トップ
>
膨
>
ふく
ふりがな文庫
“
膨
(
ふく
)” の例文
すると今も夕日は
朱盆
(
しゅぼん
)
のように大きく
膨
(
ふく
)
れた顔を、水平線の上に浸そうというところだった。それはいつに変らぬ平和な入日だった。
空襲警報
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
一匁一円二十銭だから水につけるとぐっと
膨
(
ふく
)
れるからそれほど高いものでもないが、やはり、この種の美味の
範疇
(
はんちゅう
)
に属するといえる。
美味放談
(新字新仮名)
/
北大路魯山人
(著)
それを見ると弟はきゅうに口を
緘
(
つぐ
)
んで、彼女を放っておいてどんどん先へいった。弟の胸の中に不満と淋しさが
膨
(
ふく
)
れ上っていたのだ。
青草
(新字新仮名)
/
十一谷義三郎
(著)
鮎をその衣へ包んでサラダ油で揚げたのですが最初は弱い火で長く揚げて
卸
(
おろ
)
す前に火を強くしないと衣がこんなに
膨
(
ふく
)
らんでいません。
食道楽:秋の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
母子
(
おやこ
)
のあいだの感情は、他人の見た眼のようなのではない。——そう腹の
膨
(
ふく
)
れるように思ったが、たった今、救われた恩義のてまえ
宮本武蔵:07 二天の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
▼ もっと見る
つまり頬を
膨
(
ふく
)
らし、唇で山蜂の飛ぶ音を
真似
(
まね
)
、かくて不満の意を表わすという
次第
(
しだい
)
だ。そのうちに、きっとやらずにはいないだろう。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
障子
(
しやうじ
)
を細目に開けて見ると、江戸中の櫻の
蕾
(
つぼみ
)
が一夜の中に
膨
(
ふく
)
らんで、
甍
(
いらか
)
の波の上に黄金色の
陽炎
(
かげろふ
)
が立ち舞ふやうな美しい朝でした。
銭形平次捕物控:142 権八の罪
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
そう言って、ぞろぞろ土堤へ這い上り、腕を振り
咽喉
(
のど
)
を
膨
(
ふく
)
らまし、労働歌や革命歌を爆発させた。日に五六遍は土堤へ押しかけた。
鋳物工場
(新字新仮名)
/
戸田豊子
(著)
「市街地は学校の前まで
膨
(
ふく
)
らんで来ているのに、地図の上では、用水堀のところまでが市街地のようになっているのであります。」
都会地図の膨脹
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
時折、
言問橋
(
ことといばし
)
を自動車のヘッドライトが
明滅
(
めいめつ
)
して、行き過ぎます。すでに一
艘
(
そう
)
の船もいない
隅田川
(
すみだがわ
)
がくろく、
膨
(
ふく
)
らんで流れてゆく。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
もうおパンというものは小麦の粉をこねたりむしたりしてこしらえたものでふくふく
膨
(
ふく
)
らんでいておいしいものなそうでございますが
セロ弾きのゴーシュ
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
大黒様のついた黄色い
財布
(
さいふ
)
は次第に銭で
膨
(
ふく
)
れて行ったが、彼は次第に先刻からの気分を失いはじめて、だんだん
憂鬱
(
ゆううつ
)
になっていた。
糞尿譚
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
御やすみになっているところを御起しして済みませんが、
夜前
(
やぜん
)
からの雨があの通り
甚
(
ひど
)
くなりまして、
渓
(
たに
)
が
俄
(
にわか
)
に
膨
(
ふく
)
れてまいりました。
観画談
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
低い鼻と、
膨
(
ふく
)
れた赤い
頬
(
ほ
)
っぺたをもった若者は、五本の指で足りずにモ一つの
掌
(
てのひら
)
をひろげて数えたてたが、またフイと云い出した。
冬枯れ
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
