菅笠すげがさ)” の例文
そこに神輿みこしが渡御になる。それに従う村じゅうの家々の代表者はみんなかみしもを着て、からかさほどに大きな菅笠すげがさのようなものをかぶっていた。
田園雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
勘次かんじはそれでも分別ふんべつもないので仕方しかたなしに桑畑くはばたけこえみなみわびたのみにつた。かれふる菅笠すげがさ一寸ちよつとあたまかざしてくびちゞめてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
のべ用意ようい雨具あまぐ甲掛かふかけ脚絆きやはん旅拵たびごしらへもそこ/\に暇乞いとまごひしてかどへ立出菅笠すげがささへも阿彌陀あみだかぶるはあとよりおはるゝ無常むじやう吹降ふきぶり桐油とうゆすそへ提灯の
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
梅雨つゆ降頻ふりしきる頃には、打渡した水の満ちた田に、菅笠すげがさがいくつとなく並んで、せつせとなへを植ゑて行つてゐる百姓達の姿も見えた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
中巻第一図と第二図とは本所御船蔵ほんじょおふなぐらを望む両国広小路りょうごくひろこうじ雑沓ざっとうなり。日傘菅笠すげがさ相重あいかさなりて葭簀よしずを張りし見世物小屋みせものごやの間に動きどよめきたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼女の乗り馴れた銀毛の駒も、この小仏越えにはぎょしきれまいと思ったので、それは麓にあずけて来て、今朝は菅笠すげがさ紅緒べにおの草履。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
会津山おろし肌にすさまじく、白雪紛々と降りかかったが、人の用いはばかりし荒気大将佐々成政の菅笠すげがさ三蓋さんがい馬幟うまじるしを立て、是は近き頃下野の住人
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
振返って見ると、一方のあぜの上には菅笠すげがさ、下駄、弁当の包らしい物なぞが置いてあって、そこで男の燻す煙草の煙が日の光に青く見えた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「その上、夕方かごめかごめかなんかやって遊んでいて、不意に見えなくなった。菅笠すげがさ柄杓ひしゃくも仕度をする間がありませんよ」
明くる朝を待って池の畔へ行って見ると、可哀そうに二郎の被っていた菅笠すげがさが池の水に漂うていた。父親は其処そこに泣き倒れた。
稚子ヶ淵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
... 金紗きんしやで縫はせ」より以下「向ひ通るは清十郎ぢやないか、笠がよく似た、菅笠すげがさが、よく似た笠が、笠がよく似た菅笠がえ。笠を案内しるべの物狂ひ」
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そこへかんとて菅笠すげがさいただき草鞋わらじはきて出でたつ。車前草おい重りたる細径こみちを下りゆきて、土橋どばしある処に至る。これ魚栖めりという流なり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
菅笠すげがさを被って道中差どうちゅうざしを差して、足ごしらえをしてキリリとした扮装いでたちで、向う岸の茅屋の後ろを飛ぶが如くに歩いて行きます。
調子の好い高木は縁側えんがわへ出て、二人のために菅笠すげがさのように大きな麦藁帽むぎわらぼうを取ってやって、行っていらっしゃいと挨拶あいさつをした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
事實じゝつ此世このよひとかもれないが、ぼくにはあり/\とえる、菅笠すげがさかぶつた老爺らうやのボズさんが細雨さいううちたつる。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
附馬牛つくもうしの谷へ越ゆれば早池峯はやちねの山は淡くかすみ山の形は菅笠すげがさのごとくまた片仮名かたかなのへの字に似たり。この谷は稲熟することさらに遅く満目一色に青し。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
僧は黒い破れた法衣ころもを着ていた。彼はかぶっている菅笠すげがさひもき解き縁側に腰をかけて、ななめに碁盤の上を覗き込んだ。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかしそのことばの通りにすると、みのを着よ、そのようなその羅紗らしゃの、毛くさいやぶれ帽子などは脱いで、菅笠すげがさかぶれという。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何かせき立てられていた。そわそわと心せわしくより集まった。菅笠すげがさのふちに手をかけて相手の言葉を見ようとした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
結城紬ゆふきつむぎの二枚重ねに一本独銛どつこの博多の帯、道中差だうちゆうざしをぶつこんでの、革色の半合羽に菅笠すげがさをかぶつてゐたと思ひねえ。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
すると、一軒の荒物屋へ此の夕立の最中に一人の真っ黒な小僧が飛び込んで来て、店先にかけてあった菅笠すげがさを掻っさらって逃げたということが判った。
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
忠次は、振り向きながら、時々、かぶっている菅笠すげがさを取って振った。その長身の身体は、山の中腹をおおうている小松林の中に、しばらくの間は見え隠れしていた。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そのマジナイは、旅行者が菅笠すげがさの上に「大道寺孫九郎」と大書しておく。この文字を書いておけば、途中にて雷が頭上に落ちくることがないと申している。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
それと見て取った旅人は、菅笠すげがさの縁へ片手を掛け、詫びるようにかしげたが、また繰り返していうのであった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
