清水しみず)” の例文
純粋無垢むくな鏡のごとき青年、澄徹ちょうてつ清水しみずのごとき学生! それは神武以来任侠の熱血をもって名ある関東男児のとうとき伝統である。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
のどがかわいているとみえて、蛾次郎はそこで一息ひといきつくと、岩層がんそうのあいだから滴々てきてきと落ちている清水しみずへ顔をさかさまにして、口をあいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神田伯山かんだはくざんおうぎを叩けば聴客『清水しみず治郎長じろちょう』をやれと叫び、さん高座にのぼるや『睨み返し』『鍋焼うどん』を願ひますとの声しきりにかかる。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
キャラコさんははさみでズボンを切り開き、手早く清水しみずで傷口を洗うと、左手でギュッと原田氏のあしをおさえながら沃度丁幾ヨードチンキを塗りはじめた。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
松雲は夜の引き明けに床を離れて、山から来る冷たい清水しみずに顔を洗った。法鼓ほうこ朝課ちょうかはあと回しとして、まず鐘楼の方へ行った。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして湖水の底からは、清水しみずがわいている。そこに姫鱒が養殖してある。釣りに出ると愉快だよ。舟にのって出かけるんだが、よく釣れる。
椎の木 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あなの中に待ちぶせしていたのは、少年探偵団の中でも、もっとも勇気があり、力の強い、中学二年生の山本やまもと酒井さかい清水しみずの三少年でした。
鉄人Q (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「うん、あそこなら、ようて、まえやま清水しみずくくらいだから、あのしたならみずようが、あんなところへ井戸いどってなににするや。」
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
湖水のここは、ふちの水底からどういう加減か清水しみずが湧き出し、水が水を水面へ擡げるうずが休みなく捲き上り八方へ散っている。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ふつうは清水しみずのそばで水をかけて食べたのだが、涙がその上にこぼれて干飯がやわらかになったと、『伊勢物語いせものがたり』という本には書いてある。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「そうですね。まあこのへん、五ちょうのうちには清水しみずのわいているところはないでしょうが、いったいどうなさったのです。」
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しばらくして振り返って見たら、若者はもう清水しみずのへん近く上がっていたが、向こうでも振りかえってこっちを見た。
花物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その川端かわばたいわやれた枯木かれきをようやく燃しつつ溪流の清水しみずで茶をこしらえて飲み、それからまただんだん降ってダカルポ(白岩村はくがんそん)という所に出ました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
十五、六ちょういった谷間たにまに、一つの清水しみずがありました。それが、この旱魃ひでりにもきず、滾々こんこんとしてわきていました。これはいい清水しみずつけたものだ。
神は弱いものを助けた (新字新仮名) / 小川未明(著)
其の儀は、とかくに申しまするが、如何いかがか、いずれとも相分あいわかりませぬ。此の公園のづツと奥に、真暗まっくら巌窟いわやの中に、一ヶ処清水しみずく井戸がござります。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彫りかけて永き日の入相いりあいの鐘にかなしむ程かたまっては、白雨ゆうだち三条四条の塵埃ほこりを洗って小石のおもてはまだ乾かぬに、空さりげなく澄める月の影宿す清水しみず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
清水しみずがこうたずねたのをしおに、近藤こんどうは悠然とマドロス・パイプの灰をはたきながら、大学の素読そどくでもしそうな声で、おもむろに西洋のうした画の講釈をし始めた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何方どっちを向いても常識と規則ずくめの中から、魅惑と刺戟とを求めようとするのは、丁度沙漠の中で清水しみずを求めるようなもので、なかなか容易の事ではありません。
カンテラのじいと鳴るのも、足の底へ清水しみずが沁み込むのも、全く気がつかなかった。したがって何分なんぷんったのかとんと感じに乗らない。するとまた熱い涙が出て来た。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その思い入った心持ちは何事もわだかまりのなくなった葉子の胸の中を清水しみずのように流れて通った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そして料理される魚が清水しみずで洗はれるやうに、お葉は清らかな浴衣に着かへて、手術台上の人とならねばならなかった。しかし心には永遠に事実はない。心は夢である。
青白き夢 (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
ほんのひとすじの清水しみずの上に渡してある、きゃしゃな、危げなその橋は、ほとんど樹々のしげみに隠されていて、上に屋形船のそれのような可愛かわいい屋根が附いているのは
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
水晶のごとき清水しみずに勝る下熱剤のあるなし、ことに平安なる精神は最上の回復剤なるを知るべし、博識に依る信仰治療法は病体を試験物視する治療法に優る数等なるを知れ。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
すると、心臓しんぞうがまだうっているのが分かったので、ちかくの泉から、清水しみずをくんで来て、その顔にふっかけました。すると、怪獣はかすかに目をあいて、虫の息でいいました。
形は人か猿か判らぬような青年わかものではあるが、彼の恋は深山みやま清水しみずの如く、一点いってん人間のちりを交えぬ清いものであった。お葉もの誠には動かされた。が、の返事は何となろう。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
