はた)” の例文
さて、題だが……題は何としよう? 此奴こいつには昔から附倦つけあぐんだものだッけ……と思案の末、はたと膝をって、平凡! 平凡に、限る。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
然るに其の時間という生緩いものも無くなって、はたと自然に魂が直面して打たれた場合である。前のは動的であるが、これは静的である。
穂高岳 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今も、健が聲高に忠一を叱つたので、宿直室の話聲がはたと止んだ。孝子は耳敏くもそれを聞き附けて忠一が後退あとしざりに出て行くと
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
女ども聞て此丸龜にて江戸屋清兵衞と申は此方ばかり夫ではちがひ御座りませんと云に長兵衞はたひざうちオヽ然樣さうだ餘り思ひ過しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
下で見た時には左程にも思わなかった草丈が人の脊よりも高い。俯向きながら無暗むやみに掻き分けて行くと、はたと岩にき当って頭がズシンと響く。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
初冬しよとうこずゑあわたゞしくわたつてそれからしばらさわいだまゝのちはたわすれてまれおもしたやうに枯木かれきえだかせた西風にしかぜ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いい加減な時分を計つて、高木氏が一寸指先を唇に当てると、蓄音機ははたと止つて、高木氏が一足前へ乗り出して来る。
何に驚きてか、垣根の蟲、はたと泣き止みて、空に時雨しぐるゝ落葉る響だにせず。やゝありて瀧口、顏色やはらぎて握りし拳もおのづから緩み、只〻太息といきのみ深し。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
あいちやんは、はたおもあたることあるものゝごとく、『それで此處こゝ此麽こんな澤山たくさん茶器ちやきがあるのねえ?』とたづねました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
にかく手がかり足がかりの岩を辿って、下へ下へとあやうくも降りてゆくと、暗い中から蝙蝠かわほりのようなものがひらりと飛んで来て、市郎の横面よこつらはたと打った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分はそれを讀んだ時、はたと自分の身の上に突き當つたやうな氣がして、暫く其のページを見詰めてゐた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
疾く走る尻尾しりおつかみて根元よりスパと抜ける体なり、先なる馬がウィリアムの前にてはたととまる。とまる前足に力余りて堅き爪の半ばは、斜めに土に喰い入る。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日頃自分が勉強した書物の中の記述や面白いと思つた画などいかほど積み重ねてみても現実世界に於ては何等の根拠もなかつたことに気づいてはたと愕いてしまつた。
痴情のやる方なく情死を致したのかも知れん、何か証拠が有ろうと云うので、懐中ふところから守袋まもりぶくろを取出して見ると、起請文が有りましたから、大藏は小膝をはたうちまして
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
諸国和製砂糖殖え立、旧冬より直段ねだんはたと下落致し、当分に至り、猶以て、直下ねさげの方に罷成り
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
握拳にぎりこぶしで、おのひざはたつたが、ちからあまつて背後うしろ蹌踉よろける、と石垣いしがき天守てんしゆかすみれる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
三藏はどうして飯を食ふ積りかといふ質問にははたと當惑した。實はどうして飯を食ふかといふ事を考へて退校したのではなかつた。只せつぱ詰まつて退校したのであつた。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
又は一点の機微に転身をやしたりけむ、忽然こつぜん衝天しょうてんの勇をふるひ起して大刀を上段真向まっこうに振りかむり、精鋭一呵いっか、電光の如く斬り込み来るをひらりと避けつゝはたと打つ。竹杖のあやまたず。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
猿ははたと地に平伏ひれふして、熟柿じゅくし臭き息をき、「こは何処いずくの犬殿にて渡らせ給ふぞ。やつがれはこのあたりいやしき山猿にて候。今のたもふ黒衣とは、僕が無二の友ならねば、元より僕が事にも候はず」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「無礼者!」と柳眉を逆立て、乃信姫ははたと睨んだが、そんなことには驚かず、二人がお菊を引っ担げば、後の三人の無頼漢は、乃信姫を手取り足取りして、宙に持ち上げて駆け出そうとする。
善悪両面鼠小僧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その喇叭の音は、二十年來はたと聞こえずなつた。隣村に停車場が出來てから通りが絶えて、電信柱さへ何日しか取除かれたので。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
はた白眼にらみし其形容ありさまに居並び居たる面々めん/\何れも身の毛も彌立よだつばかりに思ひかゝる惡人なれば如何成事をや言出すらんと皆々みな/\手にあせ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
こうした妙な心持になって、心当こころあてに我家の方角を見ていると、忽ちはたと物に眼界をとざされた。見ると、汽車は截割たちわったように急な土手下を行くのだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
にちいた疾風しつぷうはたちからおとしたら、西にしそら土手どてのやうなくもはしちかすわつて漸次だん/\沒却ぼつきやくしつゝまたゝいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