檜木笠をかぶって旅をしておると、その上に霰が降って来る。菅笠すげがさなどよりも一層音が大きくって、いかにもいかめしいパリパリという音がするというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
菅笠すげがさ草鞋わらじを買うて用意を整えて上野の汽車に乗り込んだ。軽井沢に一泊して善光寺に参詣さんけいしてそれから伏見山まで来て一泊した。これは松本街道なのである。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
蒟蒻閻魔こんにゃくえんまのお堂に近い街を過ぎる時、菅笠すげがさを被った童子が後から走って来て、並んで歩きました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
彼は快く岳父の棺側をまもる役の一人を引受け、菅笠すげがさかぶ藁草履わらぞうり穿いて黙々と附いて歩いた。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ことさら暑い日中をえらんで菅笠すげがさかぶった金魚屋が「目高、金魚」と焼けつくような人の耳に
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
つばめの飛ぶ小雨の日に、「新藁、しんわら」と、はだしの男がすねに細かい泥をねあげて、菅笠すげがさか、手ぬぐいかぶりで、駈足で、青い早苗を一束にぎって、売り声を残していった。
斑尾の道を豆ほどの荷馬がゆき、杉窪を菅笠すげがさがのぼってゆくのは蕎麦そばを刈るのであろう。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
母が、「豆腐屋さんのお店は?」と訊いたら、口籠くちごもっていた。「みきや長屋の近く?」と訊いたら、「へえ。そのみきや長屋で。」と云った。雨の日には、菅笠すげがさをかぶってきた。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
ふりかえって東を見れば、㓐別谷りくんべつだにしきるヱンベツの山々をまえて、釧路くしろ雄阿寒おあかん雌阿寒めあかんが、一はたけのこのよう、他は菅笠すげがさのようななりをして濃碧の色くっきりと秋空に聳えて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一個ひとりの壮年入り来たり炉の傍の敷居に腰かけぬ、彼は洗濯衣を着装きかざり、すそを端折り行縢むかばきを着け草鞋わらじをはきたり、彼は今両手に取れる菅笠すげがさひざの上にあげつつ、いと決然たる調子にて
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
手甲てっこう脚絆きゃはん、仕着せはんてんにお定まりの身ごしらえをして、手口は一目瞭然りょうぜん、絞殺にまちがいなく、かぶっている菅笠すげがさのひもがいまだになおきりきりと堅く首を巻いたままでした。
右門捕物帖:30 闇男 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
六十の坂を五つつ越したかと見える巡礼の老爺おやじが、汚れ果てた単物の上に負笈おいずるを掛け、雪卸しの菅笠すげがさかぶり、細竹の杖を突き、白い脚半も汚れて鼠色に成ったのを掛け、草鞋を穿
ふと気付くと蜜柑の木の下に立っている。見覚えのある蜜柑の木だ。蕭条しょうじょうと雨の降る夕暮れである。いつの間にか菅笠すげがさかぶっている。白い着物を着て脚絆きゃはんをつけて草鞋ぞうり穿いているのだ。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
屋外は、すごいどしゃ降りだ。菅笠すげがさをかぶって洗面器をとりに風呂場へ行った。
新郎 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私はただ、苛立いらだたしい心を抱いて立っているよりほかはなかった。と、前の桑畑から、肥桶こやしおけを担いだ一人の百姓男が膝のぬけた股引を穿菅笠すげがさかむってやって来て、家の中に這入ろうとした。
それで民子は、例のたすきに前掛姿で麻裏草履という支度。二人が一斗笊一個宛ひとつずつを持ち、僕が別にばんニョ片籠かたかご天秤てんびんとを肩にして出掛ける。民子が跡から菅笠すげがさかむって出ると、母が笑声で呼びかける。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
とりいれられている趣であるが、玄関には登山用の糸立いとだて菅笠すげがさ、金剛杖など散らばっている上に、一段高く奥まったところに甲冑かっちゅうが飾ってあり、曾我の討入にでも用いそうな芝居の小道具然たる刺叉さすまた
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
と、一人の侍のもってきたつつみをあけると郡奉行は、菅笠すげがさを取出した。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
巡礼というのは、まだ三十歳ばかりの女で、菅笠すげがさ手甲てっこう脚絆きゃはん笈摺おいずる、みなさっぱりしたみなりでしたが、胸に赤ん坊をだいていました。おずおずと庭にはいってきて、静かなひくい声でいいました。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あの順礼の菅笠すげがさになんと書いてありますか。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
やぶれ菅笠すげがさ、しめが切れて
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「その上、夕方かごめ/\か何んかやつて遊んでゐて、不意に見えなくなつた。菅笠すげがさ柄杓ひしやくも仕度をする間がありませんよ」
今、但馬守の駕わきに歩いていた菅笠すげがさの侍で——何と、顔を見合えば、柳生ノ庄でよく見知っている——石舟斎の高弟木村助九郎ではないか。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
菅笠すげがさをとつてだらりとかぶつた手拭てぬぐひはづしたときすこみだれたかみがぐつしやりとあせれてげつそりとおとろへたものゝやうおぼえた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
脚絆きゃはん足袋たび草鞋わらじ菅笠すげがさは背中に、武士ではないがマンザラ町人でもない——手に四尺五寸ほどあるかしで出来た金剛杖こんごうづえまがいのものをついていました。
妙義町みょうぎまち菱屋ひしや門口かどぐち草鞋わらじを穿いていると、宿の女が菅笠すげがさをかぶった四十五、六の案内者を呼んで来てくれました。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)