第三の
頭巾
(
ずきん
)
は白と
藍
(
あい
)
の
弁慶
(
べんけい
)
の
格子
(
こうし
)
である。
眉廂
(
まびさし
)
の下にあらわれた横顔は丸く
膨
(
ふく
)
らんでいる。その片頬の真中が
林檎
(
りんご
)
の熟したほどに濃い。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
わたくしはその好もしさに身体が
膨
(
ふく
)
れ
腫
(
は
)
れるほど夜景の情趣を吸い取りました。凝滞していた気分は
飛沫
(
ひまつ
)
を揚げて流れ始めました。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
其れが
焼鏝
(
やきごて
)
を当てる様になり、
乃至
(
ないし
)
「ヌマ」と云ふ曲つたピンに巻いて
縮
(
ちゞ
)
らす様になると、癖を附けぬ毛の三倍程も毛は
膨
(
ふく
)
れるが
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
やがて枝々の先きが柔かく
膨
(
ふく
)
れて来て、すーツと新芽が延び出した。そしてその根元の
処
(
ところ
)
へ小さな
淡褐色
(
たんかつしよく
)
の
蕾
(
つぼみ
)
が幾つも群がつて現はれた。
夢
(新字旧仮名)
/
相馬泰三
(著)
胴中には青竹を
破
(
わ
)
りて曲げて環にしたるを
幾処
(
いくところ
)
にか入れて、竹の両はしには
屈竟
(
くっきょう
)
の
壮佼
(
わかもの
)
ゐて、支へて、
膨
(
ふく
)
らかに
幌
(
ほろ
)
をあげをり候。
凱旋祭
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
エエカ……早川をそそのかして、女を
膨
(
ふく
)
らましては自分で引き受けて、相手の親から金を絞るのを、片手間の商売にしとるんだ。
空を飛ぶパラソル
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
「むゝ。」と
膨
(
ふく
)
れ氣味の
坊
(
ぼ
)
ツちやまといふ
見
(
みえ
)
で、
不承不精
(
ふしやうぶしやう
)
突出
(
つきだ
)
された
品
(
しな
)
を受取ツて、
楊子
(
やうじ
)
をふくみながら中窓の
閾
(
しきゐ
)
に腰を掛ける。
平民の娘
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
日本はこの頃ようやく輸入されたようだが、セイロン、ビルマ等、小乗仏教国に釈迦像の後に帽蛇が喉を
膨
(
ふく
)
らして立ったのが極めて多い。
十二支考:03 田原藤太竜宮入りの話
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
「
此
(
こ
)
りや
大層
(
たいそう
)
大事
(
だいじ
)
にしてあるな」
醫者
(
いしや
)
は
穢
(
きたな
)
い
手拭
(
てぬぐひ
)
をとつて
勘次
(
かんじ
)
の
肘
(
ひぢ
)
を
見
(
み
)
た。
鐵
(
てつ
)
の
火箸
(
ひばし
)
で
打
(
う
)
つた
趾
(
あと
)
が
指
(
ゆび
)
の
如
(
ごと
)
くほのかに
膨
(
ふく
)
れて
居
(
ゐ
)
た。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
水菓子屋の目さめるような店先で立止って足許の
甘藍
(
かんらん
)
を
摘
(
つま
)
んでみたりしていたが、とうとう蜜柑を四つばかり買って外套の隠しを
膨
(
ふく
)
らませた。
まじょりか皿
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
「なにを云やあがるんだ。うぬの知ったことじゃあねえ」と、又蔵は面を
膨
(
ふく
)
らせて這い起きた。「ぐずぐず云やあがると今度は
汝
(
うぬ
)
が相手だぞ」
半七捕物帳:11 朝顔屋敷
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
「さいだすか、そんなこと知りまへんもんやよつて。」と、お駒がぷツと
膨
(
ふく
)
れて、風呂敷包を片手に立ち去らうとするのを
天満宮
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
口を開き眼を
