
(
かす
)
かに
忘れ形見
(新字新仮名)
/
若松賤子
(著)
次女はもったい振り、足の下の小さい瀬戸の火鉢に、「梅花」という
香
(
こう
)
を一つ
焚
(
く
)
べて、すうと深く呼吸して眼を細めた。古代の
閨秀
(
けいしゅう
)
作家、紫式部の心境がわかるような気がした。
ろまん灯籠
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
大日如来
件
(
くだん
)
の四仏を供養せんとて
香
(
こう
)
華
(
げ
)
燈
(
とう
)
塗
(
ず
)
の四菩薩を流出す(
外四供養
(
そとのしくよう
)
)、
塗
(
ず
)
とは、〈不空成就仏、塗香を以て供養す、釈迦穢土に出で、衆生を利益せんと、濁乱の境界に親近す
十二支考:05 馬に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
しかし
初音
(
はつね
)
の
香
(
こう
)
を二条行幸の時、
後水尾
(
ごみずお
)
天皇に
上
(
たてまつ
)
ったと云ってあるから、その行幸のあった寛永三年より前でなくてはならない。しかるに興津は
香木
(
こうぼく
)
を
隈本
(
くまもと
)
へ持って帰ったと云ってある。
興津弥五右衛門の遺書(初稿)
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
「そのお方様は
黄金
(
こがね
)
の雨も
白銀
(
しろがね
)
の雨も降らせませぬ。総じてその方のお話は風雅の道ばかりでございます。例えば
聞
(
き
)
き
香
(
こう
)
、和歌の話、
糸竹
(
いとたけ
)
の道にもお詳しく、
曲舞
(
くせまい
)
もお上手でございます」
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
仏壇は大きい立派なもので、
点
(
とも
)
された
蝋燭
(
ろうそく
)
の光に、よく
磨
(
みが
)
かれた仏具や仏像が金色にぴかぴかと
煌
(
きらめ
)
いていた。木之助はその前に冷えた
膝
(
ひざ
)
を
揃
(
そろ
)
えて
坐
(
すわ
)
ると、
焚
(
た
)
かれた
香
(
こう
)
がしめっぽく
匂
(
にお
)
った。
最後の胡弓弾き
(新字新仮名)
/
新美南吉
(著)
「塩加減が悪いから塩をまいていただきたい」「
香
(
こう
)
の物をつけていただきたい」
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
先を争って
天幕
(
テント
)
を
張
(
は
)
りまわすと、手に手にお
香
(
こう
)
を
焚
(
た
)
いたり、
神符
(
しんぷ
)
を焼いたりして崑崙山神の
冥護
(
めいご
)
を祈ると同時に、盛大なお茶祭を催して、
滅亡
(
ほろ
)
びた崑崙王国の万霊を慰めるのだそうですが
狂人は笑う
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
じいさんは毎日時刻を計って楽屋の人たちの
註文
(
ちゅうもん
)
をききに来た後、それからまた時刻を見はからって、丼と
惣菜
(
そうざい
)
や
香
(
こう
)
の
物
(
もの
)
を盛った小皿に
割箸
(
わりばし
)
を添え、ついぞ洗った事も磨いた事もないらしい
勲章
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
机竜之助の前には島田虎之助が
衣紋
(
えもん
)
の折目正しく
一炷
(
いっちゅう
)
の
香
(
こう
)
を
焚
(
た
)
いて端坐しているところへ、自分は剣を抜いて後ろから
覘
(
ねら
)
い寄る、刀を振りかぶると前を向いていた島田が
忽然
(
こつぜん
)
とこっちへ向く
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
田中から聞いた、彼女の優しい
戒名
(
かいみょう
)
を刻んだ
石碑
(
せきひ
)
の前に、花を
手向
(
たむ
)
け
香
(
こう
)
をたいて、そこで一こと彼女に物が云って見たい。そんな感傷的な空想さえ描くのでした。無論これは空想に過ぎないのです。
モノグラム
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
そうして
室内
(
しつない
)
に
何
(
なに
)
か
香
(
こう
)
を
薫
(
く
)
ゆらすようにとニキタに
命
(
めい
)
じて
立去
(
たちさ
)
った。
六号室
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
貧しい人々は、戸口の前に集まってもらった金を分かちながら、ふたりを祝福した。至る所に花が
撒
(
ま
)
かれていた。家の中も教会堂に劣らずかおりを放っていた。
香
(
こう
)
の次に
薔薇
(
ばら
)
の花となったのである。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
芥子焼
(
けしやき
)
の
香
(
こう
)
のよくしみこんだ
袈裟
(
けさ
)
をとり出して、庄司にわたし
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
匂
(
にお
)
やかに
香
(
こう
)
のたきこめた手紙には、これまた類い稀な筆跡で
現代語訳 平家物語:09 第九巻
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
あるかなしかの風にゆらいで、
香
(
こう
)
のけむりが
床
(
ゆか
)
しく
漂
(
ただよ
)
う。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
踏石に置く蚊やり
香
(
こう
)
縁に腰
七百五十句
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
「
香
(
こう
)
を
焚
(
く
)
べましょう。」
戦雲を駆る女怪
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
香
(
こう
)
ばしい
花橘
(
はなたちばな
)
の樹
古事記:03 現代語訳 古事記
(旧字新仮名)
/
太安万侶
、
稗田阿礼
(著)
香
(
こう
)
の煙、お経の合唱、
梵鐘
(
ぼんしょう
)
の伴奏に、次第に時刻がたつと庭一杯に集まった群衆は、真昼の暑さも忘れて、虫のように
蠢
(
うごめ
)
きます。
銭形平次捕物控:018 富籤政談
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
寝室
(
ねま
)
へ戻って、何か思切ったような意気込で、早瀬は
勢
(
いきおい
)
よく枕して目を閉じたが、枕許の
香
(
こう
)
は、包を開けても見ず、手拭の移香でもない。
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
女の振り向いた方には三尺の台を二段に仕切って、下には長方形の
交趾
(
こうち
)
の
鉢
(
はち
)
に細き
蘭
(
らん
)
が
揺
(
ゆ
)
るがんとして、
香
(
こう
)
の煙りのたなびくを待っている。
野分
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
一人がなよやかな気高い
香
(
こう
)
を贈るために女房連に頼み入れば、一人は
七種香
(
しちしゅこう
)
の
価
(
あたい
)
高いものを携えてこれを橘の君に奉れと申し出るのであった。
姫たちばな
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
“香”の解説
香(こう、en: incense)とは、本来、伽羅、沈香、白檀などの天然香木の香りをさす。そこから線香、焼香、抹香、塗香等の香り、またこれらの総称として用いられる。お香、御香ともいう。
(出典:Wikipedia)
香
常用漢字
小4
部首:⾹
9画
“香”を含む語句
香花
香物
名香
香気
薫香
香油
香料
鬱金香
麝香
芳香
香水
茴香
香炉
沈香
涙香
香煎
香箱
香染
香具
香山
...