都合つごう)” の例文
この竹の筒のやうなものが都合つごう十八あつたのを取りへ取り更へてかけて見たが、過半は西洋の歌であるので我々にはよくわからぬ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「そうですそうです。そんな御縁もあることだからという、福田氏の頼みなんですよ。どうです。何とか都合つごうをして帰ってくれませんか」
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
仕事しごと都合つごう二電車ふたでんしゃばかりおくれた父親ちちおやは、くろ外套がいとうに、鳥打帽とりうちぼうをかぶっていそいできました。むかえにているせがれつけると
波荒くとも (新字新仮名) / 小川未明(著)
戦時だけ自分に都合つごうよき主義を唱えたとても、平生の行状がこれに伴わないものは、ただ一場の言い前に過ぎずとして採用されなかった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
地に斃された人の数はこの時すでに十一を数えられて、そして残るところの新徴組は都合つごう四人。この四人はみな名うての者です。
いつめた渡り職人、仕事にはなれた土方、都合つごう次第で乞食になったり窃盗せっとうになったり強盗ごうとうになったり追剥おいはぎになったりする手合も折々おりおり来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ひとほうけとやら、こんな場合ばあいには矢張やは段違だんちがいの神様かみさまよりも、お馴染なじみみの祖父じじほうが、かえって都合つごうのよいこともあるものとえます。
このユリの特徴とくちょう葉腋ようえき珠芽しゅがが生ずることである。これが地に落ちれば、そこに仔苗しびょうが生ずるから繁殖はんしょくさすには都合つごうがよい。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
その士格の売主うりぬしは、小普請目見得格こぶしんめみえかく小牧甚三郎こまきじんざぶろうという御家人ごけにん、一人娘があるから、むこの形式をもって継いでくれれば、万端ばんたん都合つごうがいいという。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
フレンチ医師が医学校を出てまもない、二十代のほやほやだったということも、彼にとっては好都合つごうだったに相違ない。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
いびきごえや寝言など外部の音響おんきょうをも遮断しゃだんするに都合つごうが好かったもちろん爪弾つまびきでばちは使えなかった燈火のないくらな所で手さぐりで弾くのである。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それがいつまでつづくかは、私の筆の都合つごうと、紙面の編輯へんしゅうの都合とできまるのだから、判然はっきりした見当は今つきかねる。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そうだ——じゃともかくも手紙をやって、向うの都合つごうを問い合せて見よう。多分差支えはなかろうと思うんだが。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
インドの上をとぶことができれば、都合つごうがよかったのであるが、あいにく気象状態がよくないので、この国の上へは、なるべくとばない方がよかった。
氷河期の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
僕が何かの都合つごうのために、たとえばひどくつかれているとか、おおかみに追われているとか、あるいはひどく神経が興奮しているとか、そんなような事情から
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
まして女人の身、いっそう都合つごうが悪いのです。寺で断られるのは知れ切ったこと。しかたなく昭青年は言いました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
蔡温はまた『独物語』の中に、国家を上中下の三段に分ち、そのおのおのをまた上中下の三段に分ち、都合つごう国家に九段の別があるという事をいっております。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
ガンデンから十六里余あるから、二日前から出て二日の晩か三日の朝着くように大抵そういう都合つごうに出て来るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それをしおにそこらをそろ/\片附けはじめると、三人は気の毒だがもう少し飲ませてくれと云つて、それからそれへと又二杯、都合つごう七杯づつ飲みました。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
すっかりわすれていた、とにかく都合つごうがえい、それではきょうさっそく上京じょうきょうして、あの人に相談そうだんしてみよう、時重ときしげ先生が心配してくれ、きっとどうにかなる
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
地震ぢしん豫知問題よちもんだいかり都合つごうよく解決かいけつされたとしても、震災防止しんさいぼうしについてはなほ重大じゆうだい問題もんだい多分たぶんのこるであらう。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
「じゃ一つ、取っておくほうが、万事都合つごうがいいですな。中学の証明があれば、実科を少しやればわけはありゃしないから……教授法はちっとは読みましたか」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
社会しゃかい犯罪人はんざいにんや、精神病者せいしんびょうしゃや、すべ自分等じぶんら都合つごうわる人間にんげんたいして、自衛じえいすのには、どうしたってつことは出来できません。で、貴方あなたすべきところは一つです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ぎに草原くさはら濕地しつちは『腐植土ふしよくど』といつて、植物しよくぶつれて、えだくさつた肥料こやしになつてゐるようなつちみ、水分すいぶんおほいので、植物しよくぶつ生育せいいくには大變たいへん都合つごうがよいため
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
それが出来ましたらベシン皿かあるいは丼鉢どんぶりばちへ先ず今の御飯を少しいで摺り卸したチースを大匙一杯だけ振かけてまた御飯を注いでチースをかけて都合つごう四段にチースを
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