剥
(
む
)
き出し、頬を
膨
(
ふく
)
らせ小鼻を怒らせ、気味の悪い三白眼をキラキラ光らせた
悪戯児
(
いたずらっこ
)
らしい顔で、すなわち甚太郎の顔なのである。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
貴様はこの月琴の胴の
膨
(
ふく
)
らんだところへ、路用を隠しておくのだな、木にしては重味がありすぎる……大方、この胴の中へ
大菩薩峠:24 流転の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
自分をはげますように、そんな風に思って見たが、すると、又、激しい愛慾の悩みが、白くむっちりと
膨
(
ふく
)
れた胸を、噛む。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
府縣市町村
(
ふけんしちやうそん
)
の
大正
(
たいしやう
)
三
年度
(
ねんど
)
の
豫算
(
よさん
)
は三
億
(
おく
)
二千七百
萬圓
(
まんゑん
)
であつたものが
昭和
(
せうわ
)
四
年度
(
ねんど
)
の
豫算
(
よさん
)
では十八
億
(
おく
)
九千
萬圓
(
まんゑん
)
に
膨
(
ふく
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
金解禁前後の経済事情
(旧字旧仮名)
/
井上準之助
(著)
一月の刺すやうな空氣に、いびつになるほど
膨
(
ふく
)
れ上つて
跛
(
ちんば
)
を引いてゐた、
憐
(
あは
)
れな私の足も、四月の
柔
(
やさ
)
しいいぶきを受けて、跡形もなく
癒
(
なほ
)
り始めた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
れと云れて
女房
(
にようばう
)
は
頬
(
ほゝ
)
膨
(
ふく
)
らし女房が何で
邪魔
(
じやま
)
に
成
(
なる
)
お光殿もお光殿此
晝日中
(
ひるひなか
)
馬鹿々々
(
ばか/\
)
しいと口には
言
(
いは
)
ねどつん/\するを長助夫と見て取つて其方が氣を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
むっくりした片手で小さい
算盤
(
そろばん
)
の端を押え、
膨
(
ふく
)
らんだ事務服の胸を顎で押えるようにし、何か勘定している矢崎は、聞えないのか返事をしなかった。
一本の花
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
その時の恰好が思い出せた。腹から尻尾へかけてのブリッとした
膨
(
ふく
)
らみ。
隅
(
すみ
)
ずみまで力ではち切ったような伸び縮み。
城のある町にて
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
海は絶えず
膨
(
ふく
)
れ上つて、雪のやうな波の
水沫
(
しぶき
)
を二人のまはりへ
漲
(
みなぎ
)
らせた。素戔嗚はその水沫の中に、時々葦原醜男の方へ意地悪さうな視線を投げた。
老いたる素戔嗚尊
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
そしてその
蕾
(
つぼみ
)
のまさに
綻
(
ほころ
)
びんとする
刹那
(
せつな
)
のものは、
円
(
まる
)
く
膨
(
ふく
)
らみ、今にもポンと音して
裂
(
さ
)
けなんとする姿を
呈
(
てい
)
している。
植物知識
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
だいぶ
膨
(
ふく
)
れてはいるがひどく痛みはしない。それで夢中になって鎌を扱っている。二時間くらいはすぐ立ってしまう。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
チャリ敵の伝兵衛、大して度胸もない癖に、すぐ
向
(
むか
)
ッ
腹
(
ぱら
)
をたてる性質だから、たちまち
河豚提灯
(
ふぐちょうちん
)
なりに
面
(
つら
)
を
膨
(
ふく
)
らし
平賀源内捕物帳:萩寺の女
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
色の白い頬っぺたの
膨
(
ふく
)
らんだ子で、性質が極素直であった。この子が、気の毒にも、僕の試験の対象物にせられた。