弓弭ゆはず清水しみずむすんで、弓かけ松の下に立って眺める。西にし重畳ちょうじょうたる磐城の山に雲霧くもきり白くうずまいて流れて居る。東は太平洋、雲間くもまる夕日のにぶひかりを浮べて唯とろりとして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お君の心では、お松に言われた通り駿河の国清水しみずの港まで尋ねて行く覚悟でありました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
午後、杉山部落を辞し、一路バスで清水しみずに行き、三保付近の進んだ農業経営や久能くのう付近のいちご石垣いしがき栽培さいばいなど見学し、その夜は山岡鉄舟やんまおかてっしゅうにゆかりの深い鉄舟寺ですごすことにした。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
すこしほれば清水しみずがわきでるから、この島で、まず飲料水をつみこむことを考えた。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
命は、ほとんどとほうにくれておしまいになりましたが、ともかく、ようやくのことで山をおくだりになって、玉倉部たまくらべというところにわき出ている清水しみずのそばでご休息をなさいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
又その清水しみずの親類で奈良村に吉田一右衛門よしだいちえもんう人がある、その別荘に移して、此処ここごく淋しいところで見付かるような気遣きづかいはないと安心して二人とも収め込んで仕舞しまい、五代ごだいはその後五
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ちょうど時は四月の半ば,ある夜母が自分と姉に向ッて言うには,今度清水しみず叔父様おじさまがお雪さんを連れてうちへ泊りにいらッしゃるが,お雪さんは江戸育ちで、ここらあたりの田舎者いなかものとは違い
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
軒がくずれ掛ったような古い薬局が角にあるでら筋を越え、昼夜銀行の洋館が角にある八幡はちまん筋を越え、玉の井湯の赤い暖簾が左手に見える周防町筋を越えて半町行くと夜更けの清水しみず町筋に出た。
世相 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
そこでおみねは戸棚の中へかくれ、伴蔵が一人になってちびりちびりとやっていると、清水しみずの方からカラコン、カラコンと駒下駄の音が聞えて来たが、やがてそれが生垣の傍でとまったかと思うと
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
急立せきたてられ、多助おえいの両人は恥かしそうに坐っている所へ、太左衞門は酒を持って来て、まア嫁ッ子からと云われた時は、何というべきこと岩間いわま清水しみず結び染めて、深き恵みに感じつゝ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一つ越して先ですよ、清水しみずのある所は。道という様な道もなくて、それこそいばらすすきで足が疵だらけになりますよ。水がなくちゃ弁当が食べられないから、困ったなア、民さん、待っていられるでしょう
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
絶えはてぬ清水しみずになどかなき人の面影をだにとどめざりけん
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
清水しみずのめば汗かろらかになりにけり
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
やなぎ散り清水しみずかれ石ところところ
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
清水しみずあぐり」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かれの子分のしゃもじは国定忠治くにさだちゅうじ清水しみず次郎長じろちょうがすきであった、かれはまき舌でものをいうのがじょうずで、博徒ばくと挨拶あいさつを暗記していた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
キャラコさんは、小屋の入口まで走り出してひとつずつ鉄槌スレッジを受け取ると、四人を清水しみずのわいているところへ連れて行った。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
椿つばきかげに清水しみずはいまもこんこんとき、みちにつかれた人々ひとびとは、のどをうるおして元気げんきをとりもどし、またみちをすすんでくのであります。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
赤々と障子に映る燈火ともしびを見た時の私達の喜びはたとえようもなかった。私達はようやくのことで清水しみずの山小屋に辿り着いた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
行くうちに、片側の茂みの奥から道を横切って田に落つる清水しみずの細い流れを見つけた時はわけもなくうれしかった。
花物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
若者わかものは、下男げなん姿すがたとおくにえなくなるまで見送みおくりました。それからそこの清水しみずあらいきよめて、長谷寺はせでら観音かんのんさまのほういて手をわせながら
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
みじんになった陶物すえもの破片はへんを越えて、どッ、いずみをきったような清水しみずがあふれだしたことはむろんだが、ねこもでなければ呂宋兵衛るそんべえ正物しょうぶつもあらわれなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうれるのをっていました。れると、うまいて清水しみずほとりへゆきました。そして、たるのなかあぶらをすっかり清水しみず付近ふきんながしてしまいました。
神は弱いものを助けた (新字新仮名) / 小川未明(著)
途中でおぶってくれたりなんぞして、何でも町尽まちはずれへ出て、さびしい処を通って、しばらくすると、大きなえのきの下に、清水しみずいていて、そこで冷い水を飲んだ気がする。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
成程なるほど清水しみずと云う男は、立派りっぱに色魔たるべき人相にんそうを具えているな。」と、つぶやくような声で云った。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)