つら)” の例文
ちなみにいうが、枳園は単独に弟子入をしたのではなくて、同じく十一歳であった、弘前の医官小野道瑛おのどうえいの子道秀どうしゅうたもとつらねて入門した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
まだ電燈にはならない時分、廻廊の燈籠とうろうの白い蓮華れんげつらなったような薄あかりで、舞台に立った、二人の影法師も霞んで高い。……
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
拜殿の欄間らんまには、土佐風とさふうゑがいた三十六歌仙かせんが行儀よくつらねられ、板敷の眞中まんなかには圓座ゑんざが一つ、古びたまゝに損じては居なかつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
これに謝霊運しゃれいうん『名山記』に〈猨猱えんどう下り飲み百臂相つらなる〉とあるを調合して、和漢に多き猿猴月を捉えんとする図が出来たのであろう。
くちばしで羽を抜き、翩々へんぺんとして白蓮の墜落するに似ているのを見て、犬が吠え人が集ったので、翼をつらねて天に沖し去り、遂に其所在を失った
マル及ムレについて (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
巨椋おおくらの入江は山城久世郡の北にあり、今の巨椋おぐら池である。「射部人いめびと」は、鹿猟の時に、隠れ臥して弓を射るから、「伏」につらねて枕詞とした。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
予往歳滬江ココウ(上海のこと)ニ寓居ぐうきょス。先後十年間、東邦ノ賢豪長者、道ニ滬上こじょうニ出ヅルモノ、縞紵こうちょノ歓ヲつらネザルハナシ。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その中央の浪打際に近く十本の磔柱はりつけばしらて、異人五人、和人五人を架けつらねたり。異人は皆黒服、和人は皆白無垢しろむくなり。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何事をかつらねけん、いまは覺えず。人々はわが詞の多かりしを、才豐なりと稱へ、わが臆せざるを、心さとしと譽めたり。
戦の潮合しほあひを心得た将門は、くつわつらね馬を飛ばして突撃した。下野勢は散〻に駈散けちらされて遁迷ひ、余るところは屈竟くつきやうの者のみの三百余人となつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
結果から見れば、予定あつてした修辞法に見えるが、元々出任せに詞をつらねて行くのである。だから中には紀行か物づくしのやうな物が出来て来る。
日本文章の発想法の起り (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
いづれも日に焼けて赤黒く、素足なり。或は襟に、或は手首に、或は髪に銀貨をつらねかけて装飾かざりとするは珍らし。極めて稀には金貨をかざれるもあり。
情及び心、個々特立して、而して個々その中心を以て、宇宙の大琴の中心につらなれり。海も陸も、山も水も、ひとしく我が心の一部分にして、我れも亦たかれの一部分なり。
万物の声と詩人 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
はるかの果てに地方じがたの山がっすら見える。小島の蔭に鳥貝を取る船がむれ帆をつらねている。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
など書きつらねたるさへあるに、よしや墨染の衣に我れ哀れをかくすとも、心なき君にはうはの空とも見えん事の口惜くちをしさ、など硯の水になみだちてか、薄墨うすずみ文字もじ定かならず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
あに今人ノ韻ヲヒ字ヲメテややモスレバ千百言ヲ成スノ比ナランヤ。韓昌黎かんしょうれいハ硬語横空。元微之げんびし玉磬ぎょっけいノ声声ニシテ徹シ金鈴ノ箇箇円ナルヲ以テ二ナガラつらネテコレヲ称ス。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その時母が父にもいかりを移して慳貪けんどんに口をきいたことをも思い出し、父のこと母のこと、それからそれへと思をつらね、果は親子の愛、兄弟の愛、夫婦の愛などいうことにまで考え込んで
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
新橋停車場しんばしステエションの大時計は四時をすぐること二分、東海道行の列車は既に客車のとびらして、機関車にけふりふかせつつ、三十余輛よりようつらねて蜿蜒えんえんとしてよこたはりたるが、真承まうけの秋の日影に夕栄ゆふばえして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
百石づみ以上の船に焚草を積み油の古樽をこれに交え火薬を以て火口とし、長縄を以て五、六そうつらね、船々相離るること十間ばかりにして風上より夷船へ乗掛け火を放ち、火起るを
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
いま東西の両軍ここにまみえ、おもとには七城の壕塁ごうるいつらねて、国境のお守りに当っておられますが、すでに中国の帰趨きすうは決したものということは充分お心のうちにはお分りであろうと存ずる。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今でも記憶おぼえて居る人があるか知れぬが、其頃竹山は郷里に居ながら、毎月二種か三種の東京の雑誌に詩を出して居て、若々しい感情を拘束もなく華やかな語につらねた其詩——云ふ迄もなく
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
またこれにすゞがついてゐるのもあつて、餘程よほどうまく出來できてをります。そのほか、馬鐸ばたくといつて杏葉きようよういつしょに、ぶらげるすゞのようなものもあり、すゞみつつらなつためづらしいかたちのものもあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
