)” の例文
勝気な寅二郎は、そういって笑ったが、雨が間もなく降り出し、保土ヶ谷の宿へ丑満うしみつの頃帰ったときは、二人の下帯までれていた。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
講談に於ける「怪談」の戦慄、人情本からあぢははれべき「」の肉感的衝動の如き、ことごとく此れを黙阿弥劇のうちに求むる事が出来る。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
新婦の女王にょおうは化粧をされ、服をかえさせられながらも、明るい色のそでの上が涙でどこまでも、れていくのを見ると、姉君も泣いて
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
全身、波のしぶきでねずみになり、だらだらとしずくをたらした宮崎運転士が帽子も吹きとばされたらしく、乱れた髪をなで上げながら
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
……加ふるに、紫玉がかついだ装束は、貴重なる宝物ほうもつであるから、驚破すわと言はばさし掛けてらすまいための、鎌倉殿の内意ないいであつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのうちに曇った空から淋しい雨が落ち出したと思うと、それが見る見る音を立てて、空坊主からぼうずになった梧桐ごとうをしたたからし始めた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
敬之進の顔には真実と苦痛とが表れて、眼は涙の為にれ輝いた。成程、左様言はれて見ると、丑松も思ひ当ることがないでもない。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「お母ちゃん、お手々が冷たい、お手々がちんちんする」と言って、れて牡丹色ぼたんいろになった両手を母さん狐の前にさしだしました。
手袋を買いに (新字新仮名) / 新美南吉(著)
夜のやみは雨にれた野をおおうていた。駅々の荒い燈火は、闇に埋もれてるはてしない平野の寂しさを、さらにびしくてらし出していた。
三十秒以内に、落ちた焼夷弾のまわりの畳やふすま蒲団ふとんなどの燃えやすい家具に、ドンドン水をかけてビショビショにらせばよかった。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのうちに全身をれ流れた汗が冷え切ってしまって、タマラナイ悪寒おかんがゾクゾクと背筋をいまわり初めた時の情なかったこと……。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
置いて来た子の年頃だといって、妹の方の子をかわいがってくれましたが、その子は髪が濃くて、夏向は頭の地まで汗にれるのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
それだから幾度いくたび百姓ひやくしやうたがやさうともつち乾燥かんさうしてらさぬ工夫くふうたてないかぎりは、おもはぬところにぽつり/\とくさあを
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
月明りのわずかに残る欄干にもたれたまま、徳之助は苦悶くもんに打ちひしがれて、れでもしたように、しょんぼりと語り続けました。
しかし、こういう身の中の持ちものを、せめて文章ででも仕末しまつしないうちは死に切れないと思った。机の前で、よよと楽しく泣きれた。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
れた裸体に白布一枚をまとい、息ひきとった婿君の部屋のまえを素通りして、風の如く駈け込んでいった部屋は、ネロの部屋であった。
古典風 (新字新仮名) / 太宰治(著)
九女八は、一木一石といったふうの団十郎ししょううちの庭に、鷺草が、今日も、この雨に、しっとりとれているだろう風情ふぜいを、思うのだった。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
八歳か九歳くさいの時か、とにかくどちらかの秋である。陸軍大将の川島かわしま回向院えこういんぼとけ石壇いしだんの前にたたずみながら、かたの軍隊を検閲けんえつした。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして一日遊び抜いて、日が暮れるとガッカリ疲れて「ああ、くたびれた」と云いながら、ビッショリれた海水着を持って帰って来る。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「時雨が今日始めて降りました。木に止っていた鳶が、その時雨にれて翼をはたはたとはたいてまたもとの通り収めました。」
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
身体を水にらしては火の粉をけるという騒ぎ、何んのことはない、火責め水責めを前後に受けて生きた心地もしなかった。
女房が自然と正気にかえった時には、おっとも死ねなかったものとみえて、れた衣服で岸に上って、傍の老樹の枝に首をって自らくびれており
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おりおり日の光りが今ま雨にれたばかりの細枝の繁みをれて滑りながらにけてくるのをあびては、キラキラときらめいた
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
夜更けでも陰気な雨の日でも、先生のこの音だけはいつも円々としていて、決してれた感じやかすれた響きをたてることがないのであった。
勉強記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
時雨しぐれれて、ある駅から乗込んだ画家は、すぐまた次の駅で降りて行った。そうした情景を彼もまた画家のような気持で眺めるのだった。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