入船に都合つごうい風をアイの風というようになって、幾らかは最初の意味がかわったかもしれぬが、とにかく海辺に住む者にとって、心のときめく風であったことは同じで
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「元気がない」と云うほう都合つごうがよい、と思っていたのではないか、と私には思われる。
茂吉の一面 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
堅牢けんらうなるてつおりをもつて圍繞かこまれ、下床ゆか彈力性だんりよくせいいうするクロー鋼板かうばんで、上部じやうぶ半面はんめん鐵板てつぱんおほはれ、半面はんめん鐵檻てつおりをもつてつくられ、鐵車てつしや都合つごう十二の車輪くるまそなへ、其内そのうち齒輪車しりんしや
しばらく故郷を離れたが正作は家政の都合つごうでそういうわけにゆかず、周旋しゅうせんする人があってなにがし銀行に出ることになり給料四円か五円かで某町なにがしまちまで二里の道程みちのり朝夕ちょうせき往復することになった。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
にんじんは、いそいでこういう。それが一番都合つごうのいい弁解だと思ったからである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
そういうむらこそ、こっちのしょうばいになるじゃないかッ。くらがあって、子供こどもでもねじきれそうなじょうしかついておらんというほど、こっちのしょうばいに都合つごうのよいことがあるか。まぬけめが。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
それもこれも、みんなおいらのせえだッてんじゃ、てんでがありゃしねえや。どこの殿様とのさまがこさえたたとえからねえが、ながものにゃかれろなんて、あんまりむこうの都合つごう良過よすぎるぜ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
自分に都合つごうのいい時だけは生死を共にするって云うような顔をして、自分に都合が悪くなって来ると、偉そうな言訳を並べたてて、……このざまだ。清原。そりゃ、俺達はまだ青二才あおにさいの学生さ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
私たちの都合つごうで両親の手から取ろうと申すのはあまり勝手でございます。私、お母様のお心持ちが察しられますから、そこのところを直々お目にかかって念の通じるように申し上げたいとぞんじます
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「そうとも、そうともお前、万事ばんじ都合つごうよくいったというものよ、久子」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「しかし、それはどうとも都合つごうが出来よう。」
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たたくに都合つごうのよいむち
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
一家の都合つごうによって返済ののう不能ふのうも定まることであるから、感情的の理由も通る場合もあまたあろうが、借財が事業のためにったものならば
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
あかちゃんは、そう都合つごうよくいくのを、けっして不思議ふしぎともなんともおもいませんでした。そして、むしろそれがあたりまえのようにおもっていました。
はてしなき世界 (新字新仮名) / 小川未明(著)
昨日きのう新田にったから返事が来たが、月水金の内でさえあれば、いつでも喜んで御案内すると云うんだ。だからその内で都合つごうい日に参観して来給え。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
都合つごうのいいこともあれば都合の悪いこともある。しかし今更いまさらこのことを喜憂きゆうしても始まらない。本能的なものが運命をそう招いたと思うより仕方しかたがない。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
誰だって自分の都合つごうのいいように物事を考えたいものではありますがどこ迄もそれで通るものではありません。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いつぞや大菩薩峠の上で生胴いきどうためしてその切味きれあじに覚えのある武蔵太郎安国のきたえた業物わざものを横たえて、門弟下男ら都合つごう三人を引きつれて、いざ出立しゅったつ間際まぎわ
矢野は本郷台町だいまちに友人のいる下宿をたずねて、幸いに友人もおって取りあえず下宿の相談をすると、この家でどうにか都合つごうができるだろう、まあ話せという。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
まだ小林にく事の残っている津田は、出立前しゅったつぜんもう一遍彼に会っておく方が便宜べんぎであった。けれども彼とお延と落ち合う掛念けねんのある病院では都合つごうが悪かった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところが、都合つごうのいいことには、その三階に、少年探偵団のひとり、小玉君のお父さんの事務所があった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
花の底には一つの緑色の子房しぼうが立っており、そのいただきに一本の長い花柱かちゅうがあり、その末端まったんはすなわち柱頭ちゅうとう三耳形さんじけいていし、粘滑ねんかつで花粉を受けるに都合つごうよくできている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
急報に接して飛んで往った次郎さんの阿爺おとっさんも、に合わなかったそうである。夜にかけて釣台つりだいにのせて連れて来て、組合中くみあいじゅう都合つごう今日きょう葬式そうしきをすると云うのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかもり所のない空想ではなく、正史はもちろん、記録や古文書が申し分なく備わっているのであるから、作者はただ与えられた史実を都合つごうよく配列するだけでも
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
たしかに稲となっている実例も有るというが、幸いにそうだったらむしろ私には都合つごうい。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)