彼にあっては、その作品は幼時の溌剌はつらつたる官能を老いてますます増強した炯眼けいがん依憑いひょうさせ、そこから推移発展させて、始めて収めえたる数十篇である。その一つ一つが珠玉をつらねて編み成されている。
若くは解釋ありといへども尚且解しがたき文字をつらねて新に語を製せむとせば、われはその不可なることを嗚らすを憚らざるべし。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
絢爛けんらん薬玉くすだまを幾すじつらねたようです。城主たちの夫人、姫、奥女中などのには金銀珠玉をちりばめたのも少くありません。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これよりも骨折りて造り出でけんと思はるゝは、人の名頭ながしらの字を花もて現したるにぞありける。こゝにては花と花とつらね、葉と葉と合せて形を作りたり。
よるしょくって遊宴中、腰掛けをつらねた上に数猴一列となって各の手に炬火かがりびを捧げ、客の去るまで身動きもせず、けだし盗人の昼寝で当て込みの存するあり
表を返すと一枚目から五枚目まで番号が打ってあって細かい英文字が書きつらねてあったが、よく見るとそれは何でもない。処々に英語を交ぜた、日本語の羅馬綴ローマつづりであった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
然レドモ東西隔絶スルコト千里余ナリ。ノ羽族ノ序ヲヒ影ヲつらネテ飲啄いんたく相離ルヽコトナキガ如クナルコト能ハズ。悲ミ中ヨリ生ジ老涙さいニ交ル。コレガタメニ竟夕きょうせきやすカラズ。坐シテ以テあしたヲ待ツ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
南天なんてんつらねたような珊瑚さんご数珠ずずが袖口の手にちらと見える。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うかがへばつらねたる畫の中に
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
途中の、不意の用心に、男が二人、母親と、女中と、今の二人の婦人おんなで、五台、人力車をつらねて、倶利伽羅峠を越したのは、——ちょうど十年ぜんになる——
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今も歌ふは当初そのむかし露友ろゆう未亡人ごけなる荻江おぎえのお幾が、かの朝倉での行違ゆきちがいを、おいのすさびにつらねた一ふし三下さんさがり、雨の日を二度の迎に唯だ往き返り那加屋好なかやごのみ濡浴衣ぬれゆかたたしか模様は染違そめちがえ
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
丘の半腹なる酒店の前に車を停めて見るに、穹窿の火の美しさ、前に見つるとはまた趣を殊にして、正面ののきこそは隱れたれ、星をつらねたる火輪の光の海にたゞよへるかとおもはる。
山門高くそびえては真如実相しんにょじっそうの月を迎へ、殿堂いらかつらねては仏土金色こんじき日相観じっそうかんを送る。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これはその頃行われた逓累譚キユミユラチブ・ストリーに意外の事どもをつらねつづけた姿に擬したのだろ
メテ啼キ/新春恰モ好シ新棲ニ寄スルニ/片茅頂ヲおおヒテ多地無ク/断木門ヲささヘテ小蹊有リ/咸籍ノ流風叔侄ヲつらネ/機雲ノ廨舎東西ヲ占ム/蘆簾かかゲテ梅花ノ外ニ在ルモ/只欠ク斉眉挙案ノ妻〕この律詩に毅堂は
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
御堂は薄墨の雲の中に、朱の柱をつらね、の扉を合せ、青蓮せいれんの釘かくしを装って、棟もろとも、雪の被衣かつぎに包まれた一座の宝塔のようにきよいつくしくそびえて見ゆる。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新文学士諸家も、これとたもとつらねて文壇に立っている宙外等の諸家も、「エピゴノイ」たることを免れない。今の文壇は露伴等の時代に比すれば、末流時代の文壇だというのだ。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ようやく頃日このごろ『皇大神宮参詣順路図会』をひもとくと、二見浦ふたみのうらの東神前みさきの東北海中に七島あり阿波良岐あはらき島という、また毛无けなし島とてまるで巌で草木なき島あり、合せて八島あいつらなる、『内宮年中行事記』に
磧も狭しと見世物小屋を掛けつらねて、猿芝居さるしばい、娘軽業かるわざ山雀やまがらの芸当、剣の刃渡り、き人形、名所ののぞ機関からくり、電気手品、盲人相撲めくらずもう、評判の大蛇だいじゃ天狗てんぐ骸骨がいこつ、手なし娘
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
忙はしげに筆を走らせ、小をんなが持て来る一盞ひとつきの咖啡のむるをも顧みず、明きたる新聞の細長き板ぎれに揷みたるを、幾種いくいろとなく掛けつらねたるかたへの壁に、いく度となく往来ゆききする日本人を
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
を隔てた、同じ浪屋の表二階に並んだ座敷は、残らず丸官が借り占めて、同じ宗右衛門町に軒を揃えた、両側の揚屋とひとしく、毛氈もうせんつらねた中に、やがて時刻に、ここを出て
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
熟客じゅっかくと共に来た無学の貴介子弟きかいしていなどは、さいわいにして謾罵まんばを免れることが出来ても、坐客があるいは句をつらねあるいは曲を度する間にあって、みずかて欠然たる処から、独りひそかに席を逃れて帰るのである。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
木魅こだま山魅すだまかげつて、こゝのみならず、もり廊下らうかくらところとしいへば、ひとみちびくがごとく、あとに、さきに、朦朧もうろうとして、あらはれて、がく角切籠かくきりこ紫陽花あぢさゐ円燈籠まるとうろうかすかあをつらねるのであつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
月には翡翠ひすいの滝の糸、雪には玉のすだれつらねよう。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)