南の三窓の頭はオベリスク状の峰尖をいら立たせた一列の竪壁をはたと胸先に突き上げているのが目に入る許りで、最高点は何処に在るのか見えよう筈がない。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
浜口君の郷里といふのは、紀州の湯浅なので、愈々いよ/\呼び寄せようといふ段になつてはたと困つた。
壇のまん中に坐っていた泰親は忽ちち上がって、ひたいにかざしていた白い幣を高くささげながら、塚を目がけてはたと投げつけると、大きい塚はひと揺れ烈しくゆれて
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鋭き言葉に言いこらされて、餘儀なく立ちあがる冷泉を、引き立てん計りに送り出だし、本意ほいなげに見返るを見向みむきもやらず、其儘障子をはためて、仆るゝが如く座に就ける横笛。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
小走こばしりに駆けて来ると、道のほど一ちょうらず、ならび三十ばかり、山手やまての方に一軒の古家ふるいえがある、ちょう其処そこで、うさぎのやうにねたはずみに、こいしつまずいてはたと倒れたのである。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
主水ははたと馬を止めた。
稚子法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
忽ち小膝こひざはた
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
その喇叭の音は、二十年来はたと聞こえずなつた。隣村に停車場が出来てから通行とほりが絶えて、電信柱さへ何日しか取除とりのぞかれたので。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
呑居のみゐけるに老女は膳を片寄ながらはたと手をうち私しは隣村迄今宵の中に是非行ねば成ぬ用有しを事に取紛とりまぎれて打忘れたり折角の御客に留守を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
早速、先生の許へ持つて行くと、篤と目を通して居られたが、忽ちはたと膝を打つて、これでいゝ、その儘でいゝ、生じつか直したりなんぞせぬ方がいゝ、とかう仰有おつしやる。
余が言文一致の由来 (旧字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
鄂は弓矢をとって待ちかまえていて、黒い鳥がともしびに近く舞って来るところをはたと射ると、鳥は怪しい声を立てて飛び去ったが、そのあとには血のしずくが流れていた。
泥除どろよけかじりつくまでもなく、與曾平よそべいこしつて、はたたふれて、かほいろ次第しだいかはり、これではかへつて足手絡あしてまとひ、一式いつしき御恩ごおんはうじ、のおともをとおもひましたに、かなはぬ、みんなくびめてくれ
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はたと当惑するが、『書紀』の撰者達が嶺を峰や岳と同一視する程、漢字の知識に欠けていたとは信じられないから、それは寧ろ嶺の字に下すき適切な和訓がなかった為の窮余の策としてタケと訓じ
(新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
小文さんははたと手を打つた。
今も、健が声高に忠一を叱つたので、宿直室の話声がはたと止んだ。孝子は耳敏くもそれを聞付けて忠一が後退あとしざりに出て行くと
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
取あえず鉄砲を持ってその場へ引返して来る、この時早し彼時遅し、たちまちに一個ひとつの切石が風を剪って飛んで来て、今や鉄砲を空に向けんとする井神の真向にはたあたったから堪らない
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一しきりしてはたと其が止むと、跡は寂然しんとなる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
この声とともに、船子ふなこはたたおれぬ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、はたと足を留めて後ろを振返つた。清子と靜子は肩を並べて、二人とも俯向いて、十間も彼方から來る。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
何処どこやらで滝の音が聞えて、石燕いわつばめが窟の前を掠めて飛んだ。男は燃未了もえさしたきぎって、鳥を目がけてはたと打つと、実に眼にもとまらぬ早業で、一羽の石燕は打つにしたがって其手下そのてもとに落ちた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それが精確に十二の数を撞き終ると、今迄あるかなきかに聞えて居た市民三万の活動の響が、はたと許り止んだ。『盛岡』がいま今日の昼飯を喰ふところである。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ゆく手を照らすように、弥兵衛がたいまつ代わりの枯枝を高くあげると、一つの礫が大きい灯取り虫のように空を飛んで来て、その火をはたと叩き落としたので、弥兵衛もぎょっとした。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分の目と女教師の目とはたと空中で行き合つた。その目には非常な感激が溢れて居る。無論自分に不利益な感激でない事は、其光り樣で解る。——あたかも此時
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それにしても生憎あやにくに雪が酷い。かくも一時をしのぐ為に、彼女かれ空屋あきやの戸を明けようとすると、なかばちたる雨戸は折柄おりからの風に煽られてはたと倒れた。お葉は転げるように内へ入った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分の目と女教師の目とはたと空中で行き合つた。その目には非常な感激が溢れて居る。無論自分に不利益な感激でない事は、其光り様で解る。——あたかも此時
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
二三十分も続いた『パペ、サタン、アレツペ』といふ苦しげなる声は、三四分前に至つて、足音に驚いてにはかに啼き止む小田の蛙の歌の如く、はたと許り止んだ。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)