「お鶴は行ってしまうのだ」「一人ぼっちになってしまうのだ」とうら悲しさに迫り来る夜の闇の中に泣きれて立っていた。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
廊下には裏の林のが雨にれて散り込んで来てゐる。銀箭ぎんせんのやうな雨脚が烈しく庭に落ちて来てゐるのが、それと蝋燭らふそくの光に見える。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
が輝きだすとガラスくずのような霜柱がかさかさと崩れて、黒土がべたべたとれていった。陽がその上にぎらぎらと映った。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
何か御主人のものをったとか、とんでもないぎぬをきせて、そのために、お仕着せまで取り上げられて、ほうり出されたのだそうです。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
みな、谷川で火縄ひなわらしてしまったので、鉄砲てっぽうをすてて大刀をぬく。やりを持った者は石突いしづきをついてポンポンと石から石へ飛んであるく。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
外から帰って来た平兵衛へいべえは、台所の方で何かやっていた妻を傍へ呼んだ。女は水でれた手を前掛まえかけで拭き拭きあがって来た。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
空にはお月さまが高く登つてをります。田圃たんぼの稲は色よく熟して、夜露にしつとりとれて、何ともいへぬ静かな深い秋のながめであります。
狐に化された話 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
妖怪におびやかされたせいか、冷たい雨にれたせいか喜右衛門はその晩から大熱を発して、半月ばかりは床についていた。
半七捕物帳:41 一つ目小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
れるだらうから、此方こつちはいつたらからうとすゝめ、菓子くわしなどをあたへてうちに、あめ小歇こやみとなり、また正午ひるちかくなつた。
夫人と結婚して間もない頃、雨でずぶれになった小猫を拾って帰り、そのどろだらけのままの猫を懐中かいちゅうに入れて、長い間やさしく暖めていた。
頸筋くびすじ、背、太腿ふとももあらわに、真っ白なからだに二人とも水着を着けて、その水着がズップリれてからだ中キラキラに輝いて
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
なるほど、少年のシャツはどす黒くれているし、頭を押えている手の下から流れおちる血が、少年の顔半分を染めていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私は、一二軒の店に立寄り、手紙をポストに滑らせると、ひどい雨の中を、上衣うはぎをびしよれにして、しかしほつとした心持ちで歸つて來た。
一ぴきは、靴をもってくる、一ぴきが顔を洗ってやれば、一ぴきは、れている顔を、じぶんの尻尾しっぽでふいてやりました。
かようにれては、火が第一番だから林を目的に下れ、途中に岩穴でもあらば、そこに這入はいろうと、後方鞍部に引き返し、山腹を斜に東に下る。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
それ等を透かして見えている雨にびしょれになった無花果いちじくの木をば、一層つめたく、気持わるそうに私に思わせていた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ベンヺ こりゃなんでも、かくれて、夜露よつゆれのまくという洒落しゃれであらう。こひめくらといふから、やみちょうどおあつらへぢゃ。
この、しょっぱなの運動は、暖炉だんろの熱よりも健康な熱を全身に伝えるのである。ところで、顔はらしたことにしておく。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
神谷は全身脂汗にれて、その恐ろしいものを見送ると、今さらむだとは知りながら、警察に電話をかけて、ともかくもこの事を訴えておいた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おおかたくわえた楊枝ようじてて、かおあらったばかりなのであろう。まだ右手みぎてげた手拭てぬぐいは、おもれたままになっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
骨を折らないで手っとり早くれ手であわもうけがしたいというんです! みんな据えぜん目当ての生活をしたり、人のふんどしで相撲を取ったり
されど汝若し知らば我等に告げよ、山今かの如くゆるげるは何故ぞや、またそのるゝ据に至るまで衆ひとしく叫ぶと見えしは何故ぞや。 三四—三六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ああして狂気の顔が、水にれたされこうべのように月の中へ浮んで、うろうろ四辺あたりを振り向いた様子は、この世からの外道ともいおうばかりだ。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
かれの背なかには、夜風がふれてゆき、星や月のひかりも、空にあるごとに、かれに触れて冷たくれてゆくのでした。
寂しき魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
氷を取寄せて雪子のつむりを冷す看護つきそひ女子をんなに替りて、どれ少しわしがやつて見やうと無骨らしく手をいだすに、恐れ入ます、お召物がれますと言ふを
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)