ヰタ・セクスアリス
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
「太郎さん、お前は何を
那麽
(
そんな
)
にポケットに入れて置くの? 大変
膨
(
ふく
)
らんでるじゃないか。
宛然
(
まるで
)
通
(
つう
)
の
懐中
(
ふところ
)
のようだよ」
いたずら小僧日記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
細クテスッキリシテイルノダケレドモ、膝ノ下カラ
踝
(
くるぶし
)
ニ至ル線ガ外側ヘ曲ッテイテ、靴ヲ
穿
(
は
)
イタ足首ト
脛
(
すね
)
トノ接合点ガ妙ニ
脹
(
は
)
レボッタク
膨
(
ふく
)
ランデイル。
鍵
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
春が来て、木の芽から畳の
床
(
とこ
)
に至るまですべてのものが
膨
(
ふく
)
らんで来た。愛子も貞世も見違えるように美しくなった。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
と教授は
膨
(
ふく
)
れつ
面
(
つら
)
をして
床
(
ゆか
)
の
間
(
ま
)
にそれを投げつけた。仏様は将棋の桂馬のやうな足音をさせて、
其辺
(
そこら
)
を飛び廻つた。
茶話:02 大正五(一九一六)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
それは風の無い夢の中のような
夜
(
よ
)
で、
後
(
あと
)
から後からと
膨
(
ふく
)
らんで来て、
微白
(
ほのじろ
)
く
磯
(
いそ
)
に崩れている
浪
(
なみ
)
にも音がなかった。
月光の下
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
それは水中に長く沈んでいた男の顔で、
膨
(
ふく
)
れて、白ちゃけて、その濡れしおれた髪には
海藻
(
かいそう
)
がからみついていた。
世界怪談名作集:02 貸家
(新字新仮名)
/
エドワード・ジョージ・アール・ブルワー・リットン
(著)
これは
五六寸
(
ごろくすん
)
から
一尺
(
いつしやく
)
ぐらゐの
長
(
なが
)
さのものでありまして、
圓
(
まる
)
い
棒
(
ぼう
)
の
頭
(
あたま
)
の
所
(
ところ
)
が
膨
(
ふく
)
れてゐます。その
膨
(
ふく
)
れたところに、
種々
(
しゆ/″\
)
模樣
(
もよう
)
の
彫
(
ほ
)
つてあるものもあります。
博物館
(旧字旧仮名)
/
浜田青陵
(著)
なーる
程
(
ほど
)
、にこやかで
頬
(
ほゝ
)
の
膨
(
ふく
)
れてゐる
所
(
ところ
)
なんぞは
大黒天
(
だいこくてん
)
の
相
(
さう
)
があります、それに
深川
(
ふかがは
)
の
福住町
(
ふくずみちやう
)
の
本宅
(
ほんたく
)
は
悉皆
(
みな
)
米倉
(
こめぐら
)
で
取囲
(
とりまい
)
てあり、
米俵
(
こめだはら
)
も
積揚
(
つみあげ
)
て
在
(
あ
)
るからですか。
七福神詣
(新字旧仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
その真綿を少し
抓
(
つま
)
んで引き抜き、一方を細く撚り、一方を小指の先ほどの大きさに、フワフワと
膨
(
ふく
)
らませた。
採峰徘菌愚
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
赫黒い父の額に、藪蚊が一匹血に
膨
(
ふく
)
れて止まっていたが、鳥渡、眉をしかめただけで叩こうともしなかった。
十姉妹
(新字新仮名)
/
山本勝治
(著)
石錐
石鏃
(
せきぞく
)
の
類品
(
るゐひん
)
にして、
全体
(
ぜんたい
)
棒
(
ぼう
)
の形を成せる物有り、又一方のみ棒の形を成し一端は
杓子
(
しやくし
)
の如くに
膨
(
ふく
)
らみたる物有り。
是等
(
これら
)
は
錐
(
きり
)
の用を爲せしものなるべし。
コロボックル風俗考
(旧字旧仮名)
/
坪井正五郎
(著)
膨
常用漢字
中学
部首:⾁
16画
“膨”を含む語句
膨脹
水膨
膨張
下膨
青膨
蚯蚓膨
膨脹力
膨上
膨大
火膨
着膨
膨満
頬膨奴
膨脹律
著膨
通貨膨脹
三段膨脹
膨揚
膨張相
膨切
...